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終身雇用制度の崩壊への流れやIT化への加速、社会変化の影響による迫られる業務の変更など社員は、少なからず自身のキャリアについて不安を抱いています。
自身のキャリアに対して能動的に動ける人材は、経験することやスキル・知識習得に意欲的であり、企業にとっても大きなベネフィットがあります。
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企業活動における、大切なことの一つに「人材育成」があります。売上を上げるにも新規に顧客を開拓するにも、人材を育成しなければできないことです。また、リスキリングによる成長分野への新規事業の展開を視野に入れた人材育成戦略も欠かせません。
しかし、新型コロナウイルスによる影響や物価高などにより、売上が上がらずコストの負担が増し、なかなか人材育成にコストをかけられない状況が続いている企業も少なくありません。
人材育成に関するコスト問題を解消する方法の一つとして、「人材開発助成金」という制度があります。人材開発助成金とはどのようなものなのか、具体的な仕組みや種類、手続きの流れなどについて詳しく解説します。
人材開発助成金とは、労働者のキャリア形成を段階的かつ体系的に促進させるために、職務に関連した専門的な知識技能を習得させる訓練を一部助成する、厚生労働省の制度です。訓練の経費や訓練期間中の賃金の一部などが助成の対象となります。
人材開発支援助成金は、たびたび制度改正されています。
2022年8月の改定では、特定の訓練を実施した際に提出書類の一部省略が可能となり、申請の負担が減少し、2022年9月の改正では、各コースの要件などの変更や制度の見直しがありました。
また、2022年12月の改正では、「人への投資促進コース」の助成金額の限度額が1,000万円、助成率が15%引上げられ、「事業展開等リスキング支援コース」が創設されました。
それぞれのコース内容については後述しますが、人材開発支援助成金を利用しやすくするために、数々の見直しが行われていることが見受けられます。
キャリアアップ助成金は、パート・アルバイト、派遣労働者などの有期雇用労働者(非正規雇用の労働者)を正規社員へ転換させ、賃金などの雇用環境の処遇改善などを行った事業主に対して助成する制度です。
両者の違いは制度の目的です。キャリアアップ助成金で重視されるのは「労働者の待遇面の改善」です。これに対して、人材開発支援助成金は「労働者のスキルアップ」を図ることを目的としている制度なのです。
キャリアアップ助成金については、「【キャリアアップ助成金】派遣社員の直接雇用も対象となる助成金」で詳しく解説しています。
主な受給要件は、以下の要件を満たした事業所です。
また、以下のいずれかに該当する事業主は受給できません。
人材開発支援助成金は、内容や目的によって大きく9コースに分かれています。それぞれのコースの目的や対象企業、助成額などについて解説します。
特定訓練コースは、職務に関連した専門的な知識や技能が習得できる“訓練効果の高い訓練”を行う事業所に助成し、人材育成の促進を目的としています。
雇用してから5年未満かつ35歳未満の若年者を対象とした「若年人材育成訓練」や、職業能力開発促進センターなどでの高度な職業訓練が受けられる「労働生産性向上訓練」などがあります。
※訓練によってさらに要件が追加されます
助成区分 | 支給額 |
---|---|
資金助成 | 1時間あたり 760円(380円) |
経費助成 | 45%(30%) |
OJT実施助成 | 1時間あたり 665円(380円) |
※()は、中小企業以外の場合
※賃金助成の支給限度額は1人1訓練あたり1,200時間まで
企業規模 | 10時間以上 100時間未満 |
100時間以上 200時間未満 |
200時間以上 |
---|---|---|---|
中小企業 | 15万円 | 30万円 | 50万円 |
大企業 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」
一般訓練コースは、申請する事業主に雇用されている被保険者に対して、職務に関連した知識・技能を習得させる訓練です。特定訓練コースに該当しない訓練における、人材育成の促進を目的としています。
助成区分 | 支給額 |
---|---|
賃金助成 | 380円 |
訓練助成 | 30% |
10時間以上 100時間未満 |
100時間以上 200時間未満 |
200時間以上 |
---|---|---|
7万円 | 15万円 | 20万円 |
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」
教育訓練休暇等付与コースでは、有給の教育訓練休暇制度を導入実施した事業所に対して助成を行い、労働者が自ら職業応力開発を行う機会が確保できるよう促進することが目的です。
30万円
特別育成訓練コースとは、有期契約労働者などを正規雇用労働者に転換、または処遇を改善するための訓練を行う事業所に対する助成で、有期契約労働者などのキャリアアップを目的としている制度です。
【助成額】
助成区分 | 支給額 |
---|---|
賃金助成 OFF-JT |
1時間あたり 760円(475円) |
実施助成 OJT |
10万円(9万円) |
※()は大手企業の場合
※1年度1事業所あたり1,000万円を上限
支給対象となる訓練 | 20時間以上 100時間未満 |
100時間以上 200時間未満 |
200時間以上 |
---|---|---|---|
一般職業訓練 | 15万円(10万円) | 30万円(20万円) | 50万円(30万円) |
有期実習型訓練 |
※()は大手企業の場合
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)のご案内(詳細版)」
人への投資促進コースは、デジタル人材・高度人材の育成において、サブスクリプション(定額制訓練)型の研修サービスなどを新たに導入する事業所に対して助成を行う制度です。2022年度に新設され、2024年度までの時限措置があります。
※それぞれの訓練によって異なる部分もあるため、申し込む際には事前に確認しましょう。
訓練内容 | 助成率 | 賃金助成額 (1時間あたり) |
OJT実施助成 |
---|---|---|---|
高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練 | 75% (60%) |
960円 (480円) |
ー |
情報技術分野認定実習併用職業訓練 | 60% (45%) |
960円 (480円) |
20万円 (11万円) |
定額制訓練 | 60% (45%) |
ー | ー |
自発的職業能力開発訓練 | 45% | ー | ー |
長期教育訓練休暇等制度 | 20万円 | 1日あたり 6,000円 |
ー |
※()は、中小企業以外の場合
※長期教育訓練休暇等制度の賃金助成額は短時間勤務制度(所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除)は対象外
訓練内容 | 事業所1年度あたり |
---|---|
人への投資促進コース (成長分野等人材訓練以外) |
2,500万円 自発的職業能力開発訓練は300万円 |
成長分野等人材訓練 | 1,000万円 |
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金 人への投資促進コースのご案内(詳細版)」
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業の立上げやデジタル技術の導入による業務効率化などを事業展開するにあたり、労働者に対して新たな分野で必要な知識や技能を習得させるための訓練に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
経費助成 | 賃金助成(1人1時間あたり) |
---|---|
75%(60%) | 960円(480円) |
※()は、中小企業以外の場合
経費助成限度額
企業規模 | 10時間以上 100時間未満 |
100時間以上 200時間未満 |
200時間以上 |
---|---|---|---|
中小企業 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
大企業 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
賃金助成限度額(1人あたり)
1,200時間(専門実践教育訓練の場合は1,600時間)
1事業所の支給限度額
1年度につき1億円まで
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」
建設労働者認定訓練コースは、建設業に従事する労働者の技術向上を目的とし、職業開発能力促進法に定められた認定訓練を行った建設業を行っている中小企業や中小建設事業主業団体などを助成する制度です。
助成区分 | 支給額 |
---|---|
経費助成 |
支給対象経費とされた額の1/6相当額 |
賃金助成 | 認定訓練を受講した労働者1人1日あたり3,800円 (1事業年度につき、合計1,000万円まで) |
生産性向上助成 | 認定訓練を受講した労働者1人あたり1,000円 |
建設労働者技能実習コースは、雇用する建設労働者の技能向上を目的に、有給で技能実習を受講させた事業所に対して助成を行います。
1.経費助成
雇用保険被保険者数 | 技能実習に要した経費に対する支給割合 |
---|---|
20人以下 | 3/4 |
21人以上 | 35歳未満の場合:7/10 35歳以上の場合:9/20 |
中小企業以外の企業 | 女性のみ:3/5 |
※1 1つの技能講習につき、1人あたり10万円を上限
※2 ほかの助成とあわせて年間で500万円が上限
2.賃金助成
雇用保険被保険者数 | 助成額 |
---|---|
20人以下 | 1日あたり8,550円 |
21人以上 | 1日あたり7,600円 |
※1つの技能講習につき20日分が上限
3.生産性向上助成 ※割り増し分
企業規模 | 助成額 |
---|---|
20人以下 | 1日あたり2,000円 |
21人以上 | 1日あたり1,750円 |
障害者職業能力開発コースは、障がい者雇用の促進や雇用の継続などを図ることを目的とし、障がい者を対象に、職業能力開発訓練事業を実施する事業所を助成する制度です。
訓練対象者は、以下の(1)と(2)に該当する人です。
(1)以下のいずれかに該当する人
(2)以下を満たす人
以下(1)~(4)をすべて満たす事業所
(1)次のいずれかに該当するもの
(2)施設の設置・整備または更新を行った後、障害者職業能力開発訓練を5年以上継続する事業所
(3)就職支援責任者を配置する事業所
(4)訓練対象障がい者の権利利益を侵害することのないよう、管理・運営を行う事業所であること
施設または設備の設置・整備・更新の場合
取り組み内容 | 助成額 |
---|---|
施設や設備の設置・整備または更新 | 費用の3/4 |
(注1)初めて助成金対象となる訓練科目における施設・設備の設置・整備は5,000万円を上限
(注2)以前助成金対象となったことのある訓練科目の施設または設備の更新は1,000万円を上限
運営費
取り組み内容 | 対象者 | 助成率 | |
---|---|---|---|
障害者職業能力開発訓練 | 重度障がい者 | 出席率が8割以上 | 1人あたりの運営費の4/5 |
出席率が8割未満 | 1人あたりの運営費の4/5 × 訓練受講時間数/訓練時間数 |
||
障害者職業能力開発訓練 | 重度障がい者以外 | 出席率が8割以上 | 1人あたりの運営費の3/4 |
出席率が8割未満 | 1人あたりの運営費の3/4 × 訓練受講時間数/訓練時間数 |
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)」
社員のキャリア不安を解消しモチベーションを高めるために
「どのように自身のキャリアを作っていくか」を自ら常に考えている人材は、スキルの習得に意欲的で、社会の変化もよく見ているものです。
リスキリングという言葉が広まっているように、ITの進化は人々の仕事の在り方も変えていきます。
そのような状況で、多くの社員がキャリアについて不安をいただいています。
不安を除き、社内を活性化させるためにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。解説資料をご用意しました。
⇒「社員のキャリア不安に効く キャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?」をダウンロードする
人材を育成するためには、さまざまな研修や技能講習などを行う必要があるため、時間とコストがかかります。
人材開発支援助成金は、教育訓練の種類や内容によって、人材育成のための研修や技能講習を行う場合における費用だけでなく、受講対象者に支払われる賃金も助成対象とされています。そのため、多様な業種で必要な教育訓練が受講できるようになり、能力開発や技能習得を促進できます。
従業員が自らキャリアアップを図るために受講した訓練も、人材開発支援助成金では助成対象となります。従業員のキャリアアップに対する意識の向上にもつながり、従業員が自発的に多彩なキャリアを形成するよう促進できます。
従業員に対する教育訓練や技能講習を行うことで、従業員のスキルアップを図れます。
従業員の生産性の向上に寄与するだけでなく、賃金アップなど待遇面の改善につながるため、従業員のモチベーションの向上につながるといえます。
人材開発支援助成金の申請から支給までの流れとしては、すべてのコースに共通して以下のとおりになります。
なお、コースの種類や労働局によっては申請までの提出期限があり、審査に要する時間が長期化するケースが多くあります。1日でも期限を過ぎてしまうと、どんな理由があっても申請は受け付けてもらえません。また、書類の不備などによって再度提出が必要となることを想定して、余裕をもって書類提出の準備を進めることが大切です。
新しく人材開発支援助成金の対象となる訓練を行う場合は、「職業能力開発推進者」の選任と「事業内職業能力開発計画」の策定・周知を行う必要があります。
職業能力開発推進者は、社内における職業能力開発の取り組みを推進する中心人物を指し、事業内職業能力開発計画の作成・実施、職業能力開発に関する労働者への相談・指導などを行います。
事業内職業能力開発計画とは、事業所の人材育成の基本的な方針を記載した計画です。作成された計画は従業員に周知させることで、職務遂行に必要な能力開発や人材育成に関する取り組み方針を共有できます。
訓練開始日から起算して「1か月前」までに、事業所を管轄する労働局に以下の必要書類を提出します。
労働局へ直接提出するのが困難な場合は、所轄の職業安定所を経由するか、郵送で労働局へ提出する方法も認められています。
※厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
(注)訓練の実施場所が事業場内または事業場外であるかによって、添付書類が異なります。
訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に、管轄の労働局へ支給申請書など以下の必要書類を提出します。
※厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
(注)訓練の実施場所が事業場内または事業場外であるかによって、添付書類が異なります。
支給申請書を提出した後に支給の可否を決める審査が行われます。審査に通過した場合は、支給申請した事業所に対して支給決定通知書が届きます。
支給決定通知書が届いてから、2週間ほどで登録された振込先に助成金額が振り込まれます。
審査が通らなかった場合は、不支給決定通知書が申請した事業場に対して届きます。提出している計画届の期間内であれば、別の訓練について同様に支給申請を行うことが可能です。
新事業年度となる4月以降は助成金に関する新しいコースが登場し、反対に従来行われていた助成金やコースが廃止されるケースもあります。
毎年3月ごろになると、新年度における助成金の改廃に関する情報が出るので、最新の情報を確認しておくことが望ましいでしょう。
助成金は申請を行ってから、助成金が入金されるまで1年以上かかることが多い傾向にあります。助成金の活用を考えている場合は、その期間の長さも考慮したうえで計画を作成する必要があります。
また、助成金の内容にもよりますが、申請に必要な書類は非常に多岐にわたります。申請手続きの完了までに、書類の不備を解消するために何度も労働局へ足を運ぶことになる可能性も押さえておきましょう。
上記で述べたように、助成金は計画を提出してから助成金が入金されるまでの期間が長期にわたります。また、助成金額も実際に支出した費用の額を基準に決定されるものもあるため、一時的な出費が発生することも考慮しておく必要があります。
助成金に関する書類の提出期限は決まっており、提出期限を1日でも過ぎてしまうと一切受け付けてもらえません。
提出期限をあらかじめ確認し、必要な書類の準備を進める必要があります。
人材開発助成金は、2022年から「人への投資促進コース」の助成率がアップし、「事業展開等のリスキング支援コース」が創設されたように、特に国が力を入れている事業のひとつとされています。
また、高度デジタル人材の育成など、世界水準の人材育成に積極的に投資を促進する動きも見られ、人材不足の解消に向けたさまざまな制度が登場しています。
こうした、社会を取り巻く環境の変化に対応できる人材育成を積極的に取り組むための助成制度を活用することが、人材確保や人材不足解消という面からも必要な制度となりつつあるといえるでしょう。
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