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2025年6月、企業のコンプライアンス体制に大きな影響を与える「公益通報者保護法」の改正が成立しました。
今回の改正を知らずに対応が遅れると、行政指導や罰則のリスクだけでなく、企業の信頼を損なう恐れがあります。
本記事では、改正の具体的な内容から企業が取るべき対策まで解説します。

公益通報者保護法について、消費者庁は以下のように定義しています。
「公益通報者保護法」は、従業員が、お勤め先の不正行為を通報したこと(公益通報)を理由とする、解雇や降格、不自然な異動などの不利益な取扱いから保護されるための条件を定めています。
従業員が301人以上のお勤め先には、内部通報窓口の設置義務があります。
つまり、従業員が通報したことを理由に、会社による以下のような不利益な取扱いを厳しく禁止する法律です。
公益通報者保護法により、労働者は安心して企業の法令違反行為を通報できる環境が整備され、企業のコンプライアンス経営の強化が促されます。
2025年3月4日に国会へ法案が提出され、4月24日に衆議院で修正議決、6月4日に参議院で可決・成立しました。
施行日は2026年12月1日であり、企業はスケジュールを組んで対応することが求められます。

公益通報者保護法は、近年の企業における公益通報への対応状況や、通報者保護をめぐる国内外の動向を踏まえ、さらなる制度強化が必要と判断されたため、改正されました。
2022年6月にも、同法律の改正がおこなわれましたが、依然として以下のような状況が発生していました。
企業が公益通報に対して適切に対応できる体制を整備し、制度の実効性を高めることが、今回の公益通報者保護法改正の主な目的です。

今回の改正では、大きく4つのポイントがあり、それぞれが企業に具体的な対応を求める内容となっています。
改正の全体像を把握するため、まずは主要な変更点を表で確認しましょう。
| 改正 | 主な内容 |
| 事業者の公益通報への適切な対応に関する改正 |
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| 公益通報者の範囲拡大に関する改正 |
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| 公益通報を妨げる要因に関する改正 |
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| 公益通報によって発生する恐れのある不利益な取扱いに関する改正 |
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参考:公益通報者保護法の一部を改正する法律(概要)|消費者庁

企業が公益通報に適切に対応するための体制整備に関して、改正が実施されました。
主な改正内容は以下の3点です。
従業員数が300人を超える企業において、通報対応に従事する者を指定する義務に違反した場合、新たな罰則が適用されます。
従来は、行政による指導・助言や勧告にとどまっていました。しかし、改正後は勧告に従わない企業に対して命令を発せるようになりました。
さらに、この命令に違反した場合には、以下のような罰則も適用されます。
企業は通報窓口の担当者を明確に指定し、従業員が守秘義務を遵守しながら適切に対応できる体制を整える必要があります。
消費者庁は、従業員数300人超の企業に対して報告を求めるだけでなく、事業所への立入検査を実施できる権限を新たに持つことになります。
もし、以下のような違反行為があった場合は、30万円以下の罰金が科されます。
本罰則についても両罰規定が適用されるため、企業と行為者の双方が処罰の対象となります。
企業は通報の受付記録や調査の経過、是正措置の内容などを適切に記録・保管し、行政からの求めに応じて速やかに提出できる準備が必要です。
従来も、企業には公益通報対応体制を整備する義務がありました。しかし今回の改正により、体制の整備だけでなく労働者等への周知義務が法律上明確に規定されます。
単に通報窓口を設置するだけでなく、存在や利用方法を全従業員に確実に伝えることが求められるのです。
従業員への周知方法としては、以下の方法が考えられます。
新入社員や中途入社者に対しては、入社時のオリエンテーションで必ず説明しましょう。

従来の公益通報者保護法では、公益通報者の範囲は以下のとおりで、雇用関係にある労働者が保護対象の中心でした。
今回の法改正により、フリーランスも新たに保護対象に加わります。
具体的には、企業と業務委託関係にある、または業務委託関係が終了してから1年以内のフリーランス(※)が保護対象です。
結果として、企業が公益通報を理由にフリーランスとの業務委託契約を解除したり、契約更新を拒否したりすることは法律で禁止されます。
企業は正社員だけでなく、業務委託に関わるすべての人材が安心して通報できる環境を整備する必要があります。
(※)フリーランスの定義は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
第2条に基づく

通報をためらわせるような企業の行為を防ぐため、新たに2つの禁止規定が設けられます。
主な改正内容は以下の2点です。
企業が労働者等に対して、正当な理由なく「公益通報をしない」という約束を求める行為が明確に禁止されており、交わされた合意や契約は無効となります。
たとえば、入社時の誓約書や秘密保持契約に「会社の不正を外部に通報しない」といった条項を盛り込むことは、本規定に違反する可能性があります。
企業は既存の契約書や誓約書を見直し、通報を妨げるような内容が含まれていないか確認しましょう。
企業が正当な理由なく、公益通報をした人物を特定しようとする行為も禁止されます。
通報者の身元を探ろうとする行為は、通報者に心理的プレッシャーを与え、他の従業員の通報意欲も低下させる重大な問題です。
改正法では、探索行為自体が違法とされ、企業は通報者の匿名性を厳格に保護することが求められます。
正当な理由の有無は個別の事案ごとに判断されますが、報復目的での探索は明確に違法となります。社内でも探索行為が禁止され、違法となることを周知することが重要です。

通報者に対する不利益な取扱いを防ぐため、立証責任の転換と罰則の強化がおこなわれます。
主な改正内容は、以下の3点です。
従来の法律では、通報後の不利益な取扱いに関して通報者側が立証責任を負っていました。しかし、通報者からの情報のみでは立証が難しいという課題があります。
このような課題を解決するため、今回の改正では通報後1年以内におこなわれた解雇や懲戒処分は、公益通報を理由としたものと法律上推定されるようになりました。
これは立証責任の転換を意味し、企業側が「通報とは関係ない理由で処分した」と証明しなければなりません。改正後は企業が正当な理由を立証できない限り、通報を理由とした違法な処分と判断されることになります。
なお、企業が外部通報の事実を知ってから解雇・懲戒をおこなった場合は、企業が知った日から1年以内が推定期間となります。
従来の法律では、不利益な取扱いを禁止していますが、罰則については定められていませんでした。
今回の改正では、公益通報を理由に解雇または懲戒処分をおこなった者と企業に対して、刑事罰が新設されます。
具体的には、以下のような罰則が適用されます。
| 対象 | 刑事罰 |
| 違反対象者(個人) | 6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 法人 | 3,000万円以下の罰金 |
刑事罰の対象となるのは解雇と懲戒のみとなり、その他の不利益な取扱いに関しては対象外です。
企業は管理職を含む全従業員に対して、通報者への報復が重大な犯罪行為であることを徹底的に教育する必要があります。
公益通報を理由に一般職の国家公務員等に対して分限免職や懲戒処分をおこなうことが、明確に禁止されます。
違反した場合には、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。これにより、公務員においても通報者が安心して声を上げられる環境が法的に担保されるでしょう。
官民を問わず、組織全体で通報者保護の重要性を認識し、適切な対応体制を構築することが求められています。

2025年の法改正は、単にルールを知っていれば良いというものではなく、具体的なアクションが求められる内容です。
もし対応が遅れれば、施行後のトラブルで行政指導を受けたり、社内の混乱を招いたりするリスクが高まります。
企業が取るべき対応は、以下のとおりです。
まず、社内および社外に設置している通報窓口が、改正法の要件を満たしているか総点検を実施しましょう。
具体的には、以下のような一連のプロセスが消費者庁の定める指針の基準を満たしているか確認が必要です。
とくに重要なのは、新たに保護対象となるフリーランスや業務委託契約終了後1年以内の者も利用できる制度になっているかという点です。
不備が見つかった場合は速やかに修正し、実効性のある通報制度へと改善しましょう。
改正法に照らして、以下のような書類に問題となる内容がないか精査しましょう。
とくに、注意すべきは、通報を妨げるような条項や、通報を理由とした不利益取扱いを可能にするような規定です。
たとえば、守秘義務条項が、正当な公益通報まで禁止するような広範な内容になっていないか確認が必要です。フリーランスとの業務委託契約についても、通報を理由とした契約解除を禁止する条項を追加するなど、保護対象拡大に対応した見直しが求められます。
法務部門や顧問弁護士と連携しながら、改正法に適合した契約書類へと更新していくことが重要です。
整備した内部通報制度の内容を役員や従業員、フリーランスなど、すべての関係者に確実に周知してください。
周知方法としては、以下の方法が効果的です。
とくに、管理職や人事担当者に対しては、通報を受けた際の具体的な対応手順や注意点について、より詳細な研修を実施する必要があります。
どのような行為が不利益な取扱いや通報妨害にあたるのかを具体例を交えて教育し、通報者が安心して制度を利用できる企業文化にしていきましょう。
改正法により、行政は体制整備が不十分な企業に対して報告徴収や立入検査を実施できるようになります。
行政からの勧告に従わない場合は命令が発せられ、命令違反には企業や行為者に罰金が科されるため、誠実に対応できる体制整備が必要です。
企業は以下のような一連の対応に関する記録を適切に作成・保管しておきましょう。
行政から報告や資料提出を求められた際に、速やかかつ正確に対応できるよう、記録管理の方法を事前に確立しておくことが重要です。
改正法の施行日は2026年12月1日に定められている、逆算して準備スケジュールを組みましょう。
規程の改定やシステムの見直しには数ヶ月かかることも珍しくないため、直前になって慌てないよう注意が必要です。
余裕を持った計画を立て、施行日の3ヶ月前にはすべての準備を完了させておくことを目標にしましょう。

ここでは、公益通報者保護法の改正に関するよくある質問と、その背景や一般的な情報をまとめています。
派遣社員は、雇用契約を結んでいる派遣会社だけでなく、実際に業務をおこなっている派遣先に対しても公益通報が可能です。
そのため、派遣先は、派遣社員からの通報であっても正社員と同様に適切な対応をする義務を負っています。通報を理由とした派遣契約の解除などの不利益な取扱いは、法律で明確に禁止されています。
派遣先は、派遣社員も通報制度の対象に含まれることを社内で周知し、安心して利用できる環境を整備しましょう。
匿名による通報の場合、通報者が特定される可能性は低いと考えられています。
今回の改正により「通報者探索行為の禁止」という新たな規定が設けられ、通報者を特定しようとする行為自体が法律で禁止されたためです。
企業は正当な理由なく通報者を特定する目的で調査をおこなえず、違反すれば法的責任を問われることになります。
ただし、通報内容の調査を適切に進めるために必要最小限の範囲で情報を収集することは問題ありません。匿名性を保ちながらも実効的な調査を実施できるよう、企業は慎重かつ適切な対応が求められます。
今回の改正により、報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合、違反者と企業の両者に対して30万円以下の罰金が科される可能性があります。
さらに、通報を理由に解雇や懲戒処分をおこなった場合、個人には6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。法人に対しては最大3,000万円以下という高額な罰金が設定されており、企業の社会的信用も損なわれるでしょう。
企業は通報への適切な対応と通報者保護を徹底し、決して法令違反を起こさない体制を構築することが重要です。
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公益通報者保護法の改正は保護対象者の拡大や罰則の強化など、企業にこれまで以上に厳格な対応を求めるものです。
まずは、自社の現状の通報制度を確認し、改正法の要求事項と照らしあわせて不足している点を洗い出すことから始めましょう。
そして施行日までの限られた時間で確実に対応を完了させるため、速やかに具体的なスケジュールを策定し、準備に着手することが重要です。
通報者が安心して声を上げられる環境を整備することで、組織の健全性が高まり、長期的な企業価値の向上にもつながります。
企業として行動を開始し、施行日を万全の体制で迎えられるよう準備を進めていきましょう。
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