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採用から入社までの期間はおおよそ1カ月~数カ月を要します。新卒者は学校を卒業後、転職者は現職を退職してからの入社となるためです。このような事情から、「採用」決定から入社までを「内定」期間として、企業と応募者は互いに入社の約束を取り交わします。
しかし、「内定」と「採用」は定義があいまいで、誤った使い方をされることがよくあります。その結果、辞退や取り消しなどのトラブルが発生することも珍しくありません。今回は「内定」と「採用」の違いを明らかにしながら、トラブル対策についても解説します。
一般的に「採用」や「内定」というと広い意味で使われています。しかし、法的観点では、それぞれの語句の意味に違いがあります。「採用」と「内定」にはどんな違いがあるのか見ていきましょう。
現在「採用」という言葉は、広い意味を含んで使われています。例えば、入社や内定、募集活動などが挙げられます。定義においては諸説あり、見解が分かれるところでしょう。法的観点において「採用」とは、企業が応募者に雇用する意思を伝えること、すなわち『採用の意思を応募者に伝えた状態』のことです。
一般的に「内定」は、企業から採用通知がなされた状態として認識されています。なお、採用通知に同意することを「内定受諾」、断ることを「内定辞退」と呼びます。
一方、法的観点における「内定」は『労働契約を締結した状態』のことです。これは、企業が応募者に雇用する意思を伝え、応募者も入社する意思を示し、双方が合意していることを意味します。
また、契約を結ぶことで法的拘束力が生じます。ただし、内定から入社までは数カ月単位で期間が空くこともあるため、「始期付解約権留保付労働契約」とされており、合理的な理由があれば取り消しが可能です。
新卒採用において、内定に似た「内々定」という言葉がよく使われます。内々定とは、内定を約束しながらも、労働契約は締結していない状態のことです。法的拘束力は生じません。
なぜ、正式な内定に先立って、企業は内々定を出すのでしょうか。
これは、政府が定める新卒採用ルールで、正式な内定日は「卒業・修了年度の10月1日以降」と決められていることが関係しています。早期段階で内定を出したくても、新卒採用ルール上できないケースがあります。そこで、労働契約が締結できる期間までは、内々定という形で正式な内定の予定を約束しているのです。
採用選考で合格した後、内定に向けてなにを準備すればよいのでしょうか。内定時に「通知書」という書面を提示するのが一般的です。代表的な通知書には、「採用通知書」「内定通知書」「労働条件通知書」の3つがあります。これらの詳細と、書面に記載すべき内容について紹介します。
採用内定者に対して、「内定通知書」という書面で内定を通知します。「あなたは採用内定です」という口約束だけでも、法的拘束力が生じると考えられています。しかし、口頭では採用内定にかかわるトラブルが多いことから、「内定通知書」で書面に残す形が有効です。
また、労働条件(従業場所や賃金・労働時間など)に関しては、労働基準法によって労働契約締結時に明示することが義務付けられています。内定は、始期付き解約権留保付きの労働契約と考えられています。入社時に労働条件通知書を提示する企業もありますが、内定時に労働条件の提示を行う方が望ましいでしょう。
特に、中途採用においては、就業場所や賃金などが内定時に決まっているケースが多いため、入社後のトラブル回避に役立ちます。
内定時に活用される通知書には「採用通知書」「内定通知書」「労働条件通知書」があります。
採用通知書は「採用を通知する書面」で、内定通知書は「内定を通知する書面」です。内定通知書は、法的拘束力を持つ内定の「証し」となり得ます。しかし、法的定義が明確ではないため、区分けなく使われているのが実状です。
他方、労働条件通知書は、労働基準法第15条第1項において提示義務が定められています。詳しくは後述します。
なお、中途採用では以下のとおりに、提示することが一般的です。
「内定通知書」や「採用通知書」は、様式や内容が明確に定まっているわけではありません。だだし、内定は「始期付き解約権留保付きの労働契約」とされています。そのため、「始期=入社日」と「解約権=内定取り消しの権利」がどのようなときに行使されるかという内定取り消し事由を、内定通知書には入れておくのがよいでしょう。
【内定通知書の記載内容例】
企業は、必要事項を記載した内定通知書と内定承諾書をセットで提示します。一方、内定者は内定承諾をした旨の「承諾書」を本人サイン入りにて提出する形式が主流です。
労働条件の通知においては、法律で明示事項が規定されています。また、書面での交付が義務付けられている項目もあります。
労働条件の明示事項は、以下のとおりです。
※これらの内(1)から(5)((4)の内、昇給に関する事項を除く。)については書面の交付により明示しなければなりません。
労働条件通知書のひな形は、厚生労働省ホームページ・主要様式ダウンロードコーナー に掲載されているので、ご参照ください。
内々定を出す際、書面にて内々定通知書として提示するケースもあります。これはあくまで「内定を出す約束をするのでうちに入社してください」という心理的拘束力を発揮する書類として、企業は提示しています。
採用通知に限らず、合否連絡は早めに実施することが大切です。一度に多くの人数を採用する、他の業務の繁忙期と時期が重なってしまうなどで、タイムリーな連絡が難しそうだという場合には、RPOを活用するのも効果的です。
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採用活動において「内定」や「採用」のタイミングで、しばしばトラブルが発生します。言葉の定義があいまいな上に、求職者が入社意思を固めるにあたっても重要な要素が多く絡みあうためです。企業側・求職者側どちらも慎重に対応しなければなりません。
起きやすい3大トラブルとして「内定・労働条件の認識のズレ」「内定取り消し」「内定辞退」があります。詳しい内容と回避する方法について解説します。
まず挙げられるのが「内定」や「労働条件」の認識のズレによるトラブルです。
例えば、企業側から口頭で「内定」と伝えられたため、現在の会社に退職の話をしたにもかかわらず、応募企業は正式な内定と考えていなかったというケースが挙げられます。また、口頭で賃金の条件などを聞いて承諾をしたが、入社したら条件が違っていたというケースもあります。
このようなトラブルを避けるためにも、企業は内定時に「内定通知書」「条件通知書」を書面にて提示することが望ましいです。
「内定取り消し」に関するトラブルもよく起きます。内定を出したにもかかわらず、まだ正式な雇用をしているわけではないと企業側が安易に内定の取り消しを行ってしまうケースです。内定は、(解約権保留付き)労働契約を結んでいる状態です。合理的な理由がない限り安易な内定取り消しはできませんので注意しましょう。
最後は、求職者からの「内定辞退」に関するトラブルです。法律上では、入社予定日の2週間前に申し出れば、内定辞退ができます。これは社員が退職する際と同等の「労働契約の解約」という扱いです。
一方、求職者からの内定辞退が、著しく信義則上の義務に違反する態様で行われた場合、損害賠償責任を負うことがあります。例えば、会社がPC・制服の購入など多額の設備投資をして入社準備を進めながらも、入社直前に候補者が一方的に内定辞退をするケースです。
したがって、求職者側も「内定(受諾後)の辞退」には、その理由・時期・対応方法など慎重な対応が求められます。
現在の採用市場で、内定辞退は珍しくはありません。求職者が複数社から内定を獲得することがよくあるためです。最終的には1社に決めなければならず、それ以外の企業には内定辞退を申し出なければなりません。
しかし、企業側としては採用にかけたコストや労力などを鑑みても内定辞退はできるだけ避けたいものです。そのため、「内定受諾書」を受け取ったら終わりではなく、内定後も入社までフォローし続ける企業が多くなっています。
内定フォローのポイントは、入社前から「仲間意識」「入社マインド」を醸成することです。具体的には、内定者同士の交流の場「内定者親睦会」の開催や「内定者のメーリングリスト・SNSグループ」の作成・発信、「内定者研修」の実施などが挙げられます。また、社員と内定者の交流を図る場やツールを用意して入社前から配属部門の社員との関係構築を図るケースもあります。
実際に採用活動をするにあたっての基本的な「採用フロー」について見ていきましょう。
採用活動は、おおむね以下の流れで進みます。
昨今の採用活動は、きょう・あすで入社が決まるようなケースはほとんどありません。中途採用で1カ月~3カ月前後、新卒採用の場合は3カ月~10カ月前後かけて求人募集~内定まで行きつくというのが現状です。
入社のタイミングは内定から数カ月先になります。内定から時間が経ってしまうため、内定通知書など書面提示による「内定時の適切な対応」や、内定者親睦会といった「内定後のフォロー」が重要な要素です。
「採用・内定」のフェーズは、求職者からすると人生を左右する大事な決断のタイミングです。そのため、企業側も慎重で丁寧な対応が求められます。入社後トラブルにならないためにも、事前にポイントを押さえた上で採用活動に取り組むのがよいでしょう。