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パートタイム労働者や有期雇用労働者の同一労働同一賃金対応にあたっては、「賞与は支給すべきか」「住宅手当や家族手当はどう扱うべきか」「どのような待遇差が問題になるのか」などの実務上の論点が生じます。
パートタイム・有期雇用労働法は、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁止し、企業には待遇差の説明などを求める、「同一労働同一賃金」と深く関わる法律です。
また、2026年10月には労働条件の明示ルールやガイドラインの見直しも予定されています。
本記事では、パートタイム・有期雇用労働法の基本的な考え方と企業に求められる対応、2026年改正のポイントなどをわかりやすく解説します。

パートタイム・有期雇用労働法を理解するうえでまず押さえたいのは、「誰が対象になるのか」と「なぜ同一労働同一賃金が求められるのか」という点です。
ここでは、法律の概要や対象者、働き方改革関連法の施行によって見直されたポイントを解説します。
パートタイム・有期雇用労働法とは、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間に生じる不合理な待遇差を禁止し、誰もが納得して働ける環境づくりを目指す法律です。
働き方改革関連法の施行によってパートタイム労働法から改正され、雇用形態にかかわらず、労働者が安心してキャリアを選べる社会の実現を目的としています。
この法律は、「同一労働同一賃金」という考え方を実現するための法的な根拠となっており、実務における重要な役割を果たしています。
同一労働同一賃金とは、同一内容の仕事をしている労働者には、不合理な待遇差を設けてはならないという考え方です。
大企業で2020年4月、中小企業で2021年4月から適用されており、現在ではすべての企業に対応が義務付けられています。
パートタイム・有期雇用労働法の対象となるのは、以下の2つの雇用形態です。
| 雇用形態 | 対象条件 |
| パートタイム労働者 | 同じ会社で働くフルタイムの正社員と比べて、1週間の働く時間が短い労働者 |
| 有期雇用労働者 | 事業主との間であらかじめ働く期間が決められた上での契約で働いている労働者 |
なお、派遣社員の派遣先との待遇の均衡については、労働者派遣法という別の法律で定められています。
現在の「パートタイム・有期雇用労働法」は、働き方改革関連法の施行に伴い、以前施行されていた「パートタイム労働法」の内容や名称が変更されたものです。
パートタイム労働法からパートタイム・有期雇用労働法への変更点は、以下の3点にまとめられます。
| 変更項目 | 変更前 | 変更後 |
| 対象者の拡大 | 短時間労働者のみ | 新たに契約社員などの「有期雇用労働者」も追加 |
| 比較対象の定義 | 正社員 | 正社員を含む無期雇用フルタイムの労働者 |
| 法の適用範囲 | 事業所 | 事業主・企業 |
これらの変更によって、従来は主に短時間労働者を対象としていた均衡・均等待遇のルールが、有期雇用労働者にも広がりました。
その結果、企業はパートタイム労働者だけでなく、契約社員などの有期雇用労働者についても、賃金や賞与、各種手当、福利厚生などの待遇差が不合理ではないかを確認する必要があります。
また、法の適用単位が事業所から事業主・企業に整理されたことで、本社や店舗ごとではなく、企業全体としての待遇差の考え方や制度設計が重要になりました。
ここでは、パートタイム・有期雇用労働法の中心となる5つの重要な条文について、以下の項目に沿って詳しく解説していきます。
| 条文 | 主な内容 | 企業に求められる対応 |
| 第8条 | 不合理な待遇差の禁止 | 雇用形態を理由として基本給や賞与などに不合理な差を設けないこと |
| 第9条 | 差別的取扱いの禁止 | 職務内容や異動範囲が正社員と完全に同じ場合、雇用形態のみを理由とした一切の差別を禁止すること |
| 第11・12条 | 教育訓練・福利厚生の提供 | 業務に必要な教育や、食堂・休憩室などの福利厚生施設をパートタイム・有期雇用労働者にも平等に提供すること |
| 第13条 | 正社員転換の機会提供 | 社内公募や登用試験など、パートタイム・有期雇用労働者が正社員へステップアップできる機会を設けること |
| 第14条 | 待遇差の説明義務 | 労働者から求められた際、待遇差の内容やその理由について資料を用いて論理的に説明すること |
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 | e-Gov 法令第8条)
第8条では、職務内容や配置の変更範囲などを考慮した上で、正社員とパートタイム・有期雇用労働者の間に不合理な待遇差を設けることを明確に禁じています。
基本給や賞与、各種手当などの待遇について「同一労働同一賃金」の原則を守ることが企業に義務付けられており、パートタイム・有期雇用労働法はこの考え方を実現させるための役割を果たしています。
そのため、企業は、パートタイム・有期雇用労働法と厚生労働省が定める「同一労働同一賃金ガイドライン」に沿って、自社の賃金制度が適切かを判断しなければなりません。
第9条では、職務内容や異動の範囲が正社員と完全に同じ労働者に対して、雇用形態だけを理由にした一切の差別的な待遇が禁じられています。
対象者は短時間・有期雇用労働者であり、職務内容や配置の変更範囲が正社員と同一であることです。
事業場のこれまでの慣行などを考慮し、雇用契約が終了するまでの全期間を通じて正社員と同じように異動や配置転換があるかが問われます。
つまり、パートタイム・有期雇用労働者であっても、実態として正社員と全く同じ働き方をしている場合は、待遇に差をつけてはいけないという規定です。
第11条では、正社員と同じ職務をおこなうパートタイム・有期雇用労働者に対して、業務に必要な教育訓練を同一水準で実施する義務が定められています。
たとえ、職務内容が異なる場合であっても、企業は従業員の能力を向上させるための教育機会を提供するよう努めなければなりません。
また、第12条では、福利厚生施設について定められており、食堂や休憩室、更衣室について、パートタイム・有期雇用労働者にも平等な利用機会を与えるよう義務付けています。
たとえば、正社員だけが社員食堂を安く利用できる、またはパートタイム・有期雇用労働者には更衣室を使わせないなどの運用は違法と判断される可能性が高いです。
第13条では、パートタイム・有期雇用労働者に対し、正社員へ転換できる機会を設けることが企業に義務付けられています。
企業が正社員の募集をおこなう際には、次のいずれかの措置を講じなければなりません。
意欲のあるパートタイム・有期雇用労働者がキャリアアップを目指せる道筋を用意することも、企業に求められる役割のひとつです。
第14条は、パートタイム・有期雇用労働者から求めがあった場合に、正社員との待遇差の内容やその理由を説明する義務を企業に課す規定です。
労働者は、正社員との間に待遇差があると感じた場合、その内容や理由について、事業主に説明を求める権利を持っています。なお、待遇差について説明を求めたことを理由に、その労働者に対する不利益な取り扱いは禁じられています。
事業主は説明を求められた際、資料などを用いながら、働き方や役割の違いに見合った「不合理ではない理由」を明確に伝えなければなりません。
待遇差の内容だけでなく、その差を設けている理由や判断基準も整理しておくことで、従業員から説明を求められた際に対応しやすくなります。

2026年10月に予定されている法改正では、法律の本体そのものではなく、施行規則やガイドラインなどの重要なルールが見直されます。
ここでは、2026年10月改正を以下の3つのポイントで解説します。
参考:労働者・事業主の皆さまへ パートタイム・有期雇用労働者に関する ルールが変わります(令和8年10月1日施行)|厚生労働省(PDF)
2026年10月の改正では、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際に明示すべき労働条件の項目が、新たに追加されます。
具体的には、「待遇の相違の内容及び理由等について、説明を求められる」という旨を、書面などでの明示が義務化されます。

引用:労働者・事業主の皆さまへ パートタイム・有期雇用労働者に関する ルールが変わります(令和8年10月1日施行)|厚生労働省(PDF)
なお、この明示義務に違反した場合は過料の対象となるため、施行前に通知書や契約書の様式を確認しておくことが重要です。
同一労働同一賃金ガイドラインの改正では、賞与や各種手当の不合理な待遇差の判断基準が、さらに明確化されます。
具体的に、今回ガイドラインとして追加された内容は以下のとおりです。
これらの手当や制度を、正社員にのみ支給し、パート・有期雇用労働者には支給しないなどの運用をおこなっている企業は、自社制度を点検する必要があります。
新たに追加された項目と自社の賃金規程を照らしあわせ、不合理な待遇差が生じていないか点検しましょう。
参考:労働者・事業主の皆さまへ パートタイム・有期雇用労働者に関する ルールが変わります(令和8年10月1日施行)|厚生労働省(PDF)
同一労働同一賃金ガイドラインの改正にあわせて、パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理改善に関する指針も見直されます。
具体的には以下のとおりです。
とくに事業主は、パートタイム・有期雇用労働者から待遇差について問われた場合、その理由や内容、法的観点から考慮した事項を説明する義務が生じます。
待遇差の説明方法について厚生労働省は、次のいずれかの方法によることが望ましいとしています。
引用:労働者・事業主の皆さまへ パートタイム・有期雇用労働者に関する ルールが変わります(令和8年10月1日施行)|厚生労働省(PDF)

ここでは、パートタイム・有期雇用労働法における企業の対応手順について解説します。
まずは、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間で、どのような待遇差が設けられているのかを整理します。
雇用区分ごとの待遇一覧表を作成しておくと、差がある項目と内容を客観的に整理しやすくなります。まずは待遇の全体像を整理し、どのような差が設けられているのかを把握することが重要です。
待遇に差があることがわかった場合は、その差に正当性があるか検証します。具体的には、以下のような事情に見合った差であるかを確認していきます。
たとえば、通勤手当のように、交通費を補助するという目的が正社員と同じであれば、パート・契約社員にも同一の支給をしなければなりません。
福利厚生についても、雇用形態の違いだけを理由に利用を制限するのは、不合理と判断されるおそれがあります。
待遇差が不合理にあたるかどうかは、その理由や目的を踏まえて判断する必要があるので、待遇差を設けている理由を整理し、合理的な根拠があるかを確認します。
待遇差が不合理であると考えられる場合は、迅速に改善策を講じる必要があります。
具体的な改善策としては、手当の支給要件を広げたり、賃金制度そのものを見直したりするなどの対応が考えられます。
就業規則や賃金規程についても、実際の運用と矛盾が生じないよう、あわせて改定しておかなければなりません。
制度変更を実施する際は、変更内容や適用時期を従業員へ周知し、運用面での混乱を防ぐことも必要です。

過去の裁判では、契約社員と正社員の間で手当の支給に差を設けたことが違法と判断され、会社が損害賠償を命じられた事例があります。
とくに、契約社員のトラック運転手が、正社員にのみ各種手当が支給されるのは不合理だとして会社を訴えた「ハマキョウレックス事件」が代表的です。
以下の4つの手当について、雇用形態の違いだけを理由に支給しないことは違法であると、最終的に最高裁において明確に判断されました。
また、裁判所は、正社員とパートタイム・有期雇用労働者の待遇差が適正かを、「職務の内容」「配置変更の範囲」「その他の事情」の3つの要素を総合的に考慮して判断しました。
この判例は、待遇差の合理性を判断する際には、雇用形態そのものではなく、職務内容や配置変更の範囲などの実態を踏まえて検討する必要があることが示されています。
参考:労働基準判例検索-全情報

パートタイム・有期雇用労働法に違反した場合、パートタイム・有期雇用労働法第30条および31条にて、企業には罰則として以下のような過料が科される可能性があります。
こうした過料の対象となるだけでなく、法令違反への対応状況によっては労使トラブルや行政指導につながる可能性もあります。
そのため、労働条件の明示や行政への報告など、法令で求められる事項を適切に履行することが重要です。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 | e-Gov 法令検索

ここでは、パートタイム・有期雇用労働法について、人事・労務担当者から疑問に挙がりやすいポイントを解説します。
従業員から待遇差について説明を求められた場合、企業にはその内容と理由を説明する義務があります。
説明にあたっては、職務内容や配置変更の範囲、その他の事情を踏まえ、なぜその待遇差を設けているのかを具体的に示さなければなりません。
また、比較対象には、職務内容や配置変更の範囲が近い正社員を選定する必要があります。
「パートタイム・有期雇用労働者だから、この手当は支給されません」など、パートタイム・有期雇用労働者であることのみを理由に待遇差を説明することはできません。具体的な比較に基づいた説明ができるよう、賃金制度や各種手当の支給目的を整理しておくことが重要です。
有期労働契約から無期労働契約へ転換した場合でも、正社員に比べて1週間の所定労働時間が短い「パートタイム労働者」に該当するのであれば、引き続きパートタイム・有期雇用労働法の対象となります。
なお、無期転換後にフルタイムで働く労働者は、パートタイム・有期雇用労働法の適用対象ではありません。
しかし、厚生労働省は、無期雇用フルタイム労働者や、いわゆる「多様な正社員」についても、労働条件の均衡を考慮する際には「同一労働同一賃金ガイドライン」の趣旨を踏まえる必要があるとしています。
そのため、無期転換後の労働条件についても、待遇差の内容やその理由を整理し、説明できる状態にしておくことが重要です。
パートタイム・有期雇用労働者に賞与を一切支給しないこと自体は、直ちに法律違反となるわけではありません。
しかし、賞与の目的が「会社の業績への貢献度に応じた支給」である場合には、注意が必要です。
この場合、パートタイム・有期雇用労働者についても、貢献度に応じた支給をおこなわなければ、「不合理な待遇差」と判断されるリスクが生じます。
賞与の支給だけでなく、自社の制度がどのような目的で設計されているかを、あらためて確認しておくことが大切です。
パートタイム・有期雇用労働法では、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間に不合理な待遇差を設けることが禁止されています。
重要なのは、待遇差を一律になくすことではなく、その差を設ける理由を説明できる状態にしておくことです。
また、2026年10月の改正では、雇い入れ時の明示事項が追加されるほか、ガイドラインの内容が明確化されます。自社の賃金制度や各種手当、福利厚生、労働条件通知書の内容を確認し、制度と運用に齟齬がないかを点検しておくとよいでしょう。
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