
目次
「この求人票、本当に本物だろうか。AIが作ったのではないか」
「なんとなく違和感がある。実態とは違うのかもしれない」
生成AIの急速な普及によって、誰もが「それっぽい文章」を、手間をかけずに量産できるようになりました。その結果、文章の読み手は、「この文章はAIによるものではないか」と疑いながら読むようになっています。いわば「一億総懐疑時代」です。
こうした社会の変化は、採用活動にも例外なく及んでいます。今回は、企業と労働市場をつなぐ最初の接点である「求人票」に注目し、疑われることを前提とした時代に、それでも信頼される求人票をどうつくるかを考えます。本記事では、「綺麗な求人票」を当たり障りなく整ってはいるものの実態が見えてこない求人票と、「生々しい求人票」を具体性・ストーリー性・弱みの開示を備えた、AIだけではつくれない求人票と定義し、筆を進めていきます。

処方箋の話に入る前に、原点を確認しておきます。求人票の役割は、突き詰めると次の3つに整理できます。
第一に、労働条件を明示するという法的な役割です。職業安定法では、労働者の募集にあたって業務内容、賃金、労働時間などの労働条件を明示することが義務づけられています。さらに2024年4月からは、従事すべき業務や就業場所の「変更の範囲」の明示も求められるようになりました。求人票は大前提として法が求める情報開示の器なのです。
第二に、マッチングの精度を高めるスクリーニングの役割です。求人票は「多くの人を集めるためのもの」と思われがちですが、本質はむしろ逆です。合わない人には応募を見送ってもらい、合う人にだけ深く興味を持っていただくための、絞り込みの装置です。求人票の目指すべきところは、応募数の最大化ではなく、マッチ度の最大化にあります。
第三に、企業の信頼を映す鏡としての役割です。求職者にとっての求人票は、その会社と交わす「最初の約束」になります。求人票に書かれた内容と入社後の実態がずれれば、それは約束違反として記憶され、口コミサイトやSNSを通じて外部にも共有されかねません。
つまり求人票とは、「法的義務を果たしつつ、相性のいい相手に、守れる約束を提示する文書」です。この原点を押さえておくと、次章で述べる「綺麗な求人票」が、いかにこの役割を果たせていないかが見えてきます。

ここから記載する時代背景は、これまで採用に関わってきた私の経験と、現在の社会環境の変化を踏まえた私見を交えながら考察していきます。
生成AIの普及により、求人票らしき文章は数分、場合によっては数秒でつくれるようになりました。しかしAIが作るのはあくまで「それっぽい」文章であって、同じような内容のものになりがちです。たとえば、「風通しの良い職場です」「若手が活躍しています」「成長できる環境です」。こうした文言はどこにでもあるものであり、求職者の目から魅力的に映ることはありません。整った文章であったとしても、ただそれっぽいだけでは意味がないのです。
写真の世界でも同じことが起きています。誰もが加工アプリを使える時代には、「加工されていないこと」の証明のほうが難しくなりました。そして、「無加工であること」が価値を持つような文化も生まれつつあります。つまり文章においても、人が書いたと伝わるものにより価値が感じられるようになりつつあるといえます。
口コミサイト、SNS、掲示板。求職者の手元には、企業の公式発信を検証するための「対抗情報」が常備されています。求人票はもはや、単体では読まれません。「残業月20時間程度」と書けば、口コミサイトに投稿された残業の実数と突き合わされます。そして記載と口コミが食い違ったとき、印象に残りやすいのは口コミのほうです。
世界28カ国で毎年実施されている信頼度調査「エデルマン・トラストバロメーター」の2025年版では、政府・メディア・NGO・企業という4つの組織機関への信頼を平均した「信頼指数」において、日本は調査対象28カ国中の最下位を記録しました。組織が発する公式情報全般への信頼が、構造的に沈下しているのです。
一方で、同じ調査には興味深い結果もあります。日本の従業員にとって唯一信頼されている組織機関が「自分の雇用主」だった、という点です。組織一般は信じない。しかし、顔が見えて、具体的で、自分で確かめられる相手なら信じる。信頼は消滅したのではなく、「一般論」から「固有で検証可能な情報」へと置き場所を変えたのだと解釈できます。
この3つの背景から、綺麗な求人票は以前よりも疑われやすくなってきているという結論を導くことができます。その疑いを解くのは、綺麗な言葉ではなく、そこで実際に働く人しか知り得ないような生の情報です。そうした情報が載っている求人票は疑われにくくなります。具体的には、弱み・制約・数字・固有名詞といった、加工しにくい生々しい情報が必要になります。

一口に「綺麗な求人票」と言っても、その中身にはいくつかの段階があります。ここでは、製造業で全国転勤が前提となっている営業職の求人を例に、3つのパターンに分けて見ていきます。
求人票の記載例
求職者の反応例
これは「綺麗」以前の問題です。職業安定法が求める労働条件明示のルールに抵触しうる、明確なリスク行為です。虚偽の条件で人を集めれば、短期的には応募数を稼げても、入社後に必ず露見します。
求人票の記載例
求職者の反応例
誇張の怖さは、一箇所の「盛り」が発覚した瞬間に、求人票全体の信頼が失われる点にあります。求職者は「ここが盛られているなら、あそこも盛られているだろう」と読むからです。
求人票の記載例
求職者の反応例
現在、最も多いのがこのパターンです。嘘も誇張もない。法的にも問題ない。しかし、求職者が本当に知りたいことには何も答えていない。判断材料がないため、慎重な求職者ほど応募を見送り、口コミ情報へ向かいます。企業が情報の空白を放置すれば、その空白は口コミという、企業がコントロールできない情報で埋められてしまうのです。
これらはいずれも、採用コストの浪費に直結します。さらに、退職者や辞退者の口コミを通じてレピュテーションが毀損されれば、その後の採用活動全体が不利になっていきます。
同じ「全国転勤」という事実を、次のように書き換えてみます。
事業状況により全国転勤が発生する可能性があります。
※これまでは、おおよそ5年の周期で転勤となるケースが多い状況でした。
※ただし近年は従業員の働き方を重視する方針を強めており、半年に一度のキャリア面談を通じて、お一人おひとりのご状況やご意向を最大限考慮しています。
事実(転勤あり)に、頻度の実績(5年周期)と、運用の実態(半年ごとの面談)を添える。それだけで、同じネガティブ情報が「隠された不安」から「判断できる材料」へと変わります。この「書き換えの技術」を、次章から3つの処方箋として掘り下げていきます。

生々しさの第一歩は、「データ」を「情報」に変換することです。情報科学の分野には「DIKWモデル」という古典的な枠組みがあります。データ(Data)は文脈を得て情報(Information)になり、情報はつながって知識(Knowledge)になり、知識は判断力としての知恵(Wisdom)になる、という階層構造です。
多くの求人票は、この最下層である「データの羅列」で止まっています。事実は書いてあるのに、それが読み手にとって何を意味するのかが書かれていないのです。この考え方に基づいて、事例も交えつつやるべきことを整理していきます。
例1)
Before:「組織の立ち上げフェーズです」
After:「組織の立ち上げフェーズの中心人物となっていただくポジションです」
前者は会社の状態を述べただけのデータです。後者は、その状態が応募者にとって何を意味するのかまで踏み込んでいます。
例2)
Before:「経営陣へのレポートを担っていただきます」
After:「本ポジションはCOO直轄です。COOが適切な経営判断を行うための情報や示唆を提供することが役割の一つで、これまではCOO自身が担っていた業務を、業務の見直しに伴って切り出し、新設したポジションです」
業務内容だけでなく、「なぜこのポジションが存在するのか」という背景まで書く。ここまで書かれた求人票を、AIがゼロから自動生成することはできません。なぜなら、この情報は社内の人間でないと知り得ないことだからです。
求める人材像によって、書くべき情報の優先順位は自ずと変わります。たとえば「メーカーの営業職/30代前半/製造業領域の営業経験者(商社出身も可)/家庭あり」というペルソナを置いてみます。家庭のある30代にとっては、転勤の運用実態、残業の実数、育児関連制度の利用実績が意思決定の材料になります。ペルソナが決まれば、「何を優先的に伝えるべきか」が決まります。読者を想定しない文章が誰にも刺さらないのは、どのような文章でも同じです。
生々しい情報は、人事部の中にはなく、現場に眠っています。「このポジションの一番大変なところは何か」「前任者はなぜ辞めた(異動した)のか」「入社半年の人がつまずくポイントはどこか」。こうした問いへの答えこそが、求人票の素材になります。求人票づくりの工数の大半は、書くことではなく、聞くことに割かれるべきともいえます。
これに関連して私には苦い経験があります。緊急の特務案件として、普段接することのない海外本社の経営レベルから日本側へ採用依頼が来たことがありました。私はその時に遠慮してしまい深く確認すべきことを聞ききれず、何となく理解したつもりになって、採用活動を始めてしまいました。結果として後工程で大変な苦労をすることになり、様々な人のリソースを無駄にしてしまいました。
私のように、この工程を疎かにしてしまうと、自分だけではなく社内外の関係する人の数十時間の損失につながりますし、お金の面でも数十万円から場合によっては数百万円の損失につながります。仮にどれだけ忙しくても、ヒアリング自体は1時間もあれば十分に足ります。
もちろん、「ヒアリングが大事ということは分かってはいるけれど、忙しくて一件一件丁寧に向き合う余裕はない」という方もいらっしゃるとは思います。もしかすると現場からは「忙しい」「求人票に書いてある通りだ」といった意見が出るかもしれません。しかし、ここで妥協してはいけません。
ヒアリングは、求人票の質だけでなく、その後の母集団形成や選考の精度にも影響する出発点です。だからこそ、採用活動の初期段階で十分な時間をかける価値があります。
採用活動を正しく進めるためには、現場の実態や要件を正確に理解することが欠かせません。その目的を丁寧に伝えたうえで、ヒアリングの時間を確保することが重要です。

具体的な情報が「点」だとすれば、ストーリー・物語はそれをつなぐ「線」です。人は事実の羅列よりも物語を記憶し、信頼します。
心理学では「ナラティブ・トランスポーテーション(物語への没入)」と呼ばれる現象が研究されています。この分野の実験では、人は物語に没入すると、事実の列挙を聞くときのような反論・懐疑のモードが弱まり、内容を受け入れやすくなることが確認されています。また、統計や事実よりも物語のほうが記憶に残りやすいことも知られています。
何十件もの求人票を疑いの目で読み比べる求職者に対しては、物語が有効になります。一方で注意も必要です。物語には懐疑を眠らせる力がある以上、事実に基づかないストーリーは、発覚したときに最も深い裏切りとして受け取られます。
求人票におけるストーリーとは、大げさな創業秘話のことではありません。「過去→現在→未来」という時間軸で、このポジションの必然性を語ることです。物語の構成はシンプルです。
例で見てみましょう。
Before:「営業部門の増員募集です。拡大フェーズの当社で活躍しませんか」
After:「当社の営業部門は長年、代理店経由の販売が中心でした。しかし主要顧客の調達方針が変化し、メーカーである当社に、直接の技術提案を求められる場面が増えています。現在の営業メンバーはルート営業出身が多く、提案型営業の経験者が不足しているのが正直なところです。今回お迎えする方には、まず既存顧客3社への深耕提案から始めていただき、2年後には提案型営業の進め方をチームに展開する中心になっていただきたいと考えています」
Beforeの文章は、どの会社の求人票にも貼り付けられます。Afterの文章は、この会社でしか書けません。「拡大フェーズ」という抽象語を、「なぜ・いま・この人が必要なのか」という因果の物語に置き換えているからです。
ストーリーには、信頼の獲得に加えてもう一つ重要な効果があります。求職者が「自分がその物語のどこに入るのか」を想像できるようになることです。人が転職を決意する瞬間は、条件を比較し終えたときではなく、「そこで働く自分」を具体的に想像できたときです。ストーリーのある求人票は、その想像のための足場を提供します。
一つだけ注意点があります。ストーリーは創作してはいけません。事実の因果関係を時系列に沿って整理するだけで、物語は自然に立ち上がります。盛り上げようとして脚色した瞬間、それは前章で述べた「誇張」パターンに転落します。素材はあくまで事実のみで、演出は構成だけ。これがストーリーづくりの原則です。

3つの処方箋の中で、最も効果が大きく、そして最も実行されていないのがこれです。
考え方の土台になるのが、RJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)という理論になります。これは、仕事や組織の良い面だけでなく、厳しい面やネガティブな側面も採用段階で正直に開示することで、入社後の幻滅を防ぎ、定着を高めるという考え方です。欧米では長年の研究蓄積があり、一定の効果が確認されています。(詳細は別記事をご参照ください「【RJP理論】リアルな情報開示が採用ミスマッチ防止と信頼獲得に効く理由」)
弱みをただ書けばよいわけではなく、書き方があります。たとえば、「残業が多いです」とだけ書かれた求人票が魅力的に映ることはありません。弱みの開示は、次の4点セットになって初めて機能します。
以下は、4点セットの記載例です。
正直にお伝えすると、当社の営業部門はデジタル化が遅れています(弱み)。長年、ベテラン営業の個人的な関係性で成果を上げてきたため、顧客情報や商談ノウハウが属人化しているのが実情です(背景)。本ポジションには、通常の営業活動に加えて、ご自身の商談プロセスを「型」として残していく役割も期待しています(募集ポジションとの関連)。昨年から営業管理システムを導入し、経営としてもこの変革に本気で取り組んでいます。仕組みづくりから関わりたい方には、むしろ面白いタイミングだと考えています(ストーリー)。
理屈は明快です。良いことは、誰でもコストをかけずに書けます。しかし弱みを書くには覚悟が要ります。書くのにコストがかかる情報だからこそ、それは「この会社は正直だ」というシグナルとして機能するのです。
しかも、前述のとおり、弱みは隠しても口コミ情報で露見します。自ら開示すれば背景や対策という文脈ごと語れますが、他人に暴露されれば、弱みだけが文脈を失って一人歩きしてしまいます。弱みの開示は守りの一手ではなく、情報の主導権を自社に取り戻す攻めの一手なのです。
そして、ここに本記事のタイトルの答えがあります。AIは、どの会社にも当てはまる一般論や、与えられた情報を整理した文章なら書けますが、その会社で実際に起きていること、その会社の人しか知らない一次情報までは持っていません。生々しさを意識し、弱みと向き合い、表現することが独自性につながります。
もちろん、これは「正直に言うと〜」とか「赤裸々に開示すると〜」といった言い回しや語り口を模倣すればいいという話ではありません。このフォーマットだけを模倣してしまうと、陳腐化してしまい逆に信頼を失ってしまう結果になりかねません。
真摯に会社の状況に向き合い弱みや改善点を把握し、そこに対する改善の糸口を小さなものだとしても見出そうとすること、もしその動きがないのであれば社内で問題提起すること、そういった組織変革の営みを採用起点で推し進めていくというのが目指すべき一つの理想型になります。
もちろん、何でもかんでも書けばいいというわけではありません。法務リスクのある情報・競争上の機密・個人が特定される情報は開示するべきではないですし、企業ごとにルールや方針があるのでそれに従う必要はあります。その中でいかにできる限りのことを行っていくか。そこがまさしく腕の見せ所です。
また、生々しい求人票になる程、応募数は減るかもしれません。ただ、減るのは採用可能性のなかった応募になるので、数にとらわれず、質を追求してまいりましょう。

Before:「法人向けの提案営業をお任せします。幅広い商材でお客様の課題を解決していただきます」
After:「製造業のお客様を担当し、生産ラインの課題に対する改善提案を行います。当社が扱う商材は約2万点ありますが、入社後半年は主力のセンサ製品に絞って製品知識を習得いただきます。1日の平均訪問件数は2〜3件、担当の8割は既存のお客様で、飛び込み営業はありません」
Before:「事業拡大に伴う増員募集です」
After:「昨年、大手顧客との取引が拡大し、現在は既存メンバー4名で対応していますが、1人あたりの担当社数が30社を超え、新規顧客の開拓に着手できない状態が続いています。今回の増員で既存顧客の担当を再配分し、入社される方には半年後から新規開拓の中心を担っていただく計画です」
Before:「ワークライフバランスを重視した、働きやすい環境です」
After:「残業は月平均20時間程度ですが、四半期末の月は35時間前後まで増える傾向があります。背景には期末の検収対応の集中があり、現在、業務平準化のプロジェクトが進行中です。一方で有給取得率は78%、育児による時短勤務は男女ともに利用実績があります」
「生々しい求人票」は、現場の実態や採用ターゲットへの深い理解があってこそ作成できます。マンパワーグループでは、採用要件の整理や採用プロセスの設計を含め、企業ごとの課題に合わせた採用支援を行っています。
「求人票を見直したい」「採用活動全体を改善したい」という場合は、採用代行(RPO)の活用も選択肢の一つです。
情報があふれ、その多くが「加工されている前提」で受け取られる時代に、求人票の勝負どころは「いかに良く見せるか」から「いかに信じてもらえるか」へと移りました。
信じてもらうための道具は、綺麗な言葉ではありません。具体性、ストーリー、そして弱みの開示。いずれも、現場に足を運び、社内の人間に話を聞かなければ手に入らない情報です。求人票づくりにおいて重要なのは、文章術だけではなく社内取材である、と捉えることもできるかもしれません。
AIが書けるのは、どの会社にも当てはまる綺麗事だけです。AIが教えてくれない、AIが持ち得ない情報はどこにあるのか。それらは「現場」にあります。それらの貴重な情報は採用担当者の活動によって掘り起こすしかありません。求人票づくりに迷ったときには、このことを思い出していただければ幸いです。
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