調査データ
2024年11月11日
IT人材の採用活動においては、「そもそも応募者の母数が少ない」「経験・スキルがマッチする良い人材がいない」「良い人材がいたとしても年収条件が高く、採用に至らない」など、頭を悩ませている人事担当者も少なくはないでしょう。経済産業省によれば、IT人材不足は2030年には約79万人に拡大することが予想されており、今後はさらにIT人材の採用が難しくなると言えます。
そこで、マンパワーグループでは、ITエンジニア職の正社員で転職回数1回以上の20~49歳の男女390名を対象に、「前職を退職した理由」「転職活動に活用したもの」「転職する際に重視したこと」などについて調査しました。
ITエンジニア職の正社員で転職回数1回以上の20~49歳の男女390名に、前職を退職した理由を聞いたところ、全体では「給与や待遇が不満だった」(41.3%)がトップ、次いで、「適正に評価がされていないと感じた」(22.8%)、「労働条件(勤務時間や通勤など)が悪かった」(22.8%)が同率2位で続く結果となりました。
年代別の傾向を見ると、特に30代では、「給与や待遇への不満」(49.2%)、「残業の多さ」(24.6%)が他の年代よりも割合が高くなっています。ITエンジニアとして経験・スキルを積んで成熟していく中で、現状の自身の労働価値の見直しを図ることが退職理由になっているようです。
一方、20代では、「未経験だったけれど、ITエンジニアになりたかった」(24.6%)が特に高く、手に職をつけられるITエンジニア職に挑戦したいと考える人も少なくないようです。また、「人間関係がうまくいかなかった」(26.2%)、「オフィス環境が良くなかった」(20.0%)などの割合も高めの傾向にあり、働く職場の環境も転職の要因となっていました。
40代では、「業績の先行きに不安を感じた」(23.8%)、「キャリアアップに限界を感じた」(19.2%)や、「会社都合(合併や買収、倒産など)だった」(11.5%)が他の年代と比べてやや高い傾向にありました。将来に対する不安から転職する人に加え、会社の状況によって退職せざるを得なかった人もいるようです。
前職を退職した理由については、スキルアップやキャリアアップを目指す声や、年収などの待遇や労働環境の良い職場、安定性などを求める声などが多く見られました。
年代別に見ると、20代では、「現在の職場での成長機会が限られており、キャリアアップを目指したいと感じた」「手に職をつけたかった」、「給料や仕事内容に不満があった」「休みが多くて、労働環境が良かったから」などの声が上がっていました。
30代では、「給与アップと職場環境の改善がしたかったから」「自分のスキルを最大限に活かせるようにしたかったから」「ワークライフバランスのため」などの声が上がっていました。また、結婚・出産などでライフスタイルが変化しやすい年代でもあるためか、「勤務地の異動がないから」「職場が自宅から近く、子供の登校後に家を出ても就業開始時刻に間に合うから」など、プライベートを重視して転職した声も見られました。
40代では、「安定した収入のベースをアップさせたかった。勤務地を決めることができたことも魅力」「上場企業であり、周りからの知名度も高く安定した会社だと思ったから」「安定していて福利厚生が良かったので」など、安定性を求めて転職した声が多く見られました。
それでは、ITエンジニア職の人々は、どのような方法で転職先を探しているのでしょうか。
転職に活用したものについては、全体では、「求人サイト/求人検索エンジン」(40.8%)、「人材紹介・転職エージェント」(44.6%)が4割超でトップ2、「ダイレクトリクルーティング/転職サイトからのスカウト」(27.7%)が3割弱で続きます。
特に20代では、他の年代に比べて多様なサービスを活用しており、「SNS(Facebook、X、LinkedInなど)」(18.5%)も2割弱いることがわかりました。40代は「ダイレクトリクルーティング/転職サイトからのスカウト」(13.1%)の割合が他の年代に比べて低くなっています。
また、実際の転職につながったものについても、順位は変わりますが「人材紹介・転職エージェント」(25.4%)、「求人サイト/求人検索エンジン」(21.5%)がメインとなっています。
年代別に見ると、20代では、「求人サイト/求人検索エンジン」が3割で最も高く、30代、40代では「人材紹介・転職エージェント」が2割台半ばで最も高いことがわかりました。年代が上がるほど、自身の経験やスキル・職歴を活かすために、人材紹介や転職エージェントを利用していることが考えられます。
実際の転職につながったと思うものを活用した理由について聞いたところ、全体では、「求める条件に合った仕事を探しやすい」(32.8%)、「転職の相談ができる」(29.0%)、「情報に信頼感が持てる」(27.9%)が上位を占めました。
年代別の傾向では、20代では、「好きな時間に利用・相談できる」(27.1%)、「よく見かける・耳にする」(29.7%)と回答した人の割合が高くなっています。現職の業務と並行して転職活動を進めやすいことに加え、初めての転職活動のために知名度が高いサービスを選択する傾向があると言えそうです。
一方、30代では、「数多くの中から候補を選べる」(31.9%)、「リアルな情報が手に入る」(29.3%)、「候補を探す労力を軽減できる」(29.3%)の割合が高くなっていました。自身の経験・スキルに見合う条件の転職先を探すことや、現職の業務が多忙であることなどが活用の理由になっているようです。
さらに、40代では、ほかの年代に比べて「転職の相談ができる」(21.1%)の割合が低い一方、「こちらの意向を直接伝えやすい」(24.6%)が高い傾向にありました。キャリアを長く重ね、転職先に望む条件も明確になっている年代とも言えるため、自身の希望に合う求人をマッチングしてもらえることが活用の理由になっているのかもしれません。
転職に活用したもの上位の仕組み・ツールについて、実際の転職につながったものを活用した理由について、それぞれのリアルな声をご紹介します。
そのほか、「企業のホームページ」を活用した理由では、「カジュアル面談の受付をしていたため」(男性・20代)、「エージェントや転職サイトを通すより、 直接公式サイトより応募をしたほうが有利だと考えたため」(女性・30代)という声もありました。
また、「知人の紹介(リファラル含む)」を活用した理由では、「その会社で働いている人の声が一番本当で正直だと思ったから」(女性・20代)、「一から自分で探すよりも、つながりのある人がいるところへ入ったほうが不安が少なく、自分の知りたい情報も容易に聞き出せるため」(男性・30代)、「仕事を一緒にしたことがある友人が勤めていた職場だったので、信頼度が高めだった」(女性・40代)というように、実際に働いている人から話を聞けたことや、信頼できる人からの紹介がポイントとなっていました。
転職する際に重視したことトップ3は、「給与・賞与」「仕事内容・職責」「勤務地」となりました。
年代別に見ると、20代は、「仕事内容・職責」(26.9%)の割合が低い一方、「残業の有無・休日数」(22.3%)、「教育・研修制度」(10.8%)が高くなっていました。他の年代に比べて、働きやすさや成長環境を重視する傾向があるようです。
一方、30代は、「将来性・安定性・競争優位性」(13.1%)の割合が低く、「勤務地」(29.2%)、「応募資格・応募要件」(11.5%)が高い傾向にありました。結婚・出産などによるライフスタイルの変化に対応できる勤務地に加え、自身の経験・スキルなどが見合う転職先であることも重視している様子がうかがえます。
また、40代では、「残業の有無・休日数」(10.0%)の割合が低く、「将来性・安定性・競争優位性」(22.3%)が高くなっていました。40代の場合は、役職定年などもあるため、新たなキャリアを築ける環境を重視しているのかもしれません。
今回の調査では、ITエンジニア職の20代、30代、40代の全ての年代において、前職を退職した理由の第1位が「給与や待遇が不満」であることがわかりました。ITエンジニア職の給与は、他の職種と比較して高くなる傾向があり、近年は、特に高いデジタル技術を持つ新卒人材に対しては1000万円、中途採用に対しては3000万〜4000万円などの高額年収を提示する企業事例も登場しています。とはいえ、一般的な企業においては、高額な年収条件を提示できないケースがほとんどと言えるので、公正な評価体制の整備や、残業時間の削減、希望勤務地への配属などで労働条件への満足度を高めることに注力することが大事と言えそうです。
転職に活用したものは「求人サイト/求人検索エンジン」「人材紹介・転職エージェント」がメインであり、実際の転職につながったと思うものについても同様の結果となりました。企業の採用活動においても、この2つを活用するケースが多いでしょう。
しかし、20代では、「求人サイト/求人検索エンジン」、30代、40代では「人材紹介・転職エージェント」を活用する傾向があるため、年代別に採用予算の振り分けなどを考慮する必要がありそうです。また、20代の場合は、約2割は「SNS(Facebook、X、LinkedInなど)」を活用しているなど、他の年代とは異なる傾向も見られます。
転職する際に重視したことについては、全体では「給与・賞与」「仕事内容・職責」「勤務地」がトップ3を占めていました。年代別に重視していることの傾向としては、20代は働きやすさや成長環境、30代はライフスタイルの変化に対応できる勤務地に加え、自身の経験・スキルなどが見合うこと、40代は新たなキャリアを築ける環境を重視していることが推測できました。採用したい人材の年代に応じて、アピールする点を工夫することも必要と言えるでしょう。
現在、IT人材の不足が叫ばれている上に、コロナ禍を経て、多くの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進しているため、今後、IT人材を確保することはますます難しくなっていくことが予想されます。常に売り手市場であることを踏まえ、今後は、欲しい人材に対して自社の魅力をいかに適切にアピールできるかが重要になると言えるでしょう。