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近年話題のツールであるRPA。興味は持っているものの、実際にはどういうものかはよくわからない方も少なくないでしょう。ここではRPAの詳細や、具体的にどのような種類・使い方があるのか、そしてどのように活用していくのかについて説明します。労働人口が不足している状況だからこそ、IT担当者だけでなく、人事担当者もRPAについて知っておきましょう。
RPAとは、「ロボティック・プロセス・オートメーション」 の略で、コンピューター上で人が行っている業務プロセスや作業を、人の代わりに自動化する技術のことを指します。
例えば、請求書や経費の処理、発注・納品処理、定形文のメールの処理など、ルーチン化された定型業務はほぼRPAで代替することが可能です。
「ロボット」という言葉が入っていることから、機械でできたロボットがパソコンを操作するのか?というイメージをもたれる方もいるかもしれませんが、RPAはソフトウェアの一種なのです。
このRPAには大きな注目が集まっていますが、その理由は大きく分けて次の3つです。
現在、日本企業の多くは労働力不足という深刻な問題を抱えています。そのため、企業は人手の代替手段を模索しており、製造現場であればロボットを導入するなどして対処しようとしています。
RPAの導入も人手不足問題への対処方法の一つです。パソコンを使うルーチン作業をRPAに代替させることにより、少ない人数でもできる限り多くの作業をこなせるような体制の構築が可能になります。
またRPAを使って業務を自動化することができれば、オフィスに出社する従業員の人数を最低限にし、在宅勤務やリモートワークを推進することにも役立ちます。
続いての理由は、日本の労働生産性の低さです。2019年に発表された調査によれば、日本の1時間あたりの労働生産性は、OECD加盟国の36カ国中21位となっています。これは主要先進7カ国(G7)の中で、1970年以降約50年間にわたって最下位という状況です。
「失われた30年」という言葉もあるように、経済停滞が長く続く状況の日本で、各企業もこの状況を無視できなくなっています。
労働生産性とは、そもそも 労働者一人あたり、もしくは労働1時間あたりでどれだけの生産物を産出したかを測る指標で、計算式では以下ふたつのいずれかで表されます。
労働者一人あたりの労働生産性=生産量÷労働者数
労働1時間あたりの労働生産性=生産量÷(労働者数×労働時間)
日本は、労働時間が多い上に、生産に携わる人数が多いため、労働生産性が低くなっていると言えるでしょう。
そのため、「少ない人数で、短時間に多くの仕事をする」ことができれば、労働生産性が上がります。そこで企業はRPAを導入し、時間単位、人数単位での仕事量を増やそうとしているのです。
また、企業がDXを推進する上でもRPAは欠かせません。DXとは「デジタル・トランスフォーメーション」の略で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念のことです。近年この概念を事業に取り入れるために、企業はさまざまな業務をデジタル化しようとしています。
例えば、従来は決済などにおいて印鑑で行っていた部分を電子決済システムに変える、紙ベースでの請求書のやり取りをデジタル化するなどです。
企業がDXを推進する理由としては「2025年の崖」問題に対処するためという側面もあります。この問題は、日本企業が世界の市場で勝ち抜くためにはDXの推進が不可欠であり、DXを推進しなければ2025年から年間で約12兆円もの経済損失が発生すると予測されているものです。そのため現在、大企業・中小企業の区別なく、多くの企業がDXの推進を積極的に行っています。業務をデジタル化すると、RPAによって自動化できる業務数が大幅に増えるので、DXの推進が結果的にRPAの推進につながっていくのです。
RPAはとても便利なものですが、それぞれメリットやデメリットがあります。まずはRPAを導入するメリットから説明します。
いかに熟練した従業員であっても、人間である以上、ときには作業のミスもあり得ます。しかし、RPAはソフトウェアであるため、決められた業務ではミスをすることがまずありません。特に、データをある場所から別の場所へ転記する、メールを自動送信するなどといった大量に行う単純作業では、RPAを使ったほうがはるかに効率的で、ミスなく行えるでしょう。
人件費などのコストを削減することができるのもRPAの長所の一つです。効率的に大量の作業ができるRPAに単純作業を任せれば、その分の人件費を削減できます。
作業に携わる人員数が減れば、必然的にオフィスに必要なスペースを削減することもでき、オフィスの家賃、光熱費、水道代などの諸費用をも抑えることができます。つまり、トータルでのコスト削減が可能になるのです。
RPAを導入することで、人間が行う作業をコンピューター上で自動処理できるようになります。同じ作業を人間が行うより、対応するスピードは格段に速くなるでしょう。
例えば、問い合わせを顧客から受け取りその処理を行うケースで考えると、一次返信メールの送付と関連部署への転送等の処理を手動で行う場合と、RPAに行わせた場合では、明らかに後者の方が効率的かつ正確に対応することができます。特に、作業数が多い業務や、正確性が必要な業務においては、RPAを利用するほうが効率的であると言えるでしょう。
業務フローをしっかり把握しないとRPAシステムの構築が難しいため、導入にあたっては、自動化する予定の業務のフロー全体を確認する作業から始まります。その際に、普段は意識していなかった非効率な作業や、改善が必要なポイントが見つかることもあります。これまでの業務をRPAによって自動化させるだけではなく、より改善された業務フローでシステムを構築できるのはメリットのひとつでしょう。
RPAは働き方改革にも役立ちます。RPAの導入による生産性向上や効率化により、残業時間の削減や、労働時間の短縮、特別休暇の付与もしやすくなります。従業員の働き方もよりよいものになることが期待できるでしょう。
メリットが多いRPAですが、一方でデメリットも存在します。
RPAはソフトウェアであるため、作業の自動化のためにメールや会計システムなどと連携することも多いでしょう。そのため、外部から何らかの悪意ある攻撃を受けるなどといった理由で、情報が外部に漏れてしまいかねません。
特に、大量の顧客データや取引データなど、取扱に注意を要するようなデータをいかにして漏洩から守るかは重要な課題です。RPAを導入するリスクのひとつとして考え、導入に際してはしっかりとした運用ルールの作成や体制の確立などを行う必要があります。
RPAは 利用する費用(ソフトウェア代金)だけでなく、付随する サーバー代金など含め、さまざまな運用コストがかかります。そのため、導入コストに見合う使い方をしなくては、経営上の無駄なコストになりかねません。
自社でシステムを構築できない場合には外部に委託する必要があるので、自社の状況によってはそのコストも必要となります。
RPAと言ってもさまざまなタイプの製品があるので、導入の際は運用コストもあわせて検討の上、自社にあったものを選択しましょう。運用コストに見合わない場合は、RPAの導入を考え直したほうがいいかもしれません。
RPAは定型業務のルーチンワークには力を発揮します。しかし、頻繁に業務手順が変わったり、柔軟な対応を求められたりするような業務には向きません。RPAはそもそもメールソフトや社内システムなどのようなものと連携させて運用をとる仕組みであり、業務内容が変わるとその仕組み自体も変更する必要があるからです。
そのため、業務内容が頻繁に変わるようなタイプの作業は、RPAのシステム構築にたびたび時間が必要になってしまい、かえって作業効率が落ちてしまいます。そのような作業は、自動化せず人 が行ったほうが効率的でしょう。
サーバーで駆動するタイプ、パソコン上で駆動するタイプのいずれであっても、RPAには突然停止するリスクがゼロとはいえません。理由はさまざまですが、サーバーやパソコンなど、RPAが動作しているハードウェアがトラブルでストップしてしまった場合、RPAも共に動きを停止してしまいます。
そのような事態に備えるには、あらかじめシステムが停止した場合のトラブルシューティングや、予備のサーバー、パソコンを用意するなどしましょう。
RPAは正常に動作すれば正確で便利なツールですが、最初の設定を間違ってしまうと、間違いに気づくことなくその処理を繰り返してしまいます。
RPAで業務を自動化する場合は、最初から全体を本番環境で実行するのではなく、テスト期間やテスト環境を設け、プロセスを段階的にテストしながら徐々に自動化するなど、導入方法や運用側での工夫を行うことでリスクを回避する必要があります。
自動化技術には、RPAの他にも複数の技術が存在します。古くから存在しているものもあれば、RPAと同じく新しいものも知られています。
例えば、以前より知られている自動化技術の代表として、Office製品で利用できるプログラミング言語の「VBA」や、「マクロ」といったものがあります。
これらを用いれば、ある程度の作業の自動化することができます。業務で頻繁に使うExcelの処理をVBAやマクロで自動化し、自分の作業を効率化している方は以前から見られました。
RPA同様、便利な技術ではありますが、この技術が使えるのはあくまでもExcelなどVBAが利用できるソフト内に限られています。
それらの技術とRPAとの違いは、RPAではOfficeソフトだけでなく、社内の人事・会計、さらにはコールセンターシステムなど、あらゆる業務システムと連携が可能であり、適用範囲がとても広いことにあります。
また、広範囲に適用できる自動化処理として、プログラミング言語の「Python」を用いて行うケースも増えてきています。PythonはRPAと異なり無料で利用可能な上に、AIを利用する際にも活用できるプログラミング言語であるため、近頃ではプログラマーではない従業員がPythonのプログラミングを学ぶというケースも見られています。
AIと連携し、学習能力を持つ自動化システムを作れるPythonの魅力は捨てがたいものです。しかし、Python言語のプログラミング言語の習得が前提となるため、導入や管理の容易さという面においてはRPAが比較的優れていると言えるでしょう。
RPAを導入する前に行うべきことは、RPAを行うための業務の分析と、コスト計算、そして適切な製品の選択とその運用方法の検討です。
前述の通り、RPAはルーチンワークや定型業務の自動化に適しています。まずは、日常業務のどこにこういった類の業務があるのかをしっかりと分析する必要があります。また、自社システムと連携する必要がある業務に関しては、セキュリティなどに問題を生じさせないためにも、IT部門との調整を行うことも忘れてはいけません。
分析が終わったら、次はコストの計算を行います。現在、その業務に何人の従業員が携わっており、どの程度の費用が発生しているかを概算します。
続いて導入するRPA製品を検討します。RPAには大きく分けてサーバー型、デスクトップ型があり、それぞれ利用目的に応じて汎用型・特化型に分けられます。各業務にふさわしい製品を導入するコストが導入前のコストを下回るようであれば、導入を決めるという流れです。
製品の決定前に注意すべきなのは、RPAには構築と運用・管理ができる専門の人材が必要であるという点です。最初にRPAを構築できるだけの技術があり、業務に変更が生じた場合には変更をし、異常が発生した場合にメンテナンス処理ができる人材が必要です。
また、同時にRPAの業務の「ブラックボックス化」に気をつけなければなりません。これはRPAのシステムを構築・運用・管理できる人が限られてしまい、「その人がいなければシステムを変更できない」という問題が生じる現象です。
ブラックボックス化を避けるために、RPAを構築・運用・管理できる人材は常に複数人必要となります。RPAを導入する前に、人材の育成も忘れないようにする必要があるでしょう。
RPAにはさまざまなタイプが存在しています。では具体的に、どのような製品があるのでしょうか。
RPAには「サーバー型」と「デスクトップ型」があります。
サーバー型の最大の特徴は、社内のシステムを横断的に自動化できる点です。さらに、作成したシステムを社内の従業員のパソコンに配布することにより、従業員が同じ環境で自動化の作業を行うことができる上に、管理が楽になります。
サーバー型は、自社にサーバーを置く「オンプレミス型」と、クラウドのサーバーを利用する「クラウド型」があります。オンプレミス型は自社にサーバーを置くため設定などの融通が利くという特徴があり、クラウド型の場合はサーバーの導入をしなくてもよいので導入が楽であり、拡張も簡単という特徴 があります。
クラウド型とオンプレミス型のどちらを選ぶか迷った場合、目安としては、企業規模を基準としてみることをおすすめします。例えば、全国もしくは世界規模に事業所をもち、365日24時間の運用を迫られるような大手企業は、管理が容易で、必要であればサーバーの拡張も容易にできるクラウドを用いるのが良いでしょう。
また、大手企業ではなくとも、社内にIT関連人材を豊富に抱えており、運用コストを下げたいと考えている企業の場合はオンプレミス型が向いているでしょう。RPAを導入する部門以外のシステムも含め自社でサーバーを管理することにより、全体的に見てコストの削減が見込めます。
ただ、このどちらにも当てはまらないケースも多いでしょう。その場合は、業務内容とコストをしっかり精査し、自動化する業務の内容に応じてクラウド型とオンプレミス型を使い分けるという方法を取るのが最も現実的と言えます。
デスクトップ型はユーザー個々のパソコンにインストールして使うものであり、パソコン内の個別の作業で完結する自動化に優れています。その特徴からRPAではなくRDA(ロボティックデスクトップオートメーション)と呼ばれることもあります。
単体のパソコン上での管理なら、サーバー型よりも簡単である上に、サーバー型に比べて安価であることがメリットです。一方で、管理が属人的になりやすい上に、多数の従業員のパソコンで導入した際に一元管理するのが難しいというデメリットもあります。
なお、RPA製品として人気がある製品には、デスクトップ型・サーバー型のいずれにも対応しています。現在は両方を兼ねている製品が多い傾向にあります。
汎用型か、特化型のいずれを選ぶかも、RPA製品を選ぶ際には重要なポイントになります。
汎用型はその名のとおり、オールマイティにさまざまな業務に利用できます。ただし、使えるようになるためにかなりの時間を要するということでもあり、初期設定や使い方を学ぶのにそれなりに時間がかかることは覚悟しなくてはなりません。
一方で特化型は、勤怠管理や会計処理などに特化しているため、一連のプロセスをきめ細かく連携できるうえに、細かい設定を必要としません。ただし、特定の業務以外には使えません。
このように便利なRPAですが、実際に導入されている事例を紹介しましょう。
現在、日本国内でRPAの導入が最も進んでいるのが金融機関であると言われています。国内の大手メガバンクでは、RPAを導入することにより約20種類の業務で合計2万時間の作業を自動化させることに成功しました。さらに、さまざまなデータベースや記録にアクセスしなければならないコンプライアンス部門では大きな成果を上げて、この分野に従事する作業の6~7割の業務の自動化に成功したと言われています。
大手飲食メーカーでは、POSデータのダウンロード操作にRPAを導入することにより、約5700時間の労働時間を削減することに成功しています。この作業は従来従業員の手で行われていましたが、ミスが発生しやすいものでした。この分野にRPAを導入することにより労働コストの大幅な削減に成功し、RPAの導入コストは1ヵ月分で回収することができたと言われています。
RPA導入の成功事例は大企業に限ったものではなく、中小企業でも例があります。
長野県に本社がある食品メーカーでは、それまで各卸売企業のPOSデータ収集を行うルーチン業務がありました。しかし、細かい設定が必要となるため手間がかかる上に、営業部門を通して取引企業に提出する資料であるため、正確さが求められます。そのような理由から、単純ではあるものの、負担の大きい作業が求められていました。
RPA導入前は、約50社の取引先ごとに専用のサイトへアクセスしてからPOSデータをダウンロードし、条件を設定した上で、手作業でデータを取得していたため、1社あたり約20分かかっていました。その作業をRPAで自動化したところ、1社あたり約5分で対応できるようになり、所要時間を約70%削減することに成功しました。
RPAを導入しているのは民間企業ばかりではありません。東京都のある区でも、2018年に源泉徴収システムにRPAを導入することにより、444人分の業務を削減することができた上に、ミスを減らせ、職員の労働時間を大幅に減らすことに成功しました。
熊本県内のある自治体では、2016年の熊本地震に関する災害復旧・復興業務などの業務が増加したため、これに対応するためにRPAを導入しました。RPAを導入した業務内容は、職員給与、ふるさと納税、住民異動、会計、後期高齢者医療、介護保険といった広い範囲です。これにより職員11人分の労働時間と、5年間で約3,600万円分のコストを削減できたとされています。地方自治体が各種業務にRPAを本格導入するケースは当時国内初とされ、行政がRPAを導入して業務改革を行った例として、全国的にも非常に高く評価されました。
RPAは今現在も進化を続け、新しいサービスや製品がどんどん開発されており、それに伴って使い方も多様化してきています。世の中も、DXの推進や働き方改革による労働時間の削減推進などRPAの導入を後押しするような流れになっています。もしかしたら今後、すべての働く方がRPAを使いこなし、ワークライフバランスを保ちながら仕事を進めるのが当たり前の時代が来るかもしれません。