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年功序列廃止の動きやジョブ型雇用の導入、定年の延長などを背景に「年上部下・年下上司」の構図が増えつつあります。その中でコミュニケーションに問題が生じてしまったり、モチベーションが落ちてしまったなどの課題を抱える管理職は少なくありません。
そのような「わかりあえなさ」から起きる課題や背景、対処法についての動画セミナーをご用意しております。
日本では1990年代以降に、メンター制度が注目されるようになりました。今日までにメンター制度を導入する企業が増えた一方で、導入してみたけれど、「さほど効果があがっていない」という問題意識を持っている企業も少なくありません。ここでは、あらためて効果をあげ、成功するメンター制度のポイントについて解説します。
メンター制度には、メンターとメンティという立場の人が存在します。 メンターとは、厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」において「経験豊かな先輩社員」と表現しています。そしてメンティとは「後輩社員」と説明されています。
メンター(先輩社員)は、メンティ(後輩社員)と組み合わせを決めるマッチングのプロセスを経て関係が成立します。マッチングが決まれば、メンターは、メンティとメンタリングと呼ばれる面談を、企業で設定された実施期間内に何度か行います。
メンタリングで行うことは、メンターがメンティとの対話を通じて、メンティが抱いている職場で感じている問題や悩みの解決を自分自身の経験を活かしながら支援し、メンティのキャリア形成をサポートしていくというものです。
メンターはメンティから見てロールモデルと呼ばれる職場の未来像・コーチ的な役割としてかかわることになります。さまざまなテーマを話す関係になるので、メンターとメンティの間には信頼関係の構築は必須といえます。 メンターは通常、メンティの業務において指示・命令、評価を行う立場の上司や先輩ではない人物が担います。理由としては、業務を行う上で利害関係がない状態で安心して本音を話すことができるからです。
また、一部社外メンターという制度もありますが、メンティの状況が分かりやすいというメリットから、組織や各部署の業務内容を把握している同じ社内の異なる部署の上司や先輩がメンターとなるのが一般的です。
参照:女性社員の活躍を推進するための「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」|厚生労働省
メンターには、コミュニケーション力やそのベースとなる信頼関係構築のスキルが必要不可欠です。 メンタリングは双方向で行う対話ですが、メンターはメンティよりも経験が豊富です。そのため、メンターから見ればメンティの発言が取るに足りないことであったり、考えが甘いと感じたりすることがあるかもしれません。
だからと言ってメンターがメンティに「そんなこと気にしなくても大丈夫」「そんなことは問題ではない」など、自分の意見や価値観を押し付けてあっさり終わるような関わりは避けねばなりません。 メンティの話を偏見なく聴く傾聴力や相手の立場に立って考える姿勢、多様な価値観を認める力が求められます。メンティよりも経験があるメンターだからこそ、尚更、相手を尊重する姿勢が求められるのです。
また、組織についての理解度や指導スキルも重要です。メンティに分かりやすく話すためには十分に理解をしておく必要があるでしょう。 加えて、メンティのキャリア形成にもかかわるため、メンター自身が自分自身のキャリアについて理解しておかなければ、具体的なアドバイスがしがたいという問題が生じます。
メンター制度と類似した制度がいくつかあります。ここでは、メンター制度と類似した制度の違いについて解説します。
メンター制度では通常、メンターとメンティは直属の上司と部下ではありません。しかし1on1の場合は、業務で関わり合う直属の上司と部下と対話するミーティングなので、ここが大きな違いだといえます。
また、1on1も定期的に行われますが、メンター制度のように実施期間を設定せず継続的に行うという点でも違いがあります。 一方、1on1は評価面談とは異なり、上司が部下のことを深く理解するために実施するので、部下の育成につながるという意味では、メンター制度と似ています。
さまざまな企業において1on1ミーティングの有用性が実証されています。一方で、制度を導入したが形骸化している、定着しないといった声も耳にします。
本セミナーでは、1on1導入したが効果が思うようにでていない、導入を検討しているが注意点などを理解しておきたい、といった課題や要望をお持ちの方向けに1on1の定着推進について解説します。
管理職などにも実施されるメンター制度に対して、ブラザー・シスター制度は新入社員がスムーズに会社に馴染めるように用いられることが多いという点が大きな違いです。
また、メンター制度では、通常、別の部署の先輩社員がマッチングされますが、ブラザー・シスター制度は同じ部署で年齢の近い先輩が、兄や姉のように業務に関する指導や精神面でのサポートを行う制度です。一人ひとりに指導役の先輩がつき、男性の指導役をブラザー(兄)、女性の指導役をシスター(姉)と呼びます。
コーチングとは、制度ではなく対話を通じて相手から気づきや行動を引き出す人材育成法です。 コーチングにはコーチとクライアントという役割があります。クライアントが主体となって考えたり、行動したりするなかで、コーチはクライアントの成長を促し伴走する役割となります。コーチとクライアントに上下関係はなく、フラットな関係の中でコーチはクライアントの可能性を信じ、目標や問題解決に寄り添い、目標達成に向けてクライアントの自己成長を促します。
このようなコーチングの関わりや対話の特色は、メンター制度におけるメンタリングにも求められる部分が多くあります。その意味では、まったく関連性がない内容ではなく、メンター制度の対話スキルの一つとしてコーチングは必要なスキルと言えます。 ただし、コーチングが取り扱うのは、メンター制度のように悩みの相談など幅広いテーマではなく、クライアントの目標達成や、自分自身での問題解決ができるよう自律的な行動をサポートする内容となります。
また、企業によっては上司がコーチ役を担う場合や、外部の専門コーチを社員につける場合もあります。この点でも、メンター制度におけるメンターとメンティと異なる点だといえます。
メンター制度を導入するメリットについて解説します。
企業がメンター制度を取り入れることは、従業員の離職防止や人材育成、キャリア形成への効果など、さまざまなメリットがあります。 SNSでのコミュニケーションやテレワークの浸透など対話を中心としたコミュニケーションが不足する傾向にあり、職場の人間関係が希薄化しています。
そのため個々に抱く悩みや疑問についてアドバイスを受けることのハードルが高くなってしまい、一人で悩み、離職を選択する人が増えたり、人材育成やキャリア形成が停滞したりするという問題が多く発生してしまいます。
だからこそ企業において、システムとして他者とメンタリングを行うメンター制度を取り入れることは、従業員の離職防止や人材育成、キャリア形成への効果、ひいては企業価値の向上が期待されています。
企業だけではなく、メンターやメンティとなった従業員にもプラスの効果が期待されます。 メンターを経験する人は、メンティとの関わりの中で、人に指導するスキルやコミュニケーションスキルを磨くことができます。また、多様性を受け入れる視点も養い、自分自身のキャリアについても深く考える機会となるでしょう。そのため、メンター自身が大きく成長する機会にもなるはずです。
一方、メンティとなった従業員は、企業の中で孤立せずに相談できる相手がいるという安心感を得ることができます。特に、昨今では忙しい上司や先輩に相談することを若手が躊躇する傾向がありますが、メンタリングの機会が定期的に設けられることにより、一人で悩まずに問題解決をすることができます。また、部署以外の人との関わりが生まれ組織への理解や、組織内での人脈が広がるというメリットもあります。
メンター制度の導入において、前述のようなメリットがあげられますが、ここではデメリットについても解説します。
メンター制度を導入することで、メンター・メンティともにメンタリングの時間を確保する必要があります。特にメンターとなる従業員には業務やメンターとしての期待という負荷がかかる可能性があります。
加えてメンターやメンティ、さらに周囲の人があまりメンター制度について理解していない場合は、メンタリングが形骸化したり、実施が滞ったりすることで効果のない取り組みになってしまいます。 最近では、リモート環境での勤務も増えているため、オンラインでのメンタリングに関しては、メンターのスキルにより効果が出にくいこともあり得ます。
従業員にとってのデメリットとしては、例えばマッチングが適切ではない場合、メンティは 「話したいことが話せない」「理解してもらえない」「一方的にアドバイスされてしまう」といった不満が募ってしまう可能性が生じます。
メンターも、せっかく時間を割いて行っているのに、メンティが腹を割って話してくれないなどの悩みを抱いたり、何もわからないままに、メンターという役割になってしまうことで、上手く責任を果たせないと自信喪失してしまったりする場合もあるのです。
このようなメリット・デメリットを踏まえた上で、メンター制度を導入するにあたり、そのメリットを最大限引き出すための方法をステップごとに解説していきます。
組織でメンター制度をうまく機能させていくためには、取り組む目的を明確にする必要があります。 目的とはメンター制度を実施することの理由です。
例えば、「人材育成」や「離職防止」といったものよりも、「女性管理職育成」や「若手社員の早期離職防止」など、目的を具体的に絞り込み明示することで、関わる人の理解が深まります。また、目的にあわせて対象者も明確にすることができます。メンター制度の導入のスタート段階で、目的を明確にするという点が鍵になります。
ステップ1の目的が明確になれば、その目的に基づいてメンター制度の実施計画を策定します。 実施前に社内での意識調査を行うことも効果的です。調査により現状把握することでより現場に沿った制度を構築することができます。また、事前調査を行うことで、実施後の効果測定にも役立ちます。
実施計画では、目標や対象者、運用のサポート体制などを明確にして共有します。そのため、社内での情報共有のための資料作成、メンター・メンティへの事前研修の内容や実施スケジュール、メンターやメンティがメンタリングについて相談できる窓口なども準備する必要があります。
運用ルールも具体的に決めておきます。例えば、メンタリングの期間・頻度・時間・実施方法(オンライン、対面、メールなど)、確実に実施されるように進捗のフォロー体制についても決めておきます。通常、2カ月に1~2回、1時間程度のメンタリングが理想的です。
また、メンター制度は人事のみで運営サポートをするのか、推進するチームを設置して人事と推進チームが連携していくのかなども決めておきます。
マッチングといわれるメンターとメンティの組み合わせを行います。 マッチングの方法は、メンティからメンターを指名する方法、メンターの自薦・他薦という方法などがありますが、多くの場合は、人事などが関係者に相談しながら決めるという方法をとっています。
マッチングは非常に重要で、ミスマッチを起こしてしまうと効果が得られなくなるどころか逆効果になってしまうことがあります。メンター・メンティともにアンケート・ヒアリングを通して情報を得て、慎重に決定するようにします。
実施にあたっては、メンター・メンティだけの共有ではなく、社内全体でメンター制度が実施されることを共有します。そのためにも、経営層から、メンター制度の必要性などを発信することで制度のスムーズな定着や運用につながります。 メンターの役割を社内全体で理解するための情報の定期的な配信もメンタリングを行いやすい環境づくりに役立ちます。
実施状況については、当事者であるメンターやメンティから意見を集めたり、メンター同士・メンティ同士の意見交換の場を作ったりすることで、互いに成功事例や課題を共有し、さらにメンター制度が充実するようになります。
設定された実施期間が終了した際は、メンター・メンティへのヒアリングやアンケートを行い、効果測定や改善点の分析などを行い次回に活かすようにします。
また、その結果を社内全体で共有するなどして組織ぐるみでサポートをするようにします。
メンター制度を導入するからには、成功させたいものです。そのために企業として注意すべきポイントについて解説します。
前述しましたが、マッチングの際にミスマッチを起こしてしまうと逆効果になりかねません。
例えば、メンターとメンティのタイプがかなり違うなどの場合は、互いに理解しにくい状態になる可能性もあります。そうなるとメンタリングでの対話が互いにストレスになり、メンターとメンティに人間関係に距離ができることもあります。
そのようなミスマッチを回避するために、行動特性などのアセスメントツールを用いて分析し、近いタイプのメンター・メンティをマッチングさせるという方法をとっている企業もあります。
メンターは、ある日突然メンターに任命されても、どのようにメンタリングをして良いのか戸惑うことが多くあります。特にマネジメントの経験がない若手の先輩社員は、関わり方も試行錯誤の我流になってしまいます。
メンターに負荷がかかる制度にとどまってしまうと、長くは続きませんし、効果も得られません。メンターとなる社員には、コーチング的な関わり方、アドバイスの仕方、多様な価値観や考え方を受け入れるといったスキルを身に付ける研修を早い段階で受けてもらい、安心してメンターという役割を担える環境を整える必要があるでしょう。
メンター制度の実施期間中に、メンターとメンティにすべてを任せたままにしてしまうと、業務に追われて時間を確保できずにメンタリングが行われないケースや、話す内容がなくなってしまい、形骸化してしまうといった問題も生じます。
そのような問題が起こらないように人事などが定期的にメンター・メンティに進捗や意見を聴く機会をつくる必要があります。 また、メンター制度があるからと育成に関心が薄くならないように、管理職を巻き込む工夫を行う必要があります。
実際にメンター制度を導入して効果を上げている事例を紹介します。
A社は、コスト構造の割合を人件費が大きく占めていることから、生産性の高い社員の定着が事業利益の要だとしていました。しかし、仕事へのプレッシャーやストレスから新卒者が3年以内に50%近く離職しており、社員への負荷は高まる一方という問題を抱えていました。
そこで、離職率低下に対応するべく、新入社員に年齢の近い先輩社員をメンターとするメンター制度を取り入れました。 勤務時間内にコーヒーなど(費用は会社が負担)を飲みながら話しやすい環境を作り、仕事やプライベートについてメンタリングを行うという方法です。
現場の理解を得るため、全社員にメンター制度について説明した他、メンター・メンティ以外に管理職も巻き込んでいるのが特色です。管理職からメンターへねぎらいやメンター手当の手渡しなどメンターに対するフォローを実施してもらい、メンターの意識継続につなげるなどの工夫をしています。
1年以内の離職は0%となり、3年以内離職率も減少傾向に向かっています。今後は、人間関係や職場適応などの精神的欲求へのアプローチのみにとどまってしまうと2年目以降の社員に対しては効果が薄れるという課題に対して、給与水準や労働環境など物質的欲求を含めた総合的な対応ができるよう制度のさらなる整備を検討しています。
B社は、メンバーの視野を広げてさらなる成長を促すため、直属以外の経営陣をメンターとして半年間のメンタリングを行うという施策を実施しています。社内で選抜されたメンバーは、「メンタリングを通じてどうなりたいのか」というゴールを各々で設定し、月1時間程度のメンタリングを通じて、業務へのフィードバックやキャリアプランについてメンターと対話をします。
実施内容や方法については参加メンバーの希望を尊重する方法をとっています。経営陣とのメンタリングを経験し、業務をさらに発展させるための社内での新たな接点が構築できた、少し先を見据えた課題について考える機会になったなど、成長を実感できる場として参加者の高い満足度を得ています。
C社は、リバースメンター制度としてメンター制度を新たな視点で実施しています。通常、メンター制度は先輩社員がメンター、後輩社員がメンティとなりますが、この関係を逆転させた制度です。
役職クラスのメンティが若手社員のメンターに年に3回~6回SNSツールの活用から他社事例の研究など様々なディスカッションを行うというものです。双方向のコミュニケーションをオープンかつフラットな環境で行うことを目的として実施されます。
この制度を通じて、ベテラン社員のデジタル活用が進み業務改善やイノベーションにつながるといった効果が出た他、若手社員が経営層の視点や考えを知る機会にもなっています。
コロナ禍により、企業内での人間関係はさらに希薄化する傾向にあります。その結果、早期離職が高くなり、人材が思うように育たないといった問題も生じる可能性があります。メンター制度は、メンターもメンティも育成できる制度であり、離職率の低下にも効果があります。その効果を得られるかどうかは、運営の計画やサポートにかかっているといえるでしょう。
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