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労働者にとっての売り手市場が続くなか、応募前に候補者と接点を持つ「カジュアル面談」を導入する企業が急増しています。ある調査では、キャリア採用でカジュアル面談を実施する企業は1年で36.7%から52.4%へと跳ね上がり、過半数に達しました。ところがその一方で、転職者の約3人に2人が「カジュアル面談で志望度が下がった経験がある」と回答した調査もあります。母集団形成の切り札であるはずの場が、候補者離脱の入口になってしまっているという実態があります。
その現象が起こる原因は、カジュアル面談が選考の場となってしまうことです。候補者は、企業内のメンバーと選考や評価は抜きにして、気軽に話せる場を想定してカジュアル面談に臨みます。ところが実際に参加したところ、選考の場と実質的に同じであった場合に、その期待が裏切られたと感じ、結果として志望度を下げてしまうのです。本稿では、採用支援の現場に長年携わってきた筆者が、カジュアル面談が「選考化」してしまう構造をひもとき、候補者の入社意欲を高める面談設計の3つのポイントを解説します。

筆者はカジュアル面談を「企業と候補者が、本選考に入る前に、選考・評価を伴わない形で接点を持ち、相互理解を深める場」と定義しています。ポイントは「相互理解」と「選考・評価を伴わない」の2点です。
実際、大手転職サービスや採用プラットフォームの多くでは、カジュアル面談は合否判定を目的としない情報交換や相互理解の機会として説明されています。
一方で、カジュアル面談を「0.5次面接」と呼ぶ表現も見かけます。この呼び方には「実質的には選考の一部」というニュアンスが含まれており、本来の趣旨からはズレたものだと筆者は考えています。そして後述するように、この定義のあいまいさこそが、さまざまな問題の温床になっています。
カジュアル面談が広がった背景にあるのは労働市場の構造変化です。生産年齢人口の減少により採用市場は長期的な売り手市場となっており、厚生労働省「一般職業紹介状況」によれば、有効求人倍率は直近でも1.18倍(令和8年7月・季節調整値)と、求人が求職を上回る状態が続いています。IT人材や若手層ではさらに競争が激しく、「企業が候補者を見極める」時代から「企業が候補者に見極められる」時代へと、力関係は明確に変わりました。
このような環境では、候補者は限られた時間を、自分の経験や希望にフィットする企業だけに投じたいと考えます。そんな候補者たちは、応募する企業を厳選します。相互理解がない状態でいきなり選考を受けることは、現代の候補者にとってはとてもハードルが高い行為になりました。そうして、応募の意思が固まる前の段階で気軽に接点を持てる場として、カジュアル面談が注目されるようになったのです。
手法として定着したきっかけは、2010年代のIT・スタートアップ業界にあります。ビジネスSNS「Wantedly」の「話を聞きに行きたい」ボタンなどの登場により、応募前に企業と候補者が気軽に接点を持つ採用手法が広まり、「面接の前に、まず面談」というスタイルが徐々に定着していきました。
就職情報サービスを提供する学情社が2025年に人事担当者338社を対象に実施した調査では、キャリア採用でカジュアル面談を「実施している」企業は52.4%と過半数に達し、前年の36.7%から1年で15.7ポイントも増加しています。「実施を検討している」(22.8%)を含めれば4社に3社。カジュアル面談はもはやスタートアップだけが行うものではなく、採用活動の標準手法・プロセスになりつつあると言えます。
採用手法全体の中で考える
カジュアル面談は採用活動の一手法です。他の採用チャネルとの違いや活用場面を整理すると、自社に適した採用プロセスを設計しやすくなります。
あらためて、双方にとってのメリットを整理しておきます。
企業側
候補者側
双方に共通するのは、ミスマッチな選考に費やす時間と労力の削減です。正しく運用されれば、カジュアル面談は候補者・企業の双方にとって合理的な仕組みなのです。

しかし、急速な普及に運用の質が追いついていない実態も、データで明らかになっています。採用支援を手がけるuloqo社が2026年2月、カジュアル面談を受けた経験のある転職者934名を対象に実施した調査では、65%が「カジュアル面談で志望度が下がった経験がある」と回答し、33%は「何度も経験がある」と答えています。さらに見逃せないのは、志望度が下がった候補者の85%が「面談の質次第では入社していた」と回答している点です。応募を増やすための場が、獲得できたはずの人材を逃す場になってしまっている——これがカジュアル面談の現在地です。
候補者体験を損なうカジュアル面談は、大きく3つのパターンに分けられます。
①「カジュアル面談と言いつつも実質、選考の場だった」——選考ではないと案内されたのに評価的な質問が続き、場合によっては後日不採用の連絡が届いてしまうケース
②「カジュアル面談の中身が一方的だった」——会社説明資料を読み上げられるだけで対話がなく、公開情報以上のものが得られないケース
③「カジュアル面談の担当者の姿勢に問題があった」——準備不足、横柄な態度、現場理解の乏しさなど
前述の調査でも、「評価される場に感じた」という声や、志望度が下がった面談の約66%は内容が「公開情報以下」だったという結果が報告されており、3つのパターンはいずれも現実に広く起きていることがわかります。
これらは症状こそ違いますが、根はひとつです。いずれも「候補者にとってどんな場にするか」という設計を欠いたまま、企業側の都合だけで面談が運用されていることから生まれます。なかでも最も深刻なのが①の「実態は選考の場であった」ケースです。②や③は「残念な面談」で済むかもしれませんが、①は「約束と違う」という信頼の毀損であり、企業の評判を損なうレピュテーションリスクに直結します。
実際、「カジュアルと言われて行ったら実質選考の場だった」という体験談はSNSや口コミサイトで数多く共有され、求職者向けメディアには「実質選考の面談の見極め方」といった防衛策の記事が数多く掲載されています。一社の運用ミスが積み重なり、カジュアル面談という手法そのものへの不信を再生産しているのです。
そこで本稿では、この「実態は選考の場であった」ケースを軸に据えながら、3つのパターンすべてに有効な共通の対策を解説していきます。
候補者の不満を分解してみましょう。すると、面談前・面談中・面談後という3つの接点で「候補者の期待」と「企業の運用」がズレていることがわかります。
| 接点 | 候補者の期待 | 起きがちな運用 |
| 面談前 | 「選考なし」の言葉通りの気軽な情報交換の場 | 社内では実質「一次選考」の位置づけ |
| 面談中 | 会社を知るための双方向の対話 | 志望動機・強みを問う評価質問の連続/質問攻め・メモ一辺倒 |
| 面談後 | 応募するかどうかは自分が決める | 後日の一方的な不採用連絡/音信不通/フォロー連絡なし |
図1:候補者の期待と企業運用のズレ(3つの接点)
とりわけ候補者の感情を強く損なうのが「面談後」のズレです。「選考ではありません」と案内した面談のあとに不採用の連絡を送ることは、候補者から見れば約束の反故として受け止められます。この一通のメールが、それまでの面談で積み上げた印象をすべて裏返してしまいます。読者の皆さまには、まず自社の面談がどの接点でズレていないか、この表でセルフチェックしていただければと思います。

重要なのは、こうした運用の多くが悪意から生じているわけではない、という点です。筆者は現場を見てきた経験から、原因は次の3つに整理できると考えています。
そもそも「面接」と「面談」の設計の違いを学ぶ機会がないまま、面接の進め方をそのまま面談に持ち込んでいるケースです。質問リストも進行も、面接用のものを流用すれば、候補者が「評価されている」と感じるのは当然でしょう。さらに、業務時間を使って面談する以上、「どんな方だったか」を上司へ報告する必要が生じます。この報告が事実上の評価として機能し、担当者が意図しないまま面談が選考化していく——という社内力学も見逃せません。
「明らかにフィットしない方とのカジュアル面談で、お互いに時間を無駄にしてしまった」という声もよく聞きます。ただ、これは面談そのものの問題ではありません。その手前の工程——スカウトの対象選定や、求人票・スカウト文面の書き方——の誤りから生まれるものです。上流の精度が低いまま面談の数だけを増やせば、無駄な面談が量産され、担当者は疲弊し、一件一件の質は下がります。無駄な面談を、面談のやり方で解決しようとしても不可能です。根本の原因である、上流工程を整えることが先決です。
面談件数や応募獲得数がKPIとして課されると、担当者の行動は「こなす」「とりあえず応募を取る」方向に流れます。相互理解の場であるはずの面談が、応募を口説き落とす場に変質していくのは、個人の資質ではなく構造の問題です。無理な目標のために無駄な面談をこなすのは、本末転倒と言うほかありません。健全な目標設定が必要です。
それでは、どう設計すればよいのでしょうか。ここでは30分のオンライン面談を想定し、流れに沿って3つのポイントを解説します。

図2:30分カジュアル面談の設計(全体像)
「本日は選考の場ではありませんので、リラックスしてお話しできればと思います」。カジュアル面談の冒頭で、多くの担当者がこの宣言をしています。しかし、これだけでは不十分です。大切なのは、これに続けて「面談の目的」まで伝えることです。
「とはいえ、ご案内したいポジションが◯◯さんに本当にフィットするのかは、きちんと確かめたうえでお伝えしたいと考えています。そこでまず、いまのご状況や今後のキャリアプランを聞かせていただけますか」——この一言があるだけで、その後の質問の意味合いが変わります。目的が宣言された質問は、相手に強い圧力をかける尋問にはなりません。同じく、「転職を考えたきっかけは何ですか」という質問でも、何のために聞かれているのかがわかっているかどうかで、候補者の受け取り方はまったく違うのです。
ヒアリングで確認したいのは、転職活動の温度感(積極的に動いているのか、情報収集の段階なのか)、動き出したきっかけ、現職では実現できないと感じているギャップ、今後やっていきたいことや興味のある領域、といった点です。時間配分の目安は、30分の面談ならヒアリングは10分まで。それ以上聞き続けると、候補者は「ずっと聞かれてばかりだ」と感じ始めます。
3つのなかで最も重要なポイントです。ヒアリングは候補者を評価するためのものではありません。このあとの自社側の諸々の説明を候補者仕様にカスタマイズするための材料集めです。聞いた内容に対して、「先ほどおっしゃっていた◯◯というギャップは、このポジションであれば埋められる可能性があります」「一方で、△△というご希望は、正直に申し上げて当社では満たせないかもしれません」と、候補者の話に応答しながら組織やポジションを説明していきます。
この「応答」があるかないかが、面談の後味を決定づけます。聞くだけ聞いて定型の会社説明に移れば、候補者に残るのは「値踏みされた」という感覚です。聞いた内容にひとつずつ答えを返せば、同じヒアリングが「自分のキャリアに向き合ってもらえた」という体験に変わります。カジュアル面談での対話が、候補者のキャリア構築への貢献に変わる瞬間です。
そして、提供できないものは正直に伝え、無理に応募を取らないこと。たとえば転勤を避けたい方に転勤の可能性が高いポジションを案内しているなら、「その点は合わないかもしれません」と率直に伝える。海外営業を志向する方に対して、海外案件がごく一部しかないなら、それも伝える。目先の応募数は減るかもしれませんが、入社後のミスマッチや早期離職という、より大きな損失を防げます。何より、この誠実さこそが候補者の信頼を生み、「この会社の話をもっと聞きたい」という気持ちにつながります。
面談終了時のゴールは、次の3つの状態をつくることです。
第一に、候補者が何を大事にしているのかを理解できていること。
第二に、それに対して、自社が提供できるもの・できないものを明示できていること。
第三に、答えられなかった質問を「宿題」として持ち帰り、いつまでに回答するかを約束していること。
そのうえで、ぜひ選考に進んでほしい方には、「もし面接に進んでいただけるなら、今日のお話では◯◯の部分の整理がまだ浅いように感じたので、そこを準備してきていただけるとよいと思います」と、先のステップへの助言まで渡してしまいましょう。選考を「一方的に試される場」から「準備して臨める、双方にとってフェアな相互見極めの場」へ変える一手です。あとは、当該ポジションにおける選考基準や評価のポイントについて、事前にお伝えしておくことも一つの手法として有効です。入社してほしいのは、事前に必要な情報を提供した上でそこから最大限の準備をすることができるビジネスパーソンのはずです。
逆に、お話ししてみて「合わないかもしれない」と感じた場合も、言い方に十分配慮したうえで、その場で率直に伝えて構いません。後日、不採用の連絡を送るくらいなら、その場での誠実な対話のほうが、候補者の納得感ははるかに高いはずです。
最後に、現場のスキルだけに頼らず、面談の質を持続させるための、組織側の設計にも触れておきます。
第一に、KPIの再設計です。数字を細かく取ること自体はむしろ重要です。問題は、担当者の意識をどこに向けさせるか。面談数や応募獲得数を最終目標に置くと、前述のとおり面談は「こなす場」に変質します。書類選考通過数や一次面接設定数など、より質を反映した指標を目標に据えることで、担当者は「よい面談」に集中できるようになります。
第二に、面談後運用のルール化です。カジュアル面談では合否連絡をしない、面談で得た情報を本人の了解なく選考評価に流用しない、応募に至らなかった方とも接点を維持する——こうしたルールを明文化し、担当者個人の判断に委ねないようにしましょう。
第三に、担当者が対話に集中できる環境づくりです。面談中にメモ取りに追われると、候補者から見れば「記録され、評価されている」印象につながります。たとえば、面談中のメモは最小限にとどめ、終了直後に要点を音声入力し、AIに整理させるといった運用にすれば、記録の質を落とさずに対話へ集中できます。なお、応募前の候補者との会話そのものを録音する方法は、それ自体が選考を連想させるため、本稿ではおすすめしません。あわせて、残業時間・リモート可否・評価制度・配属といった頻出質問への回答集(FAQ)を整備しておくと、担当者による面談品質のばらつきを抑えられます。
面談担当者の対話力を磨くために
カジュアル面談の成否は、候補者との対話品質に大きく左右されます。面談・面接で信頼関係を築くための基本的な考え方や進め方を整理した資料をご用意しています。

ここまで設計論を述べてきましたが、最後に、その土台となる心構えに触れさせてください。
カジュアル面談は、自社の立場をいったん離れて、その方のキャリアカウンセリングをするくらいの気持ちで臨む場だと筆者は考えています。目の前の候補者は、応募者である前に、自らのキャリアを歩む一人の人間であり、もしかしたら未来の仲間かもしれません。それを忘れて面談を「こなす」ようになった瞬間、どれほど設計を整えても、面談は機能しなくなりますし、信頼関係は築けません。
筆者自身、面談を担当した候補者の方から「カジュアル面談の印象がとてもよかったので、一気に興味が湧いて選考に進みたいと思った」「こういう方が社内にいらっしゃるなら、ぜひ働いてみたいと思った」という言葉を、これまで何度もいただいてきました。手前味噌ながら、これはテクニックの成果というより、その方のキャリアを本気で応援しようとする姿勢が伝わった結果だと受け止めています。
候補者の不信が広がっているいまだからこそ、誠実な面談運用そのものが、自社の採用競争力に繋がります。そのために、カジュアル面談を「選考の入口」ではなく「信頼構築の入口」として設計し直す。本稿がその一助となれば幸いです。
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