目次
【派遣先責任者向け】派遣法の基礎知識 知っておきたい12項目
派遣法は、派遣会社だけでなく派遣先企業にも責任や努力義務などを課しています。
さまざまなことが派遣法で規定されていますが、派遣先責任者が知っておくべき項目を12つピックアップし、わかりやすく解説した資料をご用意しています。
業務形態の複雑さが進む中、気づかずに二重派遣を行ってしまったというケースがあります。二重派遣には厳しい罰則規定があり、場合によっては関わりのある企業すべてが罰則の対象となる可能性があるため注意が必要です。派遣先企業として、「知らなかった」「気づかなかった」では済まされません。
ここでは二重派遣を回避するための基本的な知識、罰則対象となるケース、ならないケース、具体的な罰則などを解説していきます。
二重派遣とは、派遣会社から派遣された派遣社員を、派遣先企業が別の企業へ労働力として提供することを指します。これは、職業安定法と労働基準法によって禁止されている行為です。雇用関係のない労働者を別の企業に労働力として提供する行為は、「労働者供給」に該当します。
労働者派遣では、派遣会社と派遣社員の間で「雇用契約」が結ばれています。派遣先企業と派遣社員に雇用関係はありません。
派遣先企業は、派遣会社と「派遣契約」を結ぶことにより、労務の提供(派遣社員を派遣してもらう)を受けることができます。
派遣社員は、派遣先企業の指示のもと業務を行いますが、雇用主はあくまでも派遣会社です。
一方、派遣先が派遣社員に命じて、取引先の業務などに就かせた場合、二重派遣となります。この場合、雇用関係も派遣契約もない企業が業務を指示することになってしまいます。
例えば、派遣先企業が取引先の業務を受託している場合、仮に取引先の建物内で業務を行っていても、指揮命令者が派遣先企業の社員であれば問題ありません。しかし、取引先の社員が派遣社員に業務指示を出している場合、二重派遣の状態となります。
取引先に派遣社員を派遣し、業務に就かせた場合、二重派遣に該当します。雇用契約も派遣契約もない企業担当者からの指示を受けて業務を受けるためです。
自社社員も一緒に出向き、指揮命令は自社社員から受ける場合、事前に派遣会社と相談し、契約内容に盛り込む、派遣社員の同意を得るなど対応が必要です。
急な人手不足や緊急対応などを理由に、自社で契約している派遣社員を子会社や関連会社で勤務させることは二重派遣に該当する可能性が高くなります。
指揮命令者はあくまでも派遣契約がある企業の担当者であるため、関連会社や子会社の社員ではありません。
もし自社の社員も出向いて指示を受ける、という場合であっても、事前に派遣会社と相談し、契約内容の変更や派遣社員の同意を取る必要があります。
そもそもの就業先が取引先内での委託業務である場合もあります。本来であれば、勤務地は取引先であっても、指揮命令は自社社員から受けるので、問題ではありません。
ただし、派遣社員が現場で業務委託契約の発注企業から指示を受けている場合には偽装請負となり、二重派遣に該当します。このような実態は労働者派遣にもかかわらず、形式的に業務請負としている偽装請負で摘発されたケースは多数あります。
二重派遣になりやすい業界として、IT系と製造系の業界があげられます。
IT系業界では、多重派遣が問題になっています。下請けの企業が多く存在していることもあり、「常駐させる」ということが起きやすくなっています。自社社員が指揮命令をするなら問題ありませんが、常駐先からの指示で働く場合は、二重派遣になります。
製造系の場合、業務の繁忙によって作業ボリュームが変化しやすいと、別の企業に作業員を送ってしまうことがあります。これも別企業からの指揮命令の元で労働させることになるため、二重派遣に該当します。
派遣先企業以外の人間が派遣社員に業務指示を出す状況は、すべて「二重派遣」となることを理解しておきましょう。
二重派遣は決してあってはならない行為として、厳しい罰則が定められています。罰則の具体的な内容と、罰則を受ける企業について解説します。
二重派遣は、職業安定法の第44条に抵触する行為です。
【第44条】
何人も、次条(第45条)に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない
二重派遣はこの労働者供給事業行為に該当します。なぜなら、派遣先企業と派遣社員には、雇用関係がありません。この場合、支配関係のみが成立しているとされ、労働者供給行為に該当します。
厚生労働大臣の許認可なく労働者供給行為を行った場合、職業安定法違反となり、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(職業安定法第64条第9号)が科せられます。
二重派遣は、労働基準法第6条「中間搾取の排除」にも抵触します。
これは、企業と労働者の間を取り持つことでマージンを搾取することを禁じたものです。こちらも、派遣先企業と派遣社員には雇用関係がないため該当します。派遣会社と派遣社員には、雇用関係があるため、この「中間搾取の排除」には該当しません。
派遣先が他の企業に派遣社員を派遣し、手数料を得た場合には、「1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金」(労働基準法118条)が科せられます。
二重派遣を意図的に続けており、改善命令等に従わない場合は、厚生労働大臣により行政処分を受けることもあります。企業名を公表される可能性もあり、企業イメージに大きく関わってきます。
職業安定法第44条の違反に当たる場合は、派遣先企業及び再派遣を受け入れた企業が罰則の対象となります。ただし、再派遣先の企業が二重派遣となることを知らずに受け入れていた場合には罰則の対象となりません。二重派遣であることに気づいたにも関わらず、継続して派遣社員を就業させていた場合には罰則の対象とされます。
労働基準法第6条の違反に当たる場合は、派遣社員の再派遣を行った派遣先企業のみが罰則の対象となります。
いずれの場合でも、派遣された労働者に対しての罰則規定はありません。
二重派遣は、法律により禁止されています。禁止されている主な理由として、次の3つが挙げられます。
通常の人材派遣では、派遣会社と派遣社員の間で雇用契約が結ばれます。また、派遣会社と派遣先企業の間で派遣契約が交わされます。それぞれと労働条件や業務内容を定める、ということです。
しかし二重派遣が行われると、労働条件や業務内容といった定められた契約内容が守られなくなる可能性が出てきます。契約外の業務を押し付けられる、休憩時間が取得できない、残業が労働条件より大幅に増えるなど、派遣社員にとって不安要素が増える状況に陥りやすくなると考えられるため、二重派遣は禁止されています。
業務中に派遣社員がケガを負ったような際には、派遣会社が労災の申請をするなどの対応する責任があります。しかし、二重派遣の場合、派遣契約も雇用契約もない企業での業務であるため、派遣元、派遣先、再派遣先のどこが責任を負うのかということで混乱が生じます。
状況確認に手間取りやすく、また責任のなすりつけ合いを防ぐためにも二重派遣は禁止されています。
仲介が入ることにより手数料が差し引かれ、派遣社員の賃金が安くなる恐れがあります。実際に過去に摘発された例では、派遣社員に手渡される賃金から相当額が中間搾取されていました。
契約にはさまざまな形態がありますが、二重派遣に当たるのかどうかわかりにくいものもあります。各契約の概要と、二重派遣の関係について解説します。
業務委託とは、定められた一定の業務を他企業や個人に委託する契約です。業務委託には「請負契約」「準委任契約」と呼ばれるものも含まれます。
「請負契約」は請負人が業務を完遂することを約束し、その成果に対して依頼した企業が報酬を支払うという形の契約です。一方「準委任契約」では、一定のスキルや知識・経験のある人に対して業務を依頼しますが、成果物を納めるという契約ではありません。定められた時間で依頼者の業務を手伝う、代行するという形です。依頼する内容は、契約や遺言といった法律行為以外の業務であることが定められています。
基本的に、業務委託では依頼者に直接的な指揮命令権はありません。
出向は、企業が該当する社員との雇用契約を維持したまま、関連する企業や事業所で業務に従事させる方法です。社員の籍は元の企業にあり、給与の支払いについても責任を負います。業務の指揮命令権は、業務を行う出向先の企業が持ちます。
ただし、派遣社員を別会社に出向させることは違法です。指揮命令を出すのが出向先の企業であれば、雇用関係のない派遣社員を労働力として供給することになり、職業安定法第44条で禁止する「労働者供給事業」に該当します。
派遣先企業が派遣社員を、業務委託契約している企業で働かせること自体は違法ではありません。ただし、あくまで指揮命令を派遣先企業が行っている場合に限られます。
誤解を受けないように、派遣会社へ事前に説明をしておき、派遣社員が仕事をスタートする際も注意事項や状況などを説明しておくと安心です。
労働者派遣法は、過去に何度も改正が行われています。
その中には、派遣社員を受け入れる派遣先に関する事項もありました。
派遣先が知っておきたい12項目について、わかりやすく解説した資料をご用意しています。ぜひご覧ください。
⇒「派遣法の基礎知識 知っておくべき12項目」の資料ダウンロードはこちらから
認知度の高い大企業であってもたびたび二重派遣が発生し、問題視されています。派遣先企業として、二重派遣を回避するために留意すべき点について解説します。
指揮命令を誰が行うかによって、二重派遣かどうかが判断されます。まず、派遣社員への直接的な指示が誰からなされるのかを明確にしておきます。指揮命令者は、個別契約書(労働者派遣契約書)に記載されていますが、実際に指揮命令を行っているかどうかが重要です。
また、二重派遣に関する知識を社内に浸透させ、外注時に指揮命令系統の確認を怠らないよう周知することも重要です。社員に対してコンプライアンス教育など知識習得の機会を設けるのもよいでしょう。
派遣社員がどの企業と労働契約を結んでいるのか、それが自社の派遣契約している企業と同一かを確認します。
自社が再派遣先となっていないか、実際は派遣社員ではなく委託契約を結んでいる人材であるにも関わらず、派遣社員と同じように指揮命令が発生していないかなどをチェックしましょう。
派遣社員の雇用主が自社の派遣契約の相手と異なる場合には、二重派遣の可能性があり、委託契約であれば偽装請負の疑いがあります。
また、指揮命令体制がルーズになっていないか、契約内容以外の仕事をさせていないかなども定期的にチェックし、二重派遣防止に努めましょう。
実態の確認には、派遣社員本人への聞き取りをすることも必要です。実際に誰から業務指示を受けているのか、ほかの場所で働くように言われたことはないか、契約前に聞いていた以外の仕事をしたことがないかを確認します。
聞き取りの際には個人情報に配慮し、回答したことによって派遣社員に不利益が発生しないよう、十分に注意を払いましょう。
二重派遣の禁止は派遣社員を不利益から守り、派遣事業の適正化を図るためのものです。そのため、二重派遣をしていると認められた場合には、職業安定法や労働基準法に基づき、厳正に対処されます。
実社会では二重派遣の抜け道として、さまざまな契約形態を駆使する悪意ある事業者も存在します。気づかずに二重派遣になってしまったとしても、社会的信用の低下は免れません。二重派遣を断固として防止するため、派遣社員が常に契約内容に沿った業務を遂行しているかをチェックし、指揮命令系統を随時確認するよう努めることが大切です。
こちらの資料もおすすめです