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労働基準法、40年ぶりの大改正へ―経営者・人事が今のうちに押さえておくべき3つの視点

掲載日2026年8月28日

最終更新日2026年8月28日

労働基準法、40年ぶりの大改正へ―経営者・人事が今のうちに押さえておくべき3つの視点

目次

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本コラムは、企業人事として勤務する傍ら、開業社会保険労務士としても活躍されている土田真吾氏による寄稿コラムです。
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人事担当者や中小企業の経営層にとって、労務管理に関わる法改正の動向を早めに把握しておくことは重要なテーマです。今回の労働基準法の見直しは、1987年以来、約40年ぶりの大きな改正となる可能性があります。対象範囲も広いため、自社への影響を見極めるための情報収集が欠かせません。

ここでは、厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の報告書が示す見直しの方向性を、「時間の枠」「賃金・休暇実務」「働き方・組織風土」という3つの切り口から整理します。あわせて、2026年8月時点で分かっていることと、企業が今のうちに確認しておきたいポイントについて解説します。

労働基準法、なぜ今「大改正」なのか

労働基準法、なぜ今「大改正」なのか

労働基準法は、1947年の制定以来、大きな枠組みを変えないまま運用されてきました。時間外労働の上限規制など個別の改正は重ねられてきたものの、労働時間や休日の制度そのものを見直す動きは長らくありません。直近の大きな改正は、週法定労働時間の短縮やフレックスタイム制の導入などが行われた1987年です。

この間、働き方は大きく変わりました。在宅勤務や副業・兼業が広がり、勤務先がひとつとは限らない働き方や、始業・終業の時間が固定されない働き方も珍しくありません。こうした変化を踏まえ、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」は2025年1月、労働基準法の見直しの方向性を示す報告書を公表しました。

この研究会は2024年1月から同年12月まで16回にわたって開催され、学識経験者を中心に労働時間法制の課題が議論されました。取りまとめられた報告書は、労働時間や休日の制度そのものだけでなく、「労働者性」や「事業の概念」といった、労働法がどこまでの範囲に適用されるかという根本的なテーマにも言及しています。対象範囲の広さも、大改正と呼ばれる理由のひとつです。

もっとも、2026年の通常国会への法案提出は見送られ、本コラム執筆時の2026年8月時点でも施行時期は確定していません。労働政策審議会の労働条件分科会では審議が続いており、今年7月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2026」の資料でも、労働時間法制については「夏以降の労働政策審議会において議論を行う」とされています。そのため、現時点ではまだ決まったことは少ないものの、今のうちに議論の方向性を知っておく意味はあります。経営者や人事担当者だけでなく、現場で部下のマネジメントを担う管理職にとっても、知っておいて損はないテーマです。

見直しの3つの切り口

見直しの3つの切り口

研究会の報告書が示す論点は多岐にわたりますが、大きく3つの切り口に整理できます。一つめは「時間の枠」に関するもので、連続勤務や休日、勤務間インターバルなど、働く時間そのものの規制です。二つめは「賃金・休暇実務」に関するもので、有給休暇取得時の賃金計算や、副業時の割増賃金の扱いが含まれます。三つめは「働き方・組織風土」に関するもので、つながらない権利や過半数代表者制度の見直しが該当します。

この3つの切り口のほかにも、報告書では労働者性の判断基準や、労使コミュニケーションのあり方といった、より根本的なテーマが扱われています。ただし、これらは制度の運用というより法解釈に近い議論であるため、本コラムでは実務に直結しやすい3つの切り口に絞って紹介します。

この3つの切り口は、社内でどの部門が対応の中心になるかを考えるうえでも参考になります。「時間の枠」は主に労務管理、「賃金・休暇実務」は給与計算、「働き方・組織風土」はエンゲージメントと、関わる実務がそれぞれ異なるためです。

ここで注意したいのは、今回の見直しが規制強化だけを意味するわけではないという点です。健康確保を前提にしながらも、柔軟な働き方を可能にする方向の議論も含まれており、緩和と強化の両方が論点として並んでいます。

時間の枠に関する論点

14日以上の連続勤務も可能

時間の枠に関する論点の中心は、連続勤務日数の上限です。現行制度では、休日の与え方次第で長期間の連続勤務が可能になってしまいます。報告書では13日を超える連続勤務を禁止する方向性が示されています。たとえば、変形休日制を採用している企業では、制度上は適法なまま、実質的に2週間以上の連続勤務をさせることができます。こうした制度の隙間を埋めることが、13日という具体的な日数が検討されている理由です。

さらに、勤務間インターバル制度の法的な位置づけを明確にする議論も進められており、11時間程度を目安とする案が挙がっています。勤務間インターバル制度は現時点で努力義務にとどまっており、導入企業の割合は6.0%程度にとどまっているのが実情です。

勤務間インターバル制度の導入企業割合の推移

厚生労働省|令和6年度過労死等防止対策白書 外部リンク  を加工して作成

また、法定休日をあらかじめ特定する義務化や、労働基準法第40条に定める週44時間の特例(商業・保健衛生業などの一部業種で認められてきた例外)を廃止する方向性も議論されています。特例を採用している企業にとっては、労働時間管理の見直しが必要になる可能性があります。

あわせて、裁量労働制や変形労働時間制の見直しも議論の対象になっています。裁量労働制については、健康確保や長時間労働防止、適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に、対象業務の在り方が検討されています。変形労働時間制についても、繁忙期の偏りに十分対応できていない現場の実態や、労働者の生活時間の予見可能性の確保に留意しながら検討が進められています。裁量労働制は私の経験上、労働基準監督署からの指摘が多いテーマのひとつです。実労働時間とみなし労働時間との乖離が恒常的に発生していないか、健康福祉確保措置は適切に機能しているか、などをこのタイミングで改めて確認しておくと良いでしょう。

7月14日の労働条件分科会では、36協定に基づく監督指導の運用についても見直しの方向性が示されました。重大・悪質な事案には引き続き厳正に対応する一方、労使間の合意にのっとった指導となるよう運用を見直すという内容です。規制の中身だけでなく、運用の仕方そのものも議論の対象になっている点は、今後の実務を考えるうえで押さえておきたいところです。36協定を労働基準監督署に届け出て安心、と終わるのではなく、その後も協定内容を遵守できているか、必要に応じて労使で実態を確認しながら運用していくことが、より一層求められる可能性があります。

こうした時間の枠に関する論点は、実際に法制化された際には、人員体制や労務管理、勤怠システムまで幅広く影響を与えます。人員補充やシステム改修は時間もお金もかかりますので、今のうちから中長期的に検討を始めておけば、慌てずに対応できます。

賃金・休暇実務に関する論点

賃金・休暇実務に関する論点

賃金・休暇実務の分野では、有給休暇を取得した際の賃金計算方法の統一が論点になっています。現在認められている計算方法には、通常の賃金とする方法、過去の平均賃金を基準とする方法、そして、健康保険法上の標準報酬月額を基準とする方法があります。通常の賃金とする方法以外の二者の方法を採用している場合、実際の稼働実績と連動しない金額になりやすく、日給制や時給制の従業員が有給休暇を取得すると、通常勤務時より賃金が目減りするケースが生じています。報告書では、こうした目減りが起きにくい計算方法、つまり、通常の賃金とする方法に一本化する方向性が示されています。7月14日の労働条件分科会資料でも「労働政策審議会において検討し、結論を得次第、速やかに所要の措置を講ずる」と記載されており、他の論点に比べて具体的な検討が進んでいるといえます。

有給休暇取得時の賃金計算方法が変更されれば、給与システム・給与事務、そして人件費に影響が及びます。実現する可能性が高いため、今のうちから対応をイメージしておきましょう。

もうひとつの論点は、副業・兼業時の割増賃金の扱いです。現行制度では、複数の勤務先の労働時間を通算したうえで割増賃金を計算する必要がありますが、この通算義務を見直し、割増賃金の計算は通算不要とする方向性が示されています。一方で、長時間労働による健康リスクを防ぐための労働時間の通算(健康確保の観点からの通算)は維持する方向とされており、目的によって扱いを分けるという整理がなされています。

現在、副業を認めている企業でも、この割増賃金の対応がネックとなり、「雇用型」の副業は認めていないケースも少なくありません。副業をさらに促進したい企業は、割増賃金の通算義務がなくなることを機に、雇用型の副業を許可する選択肢も検討できるでしょう。

なお、割増賃金率そのものの水準見直しについては、今回の一連の議論とは切り離し、中長期的な検討課題として扱われる方向性が示されています。

働き方・組織風土に関する論点

働き方・組織風土に関する論点

働き方・組織風土に関する論点としては、「つながらない権利」が挙げられます。勤務時間外の連絡や対応を労働者に強制しないという考え方です。フランスでは2017年施行の労働法改正により、一定規模以上の企業に労使協議での取り決めを義務づけています。日本でもガイドライン策定に向けた議論が進んでおり、私生活そのものへの介入を制限するというより、連絡の内容や緊急度に応じた段階的な対応を求める方向性が検討されています。たとえば、緊急性の高い連絡と、翌営業日でも差し支えない連絡とを区別し、対応のルールをあらかじめ整理しておく企業も出てきています。

本論点は、私自身、一般事業会社の人事部員として日々悩ましく感じているテーマです。業務外の連絡は一切してほしくないという社員もいれば、業務外であっても必要な連絡はしてほしい、気にせず都度連絡してほしいという社員もおり、とらえ方や考え方は千差万別です。

もうひとつの論点は、過半数代表者制度の見直しです。36協定の締結や就業規則の変更時に必要となる過半数代表者ですが、労働組合の推定組織率は16%台にとどまり、多くの企業では労働者の中から代表者を選ぶ手続きを踏むことになります。しかし、実務では、立候補や投票ではなく、特定の社員に打診して了承を得るだけの、いわば「持ち回り」に近い選出方法が行われている例も少なくありません。こうした選出手続きが曖昧なまま運用されている実態が指摘されており、報告書では、情報提供や便宜供与の明確化、複数選出や任期制の導入など、より柔軟な制度設計の方向性が示されています。

労働組合推定組織率の推移

厚生労働省|令和7年労働組合基礎調査の概況 外部リンク  を加工して作成

あわせて、テレワークの活用を促進する方向性も議論されており、勤務場所にかかわらず適切な労働時間管理を行うための考え方が、今後整理される見込みです。オフィス勤務を前提に作られた既存のルールが、テレワークを含む働き方にそのまま当てはまるとは限らない、という視点は持っておくとよいでしょう。

コロナを機にテレワークを導入し、そのまま定着させている企業もあれば、原則出社に戻す企業もあり、対応は様々です。いま一度、「どのような働き方が自社にとって適切か」を考えてみる時期に来ています。

今、企業が着手すべきこと

今、企業が着手すべきこと

ここまで見てきた論点は、いずれも報告書が示す方向性であり、確定した法改正ではありません。慌てて対応を進める必要はありませんが、まったく手をつけずに様子を見ているだけでよいわけでもありません。

今のうちに確認しておきたいのは、まず就業規則における休日の定め方です。法定休日が明確に特定されているか、連続勤務が生じやすい運用になっていないかを点検しておくと、将来の見直しにも対応しやすくなります。次に、勤怠管理の仕組みです。勤務間インターバルや連続勤務日数を把握できる状態になっているかを確認しておくことは、規制の有無にかかわらず、労務管理上の意味があります。最後に、賃金規程における有給休暇取得時の計算方法です。現在の計算方法がどの方式に基づいているかを、この機会に確認しておくとよいでしょう。

あわせて、こうした点検は人事担当者だけで完結させず、現場の管理職を巻き込みながら進めることをおすすめします。実際の勤務実態を最もよく把握しているのは現場であり、規程と実態のズレは、現場の声を聞かなければ見えてこないことが少なくありません。制度が変わるかどうかにかかわらず、規程と実態を近づけておくこと自体に価値があります。

現役の人事担当者として日々の実務に向き合いながら、社会保険労務士としても活動している立場から見ると、今回の見直しは、単なる規制強化として受け止めるより、自社の働き方を点検する良い機会と捉えるほうが、得るものが多いはずです。制度が変わる前だからこそ、落ち着いて準備を進められます。

法改正の行方そのものを追いかけることを目的にするのではなく、そのきっかけを使って自社の実態を見つめ直すことにこそ、本来の意味があります。

あわせて読みたい資料

本記事で紹介した労働基準法改正の議論を理解するためには、現行制度の基本を押さえておくことも重要です。

管理職向けに、労働時間・休日・残業代などの基本を図解でまとめた資料をご用意しています。

管理職のための労働法ガイドブック

管理職には、部下の労働時間や働き方に目を配り、法令を守った職場運営を行う責任があります。

本資料では、残業管理、休憩時間、休日出勤、有給休暇、ハラスメント予防、安全配慮義務、産休・育休対応など、 現場で判断に迷いやすいテーマを整理しています。

管理職研修や労務トラブル防止の社内共有資料として、ぜひご活用ください。

管理職のための労働法ガイドブック

著者プロフィール

土田真吾 (チューンズ社会保険労務士事務所 代表)

土田真吾 (チューンズ社会保険労務士事務所 代表)

特定社会保険労務士(企業勤務)、キャリアコンサルタント(国家資格)、チューンズ社会保険労務士事務所 代表

学習塾を母体とする総合教育会社にて講師として勤務したのちに人事部へ異動。その後、人事の専門性を追求するため転職を重ねる。通常の人事業務に加え、人事制度企画や労務管理全般等、様々な業務経験を積む。現在は金融機関にて人事制度企画や法改正対応等に従事。2024年11月「チューンズ社会保険労務士事務所」を副業開業。現役人事担当者の強みを活かし「経営者・人事部・社員の気持ちがわかる社労士」として活動中。