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2021年6月に育児・介護休業法が改正されました。今回の改正は、男性の育児休業取得を後押しする制度や、育児休業を取得しやすい環境づくりの義務化、育児休業の分割取得制度など、主に育児休業の取得促進を目的としている点が特徴です。この記事では、育児・介護休業法の改正に至るまでの経緯や制度内容、企業に求められる対応などについて、順に解説します。
育児・介護休業法とは、働きながら育児や介護を行う労働者が、仕事と家庭生活をスムーズに両立できるようなサポートをするための法律です。
正式には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といい、その名のとおり育児・介護休業を取得する労働者だけではなく、育児や介護を行いながら仕事をする労働者も対象とした法律です。
まず、育児・介護休業法にどのような制度が設けられているのか、順に確認しましょう。
育児休業とは、子どもを育てる労働者が申し出ることで取得できる休業をいいます。企業側は、社員が育児休業取得を申し出た場合は、以下のような場合を除き取得の申し出を拒否できません。
育児休業の期間は、原則として子どもが1歳になるまでの間と決められています。ただし、子どもが1歳に達しても保育園へ入所できないなどの事情がある場合は、1歳6ヶ月まで延長が可能です。
さらに、子どもが1歳6ヶ月になっても事態が改善しない場合は、再度申請することで2歳まで延長して育児休業を取得できます。
育児休業は男女問わず取得可能で、男性労働者は子どもの出産日から、出産した女性労働者は産後休業終了後から取得できます。
そのほか、両親ともに育児休業を取得した場合は、子どもが1歳2ヶ月になるまで休業期間が延長される「パパ・ママ育休プラス」や、妻が産後休業期間の間に育児休業を取得した男性労働者が特段の事情がなくても再度育児休業を取得できる「パパ休暇」制度など、男性労働者向けの育児休業制度も展開されています。
介護休業とは、要介護状態の家族を介護するための休業をいいます。なお、要介護状態とは、「負傷や疾病、身体上・精神上の障害を抱えており、2週間以上の期間にわたって常時介護が必要となる状態」のことを指します。
対象となる家族は、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹です。
育児休業の場合と同じく、企業側は社員が介護休業取得を申し出た場合、原則として取得の申し出を拒否できません。さらに、育児休業や介護休業の取得を理由として、その社員の待遇を不当に扱うことも禁止されています。
介護休業は、入社1年以上で、取得予定日から数えて93日目を経過する日から6ヶ月以内に退職予定(契約満了)ではない労働者が取得できます。また、取得日数は対象家族1人あたり3回で、通算93日までです。
子の看護休暇とは、労働者が子どもの看護をするために取得できる休暇で、年次有給休暇とは別に設定する必要があります。看護とは、単に看病することをいうのではなく、予防接種(必須・任意ともに)や健康診断の受診にあてる時間も含まれることに注意が必要です。
対象となる子どもは小学校就学前の子で、休暇の取得限度は労働者1人あたり5日です。ただし、子が2人以上いる場合は10日となります。取得単位は、1日単位・半日単位に加え、2021年以降は時間単位も認められており、子を育てる労働者が仕事と家庭を両立させながら柔軟な働き方をできるよう設定されています。
介護休暇とは、要介護状態の家族を介護または世話をするためにあてる休業をいいます。要介護状態の定義や対象家族は、介護休業のケースと同様です。
介護休暇は、対象家族を介護する労働者(日雇い勤務者を除く)が取得できます。ただし入社6ヶ月未満の労働者や、所定労働日数が一週間あたり2日以下の労働者は、労使協定で対象外とすることも可能です。
介護休業との違いのひとつは、介護休暇の取得可能日数が短期間ということです。子の看護休暇の場合と同じく、取得限度は労働者1人あたり5日で、対象家族が2人以上いる場合は10日です。
取得単位も、看護休暇と同様に1日単位、半日単位、2021年以降は時間単位も含めて認められており、家族の病院への付き添いやケアマネージャーとの面談時間を介護休暇としてあてることも可能です。さらに、2週間前までの申請が必要となる介護休業と比べ、介護休暇は取得当日に口頭で申し出ることも認められています。
介護休暇は、介護休業と比較すると、気軽に家族の介護のサポートができる制度として定められている点に特徴があります。
育児・介護休業法が2021年に改正されるに至った経緯を、現状も踏まえ説明します。
総務省が発表する「社会生活基本調査(平成28年)」によれば、6歳未満の子どもを持つ父親の家事・育児に費やす時間は、1日あたり平均で1時間程度と、他国のデータと比較してもかなり低い水準です。
育児休業取得率も、女性労働者は直近10年ほど80%台の状況が続く中、男性の最新(2020年)の育児休業取得率は12.65%と、かなり低い数字が算出されています。
ワーク・ライフ・バランスや働き方改革が推奨される中、両親がともに働く家庭は増加しているものの、家事や育児をしているのは主に女性という状況が依然として多く、男性の育児休業取得率が際立って低いことは解決すべき課題といえるでしょう。
出典:
職業生活両立課 育児・介護休業法の改正について|厚生労働省 雇用環境・均等局(PDF)
社会生活基本調査(平成28年)|総務省統計局
マンパワーグループが2022年1月に実施した調査では、育児・介護休暇における各種制度は、男女にかかわらず利用されている傾向にありましたが、「育児休業」をはじめとする子育てに関する休業・休暇は、女性の取得率のほうが高く、男性労働者の育児休業取得率の向上の余地があることが読み取れます。
介護離職とは、介護と仕事を両立させながら生活することが難しくなり、勤め先を退職してしまうことです。昨今では、この介護離職が深刻化しています。
介護の担い手が多くみられる世代は主に40代前後が多く、いわゆる働き盛りの世代でもあります。企業としては、業務の中核を担う社員が退職することは大きな損失になり得ます。また若い世代と比較すると、介護離職者の再就職は年齢的にも難しい傾向にあり、これまでに培った経験や能力が生かせず未就労のままにある人が多いことも問題です。
超高齢社会の日本では、今後も介護をしながら働く労働者は増加するだろうと考えられ、早急に対処しなければならない問題の一つとして挙げられています。
有給休暇取得率の伸び悩みが懸念されている日本では、「会社を休む」という行為にも抵抗を感じる労働者が少なくありません。
特に、育児休業や介護休業を取得する状況になった場合、まとまった期間の休業になることから、さまざまな理由で取得に踏み切れないケースがみられます。例えば、出世など今後のキャリアに影響するのではないかという懸念に加え、上司や同僚に気兼ねしてしまうこともあり得ます。
企業が育児・介護休業の取得に対して消極的だと社員側から「育児休業を取得したい」とはなかなか言いづらいため、企業側が積極的に推奨していく必要性があるといえるでしょう。
育児・介護休業法の主な改正ポイントは以下の5つです。
具体的な改正ポイントを内容別に確認しましょう。
今回の改正の目玉である施策は「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設です。
出生時育児休業とは、子どもが生まれた後の8週間(女性労働者が産後休業を取得している期間)について、育児休業とは別に最大4週間まで休業できる制度です。休業の2週間前までに申し出れば、2回に分割して取得することも可能です。
出産直後は、母親が体調を回復させながら子どもとの生活リズムを整える重要な時期です。その時期に男性労働者が取得できる休暇制度を設けることで、男性が積極的に家事や育児にかかわる機会が生まれ、性別に関わらず育児と仕事を両立させた生活がしやすくなるねらいがあります。
これまでは、特段の事情がある場合を除き育児休業の回数は子ども一人(双子以上の場合も同様)あたり1回となり、育児休業の延長も子どもが1歳、1歳半、2歳の誕生日を迎えるタイミングに限られていることから、介護休業のような分割取得が認められていませんでした。
今回の改正では育児休業を2回まで分割して取得できるようになりました。子どもが1歳以上になって育児休業を延長する場合などにも、育児休業を分割し2度目の休業の開始日を調整することで、夫婦がバトンタッチしながら育児休業を取得できるようになりました。
育児休業を取得しやすい環境づくりのためには、企業側が育児休業に対する理解を深め、積極的な姿勢を取ることが必要です。今回の改正では、育児休業を取りやすい雇用環境の整備や、妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別対応が義務づけられることになりました。
雇用環境の整備には具体的に以下の措置が挙げられ、事業主はこのいずれかの内容を講じる必要があります。
また、妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別対応とは、育児休業制度の詳細を知らせた上で、面談・書面交付・FAX・メールなどにより休業申し出の労働者の意向を確認することです。これは、あくまでも労働者からの申し出がスムーズに行われることを目的とするものであり、取得を控えさせるような行為は認められない点に注意が必要です。
これまでは、育児休業を取得できる有期雇用労働者の要件には「継続雇用期間が1年以上であること」と設定されていました。
今回の改正でこれが撤廃となりました。なお、「子どもが1歳6ヶ月を迎えるまでの期間に契約満了をしないことが明らかであること」という要件は継続されますが、これは実際に育児休業の申し出があった際に労使間で労働契約が更新されるかどうかで判断されます。
なお介護休業の場合も同様で、これまでの要件のひとつであった「継続雇用期間が1年以上であること」が撤廃となり、「介護休業開始予定日から93日経過後より6ヶ月間の間に契約満了をしないことが明らかであること」のみが判断基準となりました。
今回の改正により、常時雇用の労働者数が1000人を超える大企業には、「育児休業など」の取得状況、特に男性労働者の育児休業などの取得状況に関して、毎年1回公表することが義務づけられました。
「育児休業など」には、育児休業や産後パパ育休に加え、3歳未満の子を養育する労働者向けの制度や、小学校就学前の子を養育する労働者向けの制度なども含みます。
具体的には、次のいずれかの割合を、インターネットなど一般者が閲覧できるような形式で公表する必要があります。
本章では、法改正を受けて企業がどのような対応を進めればよいか、具体的な説明をします。
就業規則の改定にあたり、まず現状の就業規則内容の洗い出しを行います。昨今、労働者の雇用にまつわる法律の改正が相次いでおり、それぞれの改正内容が自社の就業規則に適用されているか確認しておきましょう。
厚生労働省のホームページなどで確認できる、最新の法律に沿った就業規則モデルを参考にしながら内容の見直しを行う方法が効果的です。
その上で、育児休業・介護休業などの内容を改定します。育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇......などと、制度内容ごとに就業規則が最新の改正内容に沿っているか、一つずつ確認しましょう。育児や介護休業の対象者向けの労使協定締結が必要な場合は、早急に準備を進める必要があります。
今回の法改正で注目されているのが、男性の育児休業取得を促進するための制度です。したがって、企業側がまず念頭に置かなければならないのは、「男女問わず、育児・介護休業を取得しやすい環境づくりを心がける」ことです。
これまで女性労働者を中心に実施されることが多かった出産・育児を想定した人材配置や欠員時の補充体制、業務量の調整などを、今後はすべての世代の男女労働者向けに拡大し、実施する必要があります。
また、社員が育児・介護休業に対する知識を深められるよう、育児・介護休業に関する最新情報を適宜周知することを怠らないようにしましょう。さらに、休業取得者に対するハラスメント防止研修の実施や、相談窓口の設置などを通じて、企業全体が育児・介護休業の意義を深く理解していく必要があります。
社員の育児・介護休業取得状況を把握するためには、常日頃から社員へリサーチを行うことが必須です。社員本人が妊娠した場合ならば企業側も把握が容易ですが、男性労働者の配偶者が妊娠をした場合や、家族・親族の介護が必要となりそうな場合など、一見して分かりにくいところで育児休業や介護休業の要因となる事態が発生している可能性があります。
実際に育児・介護休業を取得する可能性が生じた場合は、早めに対応することが効果的です。対象労働者の所属部署に対して、ヘルプ体制や連携体制を整えるなどを開始し、慌てず準備を行いましょう。
育児休業や介護休業から復帰する社員は、職場の雰囲気や仕事のペース、家庭との両立生活に慣れるまではさまざまな不安を抱えているものです。企業側では、その不安を少しでも取り除けるよう、サポート環境を整備する必要があります。
まず、社員が復帰する前段階で、復帰後に社員が利用できる制度を確認しておきます。例えば、時短勤務や残業・深夜業の制限、子の看護休暇や介護休暇など、仕事と介護・育児を両立する際の負担を減らすためのさまざまな制度があります。
そして、社員の復帰前の面談でこれらの制度を確認しながら、希望の働き方のすり合わせを行いましょう。
ですが、たとえ企業と社員の双方が入念に準備をしても、実際に復帰してみると予想とは違う状態になることもあるでしょう。
「復帰したらサポートは終了」というのではなく、育児や介護にかかわる社員を取り巻く状況は常に変化していくことを念頭に置き、長期的なサポートを実施していきましょう。
これまでは特定の性別・年代の社員が対象となるイメージがあった育児や介護ですが、今回の法改正により、すべての社員にかかわるものという位置付けになったといえるでしょう。企業は、すべての社員が働きやすい環境を作り上げるためにも、改正内容を熟知した上で早急に対応を検討する必要があります。まずは、社内の状況を洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。
マンパワーグループが2022年1月に実施した調査において、2022年10月の育児・介護休業法改定前に「すでに法定以上の充実を図っている」と回答した人事担当者に対し、社内制度の充実によって男性の制度利用者は増加したか聞いたところ、6割超が「増えた」(63.0%)と回答しています。
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