目次
終身雇用制度の崩壊や、「働き方」の多様化を受容しようとする世の中の流れなど、人々のキャリアに対する考え方に変化が現れています。
このような社会情勢を受けてか、企業が行う社員教育の領域においても、従来までの「能力開発」を主眼においた研修だけではなく、「キャリア形成」を主眼においたキャリアデザイン研修を実施する企業が増えています。
しかしながら、「キャリアデザインについて考える機会を与えても、望んでいた効果を感じられない」といった企業担当者の声が多いことも事実です。
当コラムでは、効果的なキャリアデザイン研修を実施するためのポイントについて考察します。
マンパワーグループが実施したキャリアデザイン研修に関する調査結果によると、実に6割近くの企業がキャリア研修を実施・検討していることが明らかになりました。(実施:29.8% 実施検討:27.1%)
企業規模別でみてみると、規模が大きいほど実施・実施検討の比率が高く、100人~300人規模においても15.1%が実施しています。
また、実施する対象者年齢についての調査では、30代が70.1%と突出し、次いで40代が53.3%となっています。
このことから、若手社員・中堅社員層に対してキャリアデザイン研修を行う企業が多いことが見て取れます。
少し前であれば、「会社を退職した後にどのようなライフプランを歩むのかを考えさせたい」といった、シニア社員を対象としたニーズも多くありました。
しかし、アンケート結果から「『若いうちから自分のキャリアは自分で創る』といった自律的なキャリア形成意識を醸成したい」という企業側のニーズの変化の現れが感じられます。
対して、受講者側が受講してみたいと思っている研修内容についての調査では、いずれの年代においても「自己理解・自己分析」が最も高い数値を示しました。
また、「キャリア開発プランの作成」については、20代は半数以上、30代も半数近くの対象者が受講したいと回答しており、若手社員が自身のキャリアプランニングを設定することの必要性を感じていることがうかがえます。
意欲のある若手社員のうちからキャリア形成について考える機会を提供することで、満足度向上による若手社員の離職防止などの相乗効果も見込まれます。
「キャリアデザイン研修を実施したものの、効果が感じられない」のは、本来ならば手段のひとつでしかない「キャリアプランニングを作成する」ことがキャリアデザイン研修の目的になり変わってしまっていて、本来の目的を達成できていないことに起因するケースが大半です。
企業がキャリアデザイン研修を実施する目的は各社様々ではありますが、要旨として「個人で自律的なキャリア形成を行い、意欲的に業務に取り組んでほしい」という社員への期待は共通して存在することでしょう。
期待値の高さにもよりますが、少なくともキャリアデザイン研修を1回実施しただけで、このレベルに到達するのは相当難しいことです。
キャリアビジョンの作成はもちろん重要ですが、それ以上に「作成したキャリアビジョンにいかにリアリティ(現実味)を持たせることができるか」ということが重要で、キャリアビジョンを絵に描いた餅で終わらせないための工夫が必要です。
作成したキャリアビジョンにリアリティを持たせるためには、キャリアビジョンを自分の業務レベルにまで落とし込む必要があります。
日常の業務を遂行しているときはもちろんのこと、大きなプロジェクトのメンバーに立候補するかどうか迷ったときなどに、それらの事象を自身のキャリアビジョンと自然に結びつけることができるといったレベルが理想です。
(例:この業務を遂行すれば、自分のキャリアビジョンにどのくらい近づけるのか など)
また、社員によるキャリアデザインの重要性についての理解が深まっても、上司がそれを理解していなければ効果を得られるどころか逆に社員のストレス要因になってしまいます。
キャリアデザイン研修を実施するときは、管理職に対しても研修等を通じて理解・認識を合わせることが非常に重要です。
そのためには、研修の実施だけではなく、以下のようなフォローアップを提供することも有効です。
✔ 研修実施後に研修のアウトプットとしてキャリアプランニングシートを持参し確認(社内・社外カウンセラー共通)
✔ 社内事情・業務をよく知るカウンセラーが、具体的な社内キャリアパスに関する相談を受ける(社内カウンセラー)
✔ ラポール(信頼関係)を構築して社内で相談できないような本音を引き出し、早期解決につなげる(社外カウンセラー)
✔ 設定したキャリア目標について、定期的に進行状況などを確認する場を設け、キャリア成長のサポートを行う
✔ 対象者だけでなく、上司に対しても長期的なキャリア開発の必要性を認識させることで、適切な導きを与えられる環境をつくる
キャリアデザイン研修は、全社員に対して単発で実施するのではなく、自身のキャリアビジョンがどのように変遷したのか、年代別にテーマを設定して確認させていくことも非常に有効です。
通常、年代別の研修は5年もしくは10年の間隔で実施されるケースが多く、期間が空きすぎていて前回の研修で立てたキャリアビジョンに自分がどれだけ近づいたのかの振り返りが実施しづらいものですが、人事の年間イベントとしてキャリアビジョンの振り返りを組み込み、1年単位での振り返りを実施できるようにしましょう。
また、自分の労働市場における価値がどのくらいなのかを判断する市場価値診断ツールなどの自己理解のためのコンテンツを各年代の研修に導入すると、自分の成長度合いを客観的に確認でき、キャリアビジョンの再設定に役立ちます。
こちらの資料もおすすめです