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「マイクロアグレッション」という言葉をご存じでしょうか。「軽微な攻撃性」とも訳されるこの言葉ですが、自分では相手を差別したり、傷つけたりするつもりはないのに結果として相手を傷つけてしまうような言動や行動のことを意味します。
今回は、マイクロアグレッションの歴史や背景、職場でのマイクロアグレッションによる影響とその対策について事例を示しながらご紹介します。
周囲からのハラスメントやマイクロアグレッションに起因する悩みが相談できず、表向きは「一身上の都合」「家庭の事情」などとして、本来の退職理由を告げずに従業員が退職してしまうというケースは往々にして起こりうる問題です。そのままにしていては、連鎖退職の引き金になる可能性があります。
こちらの動画では、退職者が決意した本音の理由を把握する方法と、その理由を改善に活かす方法を解説しています。
マイクロアグレッションは前述のとおり、自分では相手を傷つけたりするつもりはないのに結果として相手を傷つけてしまうような言動や行動のことを意味します。
一方、一般的な差別は「意図的であり、あるものと別のあるものとの間に認められる違いやそれに従って区別すること」または「ほかよりも不当に低く取り扱ったり、取り扱いに差をつけたりすること」とされます。
マイクロアグレッションは無意識下で行われ、持続的・継続的で、出生の瞬間から死のときまで発生し、再発するおそれがあると言われるだけでなく、受ける人の精神的健康をも害し、うつ病の原因となったり、否定的な感情を増大させて幸福感を低下させたりするものと言われています。
マイクロアグレッションは1970年代にハーバード大学の精神科医であったチェスター・ピアス氏が、白人が黒人に対して行う小さな「侮辱」や「差別」に対して名称を付けたことがきっかけです。
その後、コロンビア大学心理学教授のデラルド・ウィン・スー氏の研究によって、人種やジェンダー、性的指向に関するものなどマイクロアグレッションの対象の幅が広がりました。そして、主流(マジョリティー)から取り残された集団に向けられる日々の軽蔑や侮辱などがいかに、彼らの精神と身体的健康に心理的な害を与え、教育や雇用、そして心の健康のバランスにまで影響を与えるかということを理解する上での大きな役割をはたしてきました。
現在では、正式にアメリカの辞書の一部となり、心理学や教育、法律、医学、公共政策などを含む多くの専門分野に組み込まれ、アメリカでは印刷物やテレビなどのメディアをはじめ、SNSなどのソーシャルメディアにおいても議論されるものとなってきています。
マイクロアグレッションの概念は、多くの社会的に価値を剥奪されたグループに向けられることが多く、同じ無意識下でも日常で起こる無礼な行為や失礼さの限度を超えています。
自分の発言がどのように害を与えるかを理解することは、日本社会が求めている多様性を認める社会づくり(ダイバーシティ)の実現に役立ちます。
以下に、どのようなものがマイクロアグレッションにあたるのか例を挙げていきます。(一部強い表現が含まれます。内容を理解していただくためのものですのでご容赦ください)
人種や国籍によるマイクロアグレッションの一例を紹介します。
レイシズム(人種主義)に代表される、人種間には本質的な優劣の差異があるとする見解に基づく態度や文化に関するものなどが挙げられます。そのほか、個人の思想や生活習慣に基づくもの、事実に基づかない偏見や印象をもって語ることは単なる差別をとおり越してマイクロアグレッションの範疇となります。
次にジェンダーによるマイクロアグレッションの一例を紹介します。
性差について根拠のない意味を表す発言は、セクシュアルハラスメントや身体的な虐待、差別的な雇用習慣、男性優位の職場環境で女性が蔑視されている状況などで起こりがちなマイクロアグレッションです。
最後に、身体的特性によるマイクロアグレッションの一例を紹介します。
身体的特性については主観によるところが多く、たとえ根拠があったとしても感じ方は人それぞれ違うということを理解しましょう。自分のなかで「・・・だから○○」といった型にはめると起こりがちになるマイクロアグレッションです。
2022年4月から「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が全面施行されましたが、コロナ禍を経てハラスメントの状況にも変化が出ています。
本動画では、昨今のパワハラが起きる背景とこれから取り組むべき対策について、解説しています。
日本では、働く女性の6割がメンタル不調を抱えているという調査結果をデロイトトーマツグループが報告しました。
その原因は「男性中心になりがちな場に呼ばれない」ことや「インフォーマルなやりとりや会話から排除される」、「男性の同僚に比べ、会議の場で発言する機会が少ない」というものがトップ3を占めていて、精神的ダメージにもつながりかねない調査結果となりました。マイクロアグレッションによって働く意義も奪われようとしているのです。
出典:デロイト トーマツ グループ「Women @ Work 2022: A Global Outlook」(2022年6月9日) (PDF)
マイクロアグレッションを防ぐ職場づくりには、健全に意見交換を行うことができる職場となるための努力が必要です。
日本においては、「話しやすい」、「助け合いがある」、「挑戦できる」、「多様な視点が備わっている」ことが必要であり、文化の多様性を阻む対策と実践を変革していくことの実現に向けて専心している組織となることが重要です。以下に具体的な対策を提示します。
対策として些細なことでも相談できる窓口を設置するなど、必要な体制を整備しましょう。職場内の窓口の担当者をあらかじめ定め、相談のための制度を設けたうえで社員に周知します。
2020年6月に施行されたパワハラ防止法 によって、企業の相談窓口が義務化になっています。パワハラだけではなく、マイクロアグレッションによる被害を受けている方でも相談できるような体制や制度作りなどを行うとよいでしょう。
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)研修を取り入れることも有効な対策の一つです。
他人を決めつけない、押しつけたりしない、相手の表情や態度の変化など「サイン」に注目する、自分のモノの見方のクセや、思考のクセに気づくといった具体的な対処法を身につける研修を受けることで、多様性を認め合うことの実現を目指すことができるでしょう。
職場でのマイクロアグレッションの対策の一つとして「心理的安全性」が確保された職場づくりを行うとよいでしょう。心理的安全性とは、会社や組織のなかで自分の気持ちや考えを誰にでも安心して発言できる状態のことをいいます。
心理的安全性が確保された状態の職場づくりが進むと、組織のなかで自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できるようになり、差別的な発言に対しても我慢することなく意思表示ができるため、働きやすい職場環境の実現につながります。
マイクロアグレッションは、単なる事実を言っているのか、価値観を反映させた印象を入れて言ったのかが問題ではなく、その言葉を言われた人がどう感じるのかを考えることが重要です。そして、普段から自分の発言がマイクロアグレッションになっていないかを気づこうとする姿勢が大切になります。
自分の何気なく言った言葉が結果として相手を傷つけてしまうような言動や行動をしないよう気をつけて、気持ちよく過ごせる環境づくりに努めましょう。