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リモートワークや働き方改革などの浸透により、働き方の選択肢が増えつつある今、多くの企業が従業員のキャリアデザイン支援に取り組み始めています。
本記事では、企業が個人のキャリアデザインを支援することによるメリットや、支援の具体的な実践方法を紹介します。
キャリアデザインは、「将来、自分がどのようになりたいのか」という目標や、その実現にあたっての中長期的な計画を立てることを指します。キャリアデザインでは会社の指示ではなく、自分自身が自発的に将来の姿や働き方を決定することが重要です。
プライベートな要素も含めた計画であり、自分がどのように働きたいかを考えます。キャリアデザインを考えるには、現状を整理し、将来の理想を描き、実現するための具体的な計画を立てる必要があります。
終身雇用を前提とした年功序列制度から、能力や成果に基づいた評価が主流となった現在、同じ企業でただ働くだけでは、昇進や昇給が保証されません。
また、70歳までの定年延長が行われる一方で、経済状況の変化によるリストラも増えています。
このような状況から、働く個人の意識が「自分の将来(キャリア)は、自分で決める」という方向に変わりつつあります。この流れを受けて、企業も従業員のモチベーションや自律性の向上を目的とした従業員のキャリアデザイン支援を積極的に導入する動きが広まっています。
キャリアデザインと似たような言葉に「キャリアアップ」「キャリアプラン」など、さまざまなものがあります。以下の表に違いを整理します。
言葉 | 意味 |
---|---|
キャリア | 職業や技能上の経歴や経験などを指す言葉。関連した職務が連鎖する、一連の持続性、継続性をもった概念。 |
キャリアアップ | 今よりも高い能力を身につけて、自身の市場価値を高め、新しい経歴をつくっていくこと。仕事の幅や裁量が広がることで自身の経歴に高まりが得られる。 |
キャリアプラン | 今後の仕事についての計画。やってみたいことや理想とする働き方を目標にし、それを達成するための行動を計画する。一般的に、キャリアデザインよりも限定的な言葉で、プライベートや人生設計的な要素は含まない。 |
キャリアパス | ある職種や職位に就くために必要とされる、部署や業務の経験、順序などを示したプロセス。 |
キャリアアンカー | 職業人生を送る上で拠り所となる自己のセルフイメージ。仕事をするうえで大切にしている価値観が含まれる。 |
キャリア開発 | 企業が従業員の能力向上などを目指して行う施策や計画のこと。 |
キャリアデザイン支援とは、企業が考えるキャリアパスを従業員に一方的に押し付けるのではなく、従業員各自が「将来、自分がどのようになりたいのか」というビジョンを考えるに至った背景や経緯を考慮しながら、それぞれに応じたキャリア形成を支援することです。
先述のとおり、現代では働き方が多様化し、人材の流動性も高まっています。そのため、従来の終身雇用と年功序列型の人事制度を主流としたキャリアイメージでは個々の従業員のニーズに応えられません。
一人ひとりの将来像や理想の働き方にあわせた支援を行うことで、多様な人材が企業で力を発揮できるようになります。社員が「この企業で働きつづけることが自分の将来の理想像につながる」という意義を感じとることができれば、定着率が向上します。さらに、企業の魅力が向上し優秀な人材が集まるなど、採用力の向上も期待できます。
企業がキャリアデザイン支援を行うメリットは、主に以下の3点です。
キャリアデザイン支援では、従業員が資格取得や研修を含むOFF-JT(職務外教育)による、新たなスキル習得を可能にすることが特に重要です。従業員の能力開発が進み、業務を効果的に進める力が強化されます。
また、キャリアデザインの実現に向けた自身の仕事の意義や目標が明確になることで、従業員のモチベーションが向上します。目標達成に向け自律的かつ主体的に行動できるようになるため、従業員の積極的な能力向上にも寄与するでしょう。
さらに、キャリアデザイン支援を実施するためには、従業員のキャリアプランやライフプランに関する考え方を定期的に確認する必要があります。研修や面談あるいは社内の公募制度などを活用し、得られた情報を配属や人材開発などの人事施策に活かすことができます。
キャリアデザイン支援を行うデメリットは、状況によって転職や独立などによる離職のリスクが発生しうることです。
より高次のレベルの仕事や給与を求める人材が、ここに所属していては自分の望むキャリアを実現できないと感じた場合、転職や独立を選択する可能性があります。
キャリアデザイン支援にまつわる具体的な人事施策の一例として、以下の施策が挙げられます。これらの施策により、高いスキルを持つ人材の更なる活躍の場を整備するのも人材流出リスクの低減策のひとつです。
キャリアデザイン支援を進めるにあたって有効利用できるものに、厚生労働省が提供している職業能力評価基準とキャリアマップがあります。具体的な活用例とともに紹介します。
職業能力評価基準は、業務に必要な能力を「知識」「技術・技能」「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」の3つに分けて整理したものです。
評価基準では、企業が期待する責任や役割の範囲、業務の難易度に応じて、能力を4つのレベルに分けられています。レベル1から4まで進むにつれて、業務の難易度が高くなります。
キャリアマップは、能力開発を進めるためのツールです。従業員のキャリアイメージを具体化し、実現するための具体的な行動を促す役割も果たします。
キャリアマップでは、キャリアの進むべき道(キャリアプラン)や各レベルの習熟に必要な年数が示されます。また、キャリアアップに必要な経験や実績、関連する資格や検定なども記載され、組織内で従業員一人ひとりのキャリアプランの共有も可能です。
自社の仕事内容や資格のレベルに基づいて、職業能力評価基準の各レベルを結び付けることで、自社のキャリアマップを作成できます。キャリアマップでは、各レベルに必要なスキルを身につけるための目安となる期間(習熟年数)を提示し、従業員の希望を考慮しながら、個人のキャリアプランを作成し共有しましょう。
職業能力評価シートは、キャリアマップと組みあわせて使用することで効果を発揮するシートです。職業能力評価シートは、職務遂行のための基準を簡略化したもので、職種や職務、レベルごとに定められています。
具体的に把握できるのは、以下の2点です。
職業能力評価シートをキャリアマップと組みあわせて活用すると、キャリアプランに沿った従業員の成長を支援できます。
OJTコミュニケーションシートは、職業能力評価シートの評価結果をグラフ化し、将来の成長課題や能力開発目標を書き込むためのシートです。OJTコミュニケーションシートを使うことで、効果的な面談ができるようになります。
OJTコミュニケーションシートを使用する効果は、以下の5つです。
参考:「OJTコミュニケーションシート」厚生労働省(Excel)
キャリアデザイン支援を行うにあたって人事担当者は、以下の姿勢が求められます。
繰り返しになりますが、キャリアデザインは個人が主体的に行うものであり、企業や人事考えるキャリアパスに個人のキャリアを無理やり当てはめるのはキャリアデザイン支援ではありません。
また、キャリアデザイン支援を形骸化させないためには、指導者である管理職などのマネジメント層の理解も重要です。マネジメント層にもキャリアデザインの重要性を理解させ、部下のキャリアデザイン支援への積極的な参加を促しましょう。
キャリア面談は、上司や人事担当者が担当するにせよ、外部のコンサルタントが担当するにせよ、重要なのは通常の業務から離れて行われることで、従業員が心理的な安心感をもって自らのキャリアについて語れる場となることです。
キャリアデザイン支援の効果を最大限に引き出すには、従業員が自分自身の理想の将来像を考えることが重要です。以下では、必要なポイントをQ&A形式で紹介します。
個人のキャリアプランと組織のニーズのギャップを縮めることで、個人のモチベーションを組織の目標に合致させられます。
そのためには、組織の目標や方向性、何のためにそれをするのかなどの情報を積極的に共有し、裁量範囲を広げることで、彼らが組織の目標に貢献しているという自信と、組織への関与を高めましょう。
研修などの時間を確保するのが難しい場合、管理職にアプローチしましょう。管理職は従業員とよくかかわるため、部下の仕事や気持ちについて話し合う機会を短時間でも日常的に持つことが重要です。
組織の方針や課題を共有し、部下の意見を聞くことで、部下たちは主体的に仕事の進め方やキャリアについて考えるようになるでしょう。マネジメント層にはキャリアデザイン支援の重要性を認識させ、日々の対話に取り組むよう促しましょう。
まず社内だけで取り組みを進めるにあたっては、キャリアデザイン支援をサポートする社内アドバイザー職の設置から始めましょう。人事担当者の兼務、あるいは豊富な知識と経験を持っているシニア社員の協力を仰ぐのも良いでしょう。
また、アドバイザー職がキャリアについての知見をより深めるためにもキャリアコンサルタントの国家資格取得を奨励するのも方策の一つです。アドバイザー職を務める社員のキャリア支援にもつながります。
管理職が受け身の従業員とどのように接しているかを確認しましょう。受け身な従業員はやる気をなくしていることが多く、管理職は部下の自己実現を尊重し、承認と賞賛を大切にするマネジメントを心がける必要があります。
厚生労働省の職業情報提供サイト(愛称:job tag)には、仕事の価値観を診断する価値観検査や、ホワイトカラー系職種の職業能力チェックがあります。ツールを利用すると、従業員は自分自身について理解する手がかりを得られます。
「ホワイトカラー系職種の職業能力チェック」厚生労働省職業情報提供サイト
人材の流動性が高まるなか、企業が事業を継続・拡大していくためには、従業員の主体的なキャリア形成を適切に支援するキャリアデザイン支援が重要です。従業員の離職を減らし、長期的なキャリアの構築と働きやすさを向上させるよう取り組みましょう。
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