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事務処理の効率化、人材不足の解消、人件費の適正化などを目的に、RPA(Robotic Process Automation)の導入を進める企業は増えています。RPAのメリットは数多く挙げられますが、高度なプログラミングの知識がなくても利用が可能で、定型業務の自動化推進ができるのが大きなメリットのひとつです。
マンパワーグループでも、RPAツール WinActor(※1)を用いたロボットが既に数十台稼動して。そのほとんどはITエンジニアが開発したものでした。しかし、WinActorの操作性を考えれば、開発経験がない社員でも開発が可能だと考え、IT業務未経験者によるRPAロボット開発をスタートさせています。
本記事では、マンパワーグループにおけるIT未経験者のRPAロボット開発の事例をご紹介します。
※1 WinActorとは
NTTグループにより開発・利用されてきた長い歴史と豊富な導入実績に裏打ちされた機能を備えた純国産「RPA」ソリューションです。
WinActorは『Windows端末上のアプリケーションの操作を学習し、自動実行するソフトウェア型ロボット』 です。
▼WinActorはNTTアドバンステクノロジの登録商標です
マンパワーグループには、「M-Shine」 という20代の若年層を中心としたスタッフの無期雇用派遣サービスがあります。
「M-Shine」の担当部門責任者は、マンパワーグループが開催したRPA体験セミナーに参加し、RPAの導入によって自部門の事務作業効率を大きく改善することができると判断しました。
当初は他部門と同様に、ITエンジニアへRPAロボットの開発を依頼する予定でしたが、メンテナンスの利便性や導入範囲の拡大を見据え、自部門で保守・運用が可能な体制が必要と判断。メンバーのひとりに自部門のRPAロボット開発のミッションを与えました。
RPAロボット開発担当者に任命された森は、人事系業務管理担当としてスタッフの入社退社の手続きや勤怠管理、給与計算などの業務を担当しています。Excelを使った業務経験は豊富ですが、IT系開発の経験はありませんでした。そんな中、上司の指示により担当業務と同時進行で、RPA開発に取り組むことになりました。
M-Shine推進課 森
プログラミング未経験でRPA開発担当になった森のOAスキル
中級程度。
マイクロソフト オフィス スペシャリスト試験のExcelスペシャリスト合格。エキスパートレベル(上級)の問題は半分くらいは理解できる。一般的な関数の組み合わせ等は問題なし。あまり使われない関数については、インターネットで調べて組むことはできる。マクロの作成はNG。開発経験はゼロ。
まずは、開発にとりかかる前の基礎知識の習得のために、マンパワーグループが開催している『WinActor初級1Dayセミナー』に参加してもらいました。
実習型のセミナーで、RPAの基礎操作について実技を交えながら1日かけて学ぶものです。具体的には、以下の内容について習得します。
WinActorの仕組みや、WinActorができることを理解するには十分でした。午前中に簡単なシナリオを作って、動かしてみた結果、指示通りの動作が完了したときに、大変驚きました。プログラミングが簡単にできたと。 午後はややレベルアップした内容になり、実業務で使えそうだなとイメージができてきた反面、徐々に「自分で本当に構築できるのか」という不安と焦りが出てきました。研修終了後は、テキストを見ながら何度も課題を復習し、基礎知識を身につけていきました。
ただ、研修を1日受けただけで、開発未経験者がいきなり一人で開発できるほど簡単ではありません。今回は、ロボット開発ができる人材をスピーディーに育てたいという方針がありましたので、RPAロボット開発担当エンジニアの薄井が指導役としてサポートに入りました。
薄井は、マンパワーグループのIT系部門に所属するエンジニアです。IT開発経験は約20年で、RPAには自社導入決定時から携わっており、マンパワーグループが開催しているRPAセミナーの講師も勤めています。
指導担当の開発エンジニア 薄井
まずは初級セミナーを受けてもらった理由のひとつに「RPAによる自動化に適した業務を見つけてもらう」という点がありました。
PRAは、全ての業務に適しているわけではありません。自部門のどの業務であれば自動化できるのか、業務をよく知っている実務担当者自身に判断してもらいたかったのです。
RPAに適した業務
RPAに適さない業務
最初の開発対象業務は、自部門で行なっている膨大な「Web応募者のスクリーニングと、面接対象者のリスト化」を選定。まずは、マンパワーグループ独自の媒体を含む主要3媒体に対応するロボットを作成し、最終的には8本の全媒体に展開する計画を立てました。
WinActorで自動化したい作業
Web応募者を有効エントリー層(=面接対象者)と不合格層に仕分ける
業務で使用しているツール
募集媒体の管理ページ(Web)
応募者一括管理システム(Web)
Excel
次は、手順書の作成です。手順書とは、実際に使用しているWEB画面のスクリーンショットなどを用いた、細かい業務フロー図です。
例えば、chromeとExcelを同時に使用する業務の引き継ぎの際に、PCの操作に慣れた人同士であれば「chromeを立ち上げて・・・」など、ひとつひとつの動作を細かく説明することは、まずありません。
しかし、WinActorに操作を覚えさせるときには、「chromeで表示するのはどのURLのどの個所なのか」「Excelで開くのはどこのフォルダにおいてあるどのファイルなのか」など、操作したいものやその位置までをも明確に指示する必要があります。
人間が作業するには問題ないが、RPAロボットによる自動化の場合にはフローを多少変更する必要がある作業や、自動化することでイレギュラーケースの取りこぼしが発生するリスクが見つかる場合もあります。また、人間同士で引継ぎをするときと同様、無駄な重複作業はないか、あいまいな判断は入っていないかなど、業務をいったん整理して確認しておきます。
RPAロボットができるのは、あくまでも『決まった業務』です。
多角的な視点による判断が必要、もしくは人の目や判断があることで成果が向上するなどの業務は、自動化に不向きということで断念しました。
全ての業務を自動化することだけを追求すると、本来の目的である効率化を失ってしまいます。また、開発に要したコスト・時間に対して、削減できた工数・人件費が見合わないこともあります。そのため、業務の選定は慎重に行う必要があるのです。
担当者の頭の中にある情報だけで進められている業務を、まったく何の準備も無しにシナリオ作成してしまうと、抜け漏れが起きたり、修正が必要になった場合に大変な工数がかかります。エラーの原因やロジックの変更が必要になったとき、原因の特定が進まず、作成した担当者本人であっても忘れていることもあります。
手順書の作成は時間がかかりますが、シナリオ作成をする前にそれぞれの作業を逐一洗い出すことは、後々のためにもとても重要な作業です。RPAの管理を属人化させてしまうといわゆる「野良ロボット」が生まれてしまう原因にもなります。
手順書のほか、業務に使用するID・パスワード類の情報や、アウトプットに必要な情報、判断に必要な各種ルールを揃えておきます。
今回の例だと、以下のようなルールを設定しました。
例:ファイル名=作業日、シート名=エリア名&合格 or 不合格
(担当者が確認するリストなので、作業日時と内容がわかりやすいものに設定)
「Web応募者のスクリーニングと、面接対象者のリスト化」で、RPAロボットによる自動化ができた業務と人の作業として残った業務は以下のとおりです。業務の流れにそって説明します。
応募者一括管理システム(以下「管理システム」)への自動取込に対応していない、募集媒体の管理ページに ログインし、対象期間の応募者情報をCSVでダウンロードし、管理ツールへ取込む
管理ツール上で重複応募者チェックをかけ、不要な応募者情報を削除する
画面上だけでは完結できない書類の確認や合否判断基準の変更に伴う運用変更を鑑み、人での対応としました。
管理ツールから、対象期間の応募者情報をエクセルでダウンロードし、Excel上でスクリーニングをかける ・数式を使ってのスクリーニング
管理ツール及び募集媒体の管理ページにログインし、エクセルでのスクリーニング結果に沿って応募者のステイタスを変更する(対象者を探し出し、合否や理由等を選ぶ)
応募日から2営業日後に各媒体の管理ページへログインし、不合格者への不合格通知を送る。
有効エントリー層に対して面接日程調整メールを送る
面接日程調整がかかり複雑なため、対応フローをメンバーと話し合った結果、現状の方が望ましいという判断になり、自動化の対象から外しました。
準備が整ったところで、実際にWinActorを使った作業を開始します。
今回は、セミナーで身に付けた知識をもとに、分からない個所のみ指導役の薄井に質問をしながら、開発未経験者の森がひとりで開発を進めました。
また、森が作成したRPAロボットとは別に、薄井も同じ目的のRPAロボットを制作。最後に、自分が作ったRPAロボットと指導役が作ったRPAロボットを比較することで、より効率的な設定の方法などを自分で発見してもらうためです。
ここで、開発未経験者の森とエンジニアである指導役の薄井のそれぞれのRPAロボットの設定フローを比較してみましょう。やりたいことは同じですが、設定フローは全く違うものになりました。
開発未経験者 森の作ったシナリオ
指導役 薄井の作ったシナリオ
RPAロボット開発においては、業務が完了する設定フローが作成できていればOKなので、設定フローに単一の正解はありません。ただ、見比べて分かるとおり、開発経験者である指導役の薄井が作った設定フローは、サブルーチン機能なども使い見た目にもスッキリしています。自動とはいえ、工程が増えすぎると作業時間はそれだけかかります。指導役の薄井の設定フローの方が、工程が少なくシンプルなため作業時間が短く済むのです。
RPAによる自動化による大きな利点は、正確性を保ちながら何時間でも作業が可能な点です。工程の少ないシンプルな設定フロー作りは、処理量の向上とエラー発生のリスク軽減につながります。
「Web応募者のスクリーニングと、面接対象者のリスト化」は、4本のシナリオで構成されおり、4つのロボットが完成しました。初めてのRPAロボット制作による効果は以下のとおりです。
工数と効果 | |
---|---|
作業内容 | 募集媒体からの応募者のスクリーニングとシステム入力・メール配信 |
上記に必要なロボット数 | 4ロボット |
自動化された業務時間 | 約30時間/月 |
ロボット制作にかかった時間 | 115時間(打合せ時間含む) |
IT業務未経験者によるRPAロボット開発をスタートして言えるのは、ある程度のOAスキル・素養があれば、開発未経験であってもWinActorでロボットの開発は可能だということ、また、経験者のサポートがあると理解度の向上や開発したロボットのブラッシュアップに効果的だということです。
運用後のメンテナンスを考えても、実務部門にRPA操作と業務に精通した担当者がいることは、効率化の面で大きなメリットがあります。最後に担当者ふたりのコメントを紹介します。
まずは初級講座のテキストをもとに、ひとりでシナリオを組んでみることが大切だと思います。本当に「習うより慣れろ」の精神で取り組むと、不安が少しずつ解消されていくので実践あるのみと感じました。
そして、やはり先生の存在は重要。要所要所でのアドバイスや作り方の道筋を相談できるのは大きいです。ずっと付きっ切りでなくても、進捗に合わせ適宜15分くらい時間を取り、打ち合わせを重ねて実践......これを繰り返して一歩ずつ進んでいきました。
時短勤務のなか、本業である業務を実施しつつ、このプロジェクトを進めていたので、課内のメンバーから理解がきちんと得られていたことは、業務采配の面などでとても助かりました。
森さんは、開発者としてのスキルはお持ちではありませんが、1日研修を受講してなんとなくの感覚をつかんでもらえたようでした。その後も研修の復習を自主的に行い、マニュアルを読むなどの自習を続け、実際のシナリオ作成に入ったころには、WinActorの基礎的な操作ができるようになっていたことは、大変な強みであったのではないかと思います。
初心者の方にとって、一番難しいのは、繰り返しや分岐、そして開発者にとっては当たり前かもしれませんが変数の考え方です。研修で伝えてはいましたが、実際にご自身で簡単なデータの読み込み書き出しなどの練習を繰り返しながら、理解を深められたのではないかと思います。
開発者としての経験がなくても、WinActorがどういった動作をするのか、このノード(部品)を使ったらどうなるのかなど、ご自身で興味を持って取り組める方にはRPAロボットの開発は向いているのでは?と思います。
マンパワーグループでは、自社のロボット開発や技術者派遣・業務委託の実績を活かした
WinActor導入に関するサービスを提供しております。
このようなご要望がありましたら下記フォームよりお問い合わせください。
https://form.manpowergroup.jp/client/inquiry/manpower-winactor
RPA関連セミナー開催中!無料体験~中級レベルまでのセミナーを毎月開催しています。
開催しているセミナーはこちらより⇒ https://form.manpowergroup.jp/seminar/winactor04
RPAツールを利用することにより、作業を自動化させ安定的で正確な業務効率を高めること実現できます。また、人材が不足している昨今、人が携わる業務は厳選していくことが求められるでしょう。その意味でも導入の意義は大きいものです。
エンジニアでなくても開発ができるロボットではありますが、研修と適切なサポートがある方がRPA導入は早く進むでしょう。メンテナンスや業務フロー変更に伴う修正などを鑑みると、部門の担当者が操作できるというのは大きなメリットがあります。今回の事例を参考に、導入を検討してみてはいかがでしょうか。