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新卒一括採用は廃止すべき?変わる雇用の常識

掲載日2025年6月 4日

最終更新日2025年6月 4日

新卒一括採用は廃止すべき?変わる雇用の常識

目次

富士通が2025年3月に「2026年度から新卒一括採用を廃止する」と発表し、大きな注目を集めたように、現在、日本の大手企業を中心に新卒一括採用(毎春の一斉採用)を廃止・見直す動きが広まっています。

労働人口が年々減り続ける中、優秀な人材の確保を行うため、ジョブ型人事制度の本格運用をはじめ、昭和から続く雇用慣行の刷新が本格化しつつあります。新卒一括採用のあり方も、いよいよ抜本的な見直しに着手する段階に差し掛かってきたといえるでしょう。

だからと言って新卒一括採用廃止へ急ハンドルを切って大丈夫なのか。本記事では新卒一括採用を今後も続けるべきか見直すべきか、その判断に必要な視点を解説します。

なぜ新卒一括採用を今やめられるのか?

なぜ新卒一括採用を今やめられるのか?

年功序列や終身雇用が時代に合わなくなり、ジョブ型人事をはじめ人材マネジメントは抜本的変化をしてきました。しかし、新卒一括採用だけは、忘れ物のように残り続けてきました。

いま、その枠組みを乗り越えるための環境がようやく整いつつあり、同時に、企業は乗り越えなければならない切迫した状況にも直面しています。

新卒一括採用をやめられる環境変化

かつては、やめたくてもやめられなかった新卒一括採用ですが、今ではやめても支障のない環境が整いつつあり、抜本的な見直しができるようになりました。

  1. 中途採用の市場拡大
  2. 人材の流動性の高まり
  3. 社員の自律的なキャリア形成を支える新たな人材マネジメント
  4. 変化する学生のキャリア観と企業選びの価値基準

1.中途採用の市場拡大

終身雇用が前提だった時代は、定年まで1社に勤め上げるのが一般的だったため、中途採用市場は小規模で、しかも優秀な人材は各企業に囲い込まれていました。結果として、人材確保は新卒一括採用に頼らざるを得ませんでした。

しかし、今は状況が大きく変わっています。転職希望者は1,035万人と前期比78万人増加し、10期連続で過去最多を更新しています。中途採用市場は着実に拡大しており、新卒一括採用に固執する必要性は徐々に薄れつつあります。

参照:総務省統計局労働⼒⼈⼝統計室│直近の転職者及び転職等希望者の動向について(PDF) 外部リンク

2.人材の流動性の高まり

「2人に1人が転職する」時代となり、1社を定年まで勤めあげるという意識は薄れてきました。バブル崩壊後の低成長期、リストラや成果主義の導入による昇進・報酬の停滞など、企業に人生を委ねることのリスクを多くの人々が実感してきたことが、背景に挙げられます。

実際、転職を通して成功したビジネスパーソンの数が増え、メディアでも多く取り上げられるようになりました。転職に関する書籍がベストセラーになるなど、転職に対する抵抗感や悪いイメージが払拭され、今では転職はポジティブな選択肢として広く受け入れられています。

優秀な人材ほど、社内外の組織を比較し、キャリアや報酬、やりがいの観点から、よりよい環境を求めて積極的に転職するようになりました。その結果、人材の流動性が高まり、採用力次第では、優秀な即戦力を採用できる時代になっています。

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3.社員の自律的なキャリア形成を支える新たな人材マネジメント

新卒一括採用と一体だった終身雇用・年功序列制度は急速に変化し、従来の「企業主導の一方通行型キャリア」から、「社内外を視野に入れた自律的キャリア形成」へと大きく転換しました。ジョブ型人事制度の広がりもそれを後押ししています。

かつては「退職=裏切り」とされた企業文化も変わりつつあり、他社で経験を積んだ後に古巣の企業へ再就職するアルムナイ採用も増えています。社外で得た実力が評価され、復職時に高い職位や役割を担うことも珍しくなくなりました。

「新卒が育つまで待つ」発想に頼らずとも、雇用の流動性が高まり、優秀な人材が自ら企業間を人事異動するかのように転職するため、必要な人材を必要なタイミングで雇用することが現実的なものになってきました。

加えて、ジョブ型人事制度は「ジョブを担える人材をアサインする」仕組みなので、業務経験を持たない新卒とは本質的に相性が良くありません。ジョブ型人事制度と新卒一括採用の両立の難しさが、脱新卒採用の傾向に拍車をかけています。

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4.変化する学生のキャリア観と企業選びの価値基準

インターンシップの普及により、大学低学年からキャリアを意識する学生が増えています。起業志向・フリーランス志向の学生も登場し、「新卒で大企業に入れば一生安泰」という価値観は薄れつつあります。

親世代がいう「いい会社=大手大企業」だけが正解ではなく、社会的意義ややりがい、自身の成長の可能性などを重視して企業を選ぶ学生が増えてきていることも、採用のあり方に影響を与えています。

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新卒一括採用を見直さざるをえなくなった環境変化

採用市場の競争激化により、新卒一括採用だけでは必要とする人材を確保しきれなくなってきました。この切迫した状況が、新卒採用の根本的な見直しを迫る大きな要因となっています。

  1. 学生の減少やグローバル化による人材確保の課題
  2. 「専門人材」への集中投資を重視する企業の台頭
  3. 採っても辞める、だから“投資対効果”が合わない
  4. 通年採用で採用機会を拡大し、必要な人材を確保したい

1.学生の減少やグローバル化による人材確保の課題

新卒採用市場は「超売り手市場」(求人数が求職者数を上回る状況)が続き、従来型の新卒一括採用だけでは人材確保が困難になっています。

企業のグローバル化により、外国人や留学生をはじめとした異文化での経験を積んだ人材の通年採用ニーズも高まっています。しかし、海外では9月に新学期が始まる国も多く、4月入社を基準とした日本の新卒採用スケジュールとの不整合が生じています。

新卒一括採用という単一の手法だけでは、多様化する人材ニーズを満たすことが構造的に難しくなっているのです。

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2.「専門人材」への集中投資を重視する企業の台頭

経験者やプロフェッショナル人材の採用は、コストが高くても成果に直結しやすいことがわかってきたため、中途採用に手応えを感じる企業が増えています。結果、「毎年〇〇名を採用する」という慣習的な採用から、「必要な人材の採用に対する的確な投資」へ方針の転換が進んでいます

要員計画も単なる人数確保から、経営・事業戦略に基づいた組織機能別の人材要件(質)、必要数(量)、獲得タイミングまでを具体化して設計するアプローチへと進化しています。この動きを支えるための、ジョブ型人事制度の導入による適切な評価・処遇を可能にする仕組みづくりも加速しています。

採用基準も「育成前提」から「即戦力として早期に活躍し、社内の知見も素早く吸収できる」前提へと移行しています。特にDX・AI・データ分析・セキュリティなど希少性の高いスキルを持つ専門人材は慢性的に不足しています。多くの企業は「一から人材を育成する余裕がない」状況にあり、新卒一括採用だけでは到底対応できない人材獲得競争が展開されているのです。

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3.採っても辞める、だから“投資対効果”が合わない

新卒社員の3年以内の離職率は3割を超えており、一人前やそれ以上まで雇用し、育てる前提の投資が年々リスク化してきています。

新卒採用自体の難易度が高まっている中、「退職を見越した過剰採用」や「早期離職」による投資のロスを抑えるという観点から、「必要な時に必要人数だけジャストインタイムで採用する」方向へシフトする企業も増えています。

参照:厚生労働省|学歴別就職後3年以内離職率の推移(PDF) 外部リンク

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4.通年採用で採用機会を拡大し、必要な人材を確保したい

新卒一括採用の枠組みにとらわれず、通年採用へ移行する企業が増えています。職務に応じた人材を、必要なタイミングで獲得しやすくなるため、景気変動や事業戦略の転換に対してもより柔軟な人材補充が可能になりました。


また、通年採用は、留学生や博士課程修了者、既卒者など、従来の新卒枠では取りこぼしていた優秀な人材層にもアクセスできるようになります。企業主導の限定的な就活スケジュールに縛られず、学生側が自分のタイミングで選考に臨める点も、企業と学生の双方にとって選択肢が広がります。

また、採用期間の制約が緩和されることで、景況感の変化や競合他社のリストラ、M&A等による人材流出など、採用目標達成を阻害する予測困難な状況にも迅速に対応しやすくなります。要員計画のズレを抑えられるため、現場の安心感創出にもつながります。

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新卒一括採用をやめた/通年採用を導入している主な企業の例

新卒一括採用をやめた/通年採用を導入している主な企業の例

新卒の一括採用をやめても、新卒採用がゼロになるわけではありません。通年採用を含め、いくつかのパターンが存在します。その代表的な企業事例を紹介します。

新卒採用とは銘打たず、新規学卒者に限らないポテンシャル採用を実施

ソフトバンク株式会社

2015年から通年採用制度「ユニバーサル採用」を導入した先駆け的な存在です。求職者は主体的に進路を考えて選ぶ、企業は必要なときに必要な人材を採用するという普遍的(ユニバーサル)な考え方に基づき、採用を行っています。

入社時30歳未満の人材を対象にしたポテンシャル採用では、4月と10月に入社時期を設け、優秀人材の取りこぼしをなくすだけでなく、新人育成にも集中投資できるようにしています。

新卒一括採用を廃止し、通年採用による柔軟な人材確保

株式会社ユニクロ

「グローバルリーダー社員」「地域正社員」の2形態でおこなっている採用のうち、将来の幹部候補である「グローバルリーダー社員」の採用が通年で実施されています。

学年、新卒・中途、国籍を問わないオープンな採用を行っており、誰もが主体的に、自由に応募できるようにしています。大学1・2年生でも選考を受けることが可能で、店舗でのアルバイトや長期インターンなどを積極的におこなっています。

加えて、最終面接直前の選考通過者には、3年以内であればいつでも最終面接を受けることができる「FRパスポート」を発行し、最終面接を受けるタイミングが調整できることが特徴です。

ジョブ型完全移行、職務に応じた採用・処遇の一元化

富士通株式会社

全社員ジョブ型人材マネジメントを基盤し、通年採用に完全移行。採用計画数を定めず、求めるスキルを持つ人材をフレキシブルに採用する方針です。

新卒の学歴別の一律初任給を廃止し、市場水準を参考にしたジョブレベルに応じた年収を設定。高度な専門性を持つ人材には、約1,000万円程度の年収も想定しています。

そのため、採用にあたっては1〜6カ月の有償インターンシップを通じて学生と企業の相互理解を深める取り組みも行っています。

新卒一括採用を廃止するデメリット

新卒一括採用を廃止するデメリット

新卒一括採用の廃止を検討する前にデメリットやリスクを把握しておきましょう。

採用計画の複雑化や工数の増加

新卒一括採用には、「年度単位」で採用枠・研修・配属を一括管理できるメリットがあります。

これに対し、通年採用やジョブ型雇用に切り替えると、部署ごとに異なる採用タイミングや人材要件に応じた対応が必要となり、計画や進行の管理が複雑になります。フレキシブルな採用ができる反面、面接や入社研修をまとめてできないなど、工数・負荷の増加が想定されます。

また、求人の数に応じて現場と人事のやり取りが増えるため、採用担当者の負担だけでなく、現場負荷まで増えるデメリットがあります。

同期関係の希薄化による組織一体感の低下リスク

通年採用やジョブ型へ移行しても、新卒枠そのものが完全になくなるわけではありません。

但し、入社タイミングの分散は組織内の結束力に影響を与えます。4月入社者は依然として多数を占めるため、それ以外の時期に入社する同年次社員との間には自然と距離が生まれがちです。共に成長し励まし合う関係が築きにくくなるため、若手人材の早期離職率上昇という新たな課題を生み出す可能性があります。

さらに、同じ入社日であっても、経験者と新卒社員ではキャリアや経験値の差から真の意味での対等な「同期」関係が構築しづらく、この点においても新卒や若手社員の組織内孤立が加速するリスクがあります。

キャリア機会の限定化による適材適所の柔軟性低下

新卒採用では「現在のスキルより将来性」を重視した採用が可能であり、配属後も個人の適性を見極めながらローテーションを行うなど、柔軟な配属がしやすい特徴がありました。

一方、中途採用やジョブ型雇用においては、特定の職務遂行能力を前提とした採用・配属が基本となるため、配属の柔軟性が大幅に制限されます。

昇進機会がない限り、同一職位での長期固定化が進み、異動も本人からの希望と受入部署のニーズが揃わない限り実現しません。若手人材は「経験不足」、ベテラン人材は「オーバースペック」という理由で配置転換が阻まれるケースも多く、組織全体の人材活用における機動性と成長機会の創出を損なうという課題が生じています。

関連記事ジョブローテーションの目的とは?【メリット・デメリット】適した企業

採用競争がさらに過熱、「青田刈り」行為の拡大リスク

新卒一括採用をやめる企業が増えると、広報活動開始日、採用選考活動開始、正式な内定日など政府主導の就活ガイドラインに則さない動きが加速する恐れがあります。結果として、優秀な学生を早期に囲い込む「青田刈り」が常態化し、獲得競争がさらに激化することが懸念されます。

実際、新卒一括採用をやめ、通年採用に切り替えた企業の中には、大学1、2年生を対象としたインターンや早期選考を取り入れる動きも見られます。

若手の成長機会が減る

新卒一括採用では、若手社員は主に同期内で相対評価され、昇進や配属も年次を軸に進むため、若手社員に段階的な成長機会が確保されていました。しかし、一括採用と年次管理の双方をやめると、昇格やポジション獲得競争の対象が全階層に拡大し、結果として若手にとっての成長機会が狭まるリスクが生じます。実績と職能レベルのみが評価基準となり、経験豊富な中堅・ベテラン社員が優先的に登用され、経験の少ない若手が不利になる構造です。

実際、新卒一括採用を実施していない海外諸国では、国によって状況は異なるものの、日本と比較して若年層の就業率が低い傾向が見られます。ドイツやオランダ、スイスなどでは充実したVET(職業教育訓練)システムが、アメリカでは長期インターンシップが発達しており、就職前に職業スキルを習得する機会が整備されています。

一方、日本では就職後の企業内育成が主流であるため、若手のポテンシャルを活かす代替メカニズムがなければ、若手人材は成長機会を得られないまま「飼い殺し」状態に陥るリスクがあります。このような状況は、優秀な若手人材から「成長機会の乏しい企業」と見限られ、成長を望む優秀層ほど離れていく可能性が高まります

参照:OECD「Equity in education and on the labour market―Findings from Education at a Glance 」(2024) 外部リンクhttps://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2024/10/oecd_01.html

新卒一括採用を「やめる前に」企業が考えるべきこと

新卒一括採用を「やめる前に」企業が考えるべきこと

新卒一括採用をやめるデメリットやリスクを踏まえ、大きな効果を得るためには、どんな備えが必要かについて解説します。

採用戦略・施策の全面再構築

新卒一括採用をやめる場合、採用の「全体像」を見直す必要があります。

通年採用、長期インターンシップ、リファラル採用副業人材の活用、AI活用選考など、採用手段は多様化していますが、これらを単に並列的に導入するだけでは採用業務が肥大化し、効率性が著しく低下します。

それだけではなく、採用計画通りに採用が進まない、採用できる人材がバラつく、人員数が確保できなくなるリスクも高まります。採用するターゲットに応じた最適な採用手法を再設計し、どこに力を入れるべきかを明確にする必要があります。

そのためには、採用戦略や採用広報の段階から目的と手法の再定義を行い、効率と効果のバランスを取りながら、採用活動のPDCAを継続的に回せる仕組みづくりが不可欠です。

関連記事【採用戦略の立案】進め方と6つのフレームワーク

育成システムの再設計

新卒一括採用を廃止したものの、4月入社に比べて他の時期の入社人数が著しく少ない場合、入社タイミングの分散により、一斉研修や配属計画が機能しづらくなります。4月入社者以外は育成投資が手薄になりやすく、配属先選択においても「入社日による機会格差」が生じるリスクがあります。



こうしたリスクを回避するには、職種別カリキュラムや個別指導体制、効果的なオンボーディングプログラムの整備、育成期間と配属タイミングの調整など入社後の育成計画の見直しが必要です。

年次基準の画一的な育成から脱却し、計画的なジョブローテーションや実践重視型OJTなど個々の成長段階に応じたきめ細やかな育成システムの構築が、これからの採用形態における人材開発の成功の鍵となります。

公平な評価制度の構築

新卒入社と中途入社の人材が混在する環境では、公平な評価と納得感のある待遇設計が重要になります。そのためには、年功序列や年次想定評価といった「ざっくりと人を評価」することから脱却し、スキルや成果を正当に評価する仕組みが必要になります。

特に若手人材のモチベーションを維持するには、評価基準の「見える化」がカギになります。今の若手はタイパ・コスパを重視する合理的な志向を持っているため、成長の道筋が見えにくい環境には敏感です。「石の上にも三年」「いつかわかる」などの曖昧な評価基準では納得されず、早期離職につながるリスクがあります。



ゆえに、評価結果の説得を上司個人に委ねるのではなく、「何をすれば評価されるのか」「どんな力をどう伸ばすべきか」が誰にでも伝わる具体的な評価基準と、それを支える現場でのフィードバック体制の整備が不可欠です。

関連記事人事評価制度の作り方|導入手順と評価方法をわかりやすく解説

評価におけるネガティブフィードバックのポイントとは

若手へのネガティブフィードバックは、伝え方ひとつで成長の機会にも離職リスクにもなります。実践的フレームと声掛け例をまとめたホワイトペーパーを下記で公開していますので、建設的に指摘しつつモチベーションを保つコツをぜひご活用ください。

資料をダウンロードする >>

戦略的人材ポートフォリオの構築

新卒一括採用をやめる場合、見直すべきは「新卒のみをターゲットにした目先の採用方法」だけではありません。重要なのは、「どのような人材を、どのくらいの規模で、どのタイミングで確保し、どのように育てていくのか」という、解像度と具体性が高い中長期の人材戦略です。

企業戦略や中期経営計画と人材戦略のつながりがこれまで以上に重要になります。「毎年新卒を〇名採用」など採用枠の確保だけで満足していると、いつの間にか「管理職とその候補が足りない」など人材の偏りや空白を招いていたなどの事態になりかねません。こうした問題を未然に防ぐには、事業の将来像を見据え、「必要な人材を計画的に育てる」ための人材マネジメントのPDCAを回していく必要があります。

採用・育成・配属・定着・リスキリングを包括した人材マネジメント全体を戦略的に運用し、その結果に責任を持つ体制づくりと、「どのような人材層を、どの段階で、どの程度確保していくのか」を明らかにする「人材ポートフォリオ」の精緻化と具体化が今後の重要な経営課題となります。

ブランディングへの影響とその対策

新卒採用は、企業と学生が最初に接点を持つ“入口”であり、認知やイメージ形成に大きな役割を果たしています。

新卒一括採用の廃止は、「若手育成に消極的」「成長機会が限られている」など誤ったメッセージとして受け取られるリスクがあります。ネットの口コミなどで事実とは異なる認知が広がると、ネガティブな印象が定着してしまいます。それにより、学生からの信頼感が低下し、かえって採用が難しくなる可能性もあります。

新卒一括採用を見直すなら、若手人材の活躍をこれまで以上に明確に示すとともに、どんな成長機会やチャンスがあるのかを積極的に伝えることが重要です。さらに、画一的な説明にとどまらず、よりパーソナライズされたアプローチで信頼感を高め、ブランディングの強化に繋げる工夫が必要です。

年齢・年次バイアスからの脱却

新卒一括採用を見直すにあたっての一番の壁は、経営や管理職、人事が「年齢的にあの人も昇格させてあげないと可哀そう」というような年齢や年次による処遇を完全に払拭できるかにあります。どんなに価値のある人事施策を実行したとしても、運用が従来のままでは元の木阿弥です。

とはいえ、人には感情があります。評価や昇格等の時は、対象者の顔が浮かぶのを完全に排除するのは不可能です。また、評価結果だけでなく経営や人事の「目利き」が求められる抜擢人事などのケースもあります。だからこそ、人の目や手による主観的な評価だけでなく、客観的で人の手が触れない評価など、多面的な視点から適切な評価判断ができる工夫が求められます

他社ベンチマークや自社内の過去実績のビッグデータ分析、さらには定性評価の定量化など、近年はデータや技術を活用した評価も可能になってきました。人間の経験と直感に基づく「目利き」の価値を生かしつつ、テクノロジーによる偏りのない判断を組み合わせた評価制度への移行も一考です。

まとめ:変革の好機を活かし、独自の人材戦略を構築する

新卒一括採用は日本特有の制度であり、今まさに変革の過渡期にあります。理にかなった独自の採用・育成を行う人材マネジメントを設計する好機であり、新卒一括採用の横並びから頭ひとつ抜け出しやすいタイミングでもあります。

新たな採用基準が定まっていない今は、先行者利益を獲得できる貴重なタイミングです。多くの企業が「時期尚早」と躊躇する中、革新的な取り組みに着手することで競争優位性を確立できます。

新卒一括採用そのものは悪ではなく、今後も新卒一括採用がゼロになるわけではありません。ただ、他の選択肢を持てる土壌が整ったという大きな転換点を迎えています。日本には、他国の文化や価値観を柔軟に取り入れ、独自の文化に昇華させてきた歴史があります。今こそ、その柔軟性を発揮して、他国にはない独自の採用・育成メカニズムの構築にチャレンジする時が来ているのではないでしょうか。

採用変革をサポート、採用コンサルティングサービス

新卒一括採用の見直しや通年採用への移行は、単なる制度変更以上に組織全体の人材戦略の根本的な転換を意味します。採用手法の多様化、評価制度の再構築、育成システムの設計など、検討すべき課題は多岐にわたり、自社だけでは工数増・対応ができない場合もあります。

マンパワーグループではは、このような採用変革の複雑な課題に対して、採用業務のサポートから戦略立案から実行支援まで一貫したコンサルティングサービスを提供しています。

主なサービス内容:

  • 採用戦略の全面再設計と実行支援
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著者プロフィール

松本利明(人事・戦略コンサルタント HR総研客員研究員)

松本利明(人事・戦略コンサルタント HR総研客員研究員)

PwC、マーサー、アクセンチュア等外資系大手のコンサルティング会社で300社以上の人事コンサルティングに従事後、現職。5万人リストラ、7000名以上のリーダー選抜と育成に従事した人の「目利き」。『できる30代は「これ」しかやらない』(PHP研究所)が近著。著作累計18万部。英国BBC、日本テレビ、TBS、日経新聞、週刊東洋経済、新R25等、メディア実績多数、講演多数。