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派遣社員を受け入れる際、自社の就業規則をそのまま適用する想定で運用が始まってしまうケースは珍しくありません。
しかし、派遣社員に適用される就業規則は、派遣会社と派遣先で役割が明確に分かれています。この理解がないまま運用が進むと、「自社の社員と同じ扱いでよい」という思い込みが原因で、トラブルが発生するケースもあります。
トラブルを回避するためには、派遣会社と派遣先それぞれの責任範囲を正しく把握し、派遣社員の受け入れ前に社内ルールを整理しておくことが重要です。
本記事では、派遣社員への就業規則の適用範囲や現場での具体的な対応方法、よくあるトラブル事例など、派遣先の受け入れ担当者が押さえておきたいポイントを解説します。

派遣社員に適用されるルールには、雇用関係にある派遣会社の就業規則と、実際に働く派遣先の規則の2つがあります。派遣社員にとっては双方が関係しますが、適用される場面が異なります。
ここでは、以下のポイントについて解説します。
派遣社員には、派遣会社の就業規則が適用されます。派遣社員は派遣会社と雇用契約を結んでおり、給与の支払いや雇用管理も派遣会社がおこなっているためです。
派遣社員の以下のような労働条件は、すべて派遣会社の規定に従います。
たとえ、派遣先の就業規則に賞与や退職金の規定があったとしても、派遣社員には直接適用されません。派遣先と派遣社員の間に直接の雇用関係が存在しないためです。
派遣社員の労働条件は派遣会社の規則に基づきますが、日々の業務遂行に関するルールは派遣先が指示する必要があります。
派遣社員は派遣先の指揮命令を受けて働くため、現場の秩序を保つためのルールは守らなければなりません。
派遣先は、円滑な業務遂行のために、自社の社員と同様の行動規範を派遣社員にも求めることができます。
一方で、派遣先の都合で、派遣会社と締結した派遣契約よりも不利になるような扱いを派遣社員に強制することは認められていません。たとえば、派遣契約で定められた休憩時間を短くしたり、勤務時間を変更したりする行為はトラブルになるため注意しましょう。
派遣社員に関する法的責任の所在では、労働者派遣法第44条によって派遣先を使用者とみなして適用する特例が設けられています。
具体的には、以下の事項については、派遣先が責任を負うと定められています。
派遣社員が長時間労働を強いられたり、勤務時間中に公民権行使に必要な時間を確保できなかったりした場合、派遣先が法的責任を問われる可能性があります。
派遣先は直接雇用関係がないとしても、現場での労務管理には自社としての責任が伴うことを認識しておく必要があります。

派遣先が指揮命令権を持つ以上、業務遂行に関わる一定のルールは派遣社員にも適用できます。
しかし、すべての規定が適用できるわけではなく、適用の可否を正しく理解しておくことが大切です。
派遣先の適用範囲は以下のとおりです。
| 区分 | 具体例 |
| 適用してよい項目 |
|
| 適用できない項目 |
|
服装規定やセキュリティに関するルールについては、就業開始前にあらかじめ派遣会社へ伝えておくことで、認識のズレをなくし、後々のトラブル防止につながります。
また、原則として賞与や昇給は派遣先の就業規則の適用外ですが、派遣社員の働きを評価し、賞与やインセンティブを支給したいと考えるケースもあるでしょう。実際に支給対応が可能な場合もあるため、希望する際はまず派遣会社へ相談してください。

派遣先として派遣社員に自社のルールを守ってもらうためには、事前の準備と受け入れ後のコミュニケーションが大切です。
ここでは、実務で特に押さえておきたい3つの観点を整理します。
派遣社員への指示は、必ず派遣契約の内容を踏まえた上で行いましょう。
勤務時間の変更や残業の依頼は、派遣契約に基づき慎重に判断する必要があります。自社社員と同じ感覚で依頼すると、契約外の働き方を求めることにつながります。
とくに、シフト制や時短勤務など、自社の正社員とは異なる働き方をしている派遣社員がいる場合は、指揮命令者が契約内容を正確に把握しておく必要があります。
また、指揮命令者だけでなく、派遣社員と日常的に関わる社員全員に対しても、派遣契約の概要を周知することが大切です。
「自社の就業規則と異なる」と感じる場面があっても、派遣契約に基づく正当な働き方であるため、周囲の誤解や摩擦を防ぐためにも情報共有を徹底しましょう。
派遣社員は、派遣先の就業規則がそのまま適用されない場面があるため、受け入れ側の配慮が求められます。
たとえば、以下のような場面では意図せず不公平感を与えてしまうことがあります。
派遣社員は自社の就業規則が適用されない立場だという前提を理解し、待遇差に配慮したコミュニケーションを心がける必要があります。
派遣社員が業務に慣れるまでの間にトラブルが起こらないよう、受け入れ前後の丁寧な説明が必要です。服装・髪色などの身だしなみ規定や、休憩室・社員食堂の利用ルールについては、就業前の段階で、派遣会社を通じて伝えておきましょう。
就業開始日には、以下の項目を中心にオリエンテーションを行うと効果的です。
また、質問しやすい雰囲気づくりと、派遣会社との連携も重要です。
ルールが正しく伝わることで、派遣社員の不安や誤解を防ぎ、現場の運用もスムーズになります。

派遣社員の受け入れにおいて、就業規則やルールの適用を誤ると、法的なトラブルに発展するリスクがあります。
ここでは、就業規則によって発生する恐れのあるトラブルについて以下の2つのケースを解説します。
派遣社員が就業規則に違反した場合でも、派遣先には解雇・減給・出勤停止などの懲戒処分を実施する権限がありません。
懲戒処分を行えるのは、雇用主である派遣会社のみです。
そのため、派遣先の担当者が感情的に「もう来なくていい」などと言い渡してしまうと、不当な契約解除やパワーハラスメントとして法的問題に発展するリスクがあります。
派遣社員のトラブル対処として派遣先が取れる対応は、以下の範囲に限られます。
現場でトラブルが起きた際には、まず派遣会社の担当者に連絡し、対応方針を共有することが適切な手順です。
福利厚生についても、派遣社員への適用範囲を明確にしておかないと、トラブルの種になります。
たとえば、派遣先の就業規則に定められた慶弔休暇・家族手当などの法定外福利厚生については、派遣社員には適用されないのが原則です。
一方で、食堂・休憩室・更衣室などの施設については、労働者派遣法によって派遣社員への利用機会の付与が義務付けられています。
「自社の社員ではないから利用させない」という対応は法令違反となる点に注意が必要です。
受け入れ時のオリエンテーションで、 とそうでないものを明確に区分して説明しておくことが、トラブルを未然に防ぐために大切です。
| 区分 | 具体例 |
| 利用・適用できるもの |
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| 利用・適用できないもの |
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ここでは、派遣社員に適用する就業規則についてよくある質問を解説します。
派遣社員の受け入れを理由に、派遣先が就業規則を新たに作成・変更する法的義務はありません。
しかし、既存の就業規則の定義が曖昧な場合は、見直しを検討することをおすすめします。
たとえば、就業規則の適用範囲が単に「従業員」とだけ記されていると、派遣社員も含まれると誤解される可能性があります。
トラブルを避けるためには、「本規則は、当社が直接雇用する従業員に適用する」など、定義を明確にしておくと安心です。
もし、派遣社員に守ってほしい細かなルールがある場合は、就業規則に追記するのではなく「派遣社員受け入れマニュアル」などとして、主業規則とは別に整備しておくと良いでしょう。
派遣先の就業規則に「故意または過失により損害を与えた場合は賠償を求める」といった規定があったとしても、雇用関係のない派遣社員に対して給与天引き等の形で直接適用することはできません。
業務中に生じた損害については、派遣会社と派遣先の間で、派遣契約書等の定めに従い解決を図るのが原則です。
また、労働者個人に対する損害賠償請求は、重大な過失や故意がない場合、制限される傾向にあります。
適切な対応としては、損害の状況や経緯を把握した上で、派遣会社に報告・相談し、双方で協議のうえ解決策を検討するという手順を踏みます。
派遣先の判断のみで派遣社員に賠償を求める行為は、法的トラブルに発展する可能性があります。
改定内容が派遣社員の業務や就業環境に影響する場合は、派遣社員への周知が必要です。
具体的には、以下のような内容が改定される場合が該当します。
もし、就業規則の変更が派遣契約にも影響する可能性がある場合、早い段階で派遣会社へ相談し、派遣社員に契約内容変更の同意を得る必要があります。
派遣社員に適用されている福利厚生に関係する変更も、派遣会社へ通知している待遇情報を更新する必要があります。
派遣契約に影響しない内容であっても、実務等に影響が考えられる場合、事前に派遣社員へ説明しておくことで、混乱やトラブルを防げます。
業務上、就業規則に明記されていない独自のルールを設けたい場合は、まず派遣会社に相談し、運用上の問題がないかを確認するところから始めましょう。
ルールとして定める場合は、派遣会社と協議の上、派遣契約書または別紙に正式に記載し、派遣会社から派遣社員へ周知してもらう形式をとるのが最も安全です。
口頭での申し合わせだけでは、「言った・言わない」のトラブルに発展しやすいため、周知に使用した資料や説明の記録を文書として残しておきましょう。
派遣社員の働きぶりを評価し、派遣先の判断で賞与やインセンティブを支払うことは可能です。
原則、派遣会社経由での支払いとなります。支払う場合は、派遣料金に上乗せする形で派遣会社に支払い、同社から給与や賞与として派遣社員に支給してもらう流れになります。
この際、インセンティブが賃金として扱われると、社会保険料の計算対象になる可能性があります。
派遣会社が負担する社会保険料も増えることになるため、事前に派遣会社とよく相談し、支給額や手数料の調整を行いましょう。
マンパワーグループは、日本で最初の人材派遣会社です。全国68万人以上の登録者から、貴社に最適な人材をご提案いたします。
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派遣社員を受け入れる際は、就業規則の適用範囲を正しく理解しておくことが、トラブルのない健全な職場環境づくりの第一歩です。
派遣社員には、雇用主である派遣会社の就業規則が基本的に適用されます。一方で、日々の業務遂行に関する指示や服務規律は派遣先のルールに従う必要があります。
この区分を正しく理解しておけば、現場で起こりやすい誤解から生じるトラブルや法的リスクを防げます。
とくに、懲戒処分の権限が派遣先にはないこと、食堂・休憩室などの施設利用は派遣社員にも認める義務があることは、受け入れ先部門にも周知しておきましょう。
トラブルを未然に防ぐためには、派遣契約書に遵守事項を明確に定め、受け入れ時のオリエンテーションで自社のルールをしっかり伝えることが何より重要です。
不明点や新たな課題が生じた際は、派遣会社の担当者と密に連携を取りながら、適切な対応を進めていきましょう。
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