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人材育成における目標設定は、人材育成を成功に導くために欠かせない取り組みのひとつです。
しかし、目標の設定方法や目標の管理がうまくいかず、取り組みの成果が見えない状況に陥ってしまうことも少なくありません。そのような状況を防ぐためにも目標設定について理解を深めていきましょう。
ここでは、人材育成における目標設定の重要性や設定方法、目標設定の具体例などを解説します。
企業の経営安定、業績の向上、永続性の確保といった目的に続く道のりは果てしなく、それに貢献できる人材の育成もまた長いプロセスをたどります。
人材育成において目標設定が重要なのは、長期間にわたって社員のモチベーションを維持しながら、確かな方向性へと導ける手段となるからです。「道しるべ」がなければ人は道に迷います。また目指すべきものがなければ、人は方向がわからず動けません。
目標は各段階におけるゴールの役割を果たすととともに、次のステップへと促す推進力となり、成長する速度や確実性が高まります。
人材育成による「道しるべ」を育成する側と育成される側が認識をひとつにすることで、計画的かつ効率的に人材育成に取り組むことができるようになります。
目標設定をすることによって各社員の習熟度を把握できるようになり、適材適所の配置が可能となります。社員のレベルを正しく知り、その能力を適切に活用するためにも目標設定は欠かせません。
人材育成において目標設定を行うメリットについて紹介します。
企業では、適材適所の配置を行った上で、個人の役割を明確化し、個人が役割を全うするための能力を高めることで、個人の仕事に対するパフォーマンスが高まり、生産性の向上を後押しします。
人材育成で目標設定を行うことは、個人が職務上の役割を全うするための能力を高める取り組みです。すなわち、目標設定を行うことで、個人だけではなく企業全体の生産性の向上につながっていきます。
明確な目標設定をすることで、仕事を通じて目標を達成しようという意欲が本人の中に湧いてきます。さらに、設定した目標を達成することで、本人が達成感を得るとともに、自身の成長を実感することができます。
個人の成長が企業やチームの業績に対して貢献したことが評価されることで、本人のモチベーションが向上し、企業やチームの目標も達成されるという好循環が生じます。
人材育成における目標設定では、社員と企業の双方が目標を設定することが重要です。一般的な目標設定方法と参考になる「SMARTの法則」を解説します。
まずは、企業全体としての目標を明らかにします。具体的には「どのような方針のもとで、どのような企業成長や企業変革を実現したいのか、それによりどのような企業業績(売上や利益)を達成したいのか」という内容です。
それらを明らかにして企業全体の目標を社員に提示します。社員への提示は、企業全体としての目標の説明だけでなく、目標を達成するために、社内の各組織や各現場に求める実績や変化も具体的に提示します。
企業から要求された組織や現場の目標を達成するために、個人の目標を設定します。
個人の目標設定方法は、上司と部下による面談の場で、上司が担当チームの目標を部下に提示します。その後、双方の話し合いにより、達成することで部下の成長を実現することのできる目標を設定します。
部下の成長を実現させるために、「現時点での部下の能力よりも高く、少し頑張れば達成できる程度」の目標を設定することが効果的です。
目標を設定するにあたって、達成基準と達成期日を明確にする必要があります。「いつまで(達成期日)に仕事の成果を出す、あるいはこの程度(達成基準)の能力向上を実現する」を明らかにします。
そうすることで、ゴールや成長のために求められていることを上司と部下が認識をひとつにすることができ、連携した取り組みを行うことが可能となります。
達成基準と達成期日は、上司が一方的に押し付けるのではなく、上司と部下との話し合いにより双方が合意する形で決定することが重要です。
個人の目標がチームの目標と連動していることが理想的な運用です。具体的には、個人の成果や成長の積み重ねがチームとしての目標達成につながり、チームとしてあるべき方向性の実現につながるという関係性です。
上司は、理想的な運用を行うためにメンバーを適材適所に配置し、それぞれに相応しい役割や権限を与えましょう。チームとしての目標が達成される筋道を立てた上で、メンバーに対してそれを実現させるための計画を説明します。
1981年に米国のジョージ・T・ドランが提唱した「SMARTの法則」は、現在でも多くのビジネスパーソンに活用されています。
実現するための成功因子となる5つの要素をもとに組み立てることで、現実的な目標設定が可能となります。「SMARTの法則」の成功因子は以下のとおりです。
例えば、「向上させる」という表現には客観性がありません。
誰がみても明らかな向上であるとする、具体的なイメージや達成基準を目標とします。
目標への進捗状況や到達度を可視化するためには、数値化された計測可能な指標が必要です。
個人の技能や性質を無視した企業本位の達成困難な目標を定めてしまうと、本人の成長を妨げます。
努力次第で必ず達成できるゴールであることが大切です。
目標に取り組むことに対するモチベーションを上げるためには、目標達成により得られるベネフィットがなければなりません。
目標を達成することで、よりやりがいのある仕事が与えられる、ボーナスが与えられる、昇格のチャンスが得られるといったものが挙げられます。
期限なしの目標は、単なる夢にすぎません。人は期限を設定することで、モチベーションを維持し続けながら目標達成に向けた取り組みを行うことができます。
短期的、中長期的な目標を期限つきで定めることで、具体的な行動計画が立てやすくなります。
企業にとって、社員の目標設定は、人材育成を進める上で重要な取り組みです。効果的な目標設定とするために、留意したいポイントを解説します。
「目標設定はさせているが、一向にそれらしい成果が見えてこない」。
多くの企業で聞かれる声ですが、この場合設定されている目標自体に問題があると考えられます。
目標設定が、対象となる社員に業務上の指示としてしか受け止められていない場合、「自分が目指すべきもの」だと本人が捉えることができません。
上司から指示されてとりあえず掲げた数値目標は、その社員にとってのモチベーションとはなりません。 社員が「何のために?」「達成するとどうなるのか?」という点について、具体的にイメージできる目標であることが大切です。
目標は、設定をして終わりではありません。達成されること、あるいはそれを目指す原動力となることで意味を持ちます。また、努力や工夫なしでは安易に達成できないものであることが、社員にとっての有意義な目標となります。
企業側では、人材育成が経営上の重要な戦略のひとつであることを常に意識して取り組む必要があります。
人材育成では「自律性をもって思考・行動ができる社員に育てること」を重視しがちですが、自律的であるのと同時に「企業目標に沿った行動ができる社員」である必要があります。
個人と企業の最終的な目標がずれていたのでは、何のための人材育成かわからなくなってしまいます。人材育成を行うにあたっては、企業の明確なゴールを打ち出し、その方向性と一致することが大切です。
経営戦略を進めていく上で、具体的に「どのような人材を育成したらいいのか」「どのようなスキルを持つ人材が欲しいのか」「その人材を育成するためには何が必要なのか」「現時点で何を目標とさせるべきなのか」など、ニーズから導かれるものを人材育成の過程に落とし込み、現在企業が手にしている人材と照らし合わせて各人の目標設定の材料としていきます。
働き方改革にもみられるように、多様性に対応することがこれからの企業に求められています。社員の目標設定においても、画一的な「当てはめ型」は通用しない時代となりました。
社員の均一化を求めるのは、古い考え方です。個性をつぶすのではなく、個人の資質が活きる目標となるように指導をしていく意識が必要です。
個人の強みや特徴を活かした育成方法を考え、一人ひとりに達成可能な目標が設定されているのかを精査します。社員自身に気づきを与えながら、その時点でもっとも効果的な目標を定められるように促します。
企業の人材育成に終わりはありません。新入社員の育成はもちろんですが、ひとりの人間の成長に完結がないことにも着目していく必要があります。
現在設定している目標の先には続きがあります。すべての社員に対して、常に先へと成長できることを意識させていかなければなりません。成長のためには、その時々でチャレンジしがいのある「野心的な」目標であることも重要です。
また、現代は過去の時代とは違い、一度入社すれば会社人生をまっとうできるという安穏なものではありません。ビジネス環境の変化が著しい現代においては、「プロティアン・キャリア(Protean Career)」の考え方が参考になります。プロティアン・キャリアとはアメリカの心理学者ダグラス・ホールが提唱する理論で、「環境の変化に応じて自分自身も変化させる柔軟なキャリア形成」を指します。
プロティアン・キャリアで主体となるのは社員自身であり、キャリア形成の枠組みを企業内の地位や昇進と捉えず、成長と個人的な満足感と捉え、成長し続ける意識を持つことが望ましいです。
人材育成を企業任せにするのではなく、自身が成長するための手段と見なすことができれば、生涯にわたるキャリアを形成するための目標設定へとつながっていくでしょう。
的確な目標設定は人材育成の成功につながる大きなポイントですが、その達成度の測定方法についても明確に定義されていなければなりません。
目標設定の運用がうまくいかない理由の多くは、設定された目標に到達できたかどうかの確認ができないままに取り組みを終えてしまうことにあります。
設定される目標は必ずしも数値的なものばかりとは限りませんが、「頑張った」的な評価とならないための工夫が必要です。目標に対する定性・定量的評価をどのような基準や尺度で行うのかを目標設定の段階から明確にしておかないと、消化不良に終わってしまいます。
数値化できないものについては、行動記録などのエビデンス的な要素を社員にも意識させ、何をもって目標に近づけたのかを明確にするようにします。
目標を設定するのは、理想やあるべき姿へ到達するためです。"ゴール"が定まっているからこそ目標が具体的になりますが、昨今の社会状況の変化の激しさは目を見張るものがあります。企業も個人もその影響を受けるため、目標または理想も変化する可能性があります。そのような状況でのキャリア形成を修正・調整するのがキャリアマネジメントという考え方です。組織と個人、両方の視点が管理者には求められます。
なぜ目標管理が重要なのか、また設定された目標をどのように管理・運用するのかについて解説します。
冒頭でも挙げたように、目標設定に関しては、単なる上からの指示業務となってしまっては意味がありません。設定した目標の内容が立派であることに満足し、未達の計画で終わってしまっては個人の成長が実現されません。
設定した目標を達成させるために適切な目標管理が必要なのですが、社員個人に任せてしまうのでは人材育成としては不十分です。
本人が目標を意識し続けられるように、定期的に面談を行い、進捗の確認を行った上で、目標を達成するために今後取るべき行動などに対するアドバイスをやり続けるという目標達成のための管理(マネジメント)が必要です。
適切に目標管理を行うためのツールとして今注目されているのが、OKR(Objectives and Key Results)です。OKRは、達成すべき目標内容と目標の達成度を測る主要な成果(カギ)という二つの指標で構成されます。
企業で活用する場合には、企業側のOKRと各チーム・各個人のOKRを作成して統合・構造化します。個人と企業の目標がリンクすると、自分の目標達成が企業への直接的な貢献となることが一望できるようになります。
個々の目標管理シートを、直属の上司だけではなくチーム内で共有するという手法もあります。複数の目をとおすことで、目標設定がより客観性と具体性を増し、現実的なものとなります。
個人・チーム・部署ごとに評価を行うシステムを構築することで、個人が孤立感を抱かずに目標へ取り組むことができるよう図っていくことも大切です。
目標管理にPDCAサイクルを取り入れて行う方法は一般的ですが、変更可能であっても安易な妥協を不許可にするといった制限は必要です。
また1on1スタイルなどを活用しながら面接・面談を計画的に実施する一方で、目標管理を行う側にはコーチング研修を実施するといった多面的な取り組みが求められます。
リーダー制やバディ制など目標管理の仕組みは多々ありますが、自社の社員層や風土に合った方式を採用することが望ましいです。正しい目標設定と組織的な目標管理によって、着実な成果を導ける人材育成となることが期待されます。
目標設定・管理にまつわる3つの企業事例を紹介します。
製造業A社(従業員50名未満)は、社員が業務経験を通じて社会に貢献することで自ら成長していくことのできる人材となるようにするための人材育成に力を入れています。
人材育成の一環として、中期経営計画の達成と連動した個人業績と能力向上に関する目標を管理職とともに社員が設定し、評価終了後に、上司からのフィードバックシートをもとにして本人と上司が今後の課題や目標などを話し合う機会を設けたことで、社員に自ら成長しようという意欲を持たせることに成功しています。
大手自動車メーカー傘下のB社は、人材育成を促進するために、社員が自ら目標を設定し、上司が積極的に支援する目標管理制度を運用しています。それにより、社員の「自己の成長や達成感を得ることによる満足度の向上」や「やる気の向上」が実現され、上司と部下が共に成長しうる制度としての運用効果が得られています。
フリマアプリを手掛けるC社では、先述のOKRを用いた目標管理を行っています。「グループ全体→事業部→部署→チーム→個人」という順にOKRを設定し、3か月ごとに評価・OKR設定と短いサイクルで運用しています。OKRでは難易度の高い内容設定が推奨されていることもあり、評価軸としては、企業の掲げる「バリュー」を実践できているかどうか、また設定したOKRの過程でみられた成果やパフォーマンスを置いています。OKRを組織全体と個人のコミュニケーションツールと捉えており、チャレンジングな企業カルチャーの醸成にも寄与しています。
人材育成では目標をどこに置くか、どのようにそれを達成していくのかによって得られる成果が異なります。思うように人材が育ってくれないのは、目標設定の仕方に問題があるのかもしれません。
社員の側からすれば、目標設定は決して楽な作業ではありません。目標設定によって何が得られるのかを十分に理解させてあげなければ、単なる業務のひとつとして表面的なごまかしで済ませてしまう可能性があります。
そうなれば目標は絵に描いた餅のようなものです。ただの飾りとなり、人材育成の役には立たなくなるでしょう。
そのことを避けるためにも、指導する側が効果的な目標設定やその管理法を理解しておく必要があります。成長につながる目標設定としていくためには、指導する側の個人への積極的な関与が求められます。
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