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雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?トラブル事例を交え解説

掲載日2021年8月24日

最終更新日2021年9月28日

目次

    会社が社員を雇う際に交わす「雇用契約書」の存在は、無用な労使トラブルを防ぐためにも非常に重要です。

    今回は、雇用契約書とは何か、似た書類として混同されやすい労働条件通知書との違い、そして雇用契約書にまつわるトラブルや対策について解説します。

    雇用契約書とは

    雇用契約書とは、使用者である会社と使用される側である労働者との間で交わされる、雇用に関する契約書です。

    労働契約は、使用者・労働者が労働日数や時間、仕事の内容、賃金額などのさまざまな取り決めを行い、その取り決め内容に双方が同意した時点で成立します。雇用契約書は、その契約内容を書面にしたものです。

    労働条件通知書と雇用契約書の違い

    雇用契約書と似た書類に「労働条件通知書」があります。雇用契約を交わす際には必然的に労働条件を定めるため、労働条件通知書と雇用契約書は同じものであると勘違いしやすいのですが、この2つの書類は内容が大きく異なります。

    「雇用契約書」は雇用契約が成立した際に労使間で交わす「契約書」ですが、「労働条件通知書」はその名のとおり「通知書」、つまり相手に書面の内容を通知する意味をもちます。
    具体的には、使用者が、雇用契約を交わす労働者が働く日数や時間、休日、賃金額、そのほか福利厚生など、雇用されるにあたって労働者に把握して欲しい労働条件の内容を知らせるために作成するものです。

    労働条件通知書は、労働基準法で作成することが義務とされています。労働基準法は、使用者と比較すると立場が弱いとされる労働者を守るための法律で、労働者にとって不利な条件で働かされることを防ぐため、使用者は労働条件通知書を作成して雇用契約の内容を明示しなければならないことを定めています。 なお、労働条件通知書を発行しない場合や、発行したとしても法律で定められた内容に沿っていない場合は、法律違反として罰則が科せられる可能性があるため注意しましょう。

    雇用契約書はなぜ必要?

    雇用契約書は労働条件通知書とは異なり、法律で作成が義務づけられているものではありません。口頭、つまり口約束であっても、使用者と労働者が契約内容に合意をすれば、雇用契約自体は成立します。

    しかし口頭の場合は、使用者・労働者のいずれか、もしくは双方が思い違いをする可能性があることから、後に労使トラブルが発生する危険性があります。無用なトラブルを避けるためにも、雇用契約を交わす際には雇用契約書を作成するほうが労使双方にとって安心であるといえます。

    雇用契約書の記載項目

    雇用契約書は、前述のとおり、法律で義務づけられたものではないため、必ず記載しなければならない項目の指定はありません。ただし、会社側の手間を省くため、労働条件通知書に記載すべき内容を雇用契約書へ記載して相手に渡すことで、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」とする方法が多く取られています。
    労働条件通知書に記載が必要とされる内容は、いずれも雇用契約において重要な意味合いをもつものであることから、ここでは労働条件通知書の内容に沿って雇用契約書を作成する項目を説明します。

    絶対的明示事項

    「労働条件通知書 兼 雇用契約書」に記載すべき事項のうち、必ず詳細を定めた上で記載しなければならない「絶対的明示事項」の内容は以下のとおりです。

        1.労働契約期間(期間の定めがあるかどうか)
        2.就業場所・従事する業務内容
        3.労働時間や残業の有無・休憩・休暇の詳細
        4.賃金額や賃金の計算法・支払方法・締日と支払日
        5.定年制や継続雇用制度の有無、退職手続きに関するルールや解雇事由などの退職に関する詳細

    相対的明示事項

    一方、自社で詳細が定められている場合には「相対的明示事項」を記載しなければなりません。これは先ほど挙げた「絶対的明示事項」とは異なり、社内でルール化されている場合のみ記載が義務づけられているものです。内容は以下のとおりです。

        1. 退職手当についての詳細
        2. 臨時賃金や賞与(ボーナス)など各種手当の詳細
        3. 社員が負担する食費や作業用品に関する詳細
        4. 安全衛生に関する詳細
        5. 職業訓練に関する詳細
        6. 災害補償、業務外の疾病扶助に関する詳細
        7. 表彰や制裁に関する詳細
        8. 休職に関する詳細
        9. 賃金の昇給に関する詳細

    雇用契約書のひな形はある?

    雇用契約書はそもそも作成の義務がないため、ひな形などの定めがなく、実態に沿って各企業が契約書を作成することができます。ただし、労働条件通知書の内容に沿って作成をする場合は、厚生労働省の提供する労働条件通知書の推奨ひな形を参考にすると良いでしょう。

    出典:一般労働者用モデル労働条件通知書(常用、有期雇用型)|厚生労働省

    雇用契約書を作るときの注意点

    次は、雇用形態ごとに契約書作成時の注意点について解説します。

    正社員の場合

    雇用契約書を新たに作成する際には、まずはベースとなる正社員向けの内容から決めていくと良いでしょう。

    雇用契約書の項目は、必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」の内容をあますことなく記載し、その上で「相対的記載事項」のうち社内でルールとして定められている内容を加えていきます。
    社員の健康や安全、教育訓練の詳細も盛り込む必要があるでしょう。また、退職金やボーナスの支給、昇給などの賃金に関するルールも必要に応じて加えます。

    正社員では転勤を繰り返す総合職に就くケースも多く、複数の事業所展開をしている企業の場合は「転勤」に関するルールも整備する必要があります。配置転換や職種転換も企業の発展のために欠かせない戦略として考えている場合は、将来に備えてそれらに関する内容も記載しておくと安心です。

    パート従業員の場合

    パート従業員やアルバイトなど、労働日数や労働時間が正社員よりも短い社員の場合は、雇用形態にあわせた雇用契約書の作成が必要です。これらの従業員の場合は、1年などの契約期間を定め、必要に応じて契約の更新をしていくケースが多いことから、労働契約を更新する際の判断基準の内容が、契約における特に重要なポイントになります。

    そのほかの絶対的明示事項の内容についても、正社員の場合と同様に記載が義務づけられています。また、パート従業員などの短時間労働者の場合でも、日数に応じた有給休暇の付与が必要になるため、法律で与えるべき有給休暇の日数などを必ず把握した上で契約書に盛り込みましょう。

    契約社員の場合

    契約社員は、有期契約社員と無期契約社員の2つに分類されます。有期契約者と契約を更新し、その期間が通算5年を超えた場合は、法律によって希望者を無期契約社員へ転換させる必要があります。
    つまり、有期契約社員・無期契約社員は契約期間に定めがあるか否かで分類されるものであり、正社員とは異なる位置づけであることを理解しましょう。

    したがって、契約社員向けの雇用契約書を作成する場合は、前項目のパート従業員のケースと同じく、労働契約と契約更新に関する事項の記載が重要です。そのほかの絶対的明示事項についても当然ながら記載が必要となり、契約社員に適用される相対的明示事項の内容があれば契約書へ加えなければなりません。

    試用期間がある場合

    雇用契約の際に試用期間を設けている企業の場合は、試用期間中の契約内容を記載した「試用期間 雇用契約書」を作成し、絶対的明示事項に加え、具体的な試用期間や期間延長の有無、本採用の基準を盛り込む方法が有効です。
    ただし、試用期間中と本採用後の雇用契約書(兼労働条件通知書)を統合することも認められており、雇用形態に沿った形の雇用契約書の中に、試用期間についての記載を加えることも可能です。企業のルールに沿って試用期間についての記載を忘れることなく契約書を作成するようにしましょう。

    雇用契約書がないことでのトラブル事例

    雇用契約書にまつわるトラブルとして多く報告されている事例について紹介します。労使トラブルに時間と労力を使うことのないよう、参考にしてみてください。

    雇用契約書を見せてほしいと言われる

    雇用契約書を作成せず、口答で社員へ契約内容を伝える企業の場合、後から社員に「契約内容確認のために雇用契約書を発行してほしい」と依頼されるケースがあります。 雇用契約書自体は発行の義務は前述のとおりありませんが、労働条件通知書については法律で作成・明示が義務づけられています。

    雇用契約書の内容を見せてほしいと言われた場合は、労働条件通知書の作成、もしくは労働条件通知書の内容を盛り込んだ上で雇用契約書内を作成し、社員に渡す必要があります。

    なお、記載すべき内容が労働条件通知書に明示されていない場合は、法律違反として30万円以下の罰金刑に処せられる可能性があります。

    雇用契約書と実態の勤務時間が違っている

    雇用契約書で定めた内容と実際に働く内容が異なる場合は、労働者側には、即時に雇用契約を解除することが法律により認められています。 また、労働時間が契約時間と比較して長期にわたる場合は、長時間労働として適切な割増賃金の支払が必要です。実態によっては、労働者から訴えられるケースもみられます。

    裁判となった場合は企業側のイメージダウンは免れず、無用な労力も消費することになるため、雇用契約書に定めた内容は遵守するよう心がけましょう。

    雇用契約を即時に解除する

    雇用契約書によって雇用契約を交わした社員を契約の途中で解除することは労働者の解雇行為にあたり、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる」場合のみ行うことができます。雇用されている社員にも生活があることから、よほどの理由がない限り、雇用契約を即時に解除することは認められていません。

    解雇の理由には、勤務態度や業務命令違反、服務規程違反などの内容が挙げられますが、これらの行為を1回行ったことで即解雇することはできません。社員側の落ち度がどのくらいあるのか、社員が行った行為の内容はどのようなものか、社員の行為により企業が受けた損害はどの程度かを鑑みて総合的に判断されます。
    また、労災による療養期間や、産前産後休業期間、社員の性別や信条などを理由とした解雇も禁止されています。 解雇処分は非常に慎重に行うべきであり、実際に解雇する場合は解雇予告や解雇予告手当の支払など、法律に沿った適正な形で対応する必要があることを覚えておきましょう。

    固定残業代の記載にまつわるトラブル

    社員間での残業時間の格差や賃金計算業務の効率化のため、固定残業制度を導入する企業が増加しています。実際に固定残業代を支払う雇用契約を交わす場合は、必ず以下の項目を明示しなければなりません。

        1.固定残業代を除いた、本来の基本給の額
        2.固定残業代に含まれる残業時間数労働時間数と、固定残業代の計算方法
        3.固定残業時間を超える時間外労働などに関しては別途割増賃金を追加で支払うこと


    固定残業代の記載に関する主なトラブルとしては下記のような例が挙げられます。

    • 上記の項目の記載がなく固定残業代の計算根拠があいまいである
    • 追加で残業代を支払わなかった
    • 固定残業代と基本給が統合されていることで法定より低い基本給であることを隠していた


    固定残業制度を導入する場合は、就業規則や賃金規程で制度の内容を定める必要があります。月々の賃金計算時に残業時間の実態を把握した上で、固定残業代では賄いきれない残業時間分の残業代を賃金に上乗せして支払う、という方法を取らなければなりません。 さらに、社員が働いた時間が、固定残業代の基準の時間数に満たない場合でも、満たない時間数の残業代を固定残業代から差し引くことはできない点も覚えておきましょう。

    まとめ

    雇用契約書は、企業にとって非常に重要な存在です。雇用契約書には、企業が社員と交わす契約内容が記載されていますが、契約書で網羅できない部分は、就業規則などでルールを定め、社内体制を整える対応も必要です。社内の状況を洗い出した上で、必要に応じてルールを定め、社員が安心して働くことのできる環境を整えていきましょう。

    著者プロフィール

    加藤 知美(社会保険労務士)

    愛知県社会保険労務士会所属。総合商社、会計事務所、社労士事務所の勤務経験を経て、2014年に「エスプリーメ社労士事務所」を設立。 総合商社時では秘書・経理・総務が一体化した管理部署で指揮を執り、人事部と連携した数々の社員面接にも同席。会計事務所、社労士事務所勤務では顧問先の労務管理に加えセミナー講師としても活動。

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