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ITの進化に伴い、次々と新しい技術が実用化されていく一方、「IT人材の不足」が深刻な課題として問題視されています。あらゆる事業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められ、IT業界のみならず多くの一般企業でもIT人材の需要が高まっており、問題の深刻化に拍車がかかっています。
この記事では、IT人材不足の現状を踏まえたうえで「企業が行うべきこと」について解説します。
現在進行形で深刻化するこの課題が、将来どのように展開していくのかを理解すべく、まずはIT人材不足に関する現状と将来予測について、データをもとに解説します。
経済産業省が2019年に発表した「IT人材需給の試算結果」によると、2030年時点でのIT人材不足は16万~79万人に達すると予測されています。この予測に幅があるのは、IT需要の拡大や労働生産性の向上に応じて、不足の程度が変動すると試算されているためです。
以下のグラフは、IT需要が最も高いシナリオに基づくIT人材不足の予測を示したものです。IT人材の供給数がほぼ横ばいであるのに対し、需要は右肩あがりで、需要と供給のギャップが拡大していくことがわかります。
一方で、年平均3.54%の労働生産性上昇が実現すれば、需給のバランスが取れるとされる試算もあります。しかし、この数値は各国における労働生産性の上昇率と比較しても非常に高く、3.54%という数値での試算はかなりチャレンジングなものであることが伺えます。
IT人材不足の問題は、どうしても「人数」に注目が集まりがちですが、「スキル」に目を向けることも重要です。単にITエンジニアの総数を増やすだけでは、高度なスキルが求められる分野での課題解決にはつながりません。特に、AIやビッグデータ解析など「先端IT技術に対応できるエンジニアの不足」が深刻化すると予測されています。
また、民間企業では、ITシステム全体を把握し、ITチームの管理・指導を行うITエンジニアのマネージャー層が不足する可能性も懸念されています。
経済産業省のIT政策実施機関である独立行政法人情報処理推進機構では、企業や組織のDXの推進において必要な人材を5つの「人材類型」に分類し、それぞれを定義しています。これらの類型は、単独で活動するのではなく、相互に連携しながら役割を果たすことが重要とされています。
ビジネスアーキテクト | DXの取組み(新規事業開発/既存事業の高度化/社内業務の高度化、効率化)において、目的設定から導入、導入後の効果検証までを、関係者をコーディネートしながら一気通貫して推進する人材 |
デザイナー | ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材 |
データサイエンティスト | DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材 |
ソフトウェアエンジニア | DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材 |
サイバーセキュリティ | 業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材 |
引用:DX推進スキル標準(DSS-P)概要|独立行政法人情報処理推進機構
SaaSを始めとしたクラウドサービス、スマートフォンアプリ、AIなど、IT業界は急速に成長を続けています。一方で、IT技術は専門性が高く、知識やスキルを習得するまでに時間がかかるため、即戦力人材の供給が追い付いていません。
インターネットの普及を起点に絶え間なく成長を続けてきたIT市場は、IoTや5Gの普及などにより、さらに拡大しています。
特に、コロナ禍以降の在宅勤務対応によるオンライン化ニーズの急増のほか、ChatGPTなどの登場で広く認知されたAI技術の本格的な活用も進んでいます。
働き方に対する価値観の変化や、市場ニーズの高さなどを背景に、よりよい条件を求めての転職やフリーランス転向という選択をする傾向がIT人材内で強まっています。
また、待遇の良い海外企業に移るケースも増加しており、国内市場における人材確保が一層難しくなっています。
日本全体で労働人口が減少しており、業種や職種を問わず若年層の採用が難しい状況が続いています。加えて、IT業界では多重下請け構造による低賃金問題、労働環境の問題などが影響し、「新3K(=きつい、帰れない、給料が安い)」というイメージが根強く残っています。そのため、IT職種への人材流入が限定的になってしまっています。
一部の企業では、すでにIT業界の優秀なIT人材確保のために労働環境の整備に着手しており、IT人材確保にはより一層の企業努力が必要です。
IT人材不足が様々な悪影響を引き起こし、さらなる課題を生むことで悪循環に陥る可能性があります。続いては、IT人材不足による影響を、4つの段階に分けて解説します。
最初に懸念されるのは、IT技術のレガシー化です。ITエンジニア不足により、システムの新規開発やアップデートが進まず、結果として古いシステムを使い続けざるを得ない状況が発生します。
これにより、エンジニアの負担増だけでなく、セキュリティの脆弱性の高まり、新たなサービスを導入時の互換性が担保されないなどのデメリットが発生する可能性があります。
業務改善が進まず、非効率なプロセスでの業務を継続したままでは、ITエンジニアの負担が増大します。その結果、ITエンジニアの離職を引き起こす可能性があります。離職によりIT部門の人数が減少すると、残されたITエンジニアに、ますます負担がのしかかり、業務の俗人化や品質低下、セキュリティリスクが高まることが懸念されます。
IT技術は進化が早く、最新のシステム導入や技術習得が競争力向上のキーポイントになります。しかし、レガシー化や業務負担増によりITエンジニアが日々の業務で手いっぱいになってしまうと、新たな知識を習得する余裕を失い、「現状維持に追われる」という状況から抜け出せず、長期的な成長や改善を阻害してしまいます。
競合他社がIT人材の確保や技術力の向上に積極的である一方で、「現状維持で精一杯」という状況では、IT技術の活用度合いに差が生じてしまいます。この差が最終的に経営力や顧客満足度に反映され、市場での競争力を失う要因になりうるのです。
先ほど紹介したような悪循環に陥らないために、企業が行うべき対応策について解説します。
IT業界には「新3K(きつい、厳しい、給料が安い)」というネガティブな印象が根強く存在します。これをポジティブな印象に変えるためには、まず自社の労働環境や待遇を改善していく必要があります。
優秀なIT人材の確保は、多くの企業が取り組んでおり、労働環境や待遇の改善が進んでいます。IT人材の需要は転職市場でも非常に高く、転職が容易な状況です。ゆえに、競合他社をはじめとした人材市場と自社の労働条件に乖離がないかを確認することが重要です。
労働環境の改善としては、残業の撤廃(ノー残業デーの設定)、在宅勤務制度の導入など、ワーク・ライフ・バランスに関する施策を推進していくのが効果的です。また、在宅勤務制度などの働き方改革施策を導入した場合は、それを求人情報に明記し、良好な労働環境を積極的にアピールしていくといいでしょう。
マンパワーグループが転職経験のあるITエンジニア職に対して行った調査では、前職の退職は「給与や待遇が不満だった」(41.3%)がトップ、次いで「適正に評価がされていないと感じた」(22.8%)、「労働条件(勤務時間や通勤など)が悪かった(22.8%)が同率2位で続いています。
「スキルアップをしたかった」「キャリアアップに限界を感じた」という理由も上位に入っており、ITエンジニアとしてのキャリアパスが安心して描ける環境のアピールも効果的でしょう。
参考調査データ:ITエンジニア職の退職理由トップ3は「給与・待遇」「評価体制」「労働条件」 転職時に活用したもの、転職で重視した条件とは?
IT人材不足を回避するには、新卒採用・キャリア採用にかかわらず、「将来IT分野で活躍する人材」を採用しないことには始まりません。このときに大切なのは、採用基準の作成です。現在も将来的にもIT人材の採用は売り手市場が続くため、希望どおりの人材を採用できるとはかぎりません。
長期間のIT人材ポストの空席は、ビジネスの機会損失や、プロジェクト遅延や品質低下などのリスクも発生します。募集業務の見直しを行い、ターゲット層の拡大も検討すべきでしょう。
IT人材不足は、今後も解消する見通しが立っていません。この状況を踏まえて、今後の人材確保における競争力の維持・向上のためにも柔軟な採用方針へのシフトが必要です。
未経験人材や外国人人材、完全在宅勤務を前提とした遠方の人材、時短勤務を条件とした採用など、従来ターゲットとしていなかった層の積極採用も視野に入れていきましょう。
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自社採用にこだわるのではなく、アウトソーシングサービス(業務委託)や人材派遣など、外部人材やサービスを活用するのも有効な方法です。
現在、IT人材は流動化が進んでおり、習得した技術を活かしてフリーランスで活動する人が増えています。フリーランスのIT人材と直接契約するという選択肢もありますが、人材サービス業の中には、フリーランス人材と企業を仲介するサービスを提供しているケースもあります。複数のフリーランス人材と取引を行うのに、契約管理などが煩雑になるなどの懸念点がある場合は、そういったサービスの活用で負担を軽減するとよいでしょう。
将来のIT人材不足に対処するためには、教育体制の強化が不可欠です。未経験者やスキルの向上が必要な求職者を採用する場合、教育による技術力の引き上げが必須となります。最新技術に関する知識を体得させることも大切です。教育・研修は、社員一人ひとりの知識や技術、キャリアプランに応じて個別に設定する必要があります。
また、従来型のIT人材のなかで「先端IT技術に移行できた人」の割合が全体の1%しかいなかった場合、2030年には先端IT技術者が55万人も不足するというデータがあります。先端IT技術者を自社で育成できるようになれば、競合他社との差別化という点でも効果が得られます。
経済産業省の「IT人材需給の試算結果」からも確認できるように、現時点で不足感が生じているIT人材は、今後さらに人材不足が深刻化する可能性があります。
IT人材不足は、IT技術のレガシー化、業務負担増によるITエンジニアの離職をひきおこし、最新技術への対応の遅れを招きます。
この状況が続けば、経営力で競合他社に後れを取るという悪循環に陥るリスクも高まります。IT人材の不足を回避するには、採用・教育・労働環境を整備し、IT人材確保の重要性を踏まえた中長期的な人事戦略を策定する必要があります。
ITエンジニアは多岐にわたる業務を抱え、自らのスキルアップに充てる時間の確保が難しく、キャリアの停滞感やモチベーションの低下を引き起こしやすい職種です。ITエンジニアの離職の要因として、長年業務内容に変化がない、あるいは新しい技術を学ぶ機会が少ないなどの声もあります。
マンパワーグループでは、意欲のある若年層をITエンジニアに育てる"SODATEC"プログラムを実施しており、ITエンジニアとしての基礎教育の終了後、派遣社員としてエンジニアのキャリアをスタートさせる多くの若者を送り出しています。
既存のITエンジニア社員のスキルアップのため、業務負担の軽減や社員教育に時間を確保する仕組みづくりをお考えでしたら、ぜひ若年層のITエンジニア派遣もご検討ください。
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