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社員の頻発する無断欠勤は、企業活動に支障が生じることもあり、会社側としては毅然とした対応を取りたいと考えるのも当然のことでしょう。しかし、いきなり解雇などの処分を下してしまうと、逆に社員から不当だと訴えられるリスクが生じる可能性があります。今回は、無断欠勤をした社員への対応を解説します。
無断欠勤とは、社員が会社へ事前に連絡をすることなく、突然会社を休んでしまうことです。
本来ならば、有給休暇の取得や欠勤などの理由で会社を休む際、社員は会社に対して事前に申請を行うなどの手続きを取らなければなりません。しかし、無断欠勤は社員が手続きをすべて行わず、当該社員が休むことを会社側が知らない状況で欠勤をする行為を言います。
なお、会社への勤怠の連絡手段としては、これまでは電話によるものが主流でしたが、昨今ではチャットツールやメッセンジャーなどのSNSを活用した連絡方法も普及しています。無断欠勤は、いずれの方法でも申請、連絡がされていない状態での欠勤を指します。「電話連絡はなかったが、直前にメールはきていた」という場合は、無断欠勤ではありません。
社員が無断欠勤をする理由はさまざまなものが挙げられます。主な5つの理由について解説します。
社員自身には出社する意思があるにもかかわらず、急に心身を阻害する事態に襲われた場合です。具体的には、突然の事故や体調不良などです。連絡もできない状態というからには、社員が置かれている状況が非常に深刻であることが予想されます。場合によっては生死にかかわる状況に陥っている可能性もあるため、あらゆる事態を想定しておく必要があるでしょう。
このケースでは社員本人ではなく、社員の近親者に急病や事故などのアクシデントが生じ、対応に追われて連絡が取れない可能性も含まれます。
うつ病などの精神疾患により、会社へ欠勤の連絡ができない場合が挙げられます。
精神疾患の理由は社員を取りまく環境によって異なり、職場環境や人間関係、プライベートの問題などさまざまです。出社ができない、欠勤の連絡ができないほどの精神疾患に陥る場合、それまでの様子から兆候が見られるケースが多くあります。不満や悩みを抱えていないか、詳細を知っている者が社内に存在しないかを確認する必要があるでしょう。
特定の社員とのいざこざや、他の社員からのセクハラ、パワハラなどハラスメントを受けたことで出社できなくなっていることもあります。
上司や社内の相談窓口へ相談できず、悩んだ末に無断欠勤をしてしまったケースが考えられます。この場合、社員が社内トラブルを報告・相談しやすい体制が整っていないと考えられるため、社員への対応のほか、体制について検討をし直す必要があります。
関連記事:パワハラ防止法とは?企業に義務付けられた措置の対応方法を解説
自己管理が苦手なタイプの社員が連絡なく休んでしまう場合です。例えば、寝坊が原因で出社できないケースが挙げられます。
寝坊の理由として、朝の決まった時間にどうしても起きられない体質であるほか、後先を考えず夜更かしをしてしまい朝に起きられない、二度寝がやめられないなど、体質から生活習慣、性格までさまざまな理由があり、対処法もさまざまです。
連絡ができない理由にも、気詰まりに思ってしまい連絡ができない、頭がぼんやりしていて連絡することを思いつかないなど、社員の環境や体質、性格に応じて多岐にわたります。
事件や事故の当事者となり、拘留または逮捕されている可能性がこれにあたります。連絡が可能な状況下であっても、理由を言いづらく、連絡ができないでいる可能性があることから会社への報告が遅れ無断欠勤と扱われることが多くみられます。
このようなケースの場合、具体的な状況がはっきりするまでは処分の判断を下すのは待つべきでしょう。
まず、心得ておくべき点は「欠勤をした社員とコミュニケーションを取ることが重要である」ということです。会社側が納得できる内容か否かは別として、社員には無断欠勤をするだけの理由が存在するはずです。トラブルを防ぐためにも、社員との連携を取りながら進めることを心がけましょう。
何よりも最初に、社員本人に連絡を取りましょう。先述したとおり、無断欠勤の理由にはさまざまな内容が挙げられます。中には社員本人の身に危険が生じている可能性もあるため、社員の怠慢による欠勤であると決めつけず、安否確認をするつもりで連絡を取りましょう。
確認方法として、電話、メールなどを使います。電話も、携帯電話と自宅の固定電話の双方に連絡しましょう。
本人が会社と連絡を取りたくないと思っている場合もあり、オフィスや上司の電話番号を着信拒否に設定している可能性や、メールやチャットツールの受信拒否を設定している可能性もあります。その際は、欠勤をしている社員と親しい者から連絡を取ってもらう、緊急連絡先に連絡するなど状況に応じて対応します。
それでも連絡が取れない場合は、自宅へ直接訪問する手段も検討しましょう。一人暮らしをしている社員で、電話やメール、自宅訪問をしても連絡がつかず、自宅のポストに大量の新聞や郵便物が見つかった場合は、深刻な事態を想定し、警察への連絡も検討することになります。
無断欠勤をした社員と連絡が取れた時点で、第一関門は突破したと言えるでしょう。次の段階は、社員が無断欠勤をするに至った経緯や原因を確認することです。
無断欠勤の理由が社員本人の心身の問題にある場合は、産業医へ経緯を報告し対処法を仰ぎます。怪我や疾病など身体に問題がある場合は本人もすぐに気がつき、病院で受診することも多くあるのですが、精神に何らかの支障をきたしている場合は社員本人も不調に気づかず、放置していることもみられます。
そのような場合、産業医と相談しながら、精神科、心療内科などのクリニックを紹介することになりますが、紹介までの具体的な流れについては慎重に進める必要があるでしょう。
無断欠勤が一度ではなく、複数回にわたって続いている社員に対しては、会社側はその原因究明と適切な指導、教育を行う必要があります。
例えば生活習慣に問題がある場合は、社員自身の生活スタイルの見直しと改善方法を社員とともに検討する必要がありますし、自己管理を行うことが難しい社員に対しては、上司や社内問題の相談窓口、産業医などと連携して、サポート体制を構築していかなければなりません。
また、社内で起こった各種ハラスメントや、社員同士のトラブルが原因の場合は、根本となる問題を取り除くことが先決です。ハラスメントやトラブルに関係する者、周囲の者の意見も聴収したうえで解決策を検討します。問題となる相手方の指導も含め、欠勤した社員が今後安心して出社できるような職場環境を整えましょう。
ネガティブフィードバックのスキル
無断欠勤の原因次第では、本人への継続的な指導が必要です。モチベーションを落とさずに態度を変えてもらうには、フィードバックのスキルが必要となってきます。
フィードバックは身につけることができるスキルです。解説資料をご用意していますので、ぜひご覧ください。
→「現場のパフォーマンスを高めるネガティブフィードバックとは?」
指導をしても状況が改善されない場合、懲戒処分を検討します。この段階で実施できる懲戒処分は、以下のようなものが挙げられます。
従業員に明らかに非がある場合にしか行えないことに注意しましょう。ハラスメントなど会社に責任がある、疑われる場合に懲戒処分を行ってはいけません。
度重なる無断欠勤に対して、指導を実施し、懲戒処分を行っても、無断欠勤が繰り返される場合、休職や退職勧奨も視野に入れてみます。どちらも会社から一方的に指示するものではなく、双方の合意が必要です。
原因に対して適切な対応を行っても、無断欠勤が改善されない場合は最終手段として「解雇」があります。しかし、解雇は企業が社員に対して下す懲戒処分の中でも最も重いとされる処分であり、むやみに下すことのできるものでもありません。その点を踏まえて、必要に応じて検討しましょう。
派遣社員は自社の社員でないため、無断欠勤した場合や無断欠勤が続く場合の対処法が変わってきます。
派遣社員が出社してこない場合、派遣会社に連絡し安否確認を行います。派遣社員は、自社社員ではありませんので、人事担当者でも連絡先がわからないのが一般的です。
無断欠勤の理由を確認しつつ、派遣会社を交え対策を検討します。無断欠勤の理由が企業側にある場合、状況を確認して改善を試みます。
派遣社員側の理由で無断欠勤が続いたときは、契約継続について派遣会社と話し合いましょう。業務に支障が出てくることがあるので、派遣社員の交代などを視野に入れていく必要がでてきます。契約の途中解除などについては、契約書の定めに従う、もしくは派遣会社と話し合いの上進めていきます。
関連記事:社労士が解説!派遣契約の変更・更新・終了に関するルール
派遣社員は自社社員ではなく、あくまでも派遣会社との派遣契約に基づいて派遣されている労働者です。契約解除は、派遣会社と話し合いを行ってください。直接、契約解除を申し出るとトラブルに発展する可能性があります。
無断欠勤を行う社員を解雇することは、決して簡単に行えることではありません。
単に無断欠勤をしたという理由で解雇処分をしてしまうと、社員より不当解雇と訴えられ、裁判沙汰となる可能性もあります。労使間の争いごとは、ほかの社員のモチベーションにも悪影響を及ぼし、ひいては社内の雰囲気を悪くするものです。対外的にもダメージが避けられません。
解雇するという対応は、無断欠勤を行った社員に対して、ひと通りの対応を行ったにもかかわらず状況が改善しなかった場合などに初めて検討するものであることを覚えておきましょう。
重要なポイントとしては「解雇に至るまでに企業としてあらゆる対応をし尽くしている」という事実が明確であることです。無断欠勤をした社員の解雇処分を視野に入れている場合は、次のような対応を進めておきましょう。
社員が本当に無断欠勤をしていたかどうか、客観的に確認できる証拠を整えておきます。例えば、タイムカードや出勤簿などの勤怠管理書類や、本人へ連絡を取った事実が分かる書類などです。
本人への連絡の記録書類には、電話やメール送信時刻、社員と連絡が取れたか否か、実際に連絡が取れた際にどのようなやりとりを行ったかの内容、自宅訪問をした場合はその日時や回数、様子など、連絡が取れなかった際の対応内容を細かく記録します。
これらの書類を残しておくことで、解雇後に社員が不服を訴えた場合でも、無断欠勤の事実があったことを証明できるでしょう。
長期的な無断欠勤が続いたからといって、どんな理由でも解雇できるわけではありません。無断欠勤の理由が企業側にある場合、解雇は認められません。
一例
また、精神疾患を従業員が患っている場合、即解雇ではなく、休職して治療・療養を勧めます。
企業側に起因する無断欠勤で解雇を行うと、不当解雇として罰則を受けることがあります。
解雇は、「懲戒処分」のうちの一つです。懲戒処分とは、会社で仕事をする際に守るべきルールを社員が破った際に、その内容に応じて会社が社員に対して行う処分のことを言います。軽い順から並べると以下のとおりです。
会社側が実際に懲戒処分を行う際には、懲戒処分に関するルールを社内であらかじめ定めておく必要があります。守るべき社内ルールの内容やどのような行為がどのような懲戒処分に該当するかを就業規則などに記載のうえ、それを監督署へ届け出し、社員へ周知させなければなりません。その状態で初めて、会社側は懲戒処分を行えるようになります。
また、従業員と連絡が取れないことなどを想定し、私物の処分なども明確にしておきましょう。
解雇が許される無断欠勤の日数に明確な基準はありませんが、14日(2週間)以上無断で欠勤すると、裁判所はこれを合法的な解雇理由と見なす傾向があります。一方で、6日間の無断欠勤のみで解雇される場合、多くの裁判例では不当解雇と見なされています。
無断欠勤による解雇は、「解雇予告除外認定基準」に該当する可能性があります。解雇予告除外認定基準とは、社員側に非のある行為が原因で解雇となる場合に、解雇予告や解雇予告手当の支払いが必要ないものとして認められる基準です。
解雇予告除外認定を受けるには、会社側が労働基準監督署へ申請を行い、認定を受けることで可能となります。申請内容によっては適用外となる場合もあり、最終的には裁判で決定されるケースもあります。
実際に社員を解雇するまでの流れについて見ていきましょう。
解雇予告とは、解雇の対象となる社員へ30日前までに「解雇します」と予告をすることです。予告の方法は口頭・文書のいずれでも構いませんが、後にトラブルに発展することを避けるためにも、解雇通知書という「書面」で通知するのがおすすめです。
連絡がつかない社員の場合、解雇予告も相手に届かない場合があるため、退職設定日を書面などで郵送したうえで、退職手続きを取る方法がトラブルを防ぐ効果があるでしょう。
この解雇予告を解雇日まで30日を切った時点で行った場合は、解雇予告をした日から解雇日までの日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります。したがって、解雇予告を行わず即日解雇を行う場合は、30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
解雇予告を行わず即日解雇を行う場合は、30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。もしくは、前述した「解雇予告除外認定」を受けます。
解雇は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを適切に行ったうえで行います。
解雇予告後に、残っている有給休暇の取得を社員が申し出る場合があります。退職日前の申し出の場合は、有給休暇の消化が可能ですが、有給休暇取得日は出勤日として扱われるため、有給休暇取得日の分の解雇予告手当を支払う必要はありません。
退職金については、会社ごとの退職金ルールに沿って行うことになるため、解雇処分扱いの社員へ退職金を支払うかどうかをあらかじめ決めておき、就業規則などに記載しておく必要があります。
解雇予告書や解雇通知書を送付しても不達で戻ってくる場合は、「公示送達」を利用しましょう。
「公示送達」とは、法律手続きにおいて、特定の文書や通知を相手方に送付する必要がある場合に、通常の方法(直接手渡しや郵送など)で送付が困難であると判断されたときに用いられる方法の一つです。
法律的な通知を、対象者に直接届けることができない場合(相手方の住所が不明である、相手方が故意に受け取りを拒否しているなど)、法律が定める手続きに従って、裁判所の掲示板や公報、地方公報などに掲載することにより、法的な通知がなされたものとみなされます。
何よりもまず、社員が無事であるかを確認し、無断欠勤にいたった本当の理由をよく確認してください。解雇処分は、あくまでも最終手段だということを念頭におき、まずは本当の理由を解決することに努めましょう。解雇という判断になった場合でも、通常の退職扱いとして手続きをしてあげる方法も検討するのも方法の一つです。現時点で無断欠勤に困る状況にない企業でも、今後発生しうることを考え、対応方法や処分基準を準備しておきましょう。
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