目次
メンバー全員がチームのミッションを自分事として考えられるようになったとき、チーム力は大きく向上します。では、業務管理者はそのようなチームをどのように作っていけばよいのでしょうか。
マンパワーグループのアウトソーシング部門が実施したチーム形成手法の実例を、プロジェクトマネージャーへのインタビューを交えながらご紹介します。
プロジェクトマネージャー 岩田(仮名)
プロジェクト概要
多くのアウトソーサーは、自社の正社員だけでなく、有期雇用を含めた様々な雇用形態のメンバーで受託プロジェクトチームを構成します。
このような人員構成でありながらもクライアントから高い評価を得られるのは、マネージャーが様々な雇用形態・様々なバックボーンの従業員をまとめあげ、同じ目的を達成するための意識付けを十分に行うからです。
マネージャーは、プロジェクトの目的や目標を達成し、契約で決められた成果を出していくことができるチームづくりが求められます。どのようなマネジメントスタイルを採用するかによって、チームメンバーのマインドは大きくかわります。
──アウトソーシングの現場の新任プロジェクトマネージャーとして着任した際に、最も意識していたことはなんですか
岩田:個々のメンバーが主体性を持って、自分で考えて行動するような環境を整えることを第一に考えていました。
というのも、そのクライアントのプロジェクトでは、定型的な業務でありながらもユーザのニーズをくみ取り、ユーザのニーズにあわせて柔軟に対応を変えることが必要だったからです。
ですので、メンバーとどのようにコミュニケーションをとるか、どんな関係でいられるかということはかなり意識していたと思います。
──立ち上げには携わっていないチームに途中加入したわけですが、今も記憶に残っている加入当初に苦労したことはありますか
岩田:カスタマーサービスの範囲がアジア圏をまたがっていたということもあり、メンバーが老若男女、多国籍であったことです。ジェネレーションギャップもあれば、文化も違う。そうなれば当然のことながら主義主張が異なります。
従来のヒエラルキー型のマネジメントをしてしまうこともできますが、このような環境下ではまず上手くいきません。意見や不安・不満が影に隠れやすいですし、改善すべき点もでてこず問題が悪化するということも起こりやすくなります。また、こうなるとメンバーも定着しません。
最初にもお話ししましたが、コミュニケーションをとることは意識しました。ひとりひとり意見はちゃんと聞き、向き合うように心がけていましたので、意見によってはクライアントへ相談することもありましたね。「相談相手が聞いてくれる、動いてくれる」こう感じてもらうことで、信頼関係ができていったと思います。
ただ、重要なのはコミュニケーションそのものではなく、それで何を得たいかです。私は、チーム全体がクライアント(発注者)の"方向感"を共有できるようにしたかった。
各々の理解や解釈がバラバラだと一体感をもった運用ができず、品質にムラが生じます。また、ユーザと直で関わるのはメンバーです。全体が方向感を共有できれば、業務の中で改善点やアイディアが見え、結果的により良いクオリティのサービスが提供できると考えました。
──岩田さんのマネジメントに対する考え方を聞いていると「主体性」がキーワードのようですが、これをメンバーから引き出すためにどのような工夫をしましたか
岩田:まず、クライアントの企業そのものを知ってもらうこと。
どのような意欲をもってこの事業に取り組んでいるのかを、十分に理解してもらうことに努めました。クライアントの担当者が来社した際に、会社の成り立ちや製品コンセプトを説明していただいたこともあります。
新しく加入したスタッフには、わかりやすくするために例え話やジョークを交えながら、かみくだいて話すようにしました。これには、かなりの時間をかけました。研修ではクライアントクイズなどを出しながら3時間以上も費やしましたね。
もちろん最初の研修だけではなく、折々でクライアントと同じ目線で業務を見られるように情報共有を行いました。なぜそうするかというと、クライアントにはそのサービスを創造した理由があり、エンドユーザーに喜んでほしいと思っているわけです。
そこを深く理解することで、ユーザがなぜこの問い合わせをしてきたのか、どんなことを望んでいるのかを汲み取れるようになります。そういったご意見からクライアントにレポートすることもありました。
あと、仕事自体に興味持ちやすいですよね。ただ、マニュアルに沿った回答をする業務ではなく、クライアントのビジョンを知ったうえで、そのサービスを利用するユーザをサポートし、反応を知るわけですから。
業務において、チームの目的を全員で共有すること、理解度を深めることはとても重要です。
アウトソーシングの場合、発注元であるクライアントがアウトソースを決めた背景や、解決したい課題を正しく理解し、プロジェクトの成功の基準(目標)をクライアントときちんと定義することも求められます。
アウトソーサーのマネージャーの役割は、このことをしっかり理解し、メンバーにも十分に浸透させることです。目の前の仕事だけこなせていればいいという姿勢ではなく、全体を見て仕事ができるような人材の育成を行うことがプロジェクト成功のカギだと言えます。
このメンバーへの「意識の行きわたらせ方」がマネジメント力の問われるところです。ひとりひとりの理解度は、言葉などの表面的なものでは測れません。人の考えは、行動として仕事への姿勢や業務の品質に現れます。
また、チーム目標だけではなく、それぞれのメンバーの役割を明確化し、役割にあったタスクを積極的に与えるようにして、参加意識を醸成します。これはアウトソースに限ったことではありませんが、とかく人間関係や、業務目的が事務的になりがちな現場においては非常に重要な要素です。
──業務の目的意識の醸成は、最初からうまくいったのでしょうか
岩田:最初は苦労しました。新しい業務フローを提案したときに「それは私の仕事ではありません」という拒否反応もありました(笑)自分の業務が終わって、手が空いても自ら動かない、ただ指示を待っている姿勢も見られましたね。
この壁を打破するためには、全体の仕組みづくりが重要と考えました。メンバーが考えたことが、センターの運用に反映され、結果として評価され、仲間とのコミュニケーションがよくなること、それが気持ちのいいことであること、を体感できるように腐心しました。
そのためには、メンバーに新しい考え方を取り入れてもらう必要があります。視点が変われば、考え方が変わりますからね。トレーニングには力を入れました。
特に「コンセンサスゲーム(※1)」は評判が良かったですね。 ひとりよがりの人には、「もっとこうしたらよりよい成果をチームとしてだせたよね」というようなフィードバックをしました。
また、論理的思考が必要な現場でしたので、ロジカルシンキングの基本トレーニングを実施し、MECE(※2)で問題を分類して一つ一つ適切に回答することの重要性を学んでもらったりもしました。
※1 コンセンサスゲームとは
チームで合意を形成するためのゲーム。みんなで回答を導きだし、コンセンサス(同意)を得る力を養う。
※2 MECEとは
Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの頭文字をとったもの。
ロジカルシンキングにおける基本的な概念で、漏れや重複がなく全体を網羅した様を指す。
トレーニングは、アウトソーシングを導入した目的を達成する為に最低限必要な能力の補完を目的としたもの(業務トレーニング・勉強会など)と、パフォーマンスを最大化する為に必要なもの(能力開発系)を検討し、実施します。
例えば、カスタマーサービスのような業務においては、お問い合わせに対して正確にご要望を把握する能力、最適な解決策を選択する能力と、論理的に解決策を伝える能力が必要です。
これらの能力を高めることにより、カスタマー満足度の向上および、発注者側と発注者のカスタマーのエンゲージメントを高めることができます。
──研修だけでメンバーの意識は変わり、業務はうまくいくようになりましたか
岩田:徐々にですが変わってはいきました。ただ、どうしてもなじまない人もいますし、人が変化するのは時間がかかるものです。そこで、着手したのは採用基準です。面接時の評価軸を見直すこともやりました。
今回のプロジェクトは、カスタマーサポートということもあり、職業適正、性格、行動、スキルを測定できるアセスメントツールを活用しました。
事務業務での採用の場合、「理解力と正確性」の評価が高いスタッフを採用することが多いのですが、カスタマーサポートはユーザの質問を正しく理解して言葉で表現することが非常に重要なので、「細部への注意力」、「言語による推論」の二つの評価を採用基準として設定しました。
実は、既存のメンバーにもこのアセスメントを受けてもらったんですよ。そうしたら、他の項目は平均かそれ以上なのに「言語による推論」が平均より低く、ここが弱点だと感じたので指標として注目したのです。
逆によく採用条件にあるような「経験者」であることは、重要視しませんでした。経験がなくても、先ほどお話しした指標が満たされている人材がチームに必要でしたので。あと、経験がないからこそ見えることもあると考えています。
それ以外にも、ロジカルな思考を知るために面接の質問も工夫しました。例えば、まず好きなゲームを聞いてから、「そのゲームの内容や面白さを5歳の子供にも理解できるように説明してみてください」と質問するなどです。採用基準の見直しがこのプロジェクトにもたらしたものは大きいと感じました。
採用は、タレントマネジメントの中で最も重要な戦略のひとつです。
個人のパフォーマンスを最大化し、チームとして目標達成に貢献できるよう、必要なスキル要件だけでなく、コンピテンシー、カルチャーフィットを重視した採用を行います。
アウトソーシングのチーム形成において重要なのは、目標を達成するために必要な人材、チーム内でパフォーマンスを発揮するための要素の定義です。マンパワーグループでは、業務に合わせた評価基準を定義し、インタビューと能力テスト、仕事サンプルテストなどを組み合わせて採用を行っています。
単に「優秀」ではなく、「何が優れているか」をマネージャーが理解し、チームビルディングを行うことはとても大切です。どのような人材がプロジェクトの成功に欠かせないのか、必要な能力はプロジェクトによって変わります。この見極めが重要なのです。
──採用と研修、それぞれ大事な要素と言えますね。しかし、短期の仕事ではなく、長期継続する業務です。長期的にメンバーの意識を保たせるためには、そのほかの施策もあったのでは?
岩田:業務に適した人を採用し、研修を施したからといって業務が継続的に向上するわけでもありません。メンバーは、研修内容を業務で実践していくわけです。学んだことや醸成された意識が結果にでてきます。
このフィードバックを1か月に一度の個人面談で実施し、個人目標に対しての進捗を共有していきます。
ここで私が意識していたのは、誉めることです。
例え目標に達していなくても、良いところを見つける。その上でさらに伸ばしたい分野も一緒に考え、目標達成に向けてモチベーションを落とさず、より上がるようにしました。
「自分の仕事を見てもらっている」ことに満足感・安心感を持つ人は、思っている以上に多いです。
評価施策は、プロジェクトや業務に対するスタッフのエンゲージメントを高めるうえで非常に重要です。自身の仕事内容が適切に評価されていないという不満は、仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。
下記のグラフは2020年2月にマンパワーグループが実施した、仕事のやりがいについての調査結果です。
多くの人が「仕事で社会に貢献する実感を持てること」「仕事の成果を認められること」など、社会に認められたい・成果を認められたいという承認欲求が持っていることがわかります。
若手: N=274、中間管理職: N=284
メンバーはマネージャーの期待を理解し、マネージャーは個々のメンバーがパフォーマンスを最大限に発揮していけるような目標や機会を与えサポートするという、理想的な関係の構築には、定期的な評価面談に加えて1対1の面談(1on1面談)を実施し、マネージャーとメンバーがお互いの考えていることの理解を深めることが有効です。
定期的な評価施策以外には、モチベーションを高めるための有形無形を問わない様々な評価制度(インセンティブや表彰など)の併用、キャリアパス制度の整備なども、エンゲージメントを高める方法のひとつです。
──チームビルディングの課題を解決することで品質向上と業務拡大に繋がった、この勝因をひとつあげるとすれば?
岩田:「選択したマネジメントスタイルの勝利」だと思います。私が選択したマネジメントスタイルは、結果として「サーバントリーダーシップ」だったと思います。「サーバントリーダーシップ」とは、一言でいえば「支援型マネジメント」です。
リーダーになると、だれしも最初はメンバーの話を聴く前に「こうしたらいい」と命令や指示、アドバイスをしてしまうものです。このようなヒエラルキー型のマネジメントは、このプロジェクトにはそぐわないと思っていました。
クライアントの「エンドユーザーのニーズに沿って柔軟に対応したい」という要望がまずありましたので、カスタマーサービスもそれに沿った対応が必要だと感じていました。
最初にも話しましたが、そのような現場では自立した人材が必要となります。「言われたことしかやらない」では回っていかないのです。
注意したい気持ちをぐっとおさえ相手の言葉に耳を傾けること、みずから率先して仕事をしている姿や仕事のしかたを見せることを意識しましたね。
ヒエラルキーをベースにしたチームは、リーダーが抜けたり変わったりすると総崩れが起きることもあるのですが、サーバントリーダーシップを行っていればひとりひとりの主体性を重要視するのでそういうことは起きにくいんです。
あと、業務において上とか下はなく、役割の違いだとも話しました。上司という言葉は使わないようにしました。あまり好きではなかったので(笑)対等な関係を築くことで風通しの良い機動力のあるチームを作ろうと考えました。
ただ、サーバントリーダーシップがどこのアウトソーシングプロジェクトでも有効かと言われると、それは断言できません。
プロジェクトは生き物で時間の経過とともに成長し変化します。プロジェクトサイクルにあわせてマネジメントスタイルやコミュニケーションは変えていく必要があると思います。
私はこのプロジェクトには途中参加でした。立ち上げの頃は、エンドユーザーからの問い合わせが殺到し、業務量が膨大であったと聞いています。
このような時期で最も優先されるのは、エンドユーザーの問い合わせをとにかく捌くことでしょう。立ち上がったばかりのチームでそれをこなすには、専制君主型のリーダーであった方が良いケースもあります。
安定期のサイクルに入り、チームの見直しも品質向上を目指すことも出来る状況下では、サーバントリーダーシップが向いていると判断しました。
──チームが活きるリーダーシップとはなんだと思いますか
岩田:そうですね。難しい質問ですが、究極のリーダーシップは、指揮命令がなくてもメンバーが与えられた役割の中で自ら自由に考え、同じ目的・方向感を共有し、成果を出すということではないでしょうか。
AIは過去の推論から決められたパターンの結論をだしてはくれると思いますが、人間の行動、思考、感情は予測不能です。人間が自ら考えて出した行動目標は、マネジメントにとってかけがえのない資産だと思っています。
今回のケースでは、多種多様な価値観を持つメンバーを変化の激しい顧客要望に沿ってマネージするために、サーバントリーダーシップを取り入れました。
日本サーバントリーダーシップ協会の定義によれば、サーバントリーダーシップとは「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」というリーダーシップ哲学です。
また、サーバントリーダーは「奉仕や支援を通じて、周囲から信頼を得て、主体的に協力してもらえる状況を作り出す」とされています。
組織の中で強い権限を持つリーダーは、表現の違いこそあれ、大なり小なり、自分の考えを押し付けたり、自分の思い通りの報告を求めたりする傾向があります。
しかし、今日のビジネスのコミュニケーションにおいては、メンバーに自主性を発揮させ、かつ成果を上げるには、押し付け型から脱却し、ときにメンバーをフォローする姿勢を示す必要があるかもしれません。
インタビュー内でも言及があったとおり、サーバントリーダーシップがすべてのケースに万能であるとはかぎりません。メンバーの成熟度によって、有効なリーダーシップは異なるという考え方もあります。
チームの目的、プロジェクトの状況、メンバー構成などを総合的に判断して、最適なリーダーシップを選択し、ビジネスの結果を出すことが大切です。
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