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昨今、様々なメディアでよく取り上げられているSDGs。小中学校の学習指導要領にも入り、政府、企業、社会全体で取り組むべき課題としての認知度があがってきています。しかし、官庁やメディアが推進する中でも、SDGsについて適切な理解がなされないまま、企業が経営や事業展開に取り入れてしまう状況も散見されるようになってきました。本記事では、SDGsとは何かということや、SDGsを推進する上で企業がおさえるべきポイントなどをわかりやすく解説します。表層的な取り組みにならないよう、SDGsの本質を正しく理解し、取り組んでいきましょう。
「SDGs(エスディージーズ)」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。
2015年9月、国連サミットは国際社会共通の目標として「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択しました。これは2015年から2030年までの長期的な開発の指針を示すもので、その中の「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいます。
「開発目標」とはあるものの、持続可能のための開発事業を目標とするような意味合いではなく、「私たちの社会とその土壌である地球が持続可能であるために、あらゆる観点での"変革"を2030年までに達成しよう」というものです。
SDGsは基本理念として、「誰ひとり取り残さない」を掲げています。
私たちは経済活動や生活のためとして、意図せずとも深刻な環境負荷や生態系の崩壊、児童労働や格差・偏見などの人権問題など、さまざまな犠牲を生み出しています。そのような状態を看過しては、気候危機、食糧危機、紛争や内戦などの連鎖が途切れず、もはや、社会も地球も持続できません。そのため、何か、または誰かの犠牲を伴わないことが大前提になっているのです。
国連の掲げるもうひとつの大きなメッセージに「世界を変革する」があります。「変革」という言葉は、英語の原文ではTransformと表現されているのですが、国連がTransformと表現するのは、歴史上3度目と言われています。
1度目は世界大恐慌、2度目は第二次世界大戦、そして今回のSDGsが3度目です。
世界大恐慌では世界中の経済が損なわれ、第二次世界大戦では世界中の平和が失われました。そして今度は、私たちの未来が無くなるかもしれないということでしょう。そのような大きな過渡期である、と認識することがSDGsを理解する上での第一歩です。
SDGsと言えば、まず目にするのはカラフルにアイコン化された「17のゴール」ではないでしょうか。
企業の取り組みとしては、この中から自社の事業と関連性の高い紐付けられるゴールを選択し、推進するという流れが多いと推察されますが、単に紐付けるのではなく、それぞれのゴールがつながっているということを鑑みて着手することが肝要です。
例えば、ゴール9に着目し、技術を駆使した環境配慮の製品を開発したとしても、その過程で大量な水を使用せざるを得ないのであればゴール6に影響が出るかもしれず、海外に外注する工程においてゴール10に影響が出るかもしれません。
SDGsでは、目標達成のために、詳細なターゲットを169明示しています。17のゴールばかり目を向けず、この「169のターゲット」を意識し、具体策へと展開することも必要です。
以下は、ゴール12のターゲットの一部です。ひとつひとつをクリアすることで、ほかのゴールとつながる施策に近づくのです。
引用:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ|国際連合広報センター
SDGsが採択される以前のMDGsをご存知の方も多いでしょう。
MDGsは「Millennium Development Goals」の略で、ミレニアム開発目標といわれるものです。2001年にまとめられた2015年までの国際目標であり、大きな特徴として、開発途上国や貧困への課題解決であったと捉えることができます。
MDGsでは、「極度の貧困と飢餓の撲滅」「普遍的な初等教育の達成」「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」「乳幼児死亡率の削減」「妊産婦の健康の改善」「HIV/ エイズ、マラリア及びその他の疾病の蔓延防止」「環境の持続可能の確保」「開発のためのグローバルパートナシップの推進」という8つの目標、さらに21のターゲット、60の指標が定められました。
結果、課題は大幅に改善された一方で、より深刻な格差や、本質的な課題が浮き彫りになりました。
「先進国が途上国を支援する」「富裕層が貧困層に援助する」「強者が弱者を支える」という構図が残り、いつまでたっても自立できず、発展もできない、取り残される人、地域、社会が存在してしまうことがわかったのです。しかも、MDGsに注力する間にも重大な環境負荷が加速し、広義に見ると社会や地球の持続可能性が損なわれてしまいました。
そのような経緯で生まれたSDGsは、先進国・途上国、強者・弱者などのバイアスを外し、どんな立場であれ、国も、企業も、個人も、世界中が一丸となって取り組む目標となりました。だからこそ、日本の義務教育過程にも組み込まれているのでしょう。
出典:(ODA) ミレニアム開発目標(MDGs) | 外務省
最近では、各企業によるリサイクル素材活用推進の加速や、政府系金融機関である国際協力銀行の総裁が新規の石炭火力に融資しない方針を打ち出すなど、課題解決に向けた取り組みがスピード感をもって進んでいます。
また、Z世代(概ね1995年以降に生まれた世代)が「環境負荷や格差などを伴う経営の企業には就職しない」というモットーを掲げる団体を立ち上げています。小中学生が学校で学んだフェアトレードなどの認証つきの商品を買い求める光景も目にするようになりました。
SDGsは、もはや私たちの生活と一体化しており、無視できないものになりつつあります。
背景には、豪雨や記録的高温などの異常気象、森林火災などの自然災害、難民や雇用問題の起因となる紛争や格差などが、多くの人にとって身近なものになっているからではないでしょうか。
つまり、単なる「政府の取り組み」を超えて、多くの人にとって「自分ごと」に感じられているのです。
企業のSDGsの取り組み方は業種によって大きく異なりますが、参考にすべきは本質的かつ包括的な事例です。
例えば、販促メディア・広告を中心に展開している企業グループでは、起点として重点的に取り組む目標を中心に据え、そこから複数の目標に対して連鎖的に成果や波及効果をもたらす「SDGsドミノ」を、自社のビジネスモデルと強く関連付ける取り組みを行っており、この計画は国際的なSDGsに関するアワードでも評価されました。
また、精密化学メーカーを擁する企業グループでは「事業を通じた社会課題の解決」を目標として長年取り組んできたCSR活動を、SDGs達成に向けた具体的な取り組みを盛り込んだものにアップデートし、企業活動の根幹として本業の発展に強く結びつけることにより、ステークホルダーへの還元強化に取り組んでいます。
SDGs推進において、最も重大な注意点は、「ウォッシングになってはいけない」ということです。ウォッシングとはSDGsに表層的に取り組むことで、本質からかけ離れた、包括性もない状態になることを言います。当然真の課題解決にはならず、持続可能も実現できません。
ウォッシングを避けるには、2つのポイントをおさえることが必携です。
1つ目は「アウトサイドイン」です。アウトサイドインとは「外から中を見る」という意味の言葉です。つまり自社や自分の観点で活動の方針などを決めるのではなく、社会や外部状況の観点から目標を設定する、ということです。自社の強みや特性、過去の業績などからの観点となると、自ずと、できることや想定内、または程々の取り組みという暗黙の制限がかかるため、本質的な社会課題と乖離することが多々あります。そのため、アウトサイドインの考え方で、社会的な課題を見据えた将来に求められる達成度と現状のギャップを解決するための目標設定を行っていく必要があります。
2つ目は「バックキャスト」です。バックキャストとは、未来のあるべき社会や姿を描き、そこを起点に逆算して施策に取り組むことを指します。経験則や前例・実績などの「過去」でも慣習のような「今」でもなく、「未来のあるべき姿」に対し何ができるかという考え方です。これまでのやり方が通用しないことで、現状の枠を脱した革新性が生まれることが期待できます。
「アウトサイドイン」「バックキャスト」をなおざりにすると、今までの事業活動と大差がないものになりがちです。それはつまり、うわべだけの取り組みである「ウォッシング」であり、SDGsの根幹「誰ひとり取り残さない」「世界を変革する」にはつながりません。結果的に自社の持続可能性も損なわれる可能性もあります。
SDGsに取り組むには、全社を巻き込むような求心力も必要です。そのためには、明確なトップメッセージと、そこから派生したパーパス(使命・目的)を、全従業員の共通認識とすることも欠かせません。もちろん、それらも「アウトサイドイン」「バックキャスト」に基づくものであってこそです。
トップメッセージやパーパスを浸透するには、従業員一人ひとりにも「アウトサイドイン」「バックキャスト」の思考が必要です。
そのためには、自社製品やサービスをはじめ、生活全般でかかわるすべてのモノの背景を考えることを習慣化することが大きな学びとなります。
例えば、「1つのエコバッグを製造するにはレジ袋何枚分のエネルギーを伴う?」「コットン素材はエシカルに思えるが、生産地のインドでは生産従事主の自死が続いているのはなぜ?」「電気自動車を製造するにはレアメタルがどの程度必要?」などと、考察することです。
このように考察することで、アウトサイドインのスタートとなる社会課題が見えてきますし、バックキャストとして描くあるべき未来を創造するようになり、日常のタスクやマインドに反映されていくでしょう。
ただし、背景を考えるにあたって、誤った解釈のままとならないように注意しましょう。外部のワークショップやセミナーに参加したり、専門家や有識者の意見に耳を傾けたり、他社やステークホルダーとの交流を行ったりできる機会を設けることもおすすめします。
SDGsは2030年の達成を目指しています。しかしながら、達成すればよしというものでも、2030年に終えるものでもありません。持続可能性のある未来に向けた世界共通のテーマとして、末長く取り組んでいくべきものなのです。
企業も個人も適切に理解を深め、一人ひとりが自分ごととして、長期的に取り組んでいく必要があります。「誰ひとり取り残さない」を念頭に置き、自身の所属する企業や自治体などの活動や、個人の行動を意識していきましょう。