
日本の夏は何といっても湿度が高く、残念ながらハワイのように「暑いですが、風が爽やかですね」・・・などという挨拶が交わされることは先ずない。特に今年の梅雨は、ひときわ蒸し暑かったように思う。労働意欲の減退などと、悪いことばかりが思い浮かぶが、クーラーなど存在すらしなかった昔の人はどのように、蒸し暑い日本の夏を乗り越えていたのだろう。たくましくも、蒸し暑い夏を快適とまでは言わないものの、工夫で楽しいものに変える力に長けていたようだ。
その良い例が、夏の花火。さらには風鈴であったり、鬼灯市(ほおずきいち)であったり蛍をめでることであったりする。インテリアも涼しさを演出するものが工夫されていた。最近ではすっかり見かけなくなった「縁側(えんがわ)」。これは夏の宵を少しでも快適に過ごそうという日本人の知恵が生み出した素晴らしいインテリアである。縁側とは、日本の和風家屋に独特の構造で、家の建物の縁(へり)の部分に張り出して設けられた板敷き状の通路のこと。
最近では、ベランダ、ポーチ、ウッドデッキといったものが、縁側に取って代わったともいえるだろう。この内でもなければ外でもないという縁側という空間で、風鈴の涼やかな音色を聞きながら、打ち水をした庭を眺め、その日にあったことを話しながらお酒を飲んだり、涼んだりして夏を乗り切ったようだ。便利でしかもおしゃれなコミュニケーションプレイスだったわけである。今では農家の縁側でお茶をいただく「縁側カフェ」なるものも至る所で人気のようである。開け放たれた空間を風が渡り、夏だけでなく、農家の方々との会話を楽しみながらお茶を飲み、四季折々の自然を満喫できるという。
同じように、浴衣も嬉しいことに復活の兆し。年々花火には浴衣で・・・という若い方が増えている。ファッション性はもちろん、高温多湿の日本の夏にはぴったり。昔の人の知恵がここにも生かされている。
このように、とても大切なコミュニケーション要素であるのに、つい見過ごされがちなのが、温度と湿度。温度は高すぎても低すぎてもコミュニケーションの妨げとなる場合がある。寒い国や地方の人々はどうしても「話す」ことでのコミュニケーション機会が少なくなる。その分、あうんの呼吸といった、暗黙のコミュニケーションや言葉が少なくても意志疎通がはかれる表現が工夫され、上手く活用されている。反対に、暑いまたは暖かい国や地方の人々のコミュニケーションは「話す」という手段が発達していることが多い。開放的で話好き。コミュニケーションへのエネルギーも高い。湿度も同様。飛行機の中のように、乾燥しすぎも女性の肌には大敵であるが、会議や講演のように大勢が集まる場所で、温度ばかりか湿度まで高いと、注意力が散漫になり、快適とは言い難く問題多し。
やっと定着した感のあるクールビズも、ネクタイをはずすだけで体感温度はぐっと下がる。エコばやりの昨今、現代の夏を乗り切る工夫の代表といえるかもしれない。団扇(うちわ)や扇子もこの数年、浴衣と同様に復活の兆し。物置にしまわれていた時代もある、扇風機もオフィス用の小型のものや、羽根のない最新型まで、これまた復活の兆し。クーラーをガンガンという時代はどうやら終わったようである。昔の人ならぬ、現代の人も工夫と最新兵器で、上手に夏を乗り切れそうだ。
つい蒸し暑さにイライラして「そんなことは言わなくても判るだろう・・」などという言葉も、あちらこちらで聞こえてきそうだが、上手に温度と湿度をコントロールして、より良いコミュニケーションを先取りすることで、快適な夏を過ごしてほしい。南国と呼ばれる土地に住む人々が、イライラを招かないように、先取りコミュニケーションを上手に活用していることと、エネルギッシュで話好きということの間にはどうも深い関係がありそうだ。以前、沖縄を旅したとき、「~しなさい」という代わりに「~しようね」という言葉を、特有のゆったりした調子で話す方に出会った。沖縄の方なら思わず納得の聞きなれた表現だろう。「命令形」を「~しようね」という見事なまでの「Let's形」に変換するなど、長い歴史が生んだトラブルを招かない工夫以外の何ものでもない。イライラ防止の最高の先取りコミュニケーション。まだまだ私たちの周りにもいっぱいあるはず。探してみてはいかがでしょう。
芳賀 日登美
社会言語学修士、国際コミュニケーション修士。
2008、2009年筑波大学大学院システム情報工学研究科(MBA・MPPコース)非常勤講師。
リーダーシップ担当。
経済産業省「アジア消費トレンドマップ研究会」コアメンバー。