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労働契約法の改正により、2013年4月1日に「無期転換ルール」が定められ10年近く経過しました。本記事では主に、労働契約法の第18条の無期転換ルールにフォーカスをあてて、概要や注意すべきポイント、手続きなどを解説します。
まず労働契約法の概要について説明します。
労働契約法は、2008年3月から施行された比較的新しい法律です。
それまでは、労働基準法や労働安全衛生法などの労働者が働く上での最低基準などを定めた法律はありましたが、会社と労働者間の「労働契約」に関する詳細なルールが示された法律は存在しませんでした。
そのため、個別の労働紛争が発生した場合などは、民法やそれまでの裁判での結果に基づいて判断せざるを得ず、何が正しいのかを判断するのは労使ともに困難でした。そこで、明確なルールを作ることでトラブルを未然に防ぐことを目的とし、労働契約法が制定されました。
労働基準法は労働条件に関する最低基準であるため、これを下回ることはできません。もしこれを下回れば、刑法と同じように罰則があります。
一方で労働契約法は、会社と労働者の間の契約に関するルールであるため、罰則はありません。労使で紛争になった場合、どちらが正しいのか客観的に判断するには、最終的には裁判や労働審判などの民事的な方法により解決することになります。
労働安全衛生法は労働基準法から派生したもので、労働基準に関する規定のうち安全・衛生についてのみ独立させた法律です。したがって労働安全衛生法は労働基準法と同様に、労働に関する最低基準であり、これを下回れば罰則の適用を受けます。
一方で労働契約法には、いわゆる「安全配慮義務」が規定されています。これは「会社は、労働者がその生命・身体などの安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務が当然ある」ということを明確にしたものです。
よって、たとえ労働安全衛生法における手続きや基準を守っていたとしても、実際に業務上の事故や病気の発生があった場合は、労働契約法において会社がより広く責任を問われることになったといえます。
2013年4月の改正点のひとつとして、労働契約法第18条があります。これは「有期の労働契約を更新して5年を超えた場合に、労働者から無期契約に転換する申し込みがあった場合は、会社は断ることができない」というものです。
それ以前は有期雇用を繰り返すことを制限する法律はなく、有期雇用で働く労働者にとっては不安定な状況でした。一方で裁判などにおいては、有期雇用を繰り返していた場合には無期雇用と同様に判断されるケースが少なくありませんでした。
そこで有期雇用を繰り返すことに一定の制限を加えることで、雇用の安定を図ることとしました。
この労働契約法第18条に定められた規定が、いわゆる「無期転換ルール」です。無期転換ルールが適用される要件には大きく以下の3つがあります。
無期転換申込権は、有期契約期間が「5年を超えることが確定した時点」で発生します。
無期転換申込権とは、「要件に該当した有期労働者から無期転換の申し込みがあった場合、会社は断ることができない」というものです。なお、あくまで契約期間が無期に変わるだけなので、そのほかの労働条件を変更する義務まではありません。
例えば、1年ごとの契約を5回繰り返したとしても「5年を超えてはいない」ため、その時点では無期転換の対象にはなりません。しかし、6回目の契約を締結すると同時に5年を超えることが確定するため、無期転換申込権が発生します。
一方、最初に3年の契約を締結し、その契約を更新して再度3年の契約を締結した場合、その時点で通算5年を超えることが確定するため、まだ実際には5年を超えて働いていなくとも、契約を更新した時点で無期転換申込権が発生します。
なお、通算5年のカウントは、2013年4月1以降に開始された労働契約が対象です。
「同一の使用者」とは、原則として「同じ会社」を指します(個人事業主の場合、その事業主個人)。例えば、転勤などにより支店が変わった場合や職種や部署が変わった場合などであっても「同一使用者」とみなし、契約期間は通算されます。
また、無期転換ルールの適用を逃れるために形式的に別会社を作って転籍させるような方法でも「同一の使用者」として期間が通算されることになります。
5年を超えたら無期契約に転換しなければならないからといって、5年を超えなければよい、というわけではありません。
例えば、無期転換ルールの適用を逃れるために更新上限を5年と定めるような行為は、労働契約法第19条により無効と判断される可能性があります。
形式的には有期契約を更新していたとしても実態としては無期契約と変わらないような運用をしている場合や、有期契約の締結時において当然更新されるものと考えられるような状態にあった場合にも、無効とされる可能性が十分に考えらます。
労働者からの無期転換の申込みは口頭で受けることができますが、トラブルを防ぐためにも書面の取り交わしをおすすめします。厚生労働省では無期転換申込に関する参考様式を公表していますので、参考にするとよいでしょう。
なお、無期転換ルールについて会社から労働者に周知する義務まではありません。ただ、無期転換後の労働条件や取り扱いを明確にしておくことは、労使双方にとって望ましいといえます。
無期転換ルールについて周知を行い就業規則に記載した上で、労働条件や申込書の提出方法など、会社として制度を明確にしておくことをおすすめします。
参考:参考様式 無期労働契約転換申込書・受理通知書の例|厚生労働省(PDF)
無期転換に関する注意点を解説します。
労働者にとって更新が期待されるような状況にある場合に無期転換をせず契約を終了した場合、その雇い止めが無効と判断される可能性があります。
例えば、長期に渡って契約が更新されていて無期雇用と変わらないような場合や、雇用契約書に次回の契約も自動的に更新されるような記載がある場合などです。
また、特に理由もなく有期雇用の上限を5年と定めている場合なども、無効と判断される可能性があります。
有期雇用契約において5年を超えて繰り返し更新していても、途中で空白期間(無契約期間)が一定以上続いた場合、それ以前の期間は通算対象ではなくなります(このことを「クーリング」と呼びます)。
例えば、いったん退職したのちに、再び雇用された場合などが該当します。
ただし、通算契約期間が1年以上ある場合のクーリングされる無契約期間は6か月以上であり、通算契約期間が1年未満の場合にクーリングされる無契約期間は下表のとおりです。
無期契約期間前の通算契約期間 | 契約がない期間(無契約期間) |
---|---|
2ヶ月以下 | 1ヶ月以上 |
2ヶ月超~4ヶ月以下 | 2ヶ月以上 |
4ヶ月超~6ヶ月以下 | 3ヶ月以上 |
6ヶ月超~8ヶ月以下 | 4ヶ月以上 |
8ヶ月超~10ヶ月以下 | 5ヶ月以上 |
10ヶ月超~ | 6ヶ月以上 |
出典:有期契約労働者の無期転換ポータルサイトQ&A|厚生労働省
なお、病気などを理由とした休業期間などは、労働契約期間が続いている限りクーリング期間とはなりません。
また、いったん退職したのち6か月後に再雇用することを約束しているような、形式だけのクーリング期間を設けるような行為は無効と判断される可能性が高いです。
高度な専門的知識などを有する有期雇用労働者や、定年後引き続き雇用される有期雇用労働者は、労働局の認定を受けることにより無期転換申込権が発生しないこととする特例が設けられています。
そのほかの特例の紹介や、申請から認定の流れなどが厚生労働省のWebサイトで案内されているので、必要に応じて確認しておくことをおすすめします。
いわゆる登録型派遣といわれる有期雇用の派遣労働者の場合も、無期転換ルールが適用されます。
派遣労働者が無期転換を申し込むのは「派遣会社(派遣元)」です。派遣先の会社が無期転換の申し出を受けることはできないことを理解しておきましょう。
有期雇用の派遣の場合、同じ会社の同じ部署への派遣については、派遣法により3年が上限とされています(いわゆる3年ルール)。
ただし労働契約法の無期転換申込権は、ほかの派遣先への派遣期間も含めて通算されます。そのため、派遣法3年ルールにより派遣先が変わったとしても、引き続き同じ派遣会社(派遣元)から派遣されているのであれば、期間を通算して5年を超える場合、無期転換申込権が発生します。
無期転換ルールは、制度の内容をしっかり理解していれば手続きが難しいことはありません。有期雇用労働者を無期雇用に転換することは会社にとっては負担に感じられるかもしれませんが、優秀な人材を採用し定着させるためのチャンスとも考えられます。これを機に、多様な働き方を含め従業員が安心して働ける職場について会社として話し合われてみてはいかがでしょうか。
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