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離職率の高さは、多くの企業で採用担当者をはじめとした関係者を悩ませている問題の一つです。
離職率の高さを理由に求職者が応募を見送るなど、離職率が高い企業に対しては外部からの目が厳しくなる傾向にあり、企業の人材確保のうえで大きな影響があります。そうした状況から脱するために、まずは離職率の計算式や平均・傾向を把握し、自社の原因を見つめ直していきましょう。
ここでは、離職率に関する現状や、離職率が高くなる代表的な原因とその対応策を解説します。
「離職率」の言葉自体はよく耳にすると思いますが、これは「一定期間内で、どのくらい社員が離職したか」を表す指標で、主に人材関連の業界で用いられることが多いものです。
この離職率とは、法律などで定義された言葉ではなく、その基準は企業によってさまざまです。ただ数字を鵜呑みにするのではなく、どのような方法で算出されたものかをよく確認しなければなりません。
前述のとおり、離職率の定義は企業によって異なるため、その計算方法もさまざまです。この計算方法の違いによって離職率の数字が変わることを理解しておく必要があります。
違いが生じる主な点は「算出する対象期間」と「そこで対象とする離職者の属性」です。具体的には次の2つが比較的よく用いられます。
年度開始を起算日として、年度末までの1年間に離職した社員の割合です。計算式は以下のとおりです。
起算日から1年間の離職者数÷起算日に在籍している社員数×100
<例>
4月1日(年度初め)に100名在籍の企業で、翌年4月1日までに10名が退職して在籍者数(期間中に入社した人数は除く)が90名になった場合......
離職率=10名÷90名×100=約11%
設定した起算日に入社した新卒社員が、3年以内に離職した割合です。計算式は以下のとおりです。
3年以内に離職した起算日入社の新卒社員数÷起算日に入社した新卒社員数×100
<例>
4月1日(年度初め)に10名の新卒社員を採用し、以降3年以内にそのうち5名が退職した場合
(起算日以降に採用した新卒社員は計算対象外)
5名÷10名×100=50%
厚生労働省の「令和4年上半期雇用動向調査結果の概要」によれば、2022年1月から6月全体の離職率の平均は8.7%となっています。これは前年同期と比べて0.6ポイント上昇しています。
入職率は9.3%で、これは前年比で0.7ポイント上昇しています。離職率も上昇していますが、入職率と離職率が同率であった2020年以降、2年連続で入職超過率は拡大しており、コロナ禍における各種規制が緩和されたことによる人材の流動が起きていると推察されます。
これを産業別で見ると、離職率が高い順に「宿泊業、飲食サービス業」が15.0%、「教育、学習支援業」が12.2%、「サービス業(他に分類されないもの)」が11.1%となっています。
いずれも一般向けにサービスを提供する業態ですが、勤務時間帯が不規則で長時間労働になりやすい、土日祝日の出勤が多いなど、労働条件に厳しい面があることが共通しています。
「離職率」が高いといくつかのデメリットがありますが、よく挙げられるのは次の3つです。
高い離職率には、多くのコスト損失がついて回ります。主なものでは採用経費、在籍中の人件費、教育研修費といったものです。せっかく投資したにもかかわらず、離職によってそれに見合った回収ができないことは、大きなデメリットだと言えます。
高い離職率は、会社に対する社員の帰属意識減少の引き金になりかねません。本人は自社に愛着をもっていたとしても、仲間が次々に辞めていく環境では、自分の気持ちに疑いが生じるのは当然ですし、それでは仕事に向き合うやる気が下がってしまうでしょう。
経験を積んだ社員の退職は、仕事に滞りが生じることもあり得ますし、社員のやる気の低下と合わせて生産性自体が低下してしまう恐れもあります。
離職率の高さは、自社への対外的な信用の低下につながることがあります。直接的には採用活動の際に応募者から敬遠されるなどが挙げられます。
それ以外にも、窓口の社員や担当者が頻繁に代わる、面識のあった社員がいなくなるなど、顧客に仕事上の不都合を生じさせることで、顧客先との関係悪化を引き起こすことなどが考えられます。
人の入れ替わりの激しさが善意にとらえられることはなく、「経営不振なのではないか」「職場環境に問題があるのではないか」「このまま取引を続けて大丈夫なのか」といった疑念を持たれかねません。自社に対する各方面からの信用を向上させるためにも、離職率を下げる取り組みは必要です。
自社の離職率が高いと思われる際、社員が「働きにくい」「魅力がない」と感じる何らかの原因が必ずあります。労働条件に関する問題は他社状況との比較、組織風土や職場環境に関する問題は社員満足度調査などによって、ある程度の実態を把握することができます。離職率の高さの原因分析の際にはこうした取り組みも合わせて行うとよいでしょう。
自発的な退職者が発生しているにもかかわらず「本当の社員の離職理由」を把握しないままでは、職場環境の悪化にもつながりかねません。
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ここでは、代表的な7つの原因とその対処法を見ていきましょう。
「給与の低さ」は、年代や性別を問わず、大きな離職理由の一つです。ここには賞与や残業代の扱いに関する問題、将来にわたる昇給イメージといったものも含まれます。この改善は会社の業績次第というところもあり、すぐに対応できることばかりではありません。
しかし、業績や成果、仕事内容に見合った適正な水準であることや、将来的な見通しを示して納得を得られるように努力する必要はあります。給与アップを可能にするために、業績向上に向けた経営努力が最も大事なことでしょう。
残業過多をはじめとした長時間労働は、身体的・精神的な負荷が高くなり、離職につながりやすい理由の一つです。休日の少なさや休暇の取りにくさも、昨今のワークライフバランスを重視する志向から、働き続ける職場としては敬遠されやすくなります。これら労働条件や職場環境に関する問題は、離職率を高くする大きな要因です。
長時間労働にならないよう、計画的な業務指示や個人の体調への配慮といったマネジメントによるアプローチと、休みやすい雰囲気づくりといった組織風土を改善するアプローチ、両方の取り組みを行いましょう。
人間関係がよくないと感じる理由は人によってさまざまですが、問答無用の命令や強制、セクハラやパワハラをはじめとした嫌がらせ行為、メンバー同士の無視や仲間はずれ、責任の押しつけなどは、仕事上のストレスが大きくなり、離職につながりやすい要因です。 人間関係の問題は見えにくい形で蔓延することもあり、日々の観察やちょっとしたコミュニケーションから感じ取ることが重要です。
✔ 円滑なコミュニケーションをとりやすくするための雰囲気づくり
✔ 信頼関係構築のための面談実施、社内行事の企画
といった対応方法が考えられます。
人事評価は、社員の給与や職務内容に大きな影響を与えますが、その制度や方法が社員自身にとって納得性に欠けると、離職につながる可能性が高くなります。
それは、給与や賞与の支給額、昇格昇進、評価結果につながる事柄に対して、本人が「正当な評価を得られていない」と感じている場合です。自分が評価される会社を求め転職を決断することもあるでしょう。
評価の制度や方法において、公平・公正で客観性のある制度や仕組みがあることは大切です。ただし、社員に納得が得られるかどうかのポイントは「制度の運用の仕方」です。
思い込みや偏見をもたずにルールに則って評価し、評価結果をしっかり本人にフィードバックしたうえで認識を共有して、次の目標に向けた取り組みを促す......といった直属の上司と部下の間で評価に関するコミュニケーションを密にとるようにしましょう。
将来の不安の中には、業界動向や市場環境といった「外部的要因」と、自社の組織運営や風土、事業展開に関する構想、経営者や上司の振る舞い、会社の経営方針などの「内部的要因」があります。
特に、後者の内部的要因による不安や不満は離職につながりやすく、例えば、強いリーダーシップで引っ張る経営者が、失敗し続けていたり、反論を許さず周囲を振り回していたりすると、会社についていけないと考える社員が増えてしまいます。
企業経営そのものにも通じる部分ですが、少なくとも社員が将来に希望を持てるような取り組み姿勢を見せ続けていく必要があります。
現在では出産後も育児休業を経て復職するケースが増えましたが、今でも「出産・育児」を理由とした退職は、特に女性の場合に一定数で存在します。また、高齢化が進む中で介護に関して配慮を要することも増えています。
育児や介護の支援制度はあったとしても、利用に後ろ向きと思える言動があったり、利用できる雰囲気がなかったりすれば、実際に社員が利用することは難しくなります。
家庭の事情や環境が多様化する中で、時間や場所、業務負荷といった点から柔軟な働き方を求める人は増えており、こうした柔軟な環境の有無が離職率に大きく影響するようになっています。
多様な支援制度を整備するとともに、利用しやすい雰囲気づくりをしていきましょう。
離職率が高い会社では、人材育成の体制の整備が十分でなかったり、育成自体にあまり熱心とは言えなかったりするケースをよく目にします。
OJT(On-the-Job Training)と言いながら、大した説明もせずにいきなり現場に出向かせたり、「何かあったら聞いて」と言ってほとんど研修せずに放置したり、「仕事は自分で覚えるもの」「見て覚えろ」と教えることを拒んで丸投げしたりするケースがあります。
入社した社員としては、この会社に居続けて自分にキャリアが身につくのかが不安になるでしょうし、知識が足りないせいでクレームを受けたり叱責されたりすれば、自信を失ってそのまま退職につながってしまうこともあるでしょう。
人材育成の体制整備と教える側の意識向上は、離職率を下げるためには欠かせない取り組みだと言えます。
入社してから3年以内の離職を、一般的に「早期離職」と言います。採用難の中でせっかく入社に至っても短期間で退職してしまっては、会社にとっての損失はより大きなものとなります。そうならないためには、採用時の取り組みが重要です。
ポイントは「入社前後の認識ギャップを減らす」ことです。「入社前の話と違う」「こんなはずではなかった」など、入社前の「期待」と入社後の「現実」が乖離していることは早期離職の主な要因となります。このギャップを減らすには、採用選考期間において「自社の良い点と悪い点をそれぞれありのままで伝える」ことが大切です。
この方法として、最近では「RJP(アールジェイピー:Realistic Job Preview)」という取り組みが注目されています。直訳すると「現実的な仕事情報の事前開示」。採用活動で強調しがちな会社の良い面ばかりでなく、会社・業務の厳しさや弱みなどのネガティブ情報も合わせて伝えることで、入社後の認識ギャップを減らして人材の定着を高めようという取り組みです。
採用時から自社の実態を隠さず正直に伝えることで、ミスマッチは起こりにくくなり、早期離職も防げるようになります。職場の雰囲気など求人情報だけではわかりづらい情報と合わせて、十分な情報提供を行うことを心がけましょう。
「こんなはずではなかった」という入社前に描いていた仕事のイメージと、入社後の現実とのギャップをリアリティショックといいます。
マンパワーグループが2023年1月に人事担当者に向けて実施した調査では、約3割の人事担当者が新入社員や若手社員からリアリティショックに関する相談を受けた、あるいは受けたと聞いていると回答してます
リアリティショックの内容は「過労とストレスを感じる」が3割超でしたが、「やってみたら自分に合わない業務だと感じた」「将来の立場や処遇に不安を感じる」「携わる業務内容が期待していたものと違う」など、新入社員・若手社員が感じがちなリアリティショックの要因は、様々であることがうかがえます。
離職率が高いことは、その企業にとってさまざまな悪影響があります。誰一人離職しないことはあり得ませんし、誰も離職しないことが好ましい状態とも限りません。しかし、一般的には社員の満足度が低いと離職率は高くなると言われるため、離職率の高さが企業にとってデメリットが多いことは間違いありません。
必要な対策を行うことで離職率を下げることは可能であり、その取り組みによって社員の満足度は向上し、優秀な人材の定着につながります。社員満足度を見極める一つの指標としても、離職率をしっかり管理していきましょう。
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