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【調査データ】日本企業におけるアンラーニング・リスキリング
マンパワーグループはHR総研と共同で、アンラーニング・リスキリングについての意識調査を人事担当者に実施。
アンラーニング・リスキリングの導入状況や課題、施策などを15ページの調査レポートをリリースしています。ぜひご覧ください。
「過去の経験則にとらわれない」取組みとして「アンラーニング」が注目されています。
テクノロジーの進化に伴い、私達のビジネスを取り巻く環境に大きな変化が押し寄せています。今までセオリーだった仕事の勝ち方、価値観、スキルが全く通じないことも増えてきました。
会社の資産である「人材」の力を十分に活かすには、社会変化に対応できる人材の育成が欠かせません。本記事では、社員を活性化させる「アンラーニング」について解説します。
アンラーニング(unlearning)とはlearning(学び)の前にun(否定する)がついた言葉で、これまでの学びを捨て、新しく学び直すことを指します。
昭和型マネジメントが今では通用しないように、過去どれだけ効果が出て価値があった知識やスキルでも、効果が薄くなり通用しなくなったら思い切って止める、捨てる、忘れる、そして時代に合わせ学び直すことが必要です。
アンラーニングと似た言葉にリスキリングがあります。これは順番の違いです。アンラーニングが先、リスキリングが後になります。目的はともに同じで、過去成果をあげた知識やスキルでも、有効ではないものは捨て、今から通用する知識やスキルを学び、仕事に活かすことです。
最初に「今までの知識やスキルを精査して特定し、今から必要でなくなったものを捨てる・止める・忘れる」ことを行う(アンラーニング)
次に「技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために必要となる、知識やスキルを新たにインプットする」(リスキリング)
【調査資料】日本企業におけるリスキリング・アンラーニングをダウンロードする >>
学んだ知識やスキルを否定せず、学び直しで新たな知識やスキルを学べばいいのではないか、なぜ捨てて学び直すアンラーニングが重要なのか、3つの理由について解説します。
人や組織は、成功と失敗を繰り返すうちに、判断の基盤ができていきます。しかし、新たな技術の導入や市場のトレンドの変化など、ビジネス環境は常に変化。過去の成功体験が将来も同様に成功する保証なく、環境の変化に対応する柔軟性が必要です。
今までのやり方でそれなりに成果を出していた歴史が長ければ長いほど、物事を過去の延長上でしか考えられなくなってしまい、成長の妨げになりやすくなるのです。
人や組織は時間や費用をかけて得た知識やスキルを、もったいなく感じてなかなか捨てられないものです。これまで投じたお金・時間・労力は無駄なものだったと結論付けるのを嫌がる心理が、あとに引けなくさせてしまうのです。
過去のやり方を捨てられず、良くないと思っていても継続してしまう心理状況を、経済学ではコンコルド効果といいます。コンコルド効果は客観的な判断を鈍らせ、サンクコスト(回収不可能な損失)の拡大を招きます。
人材不足や人手不足の中、現場は仕事に追われています。新しい知識やスキルを学んで活用することが重要だと理解しているものの、実際には時間的・精神的な制約からそれを実施する余裕がありません。
リスクをとって新しい知識やスキルの習得に挑戦するよりも、これまで慣れ親しんできたやり方やスキルのほうが、先々が予想しやすく、その分安心感があります。そのため、これまでのやり方から抜け出すことができなくなってしまうのです。
アンラーニングは「学びほぐし」とも言われ、「これからも継承すべきこと」「惰性で続いていること」「止めること」「これから必要なこと」など、様々なやり方や想いがこんがらがっている状態をほぐし、精査することです。
結果、何を止め、どんなことを組織にインプットしなくてはいけないか、目線が揃い、新たなやり方をポジティブに受け入れやすい土壌をつくれることが最大のメリットです。
組織全体でアンラーニングを通してみんなの意識が揃うことで、組織の改善や変革への抵抗を防ぎ、新たな取り組みの浸透がスムーズに速く行うことが可能に。
時代に合わせ、過去を断ち切ることで、組織の従来の発想やアプローチに囚われず、新しいアイディアや革新的な解決策を受け入れる土壌ができます。
結果、組織の改善がスムーズになり、新たなやり方を吸収することがスタンダードな組織風土となり、強い組織を作っていけることがメリットです。
アンラーニングを行い、視野が広がることで、変化への適応力や柔軟性もあがります。
過去に囚われることなく、時代にあった新しいやり方やスキルの習得が進み、よりよい成果に繋がる好循環へ。結果、モチベーションが向上し、自律的なアップデートやリスキリングを生む土壌ができあがります。
アンラーニングを通して変化への対応が日常になるため、業務の陳腐化を防ぐことができます。また、社員の専門性のアップデートとリスキリングが進むため、社員個々人と組織全体の専門性がより広く、深くなり、業務効率や生産性の向上に拍車がかかることも導入のメリットでしょう。
コップに水がいっぱいなのに、さらに液体を入れようとしてもあふれだけですが、水を捨てれば、新たに液体を入れる余裕が生まれることと一緒で、アンラーニングを行うことで、リスキリングを受け入れる物理的な時間や精神的なゆとりが生まれます。結果、リスキリングが効果的に進めることができるでしょう。
アンラーニングは過度に行われると組織の安定性が欠如する可能性があります。
デメリットを事前に知ることで、リスク回避に役立てましょう。
アンラーニングを進めることで、手法や知識が新しいものに置き換えられる場合がありますが、これまでの努力や成功が無価値だったかのように受け取られてしまい、個人や組織のモチベーションが下がる可能性があります。
心理的抵抗をおさえつつ、アンラーニングをすすめる方法については、導入ステップ解説の項で解説します。
アンラーニングで止めるのは一瞬でできても、すぐに新しいやり方やスキルが身に付き、軌道に乗るものではありません。慣れてできるようになるまでは時間や工数がかかるため、軌道にのるまで、現場は一時的に生産性やモチベーションが落ちることがあります。
その混乱や抵抗期に、「新しいやり方より昔のやり方がまだましだ、結果も今より昔の方がでていた」と先祖返りしてしまったり、アンラーニングの取組み自体に意味を見出せなくなったりするなど、否定や抵抗が発生することもあります。
小さな目標を確実にクリアすることを続けるスモールステップを取り入れれば、道のりが長くてもモチベーションを維持できると言われますが、現実はビジネスとして期待されるレベルまで到達しない限り、誰も成功したと感じられません。
コツは、富士山を登山する時、残り何Kmとゴールとギャップをみるだけでなく、スタート地点とゴールの全体をみて、「7合目まできた」というように、全体の中でどれだけ進んだのかを共有することです。
スモールステップの達成だけではゴールとのギャップで苦しさを覚えますが、全体の進捗を知ることで、過去のスモールステップの努力が無駄ではなく、進展した感覚が得られるので本来目指すゴールまで長期にモチベーションを保ちながら進めることができるようになります。
マンパワーグループとHR総研が2023年に実施した調査によると、日本企業においてのアンラーニング実施状況は、約9%と高くありません。
しかし、1000人以上と多くの社員を抱える企業では17%ほどが実施しており、その目的は「従業員の新たな能力開発」が目的です。また、リスキリングを効果的に進めるために導入すると回答も多く見られました。
2022年にマンパワーグループが実施した調査によると、リスキリングを導入している企業は約10%でした。
■2022年のリスキリング調査
しかし、2023年の調査では24%にまで上昇しています。大手企業の約4割はリスキリングを実施しており、関心の高さが伺えます。一方、実施が進む中で課題も見えてきており、アンラーニングへの注目が高まっています。
リスキリングとアンラーニングの状況を調査を15Pのレポートにまとめましたので、ぜひご覧ください。
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アンラーニングは効果がでる反面、アプローチを間違えるとかえって組織がおかしくなり、雰囲気も生産性も悪化するリスクがあります。注意したい点を2つ解説します。
仕事は、1人だけで完結するものは少なく、チームや関係者との協力が必要なものが大半です。1人がアンラーニングを進めても、他のメンバーが今までどおりの方法を続けていると、効果は出にくく、結局元どおりになってしまいがちです。例えば、会議のファシリテーションを学んだとしても、他のメンバーが従来の進行方法を続ける限り、学んだスキルを発揮できません。
また、個人でのアンラーニングは、周囲への影響が少ないですが、チーム全体でアンラーニングに取り組むと影響範囲が大きいため目に見える成果が得られやすくなります。チーム単位でのアンラーニングは効果がチーム内で共有され、推進への弾みがつきます。
アンラーニングの重要性は総論や一般論としては理解されやすいですが、いざ、実際に行うとなると、現場は忙しくアンラーニングを後回しにしてしまいがちです。また、アンラーニングしたのにも関わらず目標未達になるリスクを恐れ、原稿の方法を堅持する傾向にあります。
新しいことに「チャレンジ」する際には安心感が必要であり、アンラーニングの必要性を理解するだけでなく、「アンラーニングを行った結果、どれだけの効果がでるか」を示すことが重要です。
必要なのは、経営層が「アンラーニングの実行を推し進める」と経営的に判断したことを、全社員に宣言することです。人事にはアンラーニングのための研修プログラムを用意するなど、社員が取り組みやすい環境をつくります。
管理職もキーパーソンです。直属の上司である管理職の言動や行動は、メンバーに影響を与えます。管理職はアンラーニングの重要性を説明するだけでなく、自らが率先してアンラーニングを実践してみせることで、メンバーに安心感を与え、参加を促す存在でなければなりません。
アンラーニングを成功させるには、誰もが止めた方がいいと思っていることをただ止めるだけでなく、「戦略的に止める」ことが肝心です。
マイナスをゼロに近づけるだけでなく、さらにプラスの方向へ進めるためには、「べき論」や「根性論」で頑張るのではなく、心理学的アプローチを利用して、ポジティブに変化を促す必要があります。
対象者の心理的抵抗を抑え、効果を出しやすくするアンラーニングの導入手順について解説します。
最初に行うことは、個々人の止める仕事のやり方やスキルの認識あわせです。以下の手順で認識合わせを行いましょう。
まずは、個人単位で今までの仕事のやり方を箇条書きなどで洗い出します。
次に、書き出したものを以下の3点で整理してもらいます。
① このまま継続するもの+理由
② 形骸化したものやもういらないので止めたほうがいいもの+理由
③ ①と②の中間+理由
アンラーニング推進の担当者はメンバーが整理したものを集め、分類します。
次にチーム単位で集まってもらい、結果を見ながら目線合わせを行います。
②のすぐに止めていいものは、共通見解として、止めることをその場で決めます。上司や関係先の承認が必要なものは事務局が後日答申して止めることを決めます。
一旦①と③は置いといて、次の2つについてチームで考えてもらいます。
今起きている課題などは全て解決したものとして、ゼロベースでミッションや取り組んだことがいいことを深く内省し、本音で洗い出してもらいます。
新しいミッションをもとに、取り組んだらいいことの優先順をつけ、優先順に沿って、上記①(このまま継続するもの)と③(継続すべきか悩むもの)の既存の項目と、新たな項目を紐づけていきます。
①③のうち、優先順から外れた項目は、ミッションとの結び付きが弱いのでアンラーニングの対象として思い切って止めるものとします。
その結果、①と③でメンバーにより意見が割れたことも、「重要なことだったけど、もっと優先度が高いことがでてきたので、思い切って手放そう」と手放す勇気とコンセンサスを得ることができます。
このプロセスを行うことで、「止めても体制に影響がないことをあげてお茶を濁そう」のような無意味なアンラーニングを防ぐことができ、取り組みの効果が大きくなりますし、納得感がでます。
重要なのは「みんなで決める」ことで取り組む雰囲気を醸成することです。合意形成をきちんと行うことで、協力関係が強くなります。
次に、優先度が高い項目について、新たに必要とされる知識やスキル、経験を洗い出し、「リスキリング」に繋げていきます。
次にリスキリングを促すよう、学習機会を設けます。今まで取り組んだことがないことなど、社内講師だけではノウハウ不足が懸念される場合は、外部機関の活用も視野に入れます。
重要なことは、個人の自己啓発を頼りにするのではなく、従業員の成長を組織としての責任をもった取組みと位置付けたものにすることです。同じ情報をインプットすることで、学んだノウハウが従業員の共通言語となり、浸透・活用の促進も期待できます。
研修やeラーニング等も、ただ1回受講しただけでは定着しません。また、「理解度テストが満点だからOK」ではなく、実際に現場で活用されなければ価値はありません。
学習→実践・内省→学習といったアクションラーニングを通し、学習する組織になるよう継続的に学べる環境整備が肝心です。学習と実践を繰り返しながら学ぶことで、「理解したことが、できる」ようになり、パフォーマンス向上を実感することで継続的な学びの環境が整備されます。
フォローアップは継続的な学習だけでなく、1on1や社内コーチ・メンターの導入、そして、取り組み自体を会社として正式な表彰・褒章にすることで、従業員に本気で取り組んでいることを感じさせ、取り組むモチベーションを高めます。
アンラーニングの取組みは、成果や結果という側面より、それを生み出すプロセス面の改革に焦点を当てるため、人事評価の項目ではダイレクトに取り組みにくいものです。
例えば、「顧客を喜ばすグランプリ」など、アンラーニングを通し、リスキリングして実現したいことをグランプリ形式にして、1on1の中でも取り扱うほか、3か月中に中間ランキング発表を行うなどして、取り込みに対するモチベーションを維持する施策もよいでしょう。
どんなにアンラーニングが大事と伝えても、売上や利益でしか評価されなかったら、アンラーニングすることではなく、売上や利益をあげる活動に集中しますし、マネジメントも売上・利益をあげること中心になります。
表彰・褒章としてグランプリにすることで、全ての従業員はもちろん、1on1でもグランプリに対する取り組みなどの話題にあがるようになるため、浸透も進みます。
取り組み自体の効果測定も、より現場で具体的に活きた内容で行うこともできるようになりますし、ナレッジシェアも自然に広がるようになるのでお勧めです。
過去の成功体験ややり方を捨てることは心理学的にも難しく、アンラーニングを単体で行うことは難易度が高いですが、組織開発のアプローチをとり、リスキリングと組み合わせることで、その壁を超えることは可能です。
アンラーニングはチームで進めることで、より取り組みやすくなるというアプローチを心がけましょう。
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