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最近テレビやニュースで耳目に触れることが増えてきたSDGsなるワード。17色のカラフルなピンバッジやストラップを身に付けているビジネスパーソンもよく見かけるようになりました。
青山学院と大学教員の共同出資により設立され、多くの国家プロジェクト事業(文部科学省、経済産業省、JICAなど)や、地方自治体事業、産学共同研究、国連大学を含む国内外の他大学との積極的な大学連携を推進している青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社(以下、青山学院ハイコン)の玉木欽也教授にSDGsについてお話を伺いました。
‐ 国連が定めた持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)。多くの企業が取り組みを強化していると聞きますが、そもそもどういった背景で始まったのでしょうか?
玉木 SDGsは、2015年9月に国連総会で採択された文書『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』で示された、2030年までに達成すべき世界共通の目標と目標達成に向けた具体的な行動指針の総称で、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のための17の目標(ゴール)のことです。
‐ 17の目標にそれぞれ17色のカラーが設定されているのですね。
玉木 そうです。17の目標の特徴は、「普遍性」「包摂性」「参画型」「統合性」「透明性」の5つがあげられます。また、17の目標の下には、さらに細分化した169のターゲットと232の指標(実施手段)が示されています。
‐ SDGsの考え方は2015年に突然示された新しいものなのですか?
玉木 いいえ、SDGsの考え方は決して新しいものではなく、2001年に国連で策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)を前身としています。MDGsは、2000年に採択された『国連ミレニアム宣言』と1990年代の主要な国際会議で採択された国際開発目標を統合した発展途上向けの開発目標で、「①貧困・飢餓」「②初等教育」「③女性」「④乳幼児」「⑤妊産婦」「⑥疫病」「⑦環境」「⑧協働」の8つの目標を2015年までに達成するとして設定されました。
‐ 2015年というと、SDGsが採択されたのと同じ年ですね。
玉木 その通りです。MDGsは、目標達成の期限とした2015年までに極度の貧困の半減やHIV・マラリア対策など一定の成果を達成したとする一方で、乳幼児や妊産婦の死亡率削減はサブサハラアフリカなどで未達成(達成の遅れ)として、課題を残す結果となりました。それを踏まえて新たにSDGsが採択されたのです。
‐ SDGsの前身がMDGsとのことですが、企業が社会課題としてSDGsに取り組む姿勢は、MDGsと比べてずいぶん熱心な印象を受けます。何か違いがあるのでしょうか。
玉木 いちばんの違いは、MDGsが途上国向けの課題が中心だったのに対して、SDGsは先進国にも共通の課題を設定していて、国だけでなく企業の役割を重視する内容になっている点です。これが、日本においては途上国を援助するという関わり方だったMDGsとの大きな違いです。
‐ 慈善活動的なCSRではなく、企業の本業であるビジネスで社会課題を解決するというCSVの考え方に近いのでしょうか。日本企業でSDGsの取り組みが議論され始めた2017年頃はCSR部門が担当していた企業が多かったようですが、最近は経営企画部門がSDGsに取り組んでいる企業も増えていると聞きました。
玉木 すでに多くの企業が、SDGsに関連した新規事業を起ち上げ、既存事業の目的や意義をSDGsの精神に則って再定義するなどして、SDGsのビジネスへの活用を進めています。また、日本では2015年に年金積立金管理運用独立法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名したことで、ESG課題(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)に関心のない企業は投資対象に値しないと判断されるようになったことで、企業の中長期的な投資価値の評価において、非財務情報(サステナビリティ報告書)が重視されるようになりました。
‐ そういえば、自治体や企業と取引を行う際に、SDGsの取り組みについて確認されることがありました。SDGsの取り組みは今や、企業経営の重要な課題になっているのですね。
玉木 マンパワーグループでは、これまでにどのようなSDGsの取り組みを行っているのですか?
‐ 誰も取り残さない社会の実現として、特に、目標8のターゲット8.5の「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性および女性の、完全かつ生産的な雇用およびディーセント・ワークを達成する」ことに力を入れています。特例子会社のジョブサポートパワー株式会社(現:マンパワーグループ プラス株式会社)で、障がい者雇用を促進するなどしています。
玉木 なるほど。持続可能な経済成長においては、企業が障がい者の方たちと一緒に目標達成に向けて取り組んで行くことも必要ですね。
‐ 障がい者雇用に限らず、企業の採用活動においてもSDGsは注目されてきていますね。2019年採用の新卒面接では、自社のSDGsの取り組みについて学生から質問されて、あたふたする採用担当者がいたというエピソードを多くの企業から聞きました。
玉木 青山学院の学生からもSDGsについての質問をよく耳にするようになりました。SDGsが目標とする未来の当事者でもある10代・20代の学生たちは、想像する以上に社会課題への関心が高く、就職活動でエントリーする企業の社会貢献についてもきちんとチェックしているようです。
‐ 労働人口の減少によって、企業経営に影響が出るほどの採用難が当たり前になっている昨今、学生が企業を選ぶ指標となっているSDGsは、人事にとっても理解しておかなくてはならないテーマなのですね。
玉木 企業においてSDGsは、経営と人事の共通課題と言えますね。
‐ 学生が就職活動でSDGsを活用していることが分かりましたが、企業のSDGsの取り組みを身近に感じる視点は他にどのようなものがあるのでしょうか。青山学院ハイコンで玉木教授と一緒にSDGsの研究に取り組んでいる接点合同会社の石丸さんにもお話を聞いてみましょう。
石丸 玉木教授がお話しくださったSDGsの成り立ちやESG投資の背景としては、地球環境問題の深刻化を挙げることができます。2009年に学術雑誌ネイチャーに「プラネタリー・バウンダリー」という考え方が提示されました。人類の活動による気候変動や生物多様性の欠損などは、もはや引き返せないまでの限界値に達していると報告するものです。
‐ 企業活動にはどのような影響があるのでしょうか?
石丸 地球環境に配慮した開発や経済活動に転換していくことが必要です。これまでのような経済原理優先のビジネスのあり方は、投資家だけでなく消費者にも歓迎されないことから、企業の存続のためにも、ビジネスのあり方の転換が求められているのです。
‐ 再生可能エネルギーの活用などですね。消費者に身近なところでは、何か変化は見られますか?
石丸 例えば、レジ袋や食品容器・包装、ペットボトル、ストローといった使い捨てプラスチック製品の使用に関する動向が挙げられます。SDGsの目標12「持続可能な消費と生産パターンの確保」や目標14「海洋・海洋資源の保全」の達成に向け、昨年頃から俄かに海洋プラスチック問題に注目が集まっています。
‐ 海洋プラスチック問題とはどのような問題でしょうか?
石丸 経済成長や手軽で便利なライフスタイルへの移行に伴い、世界中でプラスチック製品が大量に使用されています。捨てられて漂流や漂着した大量のビニール袋やストローをウミガメやクジラが飲み込んで窒息死したり、そうした海洋ゴミのプラスチック製品が細かく砕かれてマイクロプラスチックと呼ばれる微細な粒子となって生態系に取り込まれたりすることで、生物や人体に悪影響を及ぼす可能性があるとされる問題です。
‐ そういえば、海外企業のプラスチックストロー廃止はSNSでも話題になっていましたし、学生たちの関心も高いように感じます。日本ではどのような動きがあるのでしょうか?
石丸 この問題に対する消費者の関心が高まり、マイバッグやマイボトルを率先して使用する消費者も現れ始めたことで、日本でも外食産業から続々とプラスチックストローの使用廃止が宣言されました。飲料メーカーはペットボトルリサイクルや植物由来原料の使用により、化石原料のペットボトルを廃止する方針を相次いで発表しています。政府もレジ袋の有料化を含む使い捨てプラスチック削減法令を来年夏頃までには施行したいと表明しています。
‐ 学生だけでなく、幅広い世代に身近な取り組みと言えますね。他にも何か同様の動きはありますか?
石丸 はい、食品ロス問題があります。日本では年間600万トンを超える食品ロスが発生しています。接点合同会社では3年前から食品ロス問題の研究やコンサルティングに取り組んできました。
‐ 食品ロス、まだ食べることができるのに捨てられてしまう食品の問題ですね。
石丸 当初は企業に働きかけても危機感が薄く、喫緊の課題として対策が取られてきませんでした。しかし、消費者の認知度が徐々に上がってきたことで、今では企業も積極的に対策を取り始めています。なお、食品ロス問題に関しては、SDGsの目標12のターゲット12.3で、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる。」という目標が設定されており、今後も国内外で食品ロス対策は加速していくと考えています。
‐ 消費者の声に応えて事後的に取り組むのではなく、むしろ企業側がイニシアチブをとって持続可能な経済活動へと転換し、消費者に対してSDGs目標達成への道筋を示していくことが望ましいですね。
石丸 まさにその通りです。そのためにも、企業の経営層や関連事業部門のみならず、人事部門や総務部門、広報部門など、企業活動の中枢を担う皆さまにはSDGsを深く理解していただき、自社のSDGsへの取り組み方を確立していただきたいと考えています。
‐ 自社のSDGsへの関わり方を明確化し、取り組み姿勢を投資家や消費者に対して示すことが求められているのですね。
石丸 はい、その通りです。
‐ 今回はSDGsについて、玉木教授、石丸さんにお話をお伺いしました。ありがとうございました。お二人には今後マンパワーグループで開催を予定しているSDGsと採用についてより深く知っていただく機会となるセミナーにもご協力いただく予定です。ご興味ある方は、セミナー開催のお知らせを楽しみにお待ちください。ありがとうございました。
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