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一般的にフィードバックとは、製品やサービスあるいは業績や仕事ぶりに対する反応・感想など、改善の根拠になる情報を指します。
ビジネスシーン、特にマネジメントの場で使われるフィードバックとは主に、上司が部下に対してビジネス上の意思決定や行動について振り返る場面を設定し、部下に成長のためのアドバイスを与えることを指します。
フィードバックの場面としては評価面談が代表的ですが、日常業務の中でもフィードバックの活用は可能です。いずれの場合でも基本となる上司の心構えは同じなので、本記事では「評価面談におけるフィードバック」を軸として解説します。
冒頭でもお伝えしたとおり、マネジメントにおけるフィードバックは「評価結果などを上司と部下が振り返ること」です。
「上司が評価結果を部下に説明する場」だと思っている人もいるかもしれませんが、「上司が一方的に説明する」のはフィードバックとは言えません。後述しますが、有意義なフィードバックにするには、部下自身が評価結果を踏まえて次の行動に移れるような機会にすることが重要です。
自身の長所や強みを強固なものにするには何が必要なのか、今後改善・向上すべきことは何なのかを自発的に考えるためには、まず自身の現状を把握することが重要です。
フィードバックを実施する目的の第一には、部下自身が「その時点における、自分のポジションを知る」ことにあります。
上司からのフィードバックを部下が納得して受け止められれば、モチベーションアップにつながります。重要なのは「本人が評価をどう受け止めるか」です。
「評価が低いと社員のモチベーションが下がる」と誤解されがちですが、決してそうではありません。フィードバックを通じて、評価の高低以外の細かな意図が本人にしっかり伝われば、行動変容につながりやすく、モチベーションアップも期待できます
部下がフィードバックを通じて「評価に納得ができた」ということは、「上司の考える自分の良い点・改善点と自分の考えるそれに齟齬がない」ということです。
それによって上司にとってはどのような仕事を部下に任せればよいか、部下にとってどのように行動するべきなのかを知るヒントが得られます。いずれも、本人の今後の仕事への取り組みに関わり、成長に大きな影響を及ぼすでしょう。
フィードバックによって部下が得られるものは成長のための気付きだけではありません。部下は「上司が自分の仕事をちゃんと見てくれているか」不安に思っているものです。適切なフィードバックによってそういった不安が解消され安心感を得ることができます。
同時に上司にとっては、部下の成長を手助けするだけでなく、部下からの信頼を得ることにもつながるのです。
フィードバックで重要なのは「双方向性を保つこと」です。上司が一方的に話すのではなく、フィードバックの時間全体の8割ほどを部下の話を聞く時間に充てられれば理想的です。
筆者が独自に行った調査では、「評価に対する納得度は面談の内容と相関する」ことと、「面談の納得度は、上司が話をよく聞いてくれたかどうかと相関する」傾向がみられました。これらのことを念頭に置いて、フィードバックの進め方のポイントを解説します。
部下の行動についてフィードバックを行うのは、評価面談の場に限られたものではありません。日常の行動についてのフィードバックは、時間が経過しないうちに実施した方が効果的です。タイムリーにフィードバックを行うことで、より効果的に部下の行動変容を促すことができます。
フィードバックに必要な時間は内容にもよりますが、評価面談であれば1時間程度を見込み、あらかじめ時間を設定しておきましょう。たとえそれほど時間がかからないと見込んでいても、社員の予定を考慮して事前にスケジュールを組むことで、社員は安心して面談に望むことができます。
面談はアイスブレイクから始めましょう。アイスブレイクとは「氷を溶かす」という意味で、心の緊張を解きほぐす作業のことを指します。
上司と部下が改まって面談するのは、いずれの側でも緊張するものです。「雑談」から始めることで、話しやすい雰囲気を作ることができます。話題は、その日のニュースでも、個人的な話題でも構いません。
筆者は企業向け評価面談研修の講師をしていますが、「部下とは日常的に会話しているため、アイスブレイクは不要」と思っている方でも、アイスブレイクを取り入れたフィードバックの実習を行うと、「実際にやってみると、アイスブレイクの必要性がわかりました」と仰います。
仕事上で行う会話とフィードバックで行う会話は、特に部下にとってはまったく異なるものであることをよく理解し、部下がリラックスして会話できるように努めましょう。
話しやすい雰囲気にすることで、行動の背景や部下の想いや判断の理由まで聞き出し、過去の行動事実だけでなく部下の考え方や状況に沿ったアドバイスをすることができるようになります。
フィードバックの際に「まあまあできていた」「もう少し明確にすべきだった」といったあいまいな表現を使うことは避けましょう。過去の出来事の積み重ねである評価を明文化することは難しいかもしれませんが、あいまいな表現を使うと、何が評価されていて、何を改善すべきなのかが部下に伝わらず、行動変容に繋がりにくくなります。
例えば、「都度、状況を報告してくれていたことを評価しています」「会議の場で議題にしておくべきことだったので、この点は改善しよう」など、具体的な例で示すことで部下も理解しやくなります。フィードバックを受け取る側に立った伝え方を心がけましょう。
具体的な事例でフィードバックできれば、部下はその例を参考に「今後どうすれば良いか」がわかります。例えば、「都度、状況の報告をしてくれていたことが評価された」と言われれば、「これからも、報告を実施していくことが大事なんだな」と気づきます。
また、上司が質問をすることで、部下の次のアクションを引き出すことも可能です。
「いつから始めましょうか?」「今後はどうしようと思っていますか?」といった質問を投げかければ、部下は回答した自身の言葉をきっかけに具体的な行動にうつりやすくなるでしょう。
フィードバックで重要なことは、本人が自分で考え、そして答えを見つけることです。その時間は、部下の成長のためには貴重な時間となるでしょう。また、「自ら考え、導き出した答えである」ということは、自発的な行動を促すことにつながります。
上司が部下にアドバイスを行うことは、部下に親身になっているからこその行動でしょう。しかし、そこにはふたつの問題があります。ひとつは「自分自身の頭で考える習慣が育たないこと」、もうひとつは「上司にその後の行動を押しつけられたと受け止められてしまいかねないこと」です。
常に上司のいる状況下にあり、一挙手一投足を上司の指導に沿って行っていては、社員は成長しませんし、上司が社員の行動を逐一コントロールするのは、マネジメントの本来業務ではありません。
部下の答えを辛抱強く待つことで、フィードバックの時間は貴重な成長の機会になります。部下が自分自身で答えを導き出せるよう、自身の意見は控えめにし、部下の意見を尊重することを心がけましょう。
フィードバックの実施は、上司自身の成長にもつながります。部下の行動を振り返って、なぜ成果に結びつかなかったのか、なぜミスが発生したのかなどを考えることで、自分の行動を改める重要な気づきを得られるのです。
例えば、「部下が成果を逃したのは、上司が優先順位を指示しなかったため」「上司が部下にミスを起こしやすい仕事の与え方をしてしまっていた」など、部下への評価の原因が上司の行動にある可能性は否定できません。
フィードバックを通じて問題点を見つけられるのは、部下だけではありません。部下へフィードバックを行うことで、部下からも上司にフィードバックがなされると考えましょう。部下の行動変容を求めるだけではなく、上司としても成長のための足掛かりになると捉えてみてはいかがでしょうか。
フィードバックには、評価を肯定的に伝える「ポジティブ・フィードバック」と否定的に伝える「ネガティブ・フィードバック」があります。それぞれがもつ効果を解説します。
ポジティブ・フィードバックは評価を肯定的な言葉で伝えるものです。上司が承認することで、部下は「自分は信頼され、期待にこたえる能力がある」と、安心感と有能感を覚えることができます。
例えば部下のプレゼンが終わった後で、「すごく聞き取りやすく、わかりやすいプレゼンだった」とフィードバックすることで、部下はさらに期待にこたえようと意欲が増すでしょう。良い点をさらに伸ばしたいような場合に、ポジティブ・フィードバックは効果的といえます。
ネガティブ・フィードバックは評価を否定的な言葉で伝えるもので、注意を促すことで部下に緊張感を持たせ、奮起を促します。
プレゼンの例でいえば、「声が小さくて、聞き取りにくかった」とフィードバックします。部下には、問題点を認識し、それを克服することが期待されます。このように、部下の問題点を指摘し、改善を促したい場合にネガティブ・フィードバックが使われます。
ただし、ネガティブ・フィードバックには注意が必要です。ポジティブ・フィードバックが「安心感と有能感」を与えるとすれば、ネガティブ・フィードバックは「不安感と無力感」を与えてしまう懸念があります。
人間には誰しも得手不得手があります。それに加え、そのときのコンディションや運によって、普段できることができないこともあります。ネガティブ・フィードバックをする場合には、部下に不安感や無力感を味わわせないよう、必ずポジティブ・フィードバックとセットで行うように心がけましょう。
フィードバックの手法には、いくつかのフレームワーク(型)があります。ここでは3つのフレームワークを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバックをサンドイッチのように挟む方法です。最初にポジティブ・フィードバックを行い、次にネガティブ・フィードバック、最後にまたポジティブ・フィードバックを行うことで、伸ばして欲しい点と改善して欲しい点を部下が受け入れやすくなります。
SBIとは「Situation(状況)」「Behavior(行動)」「Impact(結果)」の頭文字を取った言葉です。フィードバックは具体的でなければ行動改善に結びつかないため、日頃から部下を観察し「どのような状況で」「どのようなことを行い」「その結果がどうであったか」を上司が把握しておくことが大切です。
この3点を把握し、S→B→Iの順番で部下に伝えることで、部下はフィードバックの内容が理解しやすくなり、行動改善につながりやすくなります。
KPTは「Keep(維持)」「Problem(問題)」「Try(挑戦)」の頭文字を取った言葉です。「今の状態で良いところ」「課題だと思うところ」「課題の解決方法」の3つの観点でフィードバックを行う方法です。最初の2つはポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバックで、最後に「今後、どのようにして課題解決に取り組むか」をプラスする方法と考えてもよいでしょう。
上司が指摘したい点を想定しながらも、あえて部下に意見を尋ね、コミュニケーションを取りながら進めることで、部下が自ら考えて行動改善しやすくなります。
フィードバックで重要なのは部下の話を聞くことですが、その中で注意や助言を行うこともあるでしょう。その際に伝え方を間違えると、上司の意図が正しく伝わらなかったり、部下のやる気を削いでしまったりする結果を招いてしまいます。注意しておきたい3つのポイントを例示し、解説します。
例えば、何度注意しても同じミスを繰り返す部下がおり、フィードバックの際に上司が「あなたが杜撰だから毎回ミスをするのでは?」ということを言ってしまったケースで考えます。
この発言で注意しているのは「あなた(部下の人格)」であって「部下の行動」ではありません。上司が変えたいのは、部下の人格や性格ではなく、行動であるはずです。ミスを繰り返してしまう部下へのフィードバックでは、「ミスが繰り返し発生する原因」を上司と部下が一緒に考え、解決方法を追究することが正解でしょう。
フィードバックは、基本的には周りに人がいない状況で、会議室など周囲に話が聞こえない場所を確保して行いましょう。時に緊張感のある話題も出るフィードバックの場において、他の社員に気兼ねなく会話できるよう、人前を避け、落ち着いて話ができる場所を確保しましょう。
例えば、上司の注意を理解しているのかがわかりにくく、仕事をマイペースに進める社員がおり、仕事の速い別の社員「Aさん」と比較して「Aさんであれば、もっとスピーディに対応してくれるのに」と言いたくなってしまったシーンで考えます。
キャリア開発の施策のひとつに、行動の指標となる優秀な社員のロールモデルを人事や上司から提示するという手法はありますが、フィードバックの場でロールモデルを持ち出すと「どうせ自分はAさんとは違う」と反発を招いてしまう可能性もあります。このような受け取られ方をしてしまうと成長や改善も促せません。
フィードバックで必要なのは、上司視点での比較や評価ではありません。部下が自分で改善点に気づけるようにすることがフィードバックの主たる目的であることを忘れないようにしましょう。
適切なフィードバックは、部下の行動改善や成長をもたらし、ひいては企業の成長につながります。しかし、上司からの一方的な評価の伝達になってしまう、交渉の場になってしまう、伝え方を間違ってしまうなど、一歩間違えれば部下の成長が得られないばかりか、モチベーションダウンを招きかねません。上司と部下にとって、フィードバックの時間がそれぞれの今後の行動を考えられる場になることを目指しましょう。
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