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管理職の教育 課題は客観的視点

掲載日2021年10月26日

最終更新日2024年4月16日

管理職の教育 課題は客観的視点

目次

管理職は、業務の進捗管理だけではなく組織の方針や理念の浸透、部下の育成などを担う、企業にとってキーパーソンとも言える存在です。

役職者の能力開発のテーマは企業によってさまざまではありますが、例をひとつあげるとすると「急な変化にも柔軟に対応できる人材」を育成することではないでしょうか。

新型コロナウイルスの出現前から、デジタル技術の躍進や不安定な世界情勢、自然災害によるビジネス環境の変化など、予測しにくい状況はいつもそこにありました。今後ますますその動きは早まると考えられています。

このような時代の下で企業が発展し続けるには、キーパーソンといえる存在の管理職が、変化に柔軟に対応していく力を発揮することが不可欠です。

これまでと同じスピード、やり方では通じない場面が増えるビジネス環境では、「自ら考えて行動を起こせる自律的な人材」の育成が重要です。人材育成関連サービスの中で度々「自律的」というワードを目にするのは、このような背景があるためです。

ですが、いくら「自ら考えて行動を起こせる」としても、その"考えの質"に問題がある場合、「独りよがりに事を進めてしまい、周囲の信頼が得られない」などの問題が発生します。適切な判断を行うために必要な"思考の質"を高めるには、客観的視点が欠かせません。

本記事では、自ら考えて行動できる管理職を育てる上で課題となる「客観的視点」とその育成・サポートについて解説します。

自律的な人材とは

先述のとおり、「自律的」というキーワードが人材育成のトレンドとなりつつあります。
「自律的な人材」の人材像とは、一般的に以下に当てはまる人材を指します。

  • 組織- 周囲の期待に応えることと、自分がやりたいこととのバランスが取れる

  • 自身の行動の効果を客観的に捉え、勇気ある判断を適切に下し、タイムリーに実行する

自律的に考えて行動できる人材」を求める企業は近年増加しており、育成するターゲットを次世代リーダーに定めて投資する傾向にあります。

客観的視点の欠如は望まない結果を生む

自律的に行動する人は自ら考え、判断し、行動を起こします。ところが人は、自分の考えが正しいと信じ、相反する意見や事実を無意識に見逃すことがあります。周囲の反対意見に耳を貸さず、自分の考えに固執して物事を進いるように見える人を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

管理職の場合、部門方針に沿ったビジネス上の判断、部下への指示出しなど、重要な選択・判断を行う機会に日々直面します。

当然ながら業務遂行は、管理職ひとりで完結するわけではなく、部門メンバーや他部門、クライアント、ベンダーなどさまざまな立場の他者との関係性、協業の上に成り立つものです。

客観的視点に欠ける判断を行う意思決定者の場合、周囲も納得する最良の判断ができないばかりか、周囲との良好な関係性に傷をつける可能性もあり、機能不全を起こしかねません

なぜかメンバーが次々に辞めてしまう、期待した成果をチームが出せない、トラブルが多いといった問題は、管理職がその役割を果たせていないことが原因のひとつである場合があります。

自分の役割と周囲の期待、自分の言動が周囲にどのように影響するか、目標達成に向けてどう動けばよいのかなど、様々な場面で発揮することになる"客観的な視点を取り入れた冷静な思考"は、訓練で身につけることができるものです。

トラブル経験を通して学びを得る人も多いことは事実ですが、「知識」の習得と日々の訓練に取り組むことで問題発生を回避する方が、確実に本人にとっても組織にとっても有利です。

不十分なコミュニケーションが招くもの

上司から部下へのコミュニケーションの内容が具体性に欠ける場合や、表面的なやりとりで終わりがちな場合、部下に対する効果的な目標設定やフィードバックの提供が困難になります。部下の感情や考えを確認する前に、上司が自分の思いや考えを押し付け過ぎる場合も同様です。

部下1人ひとりとの適切な距離感を維持しつつ、相手の想いや考えを引き出すコミュニケーション、部下が納得して行動改善に取り組めるよう導くコミュニケーションをとるには、上司自身が自分の意見や思いだけでなく、周囲に映る自分の行動とその影響を客観的に捉える習慣を身につけることが必要です。そうすることで、効果的な言動のヒントが得やすくなります。

適切な目標設定とは

目標設定の際、明確な目標と共に達成度を測定する指標を設定しますが、その目標が組織の方針や戦略に紐づいていて、さらに本人に示された役割や期待内容と関連性があることが理想的です。

個人の役割や目標に対する本人の理解度や納得度が十分なレベルに達していない場合には、上司とのコミュニケーションの質や量に改善の余地があることを企業側は意識しておくことが必要です。

コミュニケ―ションの質を向上するコツは、物事の理解や納得感を導くポイントが個人毎に異なることを念頭に置き、説明を詳細に行うことよりも説明を受ける側の反応や理解度、納得度を確認しながら丁寧にコミュニケーションを取ることを優先することです。また期待の根拠やその期待に応えることの効果(周囲へのプラスの影響、本人のメリットなど)を明確にすることも重要です。

自分を客観視する際に役立つ「メタ認知」とは

私たちは普段からある程度、自分の行動が導く結果を考えながら行動しています。重責を担う人は特に、避けねばならない行動を機敏に感知しながら行動する習慣が身についているものです。
私たちは行動を起こす前に、以下の3点を照らし合わせながら判断しています。

① 自分の周りの環境

② 自分の今現在の状態

③ 過去の経験・知識から学んだこと

この①~③の自分の認知を高い位置から見下ろすように客観的に捉えることを「メタ認知」と呼びます。そして客観的視点で自分自身と周囲を俯瞰しながら考え、課題を特定し、行動する能力がメタ認知能力です。

メタ認知能力に関する記述は、古代ギリシャ時代から存在していましたが、その研究が進んだのは最近になってからのことです。1970年代に北米の心理学者ジョン・H・フラベルが定義した「メタ記憶」が基本となり、その後、教育や脳科学の分野で研究が広がり、最近ではビジネスにおける仕事力向上に役立つ能力として参考にされるようになりました。

2009年に発足した国際団体 Assessment & Teaching of 21st Century Skills (ATC21s)(※1)によって定義された4領域10項目の「21世紀以降の社会で活躍するために必要なスキル」のうち、「思考の方法」の領域に分類されるスキルの中にも「メタ認知」が登場します。IT技術やグローバル化が進み、先が見えない社会を生き抜く子供たちに必要なスキルのひとつに挙げられています。

余談になりますが、21世紀以降の社会で活躍するために必要なスキルは、2002年に発足した非営利団体 Partnership for 21st Century Skills(P21)(※2)でも定義されており、これらの流れを受けて日本では文部科学省が提唱する「生きる力」を育む方向性として、2013年に国立教育政策研究所が「21世紀型能力」を提唱しています。

21世紀型能力を構成する要素に含まれるメタ認知のような客観的思考は、不確定要素が多い社会の中で役立つ重要な思考の1つであり、企業活動の根幹部分に関わる管理職には身につけてほしい能力だと言えます。

(※1)ロンドンで発足した、21世紀スキルを定義するプロジェクト。250名以上の研究者、専門家、医師によって構成され、Cisco Systems、Microsoft、Intelがスポンサーとして参加。2010年にオーストラリア、フィンランド、ポルトガル、シンガポール、イギリス、アメリカの6か国が加わる。

(※2)アメリカ教育省、Microsoftはじめ、複数のIT関連企業と教育団体の連携で発足。子供の教育を考えるために、21世紀の職場で求められるスキルを定義。

自律的な行動とメタ認知力の関係

メタ認知能力が高い場合、その人は自分を取り巻く環境と、自分自身の状態の双方を第三者の視点で捉えることができます。冷静な判断に基づく課題特定と解決行動を選ぶことができ、結果として仕事力の向上につながり易いと考えられます。

メタ認知能力の高さが仕事力の向上につながることをイメージし易くするために、ここでクリティカルシンキングの考え方を例にもう少し説明します。

クリティカルシンキングは日本語で批判的思考と呼ばれるように、目の前にある情報や一般的な意見をただ鵜呑みにするのではなく、"その情報は正しいのだろうか?根拠は何だろう?"と世の中で正しいと言われている物事に対しても裏付ける根拠の有無を確認し、多面的・多角的に物事を考察し、あらゆる可能性を視野に入れた上で判断する能力です。

メタ認知能力も同様に、本人が正しいと認識する物事に対し、第三者の視点で事実・実態に基づく判断を進める力です。自分自身の状態や行動を、客観的に実態を捉える形で認知し、過去の経験等の情報も参考にしながらベストアンサーを特定する能力だと言えます。

この能力を習慣的に活用することで、「視点の偏り」や「不適切な捉え方」に足を取られることなく、タイムリーかつ柔軟に環境変化に適応できるようになる効果や、信頼度の高い判断を周囲に提供できるようになる効果も期待できます。

メタ認知能力に強化の余地がある場合、客観的事実よりも自身の主観や感情から受ける影響が大きくなり、効果的な判断を見失う可能性や、非建設的な思考に走る可能性が高くなってしまいます。

今後、不確実な状況や連続する変化に直面する確率が高いVUCAの時代を迎える中、誰もが自律的に課題を見つけて行動できるようになることが必要になってきます。そのためメタ認知能力の強化も意識したいものです。

メタ認知能力を強化する3つの対策

メタ認知力を強化する方法は、本人による意識や行動の改善活動の継続以外にありません。まずは本人が自分自身を客観的に観察する習慣を身につけるところから始めます。

改善または強化したい行動を特定した後、目指す姿に向けて、"考えてから行動する"習慣をつけることです。

その取り組みを継続する過程で、都度発生するネガティブな感情よりも、未来に向かう建設的な思考を優先する習慣が身につけば、メタ認知能力が強化されていることになります。

メタ認知能力を強化した場合の思考傾向の変化の例

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対象者のメタ認知力強化に役立つと考えられる方法を3つご紹介します。

"客観的に自分を振り返る習慣"を上司や身近な先輩から共有してもらう

普段接点がある人の事例は身近に感じやすいものです。
上司や身近な先輩が、能力開発・自己啓発の経験の中で、その取り組みの進捗管理を特定の基準や他者との比較、周りのフィードバック等を参考に、自分を振り返りながら実践した経験があれば、その時の体験を本人に共有してもらいます。
"自分の主観を信頼し過ぎず、自分の姿を客観的に観察する"ことのイメージづくりに役立つと考えられます。

また、上司が現在進行形で自分自身の行動を振り返りながら、行動改善に取り組んでいる最中であれば、その取り組み方法や取り組みから得た「気づき」をその上司から共有してもらうことも、参考になる筈です。
上司に限らず、周囲にコーチングを受けている人がいる場合、その人の体験も参考になると考えられます。

自分の状態を客観的視点で整理する機会を設ける

自分自身を客観的に観察できているかどうかを本人が判断することは、難しい場合があります。また、自身の考えの偏りに気づくことは最初のうちは困難です。
本人ひとりでは気づかないこともあるので、定期的な1on1ミーティングの実施や日常の会話の中で本人の観察に偏りがあれば上司がアドバイスをするなど、「他人の意見を聞く」機会を提供しましょう。

管理職という立場になると、時間も相談相手も限られ、担うタスクも重要なため、自分自身のことは後回しになりがちです。そのような状況を回避するためにも、上司に限らず、支援者を巻き込むことが、取り組みの継続につながります。

定期的に支援者と過ごす時間を確保することが難しい場合、あるいは上司に支援を依頼することが困難な場合には、まずは改善したいことに関する自分の言動や判断、感じたことなどを記録する習慣をつけることを本人に勧めましょう。

そして可能であれば、後日、利害関係のない支援者にその記録を共有しながら、アドバイスを受ける機会を設けます。自分の過去の言動を支援者に共有する過程で、本人は"客観的に自分自身を振り返る"体験をするため、自分を客観視する感覚をつかんでくれる可能性があります。

アセスメントツールを活用して第三者視点を提供する

管理職や、ある程度社会経験を積んだ人材の自己理解やコミュニケーションの傾向確認には、アセスメントツールのひとつであるパーソナリティ診断を活用することが効果的です。例えば、パーソナリティ診断(性格診断)を利用することで、その人の実際の行動を生みだす、対人行動の傾向、強みの過剰発揮の可能性、などを予測することができます。

利用する診断ツールの専門コーチと共に結果レポートの内容を確認していく中で、本来の自分の特徴と自分の実際の行動を照らし合わせながら自分を振り返り、物事の捉え方やとりがちな行動の調整について考察する機会が得られます。

アセスメントツールを利用するメリットは、業務と関わりのない第三者視点からのフィードバックであるため、本人が結果を受け入れやすいことです。

まとめ:将来の管理職候補、次世代リーダーは、組織として育成する

今回は自律的に行動できることが求められる組織のキーパーソンとして、「管理職」に焦点を当てながら客観的な視点を持つことの重要性に触れました。しかし、"自律的に行動できるようになる"こと、そして"客観的な視点を持つ"ことのどちらも、管理職に限らず誰もが身につけたい習慣です。

また、組織の未来を担う若手、特に「次世代リーダー候補」と位置付けられる人材には、自律的に適切な判断や行動をとる先輩や上司の姿を参考に、早い段階から自分が将来的に目指すリーダー像を具体的にイメージしてほしいものです。

そして客観的な視点で、目指すリーダー像に合わせて有意義だと思われる経験を探し、その機会を自ら手に入れる努力や、社内外における自分自身のブランディングを意識できるようになってもらうことが理想です。これらを可能する環境整備が、組織全体で次世代リーダーを育成する取り組みを更に効果的にすることでしょう。

著者プロフィール

マンパワーグループ株式会社 マーケティング本部 山口薫

マンパワーグループ株式会社 マーケティング本部 山口薫

日系不動産会社、米系人事コンサルティング会社を経て、2011年に株式会社ライトマネジメントジャパン(現マンパワーグループ株式会社)に入社。タレントマネジメント部門にて人事コンサルタントとしてアセスメント、コーチング、リーダーシップ領域を中心とした提案営業およびコンテンツ開発、デリバリーを主に外資系企業を対象に提供。また日系企業、外資系企業の能力開発や採用に関連するグローバルプログラムの実施を多数支援。

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