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年俸制導入のポイント│給与支払い時の誤解や、トラブル防止策を解説

掲載日2022年5月10日

最終更新日2024年4月15日

年俸制導入のポイント│給与支払い時の誤解や、トラブル防止策を解説

目次

企業が従業員に支払う給与の計算方法として、年俸制、月給制、日給制や時給制があります。多くの企業は月給制や時給制をとっていますが、年俸制を導入する企業も少なくありません。本記事では、年俸制のしくみや運用方法、これから企業が年俸制を導入する場合に必要なポイントなどを解説します。

年俸制とは

年俸制とは、あらかじめ1年単位での給与総額を決める方法を指します。海外では広く使われており、国内でも外資系企業や一部の大手企業、ベンチャー企業やIT企業など、成果主義で給与を査定する企業で採用されるケースが多くみられます。

年俸制と月給制との違い

年俸制では1年単位で給与額を決め、その額を月ごとに案分して従業員に支払います。毎月の給与額は原則一定で、変わることはありません。

月給制の場合、基本給や資格・役職手当など固定額で支払われる手当の月額は変わらなくても、精勤手当や時間外手当などは給与の精算期間内で計算するので、毎月の給与額がその都度変動する場合があります。そのため、年間の支払い給与額は決まっていません。

年俸制はどのような企業・従業員に向く制度か

年俸制は、給与体系が年功序列型の企業よりも、年齢や勤務年数に関係なく業績や成果に応じて給与額を決める企業に向いています。

しかし、企業の中で働いている従業員の全員に年俸制が導入できるとは限りません。特に年俸制に向いている従業員は次のとおりです。

管理監督者

管理監督者は、労働基準法の定義で「労務管理上経営者と一体的な立場にあり、労働時間などの規制の枠を超えて活動する必要があるくらい重要な職務を担う者」のことです。管理職とは、「部長」「課長」など企業内で部下を指導する立場にある役職者のことをいい、管理職の一部が管理監督者にあたります。管理監督者に該当する詳しい要件は以下の記事を参照して下さい。

参照:しっかりマスター労働基準法|厚生労働省 東京労働局

管理監督者の場合、労働時間に制限がなく、休憩時間や法定休日の適用から除外されています。そのため、労働時間が法定時間を超えた場合でも、深夜労働以外は残業代の支払いがなく給与額が固定になるので、年俸制に適しています。

みなし労働時間制の適用を受けている場合

みなし労働時間制とは、実際に働いた時間ではなく、所定労働時間や仕事をするために通常要する時間働いたものとして給与を計算する制度です。みなし労働時間制の適用を受けると、企業が決めたみなし時間に応じて給与を算定するため、年俸制での運用がしやすくなります。

営業・企画・研究・開発などの職種の場合

例えば営業や企画、研究、開発などの職種のように、業績や成果の内容を、具体的な事項や数値などで提示可能な職種に従事している従業員の場合は、提示項目を基準として給与の査定がしやすいので年俸制が向いています。

反対に、下記のような企業や従業員は、年俸制が適していないことが多いです。

  • 仕事の内容からして個人の業績や成果のみで給与を決めることが難しい業種(例えば医療- 介護福祉業など)や部署(人事- 事務職など)に従事する場合

  • 入社して日が浅い若手従業員である場合(業績や成果を評価しにくいため)

  • 月ごとの労働時間の予測が難しい部署で働く場合

経営計画が立てやすい

年俸制は1年分の給与を事前に決めるため、年間に必要な人件費を事前に把握できます。諸経費の中で人件費は大きな割合を占めているので、事前に人件費の予測ができれば経営計画を立てやすくなります。

従業員の生産性やモチベーションアップにつながる

年俸制は仕事の成果に対して給与額が決まるシステムが多く、業績を上げれば従業員の給与の大幅アップもあるでしょう。やる気がある従業員にとっては大きなメリットであることはもちろん、企業側から見た場合も、従業員のモチベーションを向上させることができ、労働生産性の向上にもつながります。

年俸制の給与計算方法の6つのポイント

年俸制の給与計算方法は、一般的な給与の支払い方法である月給制の計算方法とは違いがあります。以下で6つのポイントを解説します。

年俸額の決め方

年俸額を決める際は、まず企業と従業員の間で交渉の場を設けます。そして給与額や諸条件(残業代の取扱いなど)について双方が合意することで、1年間の処遇が決定します。

年俸は、基本給+成果給(業績給)で構成されている場合がほとんどです。成果給は、主に前年度の業績や成果と、今年度の業務に対する成果の期待値などを考慮して決めます。基本給と成果給の割合は、企業ごと、また対象者ごとにも異なります。

給与は支払い方法

年俸制という名前ではありますが、給与の支払い方法は一括払いではありません。給与は毎月1回以上、一定期日に支払うことと労働基準法に定めがあるため、企業が定めている毎月の給与日に支払います。ボーナスがない場合は、毎月決まった日に年俸の12分の1ずつ支給します。

ボーナスの設定

ボーナスの有無、支給の時期や回数、支給額の計算方法などは、企業ごとに独自で定められます。よくある計算方法としては、「年俸を分割し、給与とボーナスで分ける。例えば年俸を15分割し、そのうちの3をボーナスとする」という方法や、「ボーナスのみ、その都度の成果に対して計算し、支給する」という方法が挙げられます。

残業代の対応

年俸制で決まっている1年間の給与額は原則、所定労働時間、つまり雇用契約書などに記載のある始業から終業までの時間から休憩時間を引いた時間で働いた場合の給与です。そのため残業をした場合には、別途残業代の支払いが必要です。

ただし年俸を決定するときに、固定残業代制度が導入されており本人の同意を得ていれば、決められた範囲内の残業時間に限り、残業代は年俸の給与額に含まれます。

欠勤控除の取り扱い

年俸制でも、休職や欠勤、遅刻、早退をした場合は、その分を給与から差し引くことができます。控除の基準や控除額の計算方法は企業によって異なるため、就業規則に明記しなければなりません。記載がなければ、欠勤などを理由として控除扱いにすることはできません。

退職・解雇が発生した場合の対応

年の途中で退職や解雇する場合は、労働していない期間の給与支払いは基本的にありません。

もし年俸にボーナスが含まれている場合、次のいずれかの対応をします。

  • ボーナス支給日の前に退職した場合、在籍していた期間分に応じて支払う

  • ボーナス支給日時点で在籍していない場合には支払わない

どちらの対応でも可能ですが、就業規則、雇用契約書などに記載した上で従業員に説明する必要があります。

年俸制でトラブル発生を防ぐための4つの注意点

年俸制を導入する際にチェックが必要な注意点を解説します。

就業規則の改定を行う

新たに年俸制を導入する場合、これまでの給与制度を変更することになるので、就業規則の改定が必要になります。給与の決定方法や年俸制の適用を受ける従業員の範囲など、新しく決める項目が多いので、記載漏れがないように確認しながら行いましょう。

改定後は通常の就業規則を変更する場合と同様に、変更前と変更後の条文を比較明記した書類に従業員代表の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署に届け出をします。変更後の就業規則は従業員への周知も必要です。

【記載例】

労働条件通知書兼雇用契約書の場合

年俸額、年俸の支給方法、ボーナスの有無などを記載します。

年俸 〇〇円とする

賃金の支払い方法は、〇〇とする。

(例・・年俸を12等分する、年俸を15等分にし、3等分は年2回ボーナスとして支給するなど)

就業規則の場合

第〇条(適用対象者)
年俸制の対象者は、〇〇とする。

(例えば『課長以上』などと、年俸制の対象となる従業員の条件を記載する)

第〇条(年俸額の決定方法)
年俸の額は、以下の項目を評価基準として、本人と協議の上決定する。

・職務遂行力 ・職務の知識、技術のレベル ・業績に対する貢献度 ・業務遂行上の役割と責任度 (・その他企業で必要な項目があれば記載する)

第〇条(決定の時期)
年俸の決定時期は、毎年〇月とし、〇月〇日~〇月〇日までを計算期間とする。

第〇条(支払方法)

実際に導入する支払い方法を記載すること。
例...年俸の額は、12等分して毎月の給料日に12分の1を支払う。など)

労使間での合意を行う

年俸制を導入する場合、従業員の労働条件が変更されることになるので、対象の従業員の同意が必要です。
また、事業場全体で年俸制を導入することも可能です。その場合は、制度内容について労働組合や従業員一人ひとりと話し合いの上、就業規則を変更します。もし、月給制から年俸制に変更したことにより給与額が大幅に下がるなどの不利益変更に該当する場合、代替案を提示するか、経営危機回避のためなどの合理的な理由がないと改定ができないこともあります。

年俸額の明確な区分を周知する

年俸額は企業ごとに明確な評価項目と評価基準を設定し、それをもとにして総合的に判断します。

よく使用される評価項目は

  • 業績- 成果達成度、将来の期待値

  • 服務状況(欠勤- 遅刻- 早退の有無や勤務態度のよしあしなど)

  • 本人の能力(専門知識や業務処理力などを計る)

  • そのほか企業独自の項目


などがあります。

評価項目と評価基準は公平性を保つため従業員に周知する必要があり、評価者も評価制度の内容について理解し、公平な評価を行わなければなりません。

年度中には人件費を変更できない

一度決定した年俸額はその年度の固定額となるため、年度の途中での変更は原則できません。つまり、従業員の業績が悪く年俸額に見合う働きがなくても減額はできず、逆に年俸額以上の成果を上げても増額はできません。

ただし、ボーナスが成果に応じてその都度計算し支給する契約である場合は、ボーナスで調整することは可能です。

まとめ

年俸制を導入する際には、職場や労働者が、年俸制に適しているかを検証し、従業員の成果に対して公平な評価を行い、きちんと年俸に反映させるしくみを整えることが大切です。

評価基準があいまいだと従業員に不信感を与え、従業員のモチベーションの低下につながります。明確な評価制度の設計と公平な評価判断ができる評価者が必須であることを理解した上で、自社に合うか判断してみるとよいでしょう。

著者プロフィール

木村政美(社会保険労務士・行政書士)

木村政美(社会保険労務士・行政書士)

2004年社会保険労務士・行政書士・FP事務所きむらオフィス開業。 企業の労務管理アドバイスを得意分野とし、顧問先や各種相談会での相談業務、セミナー講師、執筆活動などを幅広く行っている。2020年度より厚生労働省働き方改革推進支援センター派遣専門家受嘱。

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