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【派遣先責任者向け】派遣法の基礎知識 知っておきたい12項目
派遣法は、派遣会社だけでなく派遣先企業にも責任や努力義務などを課しています。
さまざまなことが派遣法で規定されていますが、派遣先責任者が知っておくべき項目を12つピックアップし、わかりやすく解説した資料をご用意しています。
労働者派遣法(派遣法)の改正により、派遣社員に対するキャリアアップなどの教育の実施が派遣会社および派遣先企業に義務化されました。
そこで、本記事では派遣先企業の視点から派遣社員に対する教育訓練の目的と教育訓練を行う際の注意点を解説します。
2015年に派遣法は、派遣社員のより一層の雇用安定や、キャリアアップを図っていく目的に沿って大幅に改正されました。
この改正の内容で特筆すべきは、派遣社員に対するキャリア形成の支援です。改正の内容を具体的に解説します。
出典:
平成27年労働者派遣法改正法の概要|厚生労働省・都道府県労働局(PDF)
派遣先が講ずべき措置に関する指針|厚生労働省(PDF)
2015年の改正内容は、以下の5つです。
このなかでも特に、派遣先企業において注意したい項目は「キャリアアップ措置」と「均衡待遇の推進」のふたつです。
「キャリアアップ措置」に関しては、派遣会社に段階的かつ体系的な教育訓練とキャリアコンサルティングの実施が義務化されました。
派遣先企業は、派遣会社が教育訓練の実施を希望した場合には、派遣社員が教育訓練を受けられるように業務調整を行うなど可能な限り協力し、便宜を図るように努めなければなりません。
「均衡待遇の推進」では、派遣社員と派遣先企業で同じ業務に従事する社員の待遇の均衡を図るため、派遣先企業には以下の新たな責務が課されました。
これらは義務ではなく、配慮および努力義務となっていますが、派遣法に限らず一般的に労働法は、努力義務⇒配慮義務⇒義務と順番に改正されていきます。
配慮義務となった場合には2~3年後には義務となる可能性が高いため、遅くとも努力義務の段階で体制を考え、配慮義務になった時点で実際に体制構築を進めていき、義務になったタイミングですぐに実施できるよう、法改正には日頃から留意しておきましょう。
派遣社員の中には、「正社員になりたい」「キャリアアップしたい」と望んでいる人も数多くいます。これまでは、派遣社員のキャリアアップやキャリアパスについては、派遣社員個人に委ねられていました。
しかし、キャリア形成のためにはその状況は望ましくないとの考えが広まり、国は有期契約労働者のキャリアアップや正社員化を目的に、段階的で体系的な教育訓練を導入することを「派遣会社の義務」としたのです。
また、正社員と派遣社員が同じ仕事・同じ作業量にもかかわらず、待遇に格差があったことも問題となりました。
そこで派遣先企業の正社員と派遣社員の待遇の差を縮小していくことを目的に、派遣会社と派遣先企業において、格差を解消するためのさまざまな措置が義務化されました。
今後は教育訓練などの待遇において、派遣社員は正社員と同様に扱われることが求められます。特に教育訓練に関しては、派遣会社が段階的・体系的なカリキュラムを作成して実施することになっています。
派遣先企業としては、カリキュラムの内容が自社の業務によりフィットするよう希望を伝えるなど、カリキュラムの実施にあたって積極的に派遣社員の教育に関わることで、派遣社員のスキルアップによる仕事の効率化だけでなく、早期離職の回避などの好循環につながっていくでしょう。
派遣先企業は、業務に必要な技能訓練を受けさせる義務があります。
さらに、派遣会社が実施するキャリアアップの教育訓練に関しても、受講できるよう協力が必要です。
また、派遣社員の安全衛生教育については、雇い入れ時の教育を派遣会社が行い、派遣先企業は作業内容を変更した時の作業内容変更時教育を行うことが、労働安全衛生法で定められています。
ただし、雇い入れ時の教育について派遣会社から委託された場合は、可能な限り応じるように努めなければなりません。
「派遣先企業が派遣社員に対する教育をどこまで行うべきか」という点では、自社の社員と同様の教育訓練を受けさせるものと考え、受け入れの準備をしておくとよいでしょう。
出典:厚生労働省・都道府県労働局「平成27年労働者派遣法改正法の概要(PDF)」
業務に係る教育訓練の費用はすべて、派遣先企業が負担しなければなりません。また、訓練は有給で実施されるため、その時間分賃金を減らすことはできません。
教育訓練の内容は、派遣社員に事前に周知し、同意を得る必要があります。
2021年の改正により、派遣先企業が派遣社員を受け入れる際に「教育訓練の内容」を伝えることが義務となりました。派遣先企業は事前に教育訓練計画を定め、説明するための準備が必要です。
教育訓練の日時や内容を派遣先管理台帳に記載して、派遣会社に報告します。
派遣先管理台帳とは、派遣社員の就労について記載し、派遣会社に報告するためのものです。派遣先管理台帳の作成・保管は法令によって義務付けられており、これを怠った場合は30万円以下の罰金が課せられます。
不備があると問題になるため、記載内容などに不明点があれば派遣会社に確認しておく必要があります。
出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第四十二条
派遣会社の教育訓練は、派遣社員の入職時に必ず行われます。また全員を対象に一定期間ごとにキャリアパスに応じた研修を派遣会社が用意します。
実数時間については、入社3年以内、フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣社員に対して、一人当たり年8時間以上の教育訓練の機会を提供します。4年目以降は、派遣会社が自由に決めて実施します。
派遣先企業は教育訓練へ協力しなければなりませんので、派遣会社に研修のスケジュールや研修方法などを確認しておくとよいでしょう。
キャリアパスを考えた体系的・段階的な教育訓練のカリキュラムなどは派遣会社が作成します。一方で派遣先企業も、教育訓練の一部が義務となったことを機に派遣会社と協力してスキルアップのための訓練を考える必要があります。
派遣会社は、派遣社員のキャリアアップを図るために、以下の教育訓練を実施する義務があります。
どのような訓練が行われるかは、派遣会社ごとに異なります。
基本的には、1年目に入職時基礎訓練としてビジネスマナーやパソコンスキルの初級、ヒューマンスキルなど、2~3年目に職能別訓練と階層別訓練としてパソコンスキル中級・上級、経理スキル、マネジメントなどに関するプログラムを中心に実施しています。
派遣先企業としては、どんなキャリアアップ教育を実施しているのか確認をして派遣会社選択の一つポイントにしてもよいかもしれません。
派遣会社が実施する教育訓練については、全て派遣会社が負担するため、派遣社員や派遣先企業が費用を負担することはありません。
派遣元管理台帳とは、派遣社員の派遣状況や労働条件(労働時間や労働日)などの記録をまとめた台帳のことです。教育訓練の日時やその内容についても記載しなければなりません。
また、派遣元管理台帳は、作成と3年間保存が義務づけられています。紛失した場合や、作成しない場合には罰則が設けられています。
出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第四十二条
派遣会社は、誰にどのような教育訓練の実施したのかを「労働者派遣事業報告書」に記載して、毎年労働局に提出する義務があります。
労働所派遣事業報告書とは、派遣会社が労働局に対して、正しく事業を運営しているか、派遣社員の労働環境などをしっかり守っているかを報告する書類です。教育訓練の項目では、1人あたりの平均実施時間などを記入する必要があります。
派遣社員の教育訓練にはさまざまな形式があります。
代表的な3つの形式と、派遣先企業の人事担当者におけるメリット・デメリットを紹介します。
OJTとは、”On-the-Job Training”の略で、実際の仕事を通じて技能を身につけていく教育訓練の方法を指します。指導は、派遣先企業の社員が担当します。
集合研修はOFF-JT(OFF the Job Training)とも言われ、現場から離れた場所で受講者を一堂に集めて講師が講義する方法です。講義を聴きながら業務に必要な知識やスキルを学びます。セミナーや研修の形で実施されます。
インターネットを利用して教育訓練を行う方法です。受講者はインターネット上からテキストをダウンロードし、動画を視聴して知識を身につけます。
派遣法は社会のニーズや実態に合わせてたびたび改正されています。派遣社員の教育訓練の義務化は2015年派遣会社の義務となり、派遣先企業は研修を行う際の協力を求められました。
その後2020年の改正では、派遣先企業における教育訓練が一部義務化されました。同じ業務に関わっている自社の社員には教育訓練を実施し、派遣社員には実施しない場合は、不合理な待遇格差とみられて罰則の対象となる場合があります。
派遣法は今後も頻繁に改正される可能性が高いため、派遣先企業の担当者においては、情報の収集を怠らないことが肝要です。
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