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人材派遣サービス利用の検討時に最も気になるのは派遣料金ではないでしょうか。人材派遣サービスにかかる費用は、月により変動することが多く、予算組みを行う上では変動する要因も押さえておきたいところです。
本コラムでは、派遣料金の構造と相場のつくられ方、変動要因などについて解説します。
人材派遣サービスの特徴として、料金体系がシンプルなことが挙げられます。もっとも一般的な料金体系は、派遣社員の稼働時間に応じて時給単価で請求する方式です。ほとんどの人材派遣サービスがこのタイプです。
例:
時給2,300円×160時間(8時間×20日間)=¥368,000
基本的には、これ以外の費用は発生しません。ただし、「派遣社員が働いた時間」が請求額に影響するため、変動コストとなります。そのため、以下の点については押さえておきましょう。
繁忙期による残業の増加で稼働時間が増える、ゴールデンウィークや夏休み、年末年始などの休暇が多い時期は稼働時間が減るなど、1カ月の賃金が固定されている月給制と異なり、月額料金に変動が出やすくなっています。
残業や休日出勤が発生した場合、割り増し請求が発生します。
1日8時間または週40時間を超える時間外労働・・25%増し
法定休日労働・・35%増し
1カ月60時間を超える時間外労働・・50%増し
法改正による同一労働同一賃金の導入で一般労働者との待遇差の解消が定められたこともあり、派遣会社は通勤交通費を派遣社員へ支払っています。請求方法は派遣会社にもよって異なりますが、交通費を時給に含める形式での請求、あるいは時給とは別立てで派遣社員の通勤交通費の請求が発生することもあります。
業務に関わるもので、派遣料金以外に費用が発生することもあります。
業務で発生する以下のような経費は、派遣先が負担します。
など
在宅勤務が条件で自宅のWi-Fiなど個人のインターネット環境を利用する場合の通信費や、車を利用する業務でのガソリン代などの費用が必要な場合があります。費用負担に関する取り決めや派遣社員が立て替えた場合の精算方法など、事前に人材派遣会社に確認を入れるようにしましょう。
派遣先の独自の施策として手当が発生することもあります。業務に対する資格取得手当や出張手当などです。必ず発生するわけではありません。
営業系の職種等においては、インセンティブを支給する企業もあります。こちらも派遣先の独自の施策で、業績UPや優秀な人材の紹介、モチベーション向上などを目的に支給しています。必ず必要というわけではありません。
人材派遣会社から提示される時給額や月額は、税抜きであることがあるため、税込みかどうか確認をしておきましょう。
派遣会社に支払う経費ではありませんが、業務に必要な備品については、派遣先で用意するため、状況に応じて費用が発生します。
など
人材派遣サービスでは発生しない費用もあります。派遣のメリットともいえるところです。
派遣社員の雇用主は派遣会社のため、雇用に関する費用は発生しません。言い換えれば、雇用に関する全ての費用が派遣料金に含まれているということです。
あまり一般的ではありませんが、派遣料金を月額で契約するケースもあります。営業日数や派遣社員の勤務時間に関わらず請求が固定されているため、予算計上しやすい特徴があります。ただし、この方式を人材派遣会社が求めてきた場合、固定額には何が含まれているのか、別途請求されるものはないのか、最低稼働してほしい時間などを細かく確認する必要があります。
大抵の場合、1カ月単位で勤務記録を元に請求額が決定します。また、支払い条件は、多くの派遣会社で勤務した月の翌月末払いとされています。詳しい支払い条件については、派遣会社に確認しましょう。
下記は、日本人材派遣協会が発表した派遣料金の内訳です。人材派遣会社や有期雇用か無期雇用かによっても異なりますが、おおよそ下記のような構成になっています。それぞれがどのように相場に影響するかを解説します。
一番大きな割合を占めるのは、派遣社員への給与です。派遣社員の給与は、相場に大きく影響します。専門知識や資格、語学力のある人材は、マーケットに少ないため、給与は高い傾向になります。また、求職市場と似たようなトレンドになります。
次に大きい要素となるのが社会保険料です。派遣社員も加入要件を満たすと社会保険等への加入義務が発生します。社会保険や雇用保険は、人材派遣会社と派遣社員の双方が負担、労災保険は人材派遣会社が全額負担します。
派遣社員は、人材派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業へ派遣されます。そのため、人材派遣会社には雇用主としての責任として、原則6ヵ月以上勤務した派遣社員に対し、所定労働時間に応じて有給を付与する必要があります。
ポイントは、ひとつの派遣先で6ヵ月以上勤務ではなく、人材派遣会社との雇用契約が6ヵ月以上であることです。そのため、自社の前に派遣されていた企業の契約期間も通算されます。
また、有給休暇の年5日取得義務は、その条件を満たす派遣社員にも適用されます。
人材派遣会社の諸経費には、以下のようなものが含まれます。
など
上記に加えて、無期雇用派遣の場合、待機コストリスクも発生するため、この割合が高くなる傾向があります。
※1 2020年4月の「改正派遣法」施行により、派遣社員と正社員の不合理な待遇格差は認められないとされました。そのため多くの人材派遣会社は、派遣社員に通勤交通費を支給しています。派遣会社によっては、派遣料金とは別に実費請求という場合もあるため、確認が必要です
グラフをみてのとおり、人材派遣会社の利益率は1.2%と高くはありません。
派遣社員の給与を除いた部分がマージンと呼ばれ、マージン率は派遣法により公表する義務が人材派遣会社にはあります。
この「マージン」は、全てが人材派遣会社の利益という訳ではありません。前述のとおり、派遣会社の運営や派遣社員の福利厚生などに使われています。そのため、マージン率が低ければいいかというと、そういうわけではありません。
福利厚生やサポート体制が充実している人材派遣会社では、マージン率は高い傾向にあります。マージン率が低い企業は、サポート等に問題があることも多く、長期的な付き合いを考えると、トラブルが起きる可能性が高くなります。
下記は厚生労働省が発表した2020年の職種別派遣料金です。
前提
そのほかの職種を知りたい方は、こちらの令和2年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)※PDF をご覧ください。
職種 | 労働時間8時間の派遣料金 | 1時間あたり |
---|---|---|
全体平均 | 24,203円 | 3,025円 |
一般事務従事者 | 16,583円 | 2,073円 |
事務用機器操作員 | 18,718円 | 2,340円 |
商品販売従事者 | 15,132円 | 1,892円 |
営業職業従事者 | 16,791円 | 2,099円 |
情報処理・通信技術者 | 32,147円 | 4,018円 |
補足になりますが、こちらの数値は、さまざまなエリアや人材要件を職種ごとにまとめた平均であり、実際には細かな条件により派遣料金は変動します。
次の章では、派遣料金の相場に影響する要因について解説していきます。
人材派遣の派遣料金の相場に影響する要因として、大きく法律的要因と求人要件の2つがあげられます。
人材派遣会社と派遣社員は雇用契約を結ぶため、雇用に関する法律の影響を大きく受けます。
最低賃金法に則り、最低賃金以上の給与を支払う必要があります。最低賃金は上昇傾向にあります。東京都の2010年の最低賃金は821円でしたが、2022年には1,072円と約31%上昇しています。
派遣社員の賃金や福利厚生等の待遇を決定する際に、就業する派遣先の企業や団体等の正規雇用労働者との間に不合理と認められる待遇の違いを解消することを目的として、同一労働同一賃金が労働者派遣法で定められています。
労使協定方式(※2)を採用している人材派遣会社の場合、厚生労働省が発出している「同種の業務に従事する一般労働者の賃金」と同等以上での給与を支払う必要があります。また、交通費支給など待遇に関わる費用も含まれます。この「同種業務の一般労働者の平均的な賃金額」は市場の変化に即して毎年見直され、改訂されています。
※2 労使協定方式とは
労使協定を締結することにより、同一労働同一賃金に対応する方式です。詳しくは、労使協定方式とは?派遣先のメリットと派遣先均等均衡方式との違いを解説 で解説しています。
人材派遣の派遣料金は転職市場と近いものがあり、「人材派遣で働きたい人がどのくらいいるか」が、料金に関わってきます。
経理や人事など専門性が高い事務やIT系、金融業務などは、人材派遣市場においても対象者の方が少ないため、時給が高くなる傾向にあります。専門的知識をもった人材は、正社員募集でも多くの案件があり、競合が多い状況です。
一般事務であっても英語が必要、高いOAスキルが必要だと時給は高くなります。資格が必要な業務についても同様に時給が高くなる傾向にあります。
未経験でも可能な職種や資格は必要だが実務経験は問わない場合は、時給を相談できる余地が出てきます。
人材派遣に限ったことではありませんが、地域による賃金の差はあります。同じ要件であっても都道府県の相場の違いがあるため、エリアによって派遣料金が異なることがあります。
また、同じ東京都であっても23区と23区外で差がでます。23区の中でも、駅から遠い、電車代の高い路線は不人気になる傾向もあり、その対策として時給をUPする企業もあります。立地に問題がなくても、人気の大手企業が隣接していたために人材が流れてしまいやすく、時給を上げざるを得ないというケースもありました。
土日出勤や深夜勤務、早朝出勤などは人気がないため、相場が高くなる傾向があります。またフルタイムの期間限定業務も人気があるとは言い難い条件です。
登録層が少ない職種であっても、時短勤務や週3などの雇用条件の場合は、フルタイムより働きやすいと考える層からの応募が期待できます。
求人トレンドも料金に影響が出ます。派遣料金は、ダイレクトにスタッフへの給与に反映される傾向にあり、人材不足(売り手市場)の時期は相場より低い料金の提示では、人材が見つかりにくいです。また、長年派遣料金の据え置きをしていると、市況や経済状況の変化が原因で、同じ求人条件では人材が見つからず、条件の緩和が必要な場合もあります。
このように人材派遣の料金は、さまざまな要因により相場がつくられていきます。人材派遣サービスを利用したい、新しいポジションを募集したい場合は、人材派遣会社に相談するのが早道です。疑問・不安などがあれば、複数社に話を聞いてみてもよいでしょう。
次に人材派遣を利用するポジションに必要な予算について解説します。
予算の算出をするために、以下の項目を出してください。その情報をもって人材派遣会社に相談します。
ざっくりと計算したい場合は、派遣求人サイトで似たような案件を探して、掲載されている時給(派遣社員への支払い)を0.7で割り、おおよその派遣料金を算出してみることもできます。
ただし、先ほど説明したように派遣料金はさまざまな要因が絡んでいるため、相場に近い料金かは不確かです。人材派遣会社に見積もりをとってみることをおすすめします。
立てた予算をオーバーしないために気を付けたいのは、勤務時間です。派遣社員の勤務時間の管理は、派遣先企業の責任になります。日々の就業時間や月の就業時間をチェックし、想定以上の残業がでていないかなどを見ていきましょう。
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「派遣社員の管理」派遣先に求められる対応とポイントを解説
派遣サービスを利用するための予算額は、企業によってさまざまです。ここでは、課題別の派遣料金の考え方を解説します。
人材派遣を依頼したが紹介がない場合は、相場と料金が離れているか、求職者が少ない、諸条件が不人気、などの理由が考えられます。紹介の無い具体的な理由は依頼した人材派遣会社に問い合わせましょう。仮に時給が原因だった場合、以下のような考え方で予算内におさめる方法があります。
勤務時間を短くし、派遣料金をUP(派遣社員への時給に還元されることが前提)します。派遣社員の勤務時間は請求額に影響するため、そこで調整する方法です。
例:派遣料金を100円あげ、勤務時間を1時間減らした場合
派遣会社に相談し、就業条件や人材要件を見直すことも検討してみてください。例えば、時短勤務にする、未経験でもOKとする、意欲があれば働きながら資格取得すればいい、などです。
予算の問題で相場より低い料金設定しかできない場合、人材の紹介がなく、該当ポストの長期間空席によるビジネス機会損失のリスクが生じます。その回避策のひとつは、希望開始日よりも早くに派遣会社に依頼を出しておくことです。
併せて派遣料金以外の自社の強みを派遣会社に伝え、アピールすることも大事です。
など
会社ごとの事情も関係することなので、率直に人材派遣会社の営業担当者に相談してみましょう。発注した時点で希望者がいなかったとしても、派遣会社は常に派遣社員の募集をかけているため、見つかる可能性がでてきます。複数の派遣会社に声をかけることも効果的です。
この場合は、相場より時給を高くすることで見つかる可能性が高まります。優秀な人は、さまざまなオファーが来るため、案件を選べる状況です。派遣料金は、派遣社員への賃金にも大きく関わることから、相場より高くすることでよい人材を紹介してもらう可能性が高まります。
予算に余裕がある場合は、検討してみてもよいでしょう。
派遣社員が有給休暇を取得する場合は、費用の発生はありません。有給休暇分の費用は人材派遣会社が負担します。
派遣先の都合で急遽、派遣社員に休みを取らせる場合は費用が発生します。会社カレンダーなど、休みなどがあらかじめわかっている場合は、派遣サービスを依頼する際に人材派遣会社へ共有し、休み(就業日ではない)である旨伝えましょう。
上がる可能性はあります。派遣会社によりますが、下記のような理由により派遣料金の変更を相談されることがあります。
派遣料金を下げる変更は、厳しいと思われます。すでに働く派遣社員が決定しており、時給も提示されているためです。会社の事情などによりどうしても派遣料金の変更が必要な場合は、派遣会社に早めに相談し、対策を検討しましょう。
人材派遣の料金は、派遣社員への給与に大きく影響を受けます。求人トレンドやエリア、求める要件などさまざまな要因があるため、派遣料金の設定は、人材派遣会社に相談してみることが一番早い手段ではあります。予算を決定する前に見積もりを取るのもよい方法です。人材の紹介がない場合、人材派遣会社と相談する、または別の人材派遣会社に声をかけるなど対策をとっていきましょう。
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