企業を悩ませる人材育成の現状と課題 取り組むべき対策もあわせて解説

2020年5月18日

hrd_s01.png
シリーズ:
これからの時代の人材育成


ビジネスのボーダレス化・グローバル化が進み、ジェンダーや働き方など様々な価値観のアップデートのスパンが飛躍的に短くなってきています。
これまで以上に企業活動にイノベーションが必要とされる現代、人材育成とはどうあるべきかを読み解くためには基礎をしっかりと知っておくことが重要です。
本コラムでは、人材育成の考え方の基本について4回にわたって解説します。


第1回 「企業を悩ませる人材育成の現状と課題 取り組むべき対策もあわせて解説」
第2回 「企業における戦略的な人材育成のポイントとは?」
第3回 「人材育成における適切な目標設定とは?」
第4回 「人材育成とはそもそも何か?次世代人材の育成方法とは」

国内の労働力が減少するなか、人材育成は企業の存続に関わる企業戦略の大きな柱です。
しかし、グローバル化によって激しい市場競争にさらされ、社会構造が激変する環境下にあって、人材育成に課題を抱えている企業は少なくありません。

時代の変化に対応し、企業の未来を担う社員を育てるために、今、何をしていくべきなのでしょうか。
ここでは人材育成で見られる課題を整理しながら、課題解決への対策について解説していきます。

企業の人材育成への課題に関する意識

企業は、自社の人材育成の現状や課題をどう感じているのでしょうか。2020年に日本経済団体連合会が発表した調査結果を元に探っていきます。

人材育成と環境変化

企業のあり方が時代によって変化していくように、人材育成もまたその流れに沿ったものであることが求められます。
しかし、実際には人材育成の施策について、「環境変化に対応できていない部分がある」との回答が88.8%見られ、ほぼ9割の企業が強い危機感を抱いています。

時代に対応できている企業が10%以下であるということは、大部分が将来に不安を感じているということにほかなりません。
これまでどおりの人材育成では、今後の企業運営で活躍できる人材が得られないと、企業自身が見なしています。

ダイバーシティをはじめとする社会背景

既存の人材育成が機能しないと捉えられている背景には、社会の激しい変動があります。

新卒で入社した社員が退職まで勤め上げるのがごく当たり前だった時代とは異なり、現在の社会では離職への抵抗感が弱まっています。先の調査のなかでも人材育成が難しくなった要因として、社員の就労意識の多様化を挙げている企業が7割以上にも及びました。

さらに、ITなどの急激な技術革新、市場のグローバル化、オープンイノベーションの浸透など、企業を取り巻く状況は刻々と変わっていきます。企業側でも、厳しさを増す競争に打ち勝つため、社員の雇用調整を戦略のひとつとせざるを得ない現実があります。

そうしたなか、雇用の流動化や市場の変化に対応する手法のひとつとして「リカレント教育」が注目されています。リカレント教育は生涯にわたり、教育と就労のサイクルを継続していくという考え方です。

変わりゆく時代のニーズに柔軟に対応する人材であり続けるためには、知識・スキルのアップデートが不可欠です。就労を中断して学ぶという欧米型リカレント教育を、日本社会にそのまま導入するのは難しいといわれています。

しかし、学ぶ機会が与えられず、資質を伸ばせないまま埋もれる社員が存在するのは企業にとっても大きな損失です。自社に適した何らかの形で、リカレント教育を意識した施策を探っていく必要があります。

人材育成で重視するのは「自律性」

人材育成で企業側が重視する点について、「自律性」が「会社主導型」を上回る傾向が見られます。

個人の意志が尊重される社会にあって、一方的な押しつけ型の教育は多様性を求める社員にはなじみません。一方、企業側でも、社員が自発的に自分の必要に応じた学びを進めていくことを望んでいます。

ただそのなかでも半数以上の企業は、「自律性を重んじながら積極的にサポートする」と答えています。

「人材育成」というからには、すべてを自力学習で済ませるわけにはいきません。企業側の必要とする人材に成長できる方向性のなかで、自律性をもちながら学べる環境を提供するのが理想的といえます。

社員本人の意向と企業ニーズとのバランスが問われるところです。

人材育成の見直しが急務

現状の改善を目指し、人材育成の方針や戦略の見直しおよび実施・検討を行う企業は8割を超えています。それにともない、人材育成に関する予算の見直しを実施するという企業も8割弱見られます。

人材育成が企業の成長戦略にとって、いかに重要であるかという認識の高さが伺われます。

社会の変化が今後もとどまることなく、さらに激しさを増すと予測されるなか、有効性の高い人材育成の施策が各企業にとって急務であるのは間違いありません。

ただそれを「いつ」「どこから」「どのよう」に手をつけていくのかで悩みながらも、着手できずにいる企業はまだ少なくないようです。

企業が抱える人材育成の具体的な課題

課題が明確に見えていなければ、改善への手立ては講じられません。企業が抱える人材育成の具体的な課題 について、見ていきましょう。

課題1:日本型の人材マネジメントと社会環境の不整合

先にも見てきたように、多くの企業が自社の人材育成制度が社会変化に対応できていないと考えています。

大きな課題となっているのが、従来型制度への固執や硬直化です。育成モデルが現状に合わないと知りつつも、「自分たちの時代」から抜け出せずにいる企業も珍しくありません。

過去において企業の原動力となっていた人材マネジメントでは、入れ替わりの少ない社員層を基盤に、意識共有の下、密で強固なつながりが形成されていました。年次による昇進機会が得られ、長期安定雇用という枠組みのなかで、社員はそれなりのモチベーションを保ちつつ、企業運営が良好に機能していました。

そうした時代であれば、「上を見て育つ」方式に任せておいてもさしたる支障は生じなかったでしょう。しかし、終身雇用制度が弱体化し、人生100年時代と呼ばれる労働期間長期化の時代に、個人のキャリア意識は向上しています。社員の意識と能力の均一化を図るのが、企業にとって容易ではなくなっています。

既存の人材育成モデルでは個々の資質やスキルへの注目度が不足し、社員のもつ力をうまく成長させられない可能性があります。

企業としてまとまっていくためには、自社における単一文化がベースでなければなりません。今はそれに加えて、多様性を受け入れ、個々の社員の個性やスキルを伸ばせるモデルが必要となります。

課題2:人材育成にかけられる時間の不足

現代の日本企業が抱える大きな悩みのひとつは、「時間が足りない」ことです。人口構造の変化によって、日本の労働力は減少を続けています。

人手不足を訴える企業は実に9割にも上るという調査結果もあり、限られた人員のなかで行う業務が在籍する社員を圧迫します。教える側・教えられる側とも時間がないなかでは、じっくりと人材を育てられるわけもありません。

特に、指導役として期待されるミドル層には業務が集中する傾向があり、後輩を指導する余裕がないというのが実情です。

課題3:育成能力・指導意識の欠如

企業の教育体制が整備されていなかった、あるいは前時代的な指導しか受けてこなかったという場合、指導する立場の社員にその能力が備わっていないということも考えられます。自分自身が系統立てた指導を受けてきていないと、人材育成のノウハウの蓄積がありません。

「育てられた」という気持ちがなければ、育てる意識がもてないのも当然です。若手に対してどのような声かけをして良いかわからないと、相互理解の不足からさらに指導が困難となります。

ミドル層の育成がなされていない企業は、後進を育てる人材がいないということになります。

最近では「働かないおじさん」問題が企業の悩みとなっていますが、これも指導意識の欠如の表れといえます。自分の企業人としての役割が不確かなために、業務に対する熱がなく、また後に続く者を育てようという気持ちもありません。

とりあえず最小限の仕事をこなしておけば給料がもらえる、といった先輩や上司の下では、優秀な人材は育ちようがないといえるのではないでしょうか。

(注)「働かないおじさん」とは__働いていないように見える、もしくは給与に見合った生産性が出せていない従業員の通称(本編での「働かないおじさん」は、年齢・性別を限定するものではありません)

課題4:人材育成体制の整備不足

人材育成システムの体制がきちんと整備されていないと、結局は現場に任せきりとなりかねません。

人材育成においてOJT(On-The-Job Training)をメインに据える企業が数多く見られますが、計画の策定が適切になされていなければ、人材の成長へとつなげられません。ただでさえ忙しい現場で社員が自分の業務を行いながら、企業が求めるような人材を育てるのは至難の業です。

現場に預けるのであれば会社側がしっかりとしたスケジュールを組み、負担なく育成が進められるよう、フォローアップしていく必要があります。

企業内での成長を個人の自己責任とする丸投げ型は、いくら多様性を尊重するといっても無理があります。人材育成は、一部署、一個人に全責任を負わせるのではなく、全社的に考えていかなければなりません。

人材育成の課題解決に向けて企業が取り組むべき対策

人材育成の課題を、企業はどのように解決していけばよいのでしょうか。取り組むべき具体的な対策について解説していきます。

対策1:ニーズ・課題を整理

ここまで一般的な企業の課題について見てきましたが、自社の人材育成環境を改善していくためには、各企業のニーズとそれに対する課題を整理することが求められます。

その場合、ある一部分の層にスポットを当てるのではなく、「全社的な人材育成」という捉え方をしていかなければなりません。

人材育成をテーマとし、トップおよび管理・ミドル・若手と各層を分けて現状を整理していきます。そこからそれぞれの層における課題を把握し、取り組みへの優先順位をつけていくようにします。

特にトップや管理層の意識改革は、人材育成の成功において重要なポイントとなります。下からの自然的なボトムアップによる改善は望めないことをよく理解し、機能的な人材育成システムの構築をけん引していきます。

対策2:自社の将来像に合わせたスキルマップを作成する

今後自社がどのような企業体制となっていくのが望ましいのか、将来的な企業の構造はどのようであれば理想的なのかを考え、そこから逆算したスキルマップを作成していきます。

3年後、5年後といった年齢別、スキル別や役職別の社員構造を具体的に提示していけば、いつまでにどれくらいのスキルをもつ人材がどこに何名必要かが浮かび上がってくるでしょう。

そこに当てはまる年次や役職にふさわしいスキル・能力を具体的に表し、キャリアラダーを作成しておけば各時点での評価軸が決まってきます。

目標値が定まれば、そこに向けた各人の取り組みが容易になります。

対策3:人材育成のための時間創出策

どのような施策を実施していくにしても、現在の業務で手一杯という状況を、解消しておくことが先決です。

人材育成のための十分な時間を創出していくためには、業務内容の見直しと改善・配置転換などあらゆる方法を検討します。それにより人材育成の実現可能な状態を、社員に提供しなければなりません。

ITツールの活用やペーパーレス化の推進などにより業務効率の向上を図り、不要な会議の時間を削減していきます。個人の学習に充てられる時間を増やせるよう、アイデアと工夫を駆使して時間の節約を目指します。

対策4:キャリアラダーを達成するための育成手法を選択

各層・各時点でのスキルを達成できるようにするために、どのような育成手法を採用するのかを、自社に合わせて選択していくことが重要です。

他社事例などを研究し、育成手法の洗い出しを行います。一般的な手法としては、集合研修(内部・外部委託)・部内研修・OJT・ジョブローテーション・自己啓発セミナー・公開講座・eラーニングなどがありますが、一律に決めずに社員層に合わせ、実行可能な手法の選択を考えます。

各人の目標設定により自覚を促すことで、自社に内在する「働かないおじさん」へのテコ入れ策とできる可能性もあります。リカレント教育に対する理解を浸透させられれば、年齢を問わず学習への意欲が喚起されることも期待できます。

包括的な人材育成プランによる課題解決

日本が長きにわたり育んできた企業文化が、時代の変化のなかで軋みが生じています。

現場に任せる人材育成には限界があり、早期に改善しなければ貴重な人材資源の流出を招きかねません。人材育成の重要性を意識しながらも、どこから手をつけるべきか迷っている企業も多いようです。

これからの人材育成は企業全体での取り組みが求められます。経営者を含め、すべての社員層に対する意識改革と能力向上の実現を目指す必要があります。

参考:
人材育成に関するアンケート調査結果|日本経済団体連合会(PDF)
平成26年版 労働経済の分析<要約版> -人材力の最大発揮に向けて-|厚生労働省

人材育成に関して、より全体的に理解したいという方はこちらの記事をご一読ください。

人材育成とはそもそも何か?次世代人材の育成方法とは 人材育成とはそもそも何か?次世代人材の育成方法とは

本コラムで取り上げている企業課題に関するご相談や、弊社サービスに関するご質問などがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
▶ WEBフォームでお問い合わせ

■マンパワーグループの組織・人事コンサルティングサービス
https://mpg.rightmanagement.jp/consulting/

■マンパワーグループの開催セミナー 一覧
https://www.manpowergroup.jp/client/seminar/

採用代行・採用コンサルティングのサービスを見る
採用代行・採用コンサルティングを相談する

TOPへ