
目次
部下への指導法は「気合と根性」だけでどうにかなるものではありません。
本コラムでは、個人個人が本来持っている力を引き出すための指導法について、心理学と脳科学のフレームを用いながら4回にわたって解説します。
第1回 「守りに入っている?変化を恐れる社員への処方箋」
第2回 「増加する叱れない上司 部下への正しい叱り方を知る」
第3回 「部下の成長を促すために上司が行うべき行動とは」
第4回 「仕事への好循環をもたらす部下とのコミュニケーション方法」
これまで、対象者本人の問題や対峙する上司の問題、変化を促すアプローチについて解説してきましたが、シリーズ最終回の今回は、具体的なコミュニケーションのポイントをお伝えします。
人材開発やキャリア開発では「やりたいこと(WILL)」「できること(CAN)」「やるべきこと(MUST)」の大きさや重なりが重要です。
一般的に高いパフォーマンスを発揮している人は、3つの重なりや大きさ自体が大きく、パフォーマンスが思うように発揮できていない人は重なりが少ないか、WILLやCANが小さい傾向にあります。
パフォーマンスが思うように発揮できていない人への指導の場合は、MUST(これをやるべきだ/やらなければいけない)起点ではなく、本人のWILL(人生でありたい姿/仕事でやりたいこと)を聞く、もしくは一緒に考えるコミュニケーションが特に必要です。
上司の考える「べき論」だけで進めても、「分かりました/変わります」口先で言われて終わってしまいます。
指導の場面ではつい、「協調性がない」「仕事に責任感を持て」「もっと主体性を発揮しろ」など、性格にフォーカスを当ててしまいがちです。
言われる本人からすれば、「抽象的すぎて何を直せば良いか分からない」「自分の人格を否定された」と感じ、行動変化だけでなくハラスメントのリスクが高まります。
性格にフォーカスを当てるのではなく、「プロジェクトの進捗会議で発言が無い行動は、協調性が無いと感じる。理由があれば教えてほしいし、プロジェクトの成功に向けて会議では意見を出してほしい」など、行動をベースに対話を進めましょう。
自らの業務などで忙しく、ついつい「そのくらい自分で考えろ」「根本から正さないと駄目だ」と思わず言いたくなることがあるかもしれません。しかし、まずは対象者の一つ一つの行動を変えることに注力すれば、周囲の評価も変わり、最終的には本人の思考などが変わっていきます。
【行動が変わる→周囲の評価が変わる(誉められる)→変化が習慣化する→仕事への意識自体が変わる→成果が変わる】というサイクルを意識しましょう。
行動変容は、その人のすべてを叱ることではありません。
先述の【行動が変わる→周囲の評価が変わる(誉められる)→変化が習慣化する→仕事への意識自体が変わる→成果が変わる】というサイクルを念頭に、良いことは誉めて繰り返し実行してもらい、良くないことはその都度注意して繰り返しをさせないという観点が重要です。
この積み重ねによって、望ましい方向への変化を促していきましょう。
コミュニケーションのプロセスをまとめます。
今の認知とありたい姿(WILL)を聞きます。
ギャップがあることを誠実に伝えましょう。本人には不愉快な場合もありますが、避けて通れません。
説教や説得ではなく、傾聴しながら本人が他責から自責に視点を移すことが大切です。
両者の合意がポイントです。上司の一方通行にならないよう、本人に内容を説明してもらいます。
「何を・いつまでに・どのように・どこまで」行うのか、期限付きで設定し、進捗確認の機会も決めます。
現在の状況が改善されない場合に、人事制度上起こり得る可能性(降給・降格・異動・その他)があれば、事実として伝えることも誠意あるコミュニケーションです。
その後、改善傾向があれば、労いと称賛、より難易度の高い役割を提供することが重要です。
一方で、改善傾向や当事者意識がないようであれば、何度でも明確に注意をすることが重要です。
部下・社員の行動変容は、職業人生も人生自体も長くなっている現代において、会社のため以上に何よりも本人のために必要です。
改善の鍵は、上司が「誠意と論理」を兼ね備えて、本気で対応することに尽きます。
採用難が続く状況では、人材を次々に入れ替えることは容易ではありません。
今いる人材をどう活性化するかが、少子化が続く日本においての人事戦略上の重要課題といえます。
しっかりと対象者と対峙することで「あの時、真剣に向き合ってくれて良かった」と対象者が感じる瞬間を信じて、人材対応に取り組んでいただくことを切に願っています。
第1回 「守りに入っている?変化を恐れる社員への処方箋」
第2回 「増加する叱れない上司 部下への正しい叱り方を知る」
第3回 「部下の成長を促すために上司が行うべき行動とは」
第4回 「仕事への好循環をもたらす部下とのコミュニケーション方法」