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フレックスタイム制度、勤務間インターバル制度が導入後に「思っていたのと違う」となる理由

掲載日2026年9月 4日

最終更新日2026年9月 4日

フレックスタイム制度、勤務間インターバル制度が導入後に「思っていたのと違う」となる理由

目次

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フレックスタイム制度勤務間インターバル制度は、労働生産性の向上や柔軟な働き方の促進、残業抑制を目的に導入が検討される制度です。

厚生労働省の「就労条件総合調査」によれば、導入企業の割合はどちらも年によって増減しながら、長期的には緩やかな増加傾向にあります。しかし、制度を入れた後になって「思っていたのと違う」という声が、現場からも人事からも上がりやすい制度でもあります。

どちらの制度も、導入事例や解説記事が数多く出回っています。それにもかかわらず、実際に運用してみると想定外の課題にぶつかる企業が多いのは、制度の仕組み自体よりも、導入後の運用設計に見落としが生じやすいからだと感じています。

本記事では、フレックスタイム制度と勤務間インターバル制度それぞれで起きがちなギャップと、その背景にある共通の原因、そして導入前に確認しておきたいポイントについて解説します。

フレックスタイム制度、コアタイムを巡るジレンマ

フレックスタイム制度、コアタイムを巡るジレンマ

多くの企業がコアタイム(全員が働く時間帯)を設けたうえで制度を始めますが、運用が始まってから、狙った効果とは違う形に落ち着いてしまうことが少なくありません。

最初によく起きるのが、コアタイムを設けているにもかかわらず、結局その前後の時間帯(フレキシブルタイム)もほぼ全員が働いてしまうという状態です。始業・終業の時間帯を自分で決められるようになったものの、周囲の目を気にして、実質的には以前とほとんど変わらない時間に出社する社員が大半を占める、というケースです。制度としては存在していても、柔軟な働き方という本来の狙いが機能していない状態になります。

この状態に気づいた企業が、コアタイムの廃止(フルフレックス化)に踏み切ることがあります。廃止の理由は大きく二つのパターンに分かれます。

ひとつは、柔軟な働き方をさらに促進したいという思想的な動機によるもの。もうひとつは、海外とのやり取りなど、夜間や早朝を中心とした業務を抱える部署で、コアタイムの設定自体が実情に合わなくなり、業務上の必要に迫られて廃止するパターンです。前者は制度をより理想に近づけるための決断であることが多く、後者は特定の部署の事情が先行し、運用状況を見て全社的な制度変更に波及させていくというプロセスをたどることが多いです。

ところがコアタイムを廃止すると、今度は別の課題が生まれます。会議や打ち合わせの時間調整が難しくなる、チームメンバー同士のコミュニケーションがとりづらくなるなど、チームとしての連携が崩れやすくなるのです。制度としては柔軟性が確保できたように見えても、現場の管理職にとっては、メンバーの稼働時間がばらばらになることで、チームをまとめる難易度が上がるという負担が生じます。誰がいつ働いているかを都度確認しなければならず、簡単な確認事項を伝えるだけでも、以前より時間がかかるようになった、伝達漏れが生じやすくなった、という声もよく聞きます。

さらに、清算期間中の労働時間の過不足調整という負担も発生します。想定より働きすぎた月と、働き足りなかった月の時間を繰り越して精算する作業は、制度設計の段階ではあまり意識されないまま、運用開始後に表面化することがあります。

負担を抱えるのは人事だけではありません。社員にとっては、繰り越された時間や不足分の扱いが分かりにくく、柔軟な働き方を目指したつもりが常に勤怠を気にしなければならない、という状況になる可能性があります。

管理職にとっても、メンバーごとの過不足を把握し、必要に応じて働き方の調整を促す役割が新たに加わることになります。特に清算期間を1か月より長く設定している場合、対象社員が増えるほど、この負担は関係者それぞれに積み重なっていきます。

コアタイムを廃止した直後、全社員参加の研修や会議のセッティングに苦労した経験が私にもあります。加えて、コアタイム外の出社を実質的に強制されたと感じた社員から、人事に相談が寄せられたこともあります。柔軟にしたはずの制度が、別の形で誰かに負担を強いてしまうことがある、と実感しました。

なお、一度廃止したコアタイムを復活させること自体は、手続き面ではそれほど難しくありません。従業員代表または労働組合の同意を得たうえで、就業規則・労使協定を改定すれば対応できます。難しいのは手続きではなく、一度与えた柔軟性を狭める形になるため、社内の納得感をどう作るかという点です。

コアタイムを維持する場合も、廃止する場合も、判断の軸になるのは「柔軟性を高めることで、何を実現したいのか」という目的です。目的が曖昧なまま制度変更を重ねると、社員側からは「また変わるのか」という疲労感を招きかねません。見直しに着手する前に、今回の変更で解決したい課題が社内で意識統一されているか、確認しておくとよいでしょう。

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勤務間インターバル制度、努力義務ゆえの形骸化

勤務間インターバル制度、努力義務ゆえの形骸化

勤務間インターバル制度は、終業から翌日の始業までに一定の休息時間を確保する仕組みです。

厚生労働省の令和6年就労条件総合調査では、この制度を導入している企業の割合は5.7%にとどまっています。2017年の調査開始時点では1.4%だったことを踏まえると、長期的には増加してきたといえます。ただし、直近の数年はほぼ横ばいで推移しており、現時点では法的には努力義務であるため、多くの企業にとってはまだ検討段階の制度だといえます。

理想的な運用は、インターバル時間を意識して残業時間を抑えることです。ただし、やむなく長時間の残業となった日は、翌日の始業時刻を後ろ倒しにしてインターバル時間を確保し、しっかりと休息をとらせることが重要です。

しかし、この「始業時刻の後ろ倒し」の実現は簡単ではありません。社員にとっては、原則の始業時刻より遅れて出社することに心理的ハードルがあります。現場の管理職にとっても、始業時刻から会議など組織的なスケジュールが入っていると、遅れて出社する社員がいることでまとめづらくなります。そのため、結局、前日の終業時刻にかかわらず、職場の空気として始業時刻に皆が出社する状況になりがちです。

また、努力義務であるがゆえに、人事としても強く言えず、ルールが形骸化してしまっているという悩みを私自身も抱えてきました。就業規則やマニュアルにルール化しても、実際には守られていない、あるいは守らせられていないというのが実情です。法的な義務ではないため、現場から「取引先とのやり取りを制限してまで守る必要があるのか」と言われると、人事として強く押し切れない場面が多くあります。

さらに、休息時間の確保は、体調管理だけの問題にとどまりません。休息が足りないまま出社する状態が続けば、業務中の集中力や判断力にも影響が及び、結果としてミスや事故のリスクが高まります。勤務間インターバル制度を、単なる労務管理上の項目としてではなく、生産性や安全配慮の観点からも捉え直しておくと、社内での優先順位も上がりやすくなります。

なお、努力義務という位置づけは今後変わる可能性があります。労働基準関係法制研究会の報告書や、労働政策審議会での議論では、勤務間インターバル制度の法的な位置づけを明確にする方向性が示されています。今のところ義務化が確定しているわけではありませんが、議論の俎上には載っており、将来的に義務化される可能性はある、という状況として捉えておくとよいでしょう。努力義務のうちに実態を伴った運用に切り替えておくことが、将来の対応負担を軽くすることにもつながります。

「制度を入れること」と「働き方が変わること」の違い

「制度を入れること」と「働き方が変わること」の違い

フレックスタイム制度と勤務間インターバル制度、二つに共通するのは、「制度を入れること」と「実際に働き方が変わること」は別物だという点です。

導入時点では法的な要件を満たしていても、運用面の設計が伴っていなければ、狙った効果が出ないまま形骸化していきます。柔軟な働き方につながらなかったフレックスタイム制度も、ルールはあっても始業時刻が変わらなかった勤務間インターバル制度も、根っこにある構造は同じです。制度を導入することそのものをゴールにしてしまうと、運用段階で必ずギャップが生まれます。

この原因に気づかないまま放置すると、社員側からは「結局何も変わっていない」という受け止め方をされてしまい、次に新しい制度を提案したときの説得力まで失われかねません。

逆にいえば、この原因さえ理解しておけば、フレックスタイム制度や勤務間インターバル制度に限らず、他の制度を検討する際にも応用が利きます。新しい制度を導入する際は、要件を満たすことだけでなく、その制度が実際に機能するための運用ルールまでセットで設計する、という視点を持っておくことが重要です。

導入前に、何を確認しておくべきだったか

導入前に、何を確認しておくべきだったか

ここまでの内容を振り返ると、導入前にいくつか確認しておくべきだったと感じるポイントがあります。

まず、フレックスタイムを導入する際は、コアタイム・フレキシブルタイムの設計を現場の実情を確認しないまま行うのではなく、実際に働く社員が使いやすい形になるよう考えておくべきでした。例えば、会議を設定できる時間帯をあらかじめ決めておく、あるいはコアタイムを廃止する場合はその前にチームごとの連携方法を検討しておけば、混乱をある程度防げたはずです。あわせて、制度を導入することでどの部署でチームコントロールの負担が増えそうかを、あらかじめ管理職にヒアリングしておくと、想定外の負担を減らせます。

次に、勤務間インターバル制度を導入する際は、休息時間の確保だけでなく、始業時刻を後ろ倒しにする運用ルールをセットで設定しておくべきでした。休息時間のルールだけを作って終わりにするのではなく、翌日の始業時刻をどう扱うかまで、導入前に社内で合意しておく必要があります。だからこそ、これから導入する場合は、休息時間の規定と始業時刻の取り扱いを、必ず一つのセットとして設計することをおすすめします。勤怠管理システムや給与計算のルールが、始業時刻の変動に対応できるかどうかも、導入前に確認しておくべき点です。

最後に、導入後に想定通り機能しているかどうかを振り返るタイミングを、あらかじめ決めておくべきでした。多くの企業は、制度を導入した後、よほどの問題が起きない限り見直しの機会を持ちません。そのため、特に問題がなく、社員からの不満の声が上がっていない場合でも、半年後や一年後など、あらかじめ振り返りのタイミングを決めておくことで、形骸化に早い段階で気づくことができます。振り返りの際は、ルール通りに運用できているかだけでなく、社員が実際にどう感じているかを、あわせて確認しておくとよいでしょう。

あわせて、経営層への説明の仕方も、導入前に整理しておくべきでした。労働生産性の向上や柔軟な働き方の促進、残業抑制という目的だけを伝えると、運用面の課題が表面化したときに「話が違う」という反応を招きやすくなります。会議調整の難化や事務負担の増加といった、起こり得る副作用もあわせて共有しておけば、運用開始後の相談がしやすくなります。

まとめ

フレックスタイム制度も勤務間インターバル制度も、導入すること自体は珍しくなくなりました。しかし、制度を入れることと、実際に働き方が変わることの間には、思っている以上の壁があります

これから導入を検討している方も、すでに導入して違和感を抱いている方も、会議運用や始業時刻の取り扱いといった運用面の設計まで含めて、あらためて点検してみることをおすすめします。制度を作った後こそが、本当のスタートだと考えておくとよいでしょう。

どちらの制度も、一度で完璧な運用にたどり着く必要はありません。導入後に振り返り、少しずつ運用ルールを調整していくという前提に立っておくだけでも、「思っていたのと違う」という違和感への向き合い方は変わってくるはずです。導入前に完璧な設計を目指すより、導入後の点検を前提に組み立てておくほうが、結果的にうまくいくことが多いです。

制度導入後の形骸化を防ぐには

働き方に関する制度を定着させるには、現場の管理職が変更の目的を理解し、日々の業務運営に反映する必要があります。組織改革を進める際の管理職の役割について、以下の資料で解説しています。

組織改革を成功させるカギは管理職にあり

著者プロフィール

土田真吾 (チューンズ社会保険労務士事務所 代表)

土田真吾 (チューンズ社会保険労務士事務所 代表)

特定社会保険労務士(企業勤務)、キャリアコンサルタント(国家資格)、チューンズ社会保険労務士事務所 代表

学習塾を母体とする総合教育会社にて講師として勤務したのちに人事部へ異動。その後、人事の専門性を追求するため転職を重ねる。通常の人事業務に加え、人事制度企画や労務管理全般等、様々な業務経験を積む。現在は金融機関にて人事制度企画や法改正対応等に従事。2024年11月「チューンズ社会保険労務士事務所」を副業開業。現役人事担当者の強みを活かし「経営者・人事部・社員の気持ちがわかる社労士」として活動中。