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【派遣先責任者向け】派遣法の基礎知識 知っておきたい12項目
派遣法は、派遣会社だけでなく派遣先企業にも責任や努力義務などを課しています。
さまざまなことが派遣法で規定されていますが、派遣先責任者が知っておくべき項目を12つピックアップし、わかりやすく解説した資料をご用意しています。
派遣会社が派遣先企業に派遣社員を就業させる場合、法律により派遣できる期間が制限されています。この定めを「派遣3年ルール」といいます。
本記事では派遣3年ルールの制限内容と制度が導入された背景、派遣社員の契約期間を延長する方法、派遣3年ルールに違反した場合の罰則や行政処分などのペナルティについて解説します。
労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣社員の保護等に関する法律、以降労働者派遣法と記載)では、派遣社員が同じ事業所の同じ部署で就業できる期間は、派遣就業開始日から原則3年までとしています。これを一般的に「派遣3年ルール」と呼んでいます。
派遣3年ルールは、2015年の労働者派遣法改正により適用されることになりました。
通常、派遣先企業における派遣社員の役割は、従業員の退職や休暇制度の取得(育児休業など)による代替要員、または一時的な業務量の増加などに対応できる専門的知識を持った人材として位置づけられています。よって長期間にわたる雇用は想定されていません。
人材派遣の活用は、正社員と比較して業務の繁閑や業務量に応じた人員計画の調整がしやすい、即戦力として期待できる、労務管理が容易などのメリットがあります。そのため一部の企業では、正社員を雇用せず派遣社員を重用することもありました。
1996年に改正・施行された労働者派遣法は、2004年に派遣期間の上限が1年から3年に延長され、ソフトウエア開発などの専門26業種は例外として無制限に受け入れを可能にしました。
しかし、受け入れ可能期間の制限がなくなることで、派遣社員が一時的ではなく長期間にわたって同じ企業で就業できるため、企業側には都合が良くても労働者側にとっては不利な状況となりました。
また、派遣可能期間の制限を逃れることを目的に、契約上は専門26業種としながら実態として専門性がない業務を行っているという事案が発生していたことも問題視されていました。
加えて、企業が正社員雇用を行わなければ、求人数が減少し、雇用機会が失われます。派遣社員にとっても、正社員への登用機会が減り、自身のキャリアやスキル向上の機会が制約されてしまうことになります。
そのため、2015年の労働者派遣法改正の際に、有期雇用労働者を保護する目的で、専門26業種の派遣期間特例の撤廃および、業種に関わらず派遣3年ルールが適用されることになりました。
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派遣法のこれまでの改定の流れについては、「【早見表】労働者派遣法改正の歴史|2023年の最新情報」で詳しく説明しています
5年ルールとは、労働契約法により、同じ職場で勤続年数を5年超えた労働者が、希望した場合に「無期雇用」への契約変更を申し込むことができる制度を指します。申し込みを受けた企業は、これを拒むことはできません。
この制度は、派遣社員だけでなく、有期雇用契約を締結しているすべての労働者に適用されます。
無期雇用契約への移行が成立した場合、会社都合で雇用契約を終了する場合は、30日前の解雇予告など正社員と同じ条件が適用されます。
しかし、必ずしも給与などの待遇面において、正社員と同じ条件で雇用契約を結ぶ義務はありません。
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5年ルールについては「【企業向け】労働契約法18条の無期転換ルールで注意すべきポイント」で詳しく説明しています
派遣3年ルールがあることによる派遣先企業へのメリットとデメリットは以下のとおりです。メリットとデメリットを考慮し、効果的な人員計画を策定することが重要です。
属人化によるリスク回避:派遣期間が原則3年までのため、業務が属人化しにくくなります。
スムーズな移行:派遣可能期間の終了後に派遣社員を直接雇用した場合、同一業務に就いてもらう際の教育や適応期間が短縮されます。既にパフォーマンスやヒューマンスキルについて確認できている人材を確保できるため、ミスマッチの不安がないことは大きなメリットです。
代替要員の配置:原則、3年以上同じ派遣社員を受け入れることはできません。そのため、代替要員の配置が必要になります。これに伴い、新たな教育機関や業務への適応期間が必要になることは、デメリットといえるでしょう。
派遣3年ルールの対象になるのは、派遣会社と有期雇用派遣契約を結んでいる派遣社員です。
派遣社員が派遣会社と無期雇用派遣契約を結んでいる場合は、雇用期間の定めがなく3年を超えて働くことが可能なので、派遣3年ルールの対象外です。
派遣社員が有期雇用派遣契約を結んでいる場合でも、以下のケースでは例外として「派遣3年ルール」の対象外となります。
派遣社員が、就業開始日または就業開始日から3年経過時点で60歳以上の場合は3年ルールの適用外です。
例えば、派遣就業開始時が58歳で、3年後には61歳になる場合が該当します。
終了日が決まっているプロジェクト業務などの場合、派遣就業期間が3年を超えても、プロジェクトの終了日まで派遣を継続できます。
例えば、2020年4月1日から始業、終了予定日が2025年3月31日の場合は、プロジェクト終了まで就労が可能です。
1カ月間の勤務日数が通常の労働者より少なく、月10日以下で、かつ労働時間が通常の労働者の半分以下の場合が該当します。
これらの休業制度を利用中の従業員の業務を代わりに担う目的で派遣されている場合などが該当します。
派遣先企業での就業開始日から3年間の途中で部署を異動した場合、異動前の部署での就業期間はリセットされ、新たに3年間の就業が可能となります。
例えば、経理課で2年間勤務した後に、営業部に異動した場合、営業部では3年間就業できます。
「派遣の3年ルール」で定められている期間制限には、「事業所単位による期間制限」と「個人単位による期間制限」の2つがあります。
ここからは、このふたつの期間制限について、さらに詳しく説明します。
「事業所」とは雇用保険の適用事業所と同じく、下記1から2について、実態に即して判断されます。
事業所単位の期間制限は、「派遣先の同一事業所に派遣社員を派遣できる期間は最大3年まで」とされています。
例えば、初めて派遣社員を受け入れる事業部で、2022年4月1日から派遣社員Aさんが就業開始した場合、派遣契約期間の制限日は2025年3月31日であり、2025年4月1日が抵触日(派遣契約期間の制限が切れた翌日のこと)になります。
仮にAさんが、2024年4月1日に退職し、後任として派遣社員Bさん2024年4月1日が働き始めたとしても、事業所抵触日は変わらず2025年4月1日であり、2027年4月に延長はされません。
事業所単位の期間制限を延長することは可能ですが、その場合、期間制限日を迎える1か月前までに、派遣先企業の労働者の過半数で組織される労働組合あるいはその代表者に意見聴取をするなどの手続きが必要です。
また、事業所単位の期間制限は、個人単位の期間制限より優先されます。
個人単位の期間制限は、「同一の派遣社員を派遣先の同一部署に派遣できる期間は最大3年まで」になります。
例えば派遣先企業の経理課で2023年4月1日から就業を開始した派遣社員Aさんの場合、派遣契約期間の制限日は2026年3月31日であり、2026年4月1日が抵触日になります。
この場合の「部署」とは「○○部」「○○課」「○○グループ」など、部長や課長などの部署長が部署内の労務管理における指揮監督権を持っている組織をいい、実態に即して判断されます。
労働者派遣法は、過去に何度も改正が行われています。
その中には、派遣社員を受け入れる派遣先に関する事項もありました。
派遣先が知っておきたい12項目について、わかりやすく解説した資料をご用意しています。ぜひご覧ください。
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派遣会社から受け入れている派遣社員との契約を、個人の抵触日を迎える3年を超えて継続したい場合、以下の方法で継続して働いてもらうことができます。
派遣会社に相談の上、派遣社員に対して直接雇用を申し込み、派遣社員が同意すれば、派遣先企業と派遣社員の間で雇用契約を締結します。
同一派遣先の同一部署で3年以上就業する見込みがある派遣社員が、派遣期間終了後も引き続き就業を希望している場合、派遣会社が派遣先企業での直接雇用を依頼する可能性もあります。
派遣社員の直接雇用については、「【人事担当者向け】派遣社員を直接雇用に切り替える方法」で解説しています。併せて、「【キャリアアップ助成金】派遣社員の直接雇用も対象となる助成金」もご覧ください。
派遣社員が同一事業所の同一部署で就業できるのは最大3年までですが、同一事業所でも別の部署や課での就業であれば、新たに3年間の上限まで派遣社員を受け入れることができます。
ただし、この場合、事業所が3年を超えて派遣社員を受け入れることになるので、事業所単位の期間制限を延長する手続きが必要です。
なお、派遣先企業は、派遣社員の受け入れ時に派遣社員を特定することはできません。そのため、派遣社員を部署異動させた場合、派遣社員を指名したとして労働者派遣法違反になる可能性があります。
また、業務内容が従前と同一にもかかわらず、契約を延長するために派遣社員を別の部署に異動し就業させた場合も、労働者派遣法違反になる場合があるので注意しましょう。
派遣会社と無期雇用契約を結んでいる派遣社員を受け入れることで、派遣期間の制限を受けず長期的に就業してもらうことができます。
ただし、派遣会社と派遣社員の双方が、契約を有期雇用契約から無期雇用契約へ切り替えることを了承する場合に限られます。派遣会社によっては、無期雇用契約の扱いがない場合もあります。事前に派遣会社に派遣社員の雇用形態の変更が可能かどうか確認しておくようにしましょう。
派遣会社が無期雇用契約を締結している社員を派遣する、無期雇用派遣(乗用型派遣)と呼ばれるサービス形態があります。
無期雇用派遣については、「無期雇用派遣とは?|企業・求職者別にメリット・デメリットを解説」で詳しく解説しています。
派遣先企業が派遣契約期間制限日の翌日以降、契約延長の手続きをせずに派遣社員を就業させていた場合、労働契約申込みみなし制度の対象になります。
労働契約申込みみなし制度とは、派遣先企業が労働者派遣法違反であることを承知の上で派遣社員を受け入れた場合、派遣社員に対して労働契約を申込んだものとみなされる制度をいいます。この場合、当該派遣社員から派遣先企業に対して直接雇用希望の申出があれば、従業員として雇用する義務を負うことになります。
また、派遣3年ルールに違反した場合、契約している派遣会社が都道府県労働局から助言・指導・指示を受けることになり、行政処分として「業務改善命令」「一般労働者派遣事業の全部もしくは一部停止命令」「業務廃止命令(一般労働者派遣事業許可の取り消し)」の対象になる場合があります。
派遣社員の保護を目的とした労働者派遣法は1986年の施行後、派遣社員を取り巻く社会情勢に合わせて改正を重ねてきました。労働環境の変化を背景としてこれからも改正が続くと予測されます。
派遣社員を受け入れる企業の人事労務担当者としては、派遣3年ルールの内容を理解した上での受け入れが必要です。法律違反にならないためには派遣会社と連携し、不明な点などはその都度確認するようにしましょう。
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