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就業規則の変更は、法改正や働き方の変化、制度見直しなど、タイミングに応じた適切な対応が求められる業務です。
特に、不利益変更(従業員に不利となる労働条件の見直し)が伴う場合、合理性の判断基準や労働者代表への意見聴取、労働監督基準書への届出、従業員への周知の手続きが重要になり、実務手続の理解が欠かせません。
本記事では、就業規則変更手続きの流れと不利益変更における注意点を、整理して解説します。
就業規則とは、賃金や労働時間、服務規律など、職場における労働条件やルールを明文化した、会社内の公式な取り決めです。
従業員が安心して働けるよう、労使双方が守るべき基準を明確にし、無用なトラブルを防ぐ役割を持ちます。
就業規則に記載が必要な事項は、労働基準法89条で定められており、以下の2種類に分類されます。
| 種類 | 内容 | 主な例 |
| 絶対的必要記載事項 | 必ず記載しなければならない事項 |
|
| 相対的必要記載事項 | 制度を設ける場合に記載が必要な事項 |
|
就業規則を変更する際は、変更後の内容においても「絶対的必要記載事項」が欠落しないよう注意が必要です。また、一部の変更が他の条項と矛盾しないよう、全体の整合性を確保することが求められます。
参考:就業規則を作成しましょう|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(PDF)

就業規則は、会社運営の基盤となる取り決めであり、法改正や勤務形態の変更に対応しないまま放置していては、現場運用との齟齬や法令違反のリスクが生じるため、適宜必要な場面での見直しが必要です。
ここでは、就業規則の見直し・変更を検討すべきケースについて解説します。
労働基準法や育児・介護休業法など、企業に関係する法改正があった場合、会社の就業規則が現行の法律に適合するよう、速やかに内容を改定する必要があります。
たとえば近年では、働き方改革関連法への対応として時間外労働の上限規制が設けられたほか、ハラスメント防止法に基づく社内相談窓口の設置が企業に義務付けられました。
法改正への対応が遅れたままにすると、法令違反のリスクを抱えるだけでなく、労使トラブルの原因にもなります。
法改正の施行スケジュールをあらかじめ把握し、タイムリーに就業規則を見直す仕組みを組織として持つことが重要です。
勤務時間や賃金に関する項目は、就業規則の絶対的必要記載事項に該当するため、変更を行う場合は必ず文言の改定手続きをおこなわなければなりません。
たとえば、以下のような事項の変更が該当します。
| 勤務時間 |
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| 給与体系 |
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また、福利厚生制度の新設・変更する場合も、相対的必要記載事項に該当するため就業規則の変更対象です。
テレワークやフレックスタイム制など、従来とは異なる勤務形態を新たに導入・変更する場合も、就業規則の改定が必要です。
従来の就業規則内に「〇〇時から〇〇時までの間、〇〇で業務を遂行すること」など場所や時間を特定する文言がある場合、新しい勤務形態を導入するには条文を改定しなければなりません。
また、日勤・夜勤の交代制勤務の見直しや非常勤制度の変更なども同様の手続きが必要となります。
多様な働き方を支える土台として、それぞれの勤務形態に適用されるルールを就業規則に明確に記載し、従業員が内容を把握できるようにしておくことが重要です。
経営状況の悪化により、退職手当の減額や支給条件の変更が必要になった場合、就業規則の改定手続きを踏まなければなりません。
退職手当は相対的必要記載事項に該当し、改定内容によっては不利益変更に該当する可能性もあるため、特に慎重な対応が必要です。
また、業績不振による各種手当のカットだけでなく、会社の合併や事業の縮小に伴って制度を統合・廃止する場合も規則の変更が必要です。
経営を立て直すための苦渋の決断であっても、従業員への影響を最小限に抑える配慮と、丁寧な対話を通じた合意形成が求められます。
就業規則の変更を含む制度改定対応では、規程の見直しに加え、制度設計・既存運用との整合性確認、現場での運用定着などを一体で進める必要があります。
「プロフェショナル派遣 事例集人事制度改定編」では、報酬制度や評価・等級制度、再雇用制度など、制度改定に伴う実務支援の事例をご紹介します。

ここでは、就業規則変更の具体的な手順と流れを5つのステップで解説します。
まず、見直したい箇所の内容を具体的に定義し、従業員にとって不利益変更に該当しないかを慎重に確認します。
不利益変更とは、給与の減額や手当の廃止、労働時間の延長など、従業員にとって労働条件の一方的な悪化のことです。
就業規則の改定によって労働条件の不利益変更を行う場合には、労働契約法第10条に基づき「改定に合理性があるかどうか」の要件を満たさなければならず、代替措置や経過措置の検討が必要になります。
たとえば、基本給を下げる代わりに賞与の比率を上げるといった代替案を提示するなど、従業員が納得しやすい環境の整備が重要です。
詳しくは、本記事内の「就業規則の変更において従業員の同意が必要なケース|不利益変更」にて解説しておりますので、あわせてご覧ください。
就業規則の変更内容がまとまった際には、労働基準法第90条に基づき、労働者の意見を確認する義務があります。
就業規則の変更において、意見聴取の対象となる労働者代表は、以下のいずれかです。
会社は変更案を提示して労働者の意見を聞かなければなりません。
書面には必ずしも同意が必要なわけではなく、反対意見が記載されていても、手続き上は届出をおこなえます。しかし、一方的に不利益な変更を強行すれば、後から無効を訴えられるリスクが高まるため、実務上は、従業員に対して変更の背景を丁寧に説明し、十分な対話を通じて合意形成を図るプロセスが重要となります。
意見聴取が完了したら、経営陣の承認を得たうえで、届出に必要な書類を準備します。
提出に必要な主な書類は、以下の3点です。
| 書類名 | 内容 |
| 就業規則変更届 | 変更内容を届け出るための様式 |
| 労働者代表の意見書 | 意見聴取の結果を記録した書面 |
| 変更後の就業規則の全文 | 変更箇所が反映された最新の就業規則 |
変更箇所がひと目でわかるよう、改定前後の条文を並べた「新旧対照表」をあわせて作成しておくと、労働基準監督署への説明や従業員への周知がスムーズになります。
また、監督署提出用と社内保管用の2部を必ず用意してください。
事業場を管轄する労働基準監督署長へ書類を提出します。
提出方法は、以下の3つから選択できます。
常時10人以上の労働者を使用する事業場が届出の対象となります。もし、複数の事業場を持つ企業の場合、要件を満たせば本社が一括して提出する「本社一括届出」も利用可能です。
届出が受理されると、受付印が押された書類の返却、または公文書の発行がおこなわれるため、会社控えとして大切に保管しましょう。
なお、時間外労働に関する36協定の再締結が必要な場合も、同様に届出書類を2部用意して提出しましょう。
届出後は、労働基準法第106条に基づきすべての従業員に変更内容を周知する義務があります。
周知方法は、労働基準法施行規則第52条の2により、次のとおりに定められています。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は第二十四条の二の四第三項第三号に規定する電磁的記録媒体をもつて調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
形式だけ整えても、周知が不十分で従業員が実質的に内容を確認できない状態では、就業規則の効力が従業員に及ばないと判断されるケースもあるため、形式だけでなく実態を伴う情報共有を心がけてください。

就業規則変更届の必要事項の記載漏れがないよう、あらかじめ書類の構成を把握しておきましょう。
主な必要書類は以下の3点です。
ここでは、就業規則変更に必要な書類の書き方と提出期間について解説します。
就業規則変更届に記載する主な項目は以下のとおりです。
| 区分 | 項目 | 内容 |
| 労働保険番号 | 都道府県・所轄・管轄 | 労働保険番号の最初の区切り |
| 基幹番号 | 事業場ごとに割り振られた番号 | |
| 枝番号 | 支店や営業所などに割り振られた番号 | |
| 被一括事業場番号 | 継続事業の一括適用を受けている場合の番号 | |
| 事業場情報 | 事業の名称 | 会社名、または工場・支店名(例:○○株式会社 東京支店) |
| 事業の所在地 | 郵便番号、住所、電話番号 | |
| 事業の種類 | 日本標準産業分類に基づく業種 | |
| 労働者数 | 届出時点での事業場の全労働者数(パート・アルバイト含む) | |
| 使用者情報 | 使用者職氏名 | 代表取締役や工場長などの職名と氏名 |
| その他 | 意見書添付の有無 | 労働者代表の意見書を添付しているか |
| 就業規則の内容 | 変更した規則の条文などを別紙として添付するのが一般的 |
就業規則変更届に決まった様式はありませんが、厚生労働省のウェブサイトに雛形が公開されています。初めて届出をおこなう担当者の方は、まず雛形を確認してから記載を始めるとよいでしょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
書類の提出時期については、労働基準法施行規則第49条1項に基づき、遅滞なく届け出る必要があります。具体的な日数は定められていませんが、変更が実施されたら速やかに届け出なければなりません。
もし、事務手続きが遅れてしまい、新しい就業規則が社内で施行された後の届出になったとしても、ただちに就業規則が無効になるわけではありません。
しかし、長期間放置した場合は労働基準法第89条に規定する届出義務の違反とみなされ、同法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
変更を実施したら、書類作成と届出、周知を滞りなく進められる運用体制を整備しておきましょう。

従業員の労働条件を引き下げる不利益変更をおこなう際は、通常の改定よりも慎重な検討が求められます。
ここでは、不利益変更に関する判断基準とトラブルに発展しやすいケースについて整理します。
労働契約法第10条では、就業規則の変更による不利益変更が有効と認められるためには、改定内容の合理性が必要とされています。
合理性の判断は、主に以下の5つの要素を総合的に評価しておこなわれます。
| 判断要素 | 内容 |
| 不利益の程度 | 従業員が受ける不利益がどれほど大きいか |
| 変更の必要性 | 変更しなければならない業務上・経営上の理由があるか |
| 内容の相当性 | 変更内容が社会的に見て妥当な範囲か |
| 交渉の状況 | 組合や従業員代表との協議を誠実におこなったか |
| その他の事情 | 代替措置・経過措置の有無など |
改定内容が社会通念に照らして妥当と言えるかが問われるため、変更の背景や理由を丁寧に説明しましょう。
不利益変更のなかでも、とくに法的な争いになりやすいケースとして「給与・残業代の減額・廃止」と「労働時間・休憩時間などの改定」が挙げられます。
まず、給与の減額のケースでは、従業員の生活に直接影響するため、合理性の判断がとくに厳しく見られます。
無効と判断されやすい代表例:
勤務に関わる時間の変更も、生活リズムに大きく影響する要素であり、合理性が厳しく問われます。変更を実施した理由やその程度、代替措置の有無がチェックポイントとなります。
いずれのケースも、変更の必要性を丁寧に説明し、代替措置を検討したうえで、従業員の意見を誠実に聴取したかが重要です。

就業規則の変更が無効と判断された事例として、みちのく銀行事件があります。
この事件では、会社側が業績悪化などを理由に制度変更を進めましたが、対象となる従業員への事前の説明や意見聴取が極めて不十分な状態でした。
裁判所は、従業員が受ける賃金カットという不利益の程度が大きいのにもかかわらず、十分な代償措置が講じられていないと指摘し、過半数労働組合の同意はあったものの、大きな不利益を受ける従業員層への配慮や個別の同意形成が不十分であったとし、会社の行った変更には合理性が認められないと判断しました。
この判例が示す重要なポイントは、形式的に意見聴取の手続きを踏んだだけでは不十分であり、従業員が納得できるだけの説明と代償措置が必要という点です。
参考:労働基準判例検索-全情報

ここでは、就業規則の変更で頻出する疑問点のポイントを解説します。
就業規則を変更したにもかかわらず届出を怠った場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
ただし、いきなり罰金が科されるケースは少なく、まず労働基準監督署から是正勧告を受けるのが一般的です。是正勧告を受けた場合は、速やかに届出手続きをおこない、指摘事項を解消する必要があります。
パート・アルバイトを含め、常時使用する労働者が合計10人以上いる事業場では、就業規則の作成・変更と所轄の労働基準監督署への届出が法律上の義務となります。
また、「パートタイム・有期雇用労働法」に基づき、正社員とパート・アルバイトとの間で、基本給・賞与・福利厚生などにおける合理的な理由のない待遇差を設けることは禁止されています。
そのため、待遇の決定・改定を行う際には、雇用区分ごとの整合性が取れているかを必ず確認する必要があります。雇用区分ごとの整合性が保たれているか否かの確認が重要です。
原則として、記載事項に変更があった場合は、届出が必要です。文言の修正や表記の統一であっても、内容に変更がある以上は届出の対象になります。
「軽微な修正のため届出は不要」という判断が、後日の指摘につながるおそれがあります。手続の負荷は小さくありませんが、届出を徹底する運用のほうが結果的にトラブルを回避できます。
常時使用する労働者が10人未満の事業場には、法律上、就業規則の作成・届出の義務はなく、変更届の提出も必須ではありません。
ただし、10人未満であっても就業規則を作成・変更した場合は、任意で労働基準監督署へ提出が可能です。
義務ではありませんが、届出には以下のメリットがあり、証跡管理とトラブル予防の両面で有効です。
就業規則は、原則として役員には適用されません。
役員は会社との間に委任契約を結ぶ立場であり、労働基準法の適用対象外となるためです。
ただし、形式上は役員であっても、会社の指揮命令下で業務に従事し、時給や日給、月給などの形で報酬を得ているなど、実態として労働者と近い働き方をしている場合は、就業規則の適用対象と判断されるケースもあります。
自社の役員の位置づけにおいて不明点がある場合は、社会保険労務士や弁護士など専門家へ相談するのが適切です。
就業規則の変更は、法改正や経営環境の変化に応じて、会社と従業員の双方を守るために必要となる業務です。
特に、労働条件を従業員にとって不利益な方向へ見直す場合は、変更の合理性が確保されているか、そして説明・意見聴取のプロセスが適切に行われているかが重要なポイントです。
また、改定の判断根拠や周知履歴の記録化は、抜け漏れの防止と将来の説明のしやすさの両面で効果があります。これらの積み重ねが紛争リスクの低減と社内統制の実効性向上につながるため、改定の経緯や資料を適切に残すための、仕組みづくりが重要です。
判断が難しい論点が生じた場合は、必要に応じて社会保険労務士や弁護士などの専門家の助言を取り入れると、検討の精度を高められます。
就業規則の変更対応では、単に規程文言を修正するだけでなく、複数の実務課題を同時並行で整理・対応していく必要があります。
これらを限られた期間のなかで進めるには、専門知見と実務経験のあるリソースの確保が重要です。
一方で、就業規則変更は一時的に業務量が増えるケースも多く、恒常的な人員増強が適さない場合もあります。
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