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派遣先が講ずべき措置とは? 13の指針について解説
派遣法では、派遣社員が安心して働けるよう、派遣先企業に守るべきルール(派遣先の講ずべき措置)を定めています。 本書では、その指針を法律用語ではなく、わかりやすい言葉で解説しています。
派遣社員の評価制度は、同一労働同一賃金への対応と現場改善のために欠かせません。特に「派遣先としてどこまで関与できるのか」「派遣会社とどのように役割を分担するのか」は、制度を設計するうえで整理すべき重要なポイントです。
本記事では、派遣先の立場から、制度設計と運用のポイントをわかりやすく解説。現場で実践しやすく、法令遵守にもつながる工夫を紹介します。

派遣社員の評価制度とは、派遣先が派遣社員の業務の成果や姿勢を一定の基準で確認し、その情報を派遣会社へ共有する仕組みです。
2020年4月に施行された労働者派遣法の改正に基づく「同一労働同一賃金」の導入により、派遣社員の評価制度の必要性が一層高まりました。労働者派遣法第40条では、派遣先に対して派遣労働者の能力向上への配慮義務が定められています。
出典:e-GOV法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(適正な派遣就業の確保等)第四十条2
また厚生労働省の「派遣先が講ずべき措置に関する指針
」に基づき、派遣先は派遣会社に対し、必要な情報を提供することが協力義務として求められています。
つまり派遣社員の評価制度の実施は、同一労働同一賃金に伴う待遇格差を解消するための、法的な要請です。派遣先には、派遣社員の待遇決定に必要な情報(職務遂行能力や行動基準の評価)を評価し、派遣会社へ提供することが求められています。
適切な評価制度は、派遣社員と企業双方にとって健全な就業環境を築くことにつながります。
関連記事:同一労働同一賃金とは?派遣社員にはどう適用される?
お役立ち資料:派遣先の講ずべき措置とは?13 の指針について解説

派遣先が派遣社員を評価する目的は、法令遵守(同一労働同一賃金による待遇格差是正と説明責任)、安心して働ける職場環境と業務品質の維持・改善にあります。
これらの目的を達成するために、評価制度には次の3つの重要な役割があります。
派遣先が定期的に業務評価を行うことで、派遣社員は自分の強みや課題を客観的に把握できます。
評価者が具体的な改善点や次のステップを伝えることで、行動変化を促し、現場全体の生産性向上にもつながります。
また、評価を通じて指揮命令者と派遣社員の認識をすり合わせることで、ミスや期待のすれ違い防止にも効果があります。
自分の仕事が正当に評価されることは、派遣社員にとって大きなモチベーションになり、「公平に見てもらえている」という安心感が離職防止や定着率の向上に直結します。
モチベーションの向上は、チームや職場の雰囲気にも良い影響を与えます。評価制度によって派遣社員が感じやすい不安(人間関係、業務とのミスマッチ、待遇面)が和らぐことで、より前向きに業務へ取り組める環境づくりにつながります。
派遣社員の派遣料金や待遇を最終的に決定するのは派遣会社ですが、実際の勤務態度や作業能力を把握している派遣先からのフィードバックはその決定に必須な情報になります。派遣先からの評価は、派遣社員が適正な待遇を得るために欠かせません。
さらに評価情報は、単に派遣社員個人の処遇だけでなく、派遣会社にとって、後任人材の配置や派遣先の希望に沿ったマッチングを行う上での参考になります。
評価は単なるチェックではなく、派遣会社と連携して公正な労働環境を作るための基礎情報として位置づけましょう。

実際に評価項目を設計する際は、派遣社員の業務内容に合わせ、複雑すぎず現場で使いやすい項目を心がけることが大切です。
評価項目としては、定性的な行動評価と定量的な成果評価をバランス良く組み込む必要があります。
派遣社員の定性的な評価項目としては、「業務遂行能力」「コミュニケーション力」「勤怠・遵守事項」「チーム貢献度」などが一般的です。
| 業務遂行能力 | 与えられた業務を正確かつ効率的に遂行できる力を評価します(計画性や問題解決能力も含まれます) |
| コミュニケーション力 | 報告・連絡・相談が適切に行えるか、チーム内での情報共有や指示理解ができているかを見ます。 |
| 勤怠・遵守事項 | 出勤状況や勤務時間の遵守、会社や現場のルールを守っているかを評価します |
| チーム貢献度 | チームの目標達成に向けた協力姿勢や他メンバーへの支援、職場全体へのプラスの影響を考慮します |
定性的な評価に加えて、業務内容に応じた定量的な評価項目も取り入れましょう。
たとえば、注文の処理件数やコール対応数など、数値で把握できる業務は、評価基準をそろえやすく、公平性を保ちやすいというメリットがあります。
そのためには、派遣社員を受け入れる段階で、
「なぜその業務を任せるのか」
「何を期待しているのか」
「どのような状態を目指してほしいのか」
をあらかじめ明確にしておくことが重要です。
あわせて、どのレベルまでできていれば達成とするのかといった業務の達成基準も、事前に共有しておきましょう。
項目を設定したら、次に「どんな行動で判断するのか」を具体的に示します。
評価基準を明確にするためには、「S・A・B・C」などのランクを定義したルーブリック(評価基準表)を用いて、基準とレベルを設けるといった方法があります。
ルーブリックとは、評価項目に対し、複数の評価レベル(S、A、B、Cなど)と、そのレベルに達した状態を具体的に記述した表のことです。評価結果の認識をそろえるために、たとえば「S=期待を大幅に超えている」「B=概ね期待どおり」など、基準を数値ではなく状態で示すとわかりやすくなります。
定性的な項目については、行動ベースで具体化します。例えば「コミュニケーション力」であれば、「報告・連絡・相談を適切なタイミングで行っている」「相手の話を正確に理解して行動している」などを明記します。
一方、定量的な項目については、成果を数値や達成率などを具体的な数値で表します。
<評価基準の一例>
| 評価項目 | S(期待を大幅に超える) | A(期待を上回る) | B(概ね期待どおり) | C(一部改善が必要) | |
| 【定性】 | 1. コミュニケーション力 | チーム全体の連携を主導し、関係者間の調整を自発的に行い、情報共有を促進する仕組みを提案・実行した。 | 業務に必要なコミュニケーションを円滑に行い、チームの効率に貢献。指示内容を正確に理解して行動している。 | 報告・連絡・相談に抜け漏れがなく、指示や依頼に対して正確に応答できる。 | 報告・連絡・相談のタイミングが遅れたり、内容が不足することがあるなど、周囲からの確認が必要な場面が見受けられる。 |
| 2. 業務遂行能力 (計画性・問題解決) | 予期せぬ問題に対して常に最善の解決策を提案・実行し、業務フローの改善を達成した。 | 計画通りに業務を完了させ、発生した問題に対し、上司の指示を待たずに自力で解決を試み、必要に応じて報告した。 | 与えられた業務を期日までに正確に完了させる。計画に沿って着実に業務を進めることができる。 | 計画性や優先順位付けに課題があり、期日遅れやタスクの漏れが発生することがある。 | |
| 3. チーム貢献度 | チームの目標達成に向けて積極的に協力し、他のメンバーの業務フォローや指導を自発的に行った。 | チームの目標達成に貢献し、他メンバーからの協力依頼に快く応じ、協力姿勢を維持している。 | チームのルールや協調性を守り、与えられた役割を果たしている。 | 協調性が不足しがちで、チームの雰囲気や円滑な業務遂行に悪影響を及ぼすことがある。 | |
| 【定量】 | 4. データ入力件数/処理スピード | 月間目標件数を120%以上達成し、恒常的に高い処理スピードを維持。業務プロセス改善に繋がる工夫も行った。 | 月間目標件数を105%以上達成し、安定した処理スピードを維持した。 | 月間目標件数を達成し、設定された基準の処理スピードを満たしている。 | 目標件数に達しないことがあり、処理スピードの遅さが業務の停滞を招いている。 |
| 5. 正確性 (ミス/エラー率) | 入力ミスやエラーがゼロ。業務品質チェックの仕組みに貢献した。 | 入力ミスやエラーはほぼゼロであり、品質に対する高い意識を持って業務を遂行した。 | 入力ミスやエラーはあったが、定められた許容範囲内であり、自身で発見し修正できた。 | ミスやエラーが頻繁に発生し、チェックや手直しに想定外の時間を要した。 | |
| 6. 納期遵守率 | 全ての業務において、設定された納期を前倒しで完了。他者の納期調整にも貢献した。 | 依頼された全ての業務を定められた納期内に確実に完了させた。 | 依頼された業務の納期を遵守し、遅延なく完了させた。 | 納期遅延が発生することがあり、チーム全体の業務に影響を及ぼしている。 | |
評価の設計は職種によっても変わります。
ITエンジニアなどの専門職においては、アウトプットを評価するためタスクが明確で、ルーブリック(評価基準表)を比較的設定しやすい傾向があります。一方、一般業務やバックオフィス業務では専門職のようにはいかないため、「なぜ」「なにを」「どのように」に加え、お互いの認識を合わせるために対話の時間を作ることが重要です。
誰が見ても同じ基準で判断できるよう、それぞれの項目に具体的な行動を整理しておきましょう。このように判断基準を具体化しておくことで、評価のばらつきを防ぎ、派遣社員も自分の評価ポイントを理解しやすくなります。

制度を現場で機能させるための運用フローと、派遣会社との調整プロセスを整理しておきましょう。
派遣社員の評価は、年1回や契約更新時など、派遣会社との連携スケジュールに合わせて設定します。
派遣社員の評価は、派遣会社とのスケジュールに基づいて実施します。
明確な実施時期や頻度の規定はありませんが、一般的には年1回や半期ごとに実施されることが多いです。
また、派遣会社から、評価依頼の連絡が入る場合もあります。その際は、指定された期間内に評価を実施すし、協力することが求められます。
評価者は通常、派遣社員の業務を直接指導している指揮命令者(上司)やリーダーが担当します。主観的な判断を避けるため、複数の担当者が確認できる仕組みや、評価者間のばらつきを防ぐための共通マニュアルなどを用意しましょう。
また、評価者が変更となる際は、前任者から後任者へ適切に情報が引き継がれていることも重要です。業務内容やこれまでの成果などが適切に共有されることで、評価のばらつきや誤解を防ぎ、派遣社員にとっても公平で納得感のある評価につながります。
評価結果を派遣会社へ伝える際は、まず派遣会社が指定する連携手段を確認しましょう。
実際の評価結果の共有方法には、派遣会社が用意したアンケート形式のフォーマットに入力する方法や、指定のExcelファイルにデータを入力して送信する方法などがあります。
またフィードバックを行う前に、社内でも承認を経る必要があります。現場責任者だけで判断せず、必要に応じて人事部門や派遣管理担当者の確認を入れてもよいでしょう。
なお派遣社員の雇用主は派遣会社であるため、評価を理由にした処遇の変更などを行う際は、派遣先と派遣社員本人だけで判断せず、派遣会社を通して対応する必要があります。
派遣会社では、派遣社員に対して「派遣先の業務環境」や「指導体制」に関するアンケートを実施している場合があります。こうした評価は、派遣社員の定着率向上やモチベーション維持のために活用されます。派遣先としても、こうしたフィードバックを受け取り、職場環境の改善に活かす姿勢が求められます。

評価制度を円滑に運用するためには、法的・実務的な注意点を理解しておく必要があります。
派遣社員に対して、社員用の評価制度をそのまま流用することは避けましょう。派遣先が行う評価は「業務遂行度」や「行動基準」に関する範囲に限定し、昇給どの処遇判断は派遣会社の権限です。
雇用関係が異なるため、長期的な雇用を見据えた賃金についても、派遣先は関与できません。派遣先が評価すべきは、雇用に対してではなく、期待している仕事(労働者派遣契約に記載されている業務内容)に対するパフォーマンスの程度を適切に評価し、事業への貢献度に絞りましょう。
事実に基づく評価を伝える派遣会社が派遣社員へフィードバックしやすいように、感情的な内容や人格否定ではなく、パフォーマンスや勤怠と言った事実に基づく評価を伝えることを意識しましょう。また、社員向けの長期的なキャリア開発評価は避けましょう。
社員評価で使用しているツールやランク定義を派遣社員にも共通で使うことで、評価の一貫性を保ち、新しい制度構築の負担も軽減できます。
また、評価者によるバラつきを防ぐための対策も行いましょう。具体的には、複数評価者制の導入や、評価基準の解釈を統一するための評価者研修、派遣社員本人への周知徹底などの施策が挙げられます。
同じ仕事の仲間として、正規社員と区別せず、取り組んだことへの評価と今後の期待を提示することは必要です。

はい、必須です。評価の目的や項目、結果の共有方法を派遣会社とすり合わせます。
特に、派遣会社が求めるフィードバックの形式(Webフォームや指定ファイルなど)や、評価の対象期間と実施時期など、具体的な運用の詳細について確認し、日程を調整することが重要です。
評価結果のみでの契約終了は避けるべきです。派遣会社・派遣先・派遣社員本人を含めた三者一体で改善機会を設けたうえで判断することが望まれます。
業務上のフィードバックは問題ありません。むしろ積極的に行うことが必要です。
ただし、賃金や契約更新は派遣会社経由が原則です。フィードバックは「期待している仕事(労働者派遣契約に記載されている業務内容)の仕事に対して取り組んだこと」や「声掛けや気働きなど 明文化はできないがチームづくりに欠かせない行動」に絞る必要があります。
また、正社員ではないからといって、事務的に伝えるのではなく、同じ職場の仲間としてアドバイスを行うことが大切です。
派遣労働者を受け入れる前準備としてだけではなく、就業開始以降も期待している業務の「なぜ・何を・どのように」を明確にし、ルーブリック(評価基準表)とのズレがないか確認を行うことをおすすめします。
また、タイミングを見ながら、チームで働くうえで重要な企業独自の分化や評価者として自身が大切にしていることなどを示すこともおすすめします。
業務や働きぶりを把握している人が適切です。例えば、指揮命令者や派遣先責任者、それに準ずる業務上の上司やリーダーが担当することが一般的です。複数評価者で客観性を高め、派遣社員の特性や背景も理解し評価に活かす姿勢が不可欠です。
第一に評価は、期待している仕事(労働者派遣契約に記載されている業務内容)において「ミスがない」「業務を一人で行うことができる」といった具体的なパフォーマンスに基づいて行うことが前提となります。
ただ、他の業務のように目標設定や成果が容易に定量化できない業務に対しては、『期初に想定』を『期中には実体』として、“どの程度の時間を要したのか”と時間を基軸にお互いの認識を合わせておくことも一つの方法です。
派遣社員の受け入れにあたり、派遣先企業が講ずべき措置について「13の指針」として整理した実務ガイドです。法令で求められる対応や、職場での適切な運用についてわかりやすく解説しています。
<この資料でわかること>
・ 派遣先が守るべき13の指針の概要
・ 各指針ごとの具体的な対応内容
・ 法令違反を防ぐためのポイント
派遣社員の評価制度を整備する際は、まず評価の目的と基準を明確にすることから始めましょう。制度を成功させるには、具体的かつ客観的な評価基準を設定することが重要です。それにはルーブリックのような手法も有効です。また制度は作っただけでは機能しません。職場でのコミュニケーションを心がけることが大切です。
そして、評価の目的は生産性を高めることであり、ワンチームとして考える文化を作っていくという視点が欠かせません。
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