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年末調整は、企業が従業員の1年間の所得税を正確に計算し、毎月の源泉徴収額との過不足を精算する重要な手続きです。
もし、年末調整の全体像や各工程の目的を正確に把握できていないまま業務を進めてしまうと、記入不備の多発や提出期限の遅延といったトラブルが発生しやすくなります。
本記事では、年末調整について基本情報から全体の流れ、トラブルと対策方法を解説します。

年末調整は、すべての従業員に適用されるわけではなく、一定の要件を満たす必要があります。
ここでは、年末調整の対象と対象外の要件について解説します。
年末調整は、会社と雇用契約を結んでおり、1年を通じて勤務している人や、年の途中で就職して年末まで在籍しているすべての従業員が対象です。
正社員や役員だけでなく、契約社員やアルバイト、パートなど、雇用形態を問わずすべての給与所得者が該当します。
通常年末調整は12月におこないますが、以下の5つの要件のいずれかに該当する場合、年の中途でおこなう年末調整の対象になります。
1年を通じて勤務している従業員や、年の途中で就職して年末まで在籍しているすべての従業員の中でも以下の2つの要件のいずれかに当てはまる人は対象外となります。
対象外の従業員に対しては、会社は年末調整を実施せず、源泉徴収票のみを発行して本人に交付しましょう。
また、対象外の従業員は、所定期間内に管轄の税務署へ確定申告する必要があります。会社側としても本人が忘れないよう確定申告が必要な旨を案内しましょう。
なお、年の途中で退職し、年内に再就職しなかった従業員については、年の中途でおこなう年末調整の対象とならない限り、会社での年末調整は実施されません。
退職の時点で、従業員が納めすぎた所得税の還付を受けるためには、本人が確定申告する必要がある旨を会社から事前に案内しておくと親切です。
対象外となる従業員には、確定申告が必要である旨を明確に伝え、源泉徴収票を交付することで、後のトラブルを未然に防げます。

年末調整の全体の流れを時系列で把握しておくことで、書類の回収遅れや計算ミス、提出漏れといった実務上のトラブルを未然に防げます。
ここでは、年末調整の実施フローを4つのステップに分けて、それぞれの実務内容と注意点を詳しく解説します。
まず、10〜11月にかけて年末調整の対象となる従業員全員に必要書類を配布し、提出期限を告知します。
従業員がスムーズに申告できるよう、提出期限だけでなく、記入方法や保険料控除証明書などの必要な添付書類についても社内での丁寧な周知が重要です。
近年では、ミス防止と効率化の観点から、給与計算システムやクラウドツールを活用してWeb上で案内・回収する企業も増加しています。
電子化を導入すると、書類の配布・回収にかかる時間を短縮でき、記入漏れや提出忘れをシステム上でリマインドできるようになります。
11〜12月上旬にかけては、従業員から提出された各申告書と、生命保険料などの控除証明書の原本を回収し、内容に不備がないか確認します。
この工程では、従業員による記入漏れや計算ミス、保険会社から送られてくる証明書の添付忘れなどが発生しやすい傾向があります。
書類の不備が見つかった場合は速やかに従業員へ確認を取り、正しい内容に修正してもらうよう個別に連絡しましょう。
提出された書類に誤りがあった場合の修正や差し戻しをあらかじめ想定し、スケジュールには十分な余裕を持たせておくことが重要です。
最終的に従業員ごとの正確な控除額が確定したら、そのデータを自社の給与システムや計算ソフトへ入力していきます。
入力ミスがあると最終的な税額計算が合わなくなるため、ダブルチェックを実施するなど、確認体制の強化をしましょう。
12月には回収・確認が完了した申告書をもとに、各従業員の正確な年調年税額を計算して確定させます。
年調年税額とは、各従業員が本来納めるべき正しい所得税額を指し、扶養控除や各種保険料控除を適用した後の最終的な税額です。
この年税額と、毎月の給与や賞与から源泉徴収してきた概算の所得税合計額を比較し、差額を算出します。
源泉徴収額が年税額よりも多ければ還付金として給与に上乗せし、逆に少なければ不足分を追加徴収する形で精算します。
翌年1月には、正しく計算されたデータをもとに源泉徴収票と給与支払報告書を作成します。
作成した源泉徴収票のうち1通を従業員本人へ渡し、給与の支払額が500万円を超えるなどの特定条件を満たす対象者については、もう1枚を税務署へ提出します。
なお、会社の役員については、その年の給与支払い金額が150万円を超える場合に税務署への提出が必要です。
また、以下の手続きについても合わせて実施しましょう。
| 対応内容 | 手続き | 期限 |
| 給与支払報告書の提出 | 1通を総括表とともに、従業員が住所を置く市区町村役場に提出 | 翌年1月末日 |
| 国に納付すべき源泉所得税の不足額等が判明した場合 | 納付手続きを完了させる | 翌年1月10日 |
ただし、企業規模による納期の特例が適用されている場合は、以下のような納付期限となります。
| 7月から12月までに源泉徴収した所得税および復興特別所得税 | 翌年1月20日 |
提出書類の内容確認と納付手続きを実施することで、年末調整業務全体を滞りなく完了させられます。
参考:No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等|国税庁

ここでは、年末調整で使用される主要な申告書について詳しく解説します。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、原則として該当するすべての従業員が提出しなければならない書類です。
従業員本人や配偶者、扶養親族の氏名・生年月日・所得見積額などを記入し、扶養控除や障害者控除などを適用するために使用します。
万が一、本書類の提出がない場合、企業は未提出の従業員に対して年末調整をできません。
もし、納めすぎた税金を還付してもらうには本人が確定申告を実施する必要があります。また、未提出になると源泉徴収される所得税額が高くなるリスクもあります。
そのため、昨年の情報から変更がないかも含めて、全従業員へ確実な記入と提出を呼びかけることが重要です。
参考:A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁
この書類は、従業員が1年間に支払った以下の費用を申告し、各種保険料控除を受けるためのものです。
保険料控除を適用するためには、原則として保険会社や日本年金機構などから送付される「控除証明書」の原本、または電子データを申告書に添付して提出する必要があります。
この書類は記入項目が多く、保険の種類によって算出方法も異なるため、従業員による計算ミスや証明書を付け忘れなどのトラブルが頻発します。
スムーズに処理を進めるためには、あらかじめ保険料の算出手順を解説したマニュアルの配布や、自動計算できるツールの導入が効果的です。
本申告書は年末調整で、以下の控除を受けようとする給与所得者が対象です。
特に配偶者控除や配偶者特別控除を受ける場合、従業員本人と対象者双方の所得金額に上限が設けられているため、正確な計算が求められます。
年収ではなく、経費などを差し引いた後の所得見積額を正しく申告する必要があるため、多くの従業員が記入時に混乱しやすいポイントとなります。
また、指定の親族がいるケースや、年収が850万円を超えていて特定の要件を満たす際にも、本書類でまとめて申告する仕組みです。
担当者は、従業員が所得見積額を間違えて記入していないかを確認し、必要に応じて源泉徴収票の見方や所得の計算方法に対するサポートをしましょう。
参考:A2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除、特定親族特別控除及び所得金額調整控除の申告|国税庁
住宅借入金等特別控除申告書は、住宅ローンを利用してマイホームの新築・購入や特定の増改築をした従業員が対象の書類です。本申告書を提出すると、住宅ローン控除(税額控除)を受けられます。
住宅ローン控除の適用1年目は、従業員が税務署で確定申告する必要がありますが、2年目以降は本申告書と金融機関発行の年末残高等証明書の提出によって年末調整での控除が可能です。
この書類は税務署から従業員本人に直接郵送されるため、企業側は対象者に対して申告書の保管と期限内提出を促す必要があります。
企業側は、提出された年末残高等証明書に記載の金額をもとに、正しい控除額が申告書に記入されているかを確認して処理をします。

所得控除とは、課税対象となる所得金額から一定の金額を差し引くことで、税負担を軽減する制度です。
年末調整で適用できる所得控除には、以下のような種類があります。
| 控除の種類 | 概要 |
| 基礎控除 |
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| 扶養控除 |
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| 配偶者控除 |
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| 配偶者特別控除 |
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| 障害者控除 |
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| 寡婦控除 |
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| ひとり親控除 |
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| 勤労学生控除 |
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| 社会保険料控除 |
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| 生命保険料控除 |
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| 地震保険料控除 |
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| 小規模企業共済等掛金控除 |
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| 特定親族特別控除 |
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年末調整の実務では、書類の不備や計算ミス、従業員とのコミュニケーション不足などにより、さまざまなトラブルが発生する恐れがあります。
こうしたトラブルは、業務の遅延や税額の修正、従業員からの問い合わせ増加といった負担を招くため、事前の対策が重要です。
以下では、実務で特に発生しやすい代表的なトラブルと、それぞれの具体的な防止策について解説します。
| 発生しやすいミス | 対処法 |
| 収入や所得などの申告漏れやミス |
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| 書類や証明関係の不備によるミス |
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| 去年と同じ申請をしてしまうミス |
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| 会社側の計算間違いによるミス |
|
| 年末調整と確定申告を間違えてしまうミス |
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2025年度(令和7年度)の年末調整では、税制改正に伴ういくつかの重要な変更点があり、実務担当者はこれらの内容を正確に理解しておく必要があります。
以下では、2025年度の年末調整の主な変更点について解説します。
2025年度の税制改正により、基礎控除や給与所得控除の金額や適用要件が見直されています。
基礎控除額に関する改正は以下のとおりです。
| 合計所得金額 (収入が給与だけの場合の収入金額) |
基礎控除額 | ||
| 改正後 | 改正前 | ||
| 令和7・8年分 | 令和9年分以後 | ||
| 132万円以下 (200万3,999円以下) |
95万円 | 48万円 | |
| 132万円超〜336万円以下 (200万3,999円超〜475万1,999円以下) |
88万円 | 58万円 | |
| 336万円超〜489万円以下 (475万1,999円超〜665万5,556円以下) |
68万円 | ||
| 489万円超〜655万円以下 (665万5,556円超〜850万円以下) |
63万円 | ||
| 655万円超〜2,350万円以下 (850万円超〜2,545万円以下) |
58万円 | ||
引用:Ⅰ 昨年と比べて変わった点(基礎控除の見直し等)(PDF)
また、給与所得控除については55万円の最低保障額が改正により65万円にまで引き上げられています。
| 給与の収入金額 | 給与所得控除額 | |
| 改正後 | 改正前 | |
| 162万5,000円以下 | 65万円 | 55万円 |
| 162万5,000円超 180万円以下 | その収入金額 × 40% − 10万円 | |
| 180万円超 190万円以下 | その収入金額 × 30% + 8万円 | |
引用:Ⅰ 昨年と比べて変わった点(基礎控除の見直し等)(PDF)
扶養親族や配偶者の所得要件が改正され、合計所得金額の条件が48万円以下から58万円以下まで引き上げられました。
| 扶養親族等の区分 | 所得要件(注1) (収入が給与だけの場合の収入金額(注2)) |
|
| 改正後 | 改正前 | |
| 扶養親族 同一生計配偶者 ひとり親の生計を一にする子 |
58万円以下 (123万円以下) |
48万円以下 (103万円以下) |
| 配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 58万円超 133万円以下 (123万円超 201万5,999円以下) |
48万円超 133万円以下 (103万円超 201万5,999円以下) |
| 勤労学生 | 85万円以下 (150万円以下) |
75万円以下 (130万円以下) |
(注)1 合計所得金額(ひとり親の生計を一にする子については総所得金額等の合計額)の要件をいいます。
2 特定支出控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。
引用:Ⅰ 昨年と比べて変わった点(基礎控除の見直し等)(PDF)
今回の変更により新たに「特定親族特別控除」が創設されました。
新設された「特定親族特別控除」を受けるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
| 年齢 | その年の12月31日時点で19歳以上23歳未満であること |
| 生計 | 納税者と生計を一つにしている親族であること |
| 所得 | 年間の合計所得が58万円超〜123万円以下であること |
| 除外 | 配偶者や、事業専従者として給与を得ている人は対象外 |
上記に該当する親族がいる場合には、年末調整で控除を受けられます。
特定親族特別控除額は以下のとおりです。
| 特定親族の合計所得金額 | 収入が給与だけの場合の収入金額(注) | 特定親族特別控除額 |
| 58万円超〜85万円以下 | 123万円超〜150万円以下 | 63万円 |
| 85万円超〜90万円以下 | 150万円超〜155万円以下 | 61万円 |
| 90万円超〜95万円以下 | 155万円超〜160万円以下 | 51万円 |
| 95万円超〜100万円以下 | 160万円超〜165万円以下 | 41万円 |
| 100万円超〜105万円以下 | 165万円超〜170万円以下 | 31万円 |
| 105万円超〜110万円以下 | 170万円超〜175万円以下 | 21万円 |
| 110万円超〜115万円以下 | 175万円超〜180万円以下 | 11万円 |
| 115万円超〜120万円以下 | 180万円超〜185万円以下 | 6万円 |
| 120万円超〜123万円以下 | 185万円超〜188万円以下 | 3万円 |
(注)特定支出控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。
令和5年度税制改正により、2025年1月以降の給与支払い分から「簡易な扶養控除等申告書」が利用できるようになりました。
これは、従来の扶養控除等申告書の記入負担を軽減するために導入された簡略版であり、前年の申告内容から変更や異動がない従業員が利用できます。
簡易版では、記入項目が減り、従業員の申告手続きがよりスムーズになることが期待されています。
ただし、すべての従業員が簡易版を使用できるわけではないため、適用条件を確認した上で、対象者ごとに適切な申告書を案内しましょう。
参考:簡易な扶養控除等申告書に関するFAQ(源泉所得税関係)|国税庁

ここでは、年末調整に関するよくある質問について回答します。
基本的に、退職した従業員については、企業が年末調整を実施する必要はありません。
その代わりに、企業は退職日から1か月以内に源泉徴収票を発行し、本人に交付する義務があります。
これは、退職者が新しい雇用先で年末調整を受ける、または本人が確定申告する際に、源泉徴収票が必要になるためです。
一方で、以下のいずれかに該当する場合は、退職者であっても年の中途でおこなう年末調整の対象となります。
企業が年末調整するのは、従業員本人から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受領している場合に限られます。
本申告書は、1人の従業員が複数の勤務先を持つ場合でも、そのうちの1か所にしか提出できないルールです。
そのため、自社が従業員の主な勤務先であり、扶養控除等申告書を受領している場合は、年末調整の対象となります。
ただし、自社が年末調整の対象となる場合でも、計算に含めるのは会社として支払った給与のみで問題ありません。
他社から受け取る給与については、年末調整に含められないため、従業員本人が翌年に確定申告を実施し、すべての収入を合算して正確な税額を精算する必要があります。
従業員からの申告書回収が遅れた場合でも、企業が税務署に対して法定調書を提出する1月31日までに間に合うのであれば、実務上は問題にはなりません。
企業側としては、遅れた従業員に速やかに提出を促し、年末調整を実施しましょう。
一方、企業が法定調書の提出期限である1月31日に遅れた場合でも、直ちに罰則が科されることはありません。
数日間の遅れであれば、所轄の税務署へ事前に連絡しておくことで提出の遅れを認めてもらえるケースがあります。
ただし、年末調整を長期間にわたって怠り、脱税と判断された場合には、1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金が科されます、または悪質なケースでは10年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金が科される可能性もあるでしょう。
そのため、期限を守ることはもちろん、遅延が見込まれる場合は早めに税務署へ相談し、適切な対応を取ることが重要です。
基本的には、年末調整の電子化は義務ではありません。
一方で、一定の規模以上の企業に対しては、税務署へ提出する源泉徴収票などの法定調書をe-Taxなどの電子データでの提出が義務化されています。
具体的には、前々年度に税務署へ提出した法定調書が「種類ごとに見て100枚以上」であった企業は、書面ではなく電子データによる送付が必須となります。
この基準に該当する企業は、あらかじめe-Taxの利用手続きや対応する給与計算システムの導入を進めましょう。
参考:No.7455 法定調書の提出枚数が100枚以上の場合のe-Tax、光ディスク等又はクラウド等による提出義務|国税庁
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年末調整は、10月から12月にかけての書類回収・確認・計算と、翌年1月の提出業務で構成される年次タスクです。
対象者を正確に線引きし、必要書類を漏れなく回収し、控除額を正しく計算して精算することが、実務の基本となります。
ミスを防ぎ、全体の負荷を下げるためには、書類の早期回収と不足・誤記の迅速な特定、対象者の正確な線引き、提出物と納付物に向けた工程管理が重要です。
また、2025年から税制が変わり、すでに同年12月実施の年末調整から新制度に完全移行済みです。
年調対応にブランクがあるメンバーがいる場合は、旧制度を前提に判断しないよう、念のため注意が必要です。
全体の流れとポイントを押さえ、計画的に進めることで、年末調整業務をスムーズに完了させられるでしょう。
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