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「ダイバーシティ」とは、日本語で「多様性」という意味です。
生物多様性、遺伝的多様性、自然や文化の多様性、民間セクターの多様性、など、最近では「多様性」という言葉を目にする機会も増えてきました。
人は、人種や性別、年齢、国籍、宗教、価値観、性格、嗜好など、さまざまなバックグラウンドを持っています。特定の属性に限定せずに多様な人材と共に組織を作る、従業員のダイバーシティも多様性のひとつです。
近年では、グローバル化や顧客ニーズの多様化といった市場変化に対応するために、ダイバーシティ経営に積極的に取り組む企業が増えています。
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一方、「インクルージョン」は「受容すること」を指します。
企業における「インクルージョン」とは、多様な従業員がお互いを認め合いながら一体化を目指していく、組織のあり方を示しています。
「ダイバーシティ&インクルージョン」とは、個々の「違い」を受け入れ、認め合い、活かしていくことを意味しています。
2000年以降、日本の企業もダイバーシティという言葉を用いるようになりました。
日本では、労働人口の減少および構成の変化の見通しから、労働力の確保が企業の課題として浮上しており、女性やシニア、障がい者、外国人など、それまで労働力の中心と捉えられていなかった層の雇用に着目する企業が増えていきました。
また、「ダイバーシティ&インクルージョン」を後押しするかのように、関連法が次々と施行されています。
2015年には、「女性活躍推進法」
2018年には、「働き方改革法」
2019年には、「障害者の雇用の促進等に関する法律(=障害者雇用促進法)の一部を改正する法律」、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(=改正入管法)」
2021年には、「高年齢者雇用安定法」の改正
と立て続けに法律の公布・改正が行われ、企業の責務や努力義務も増えていきました。
SDGsの推進にも「ダイバーシティ&インクルージョン」は関連しています。
SDGsが掲げる17のゴールの中に「多様性」というゴールはありません。
しかしSDGsを含む2030アジェンダには生物多様性、遺伝的多様性のほか、自然や文化の多様性、民間セクターの多様性、産業の多様化といった表現が散見されます。SDGsにおいても"多様性"は欠かせないキーワードなのです。
例えば、SDGs全体の理念として「誰一人取り残さない」という考え方がありますが、これは、ビジネスや社会システムの分野における「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方と同じです。ダイバーシティを重視して多様な人材を集めても、その多様な人材がお互いに認め合い、受け入れ合う機会と風土を作り出すためには、「インクルージョン」の取り組みが不可欠です。
例えばSDGsのゴールの8番「働きがいも経済成長も」では、障がい者の個性を生かした新しい就労機会を増やすことなどが取り組みの一つであり、「インクルージョン」と深く関連しています。「ダイバーシティ&インクルージョン」はSDGsの17のゴールの実現のため、具体的な取り組みを考え、実践していくうえで、重要な考え方のひとつです。
前述のとおり、近年はグローバル化や顧客ニーズの多様化といった市場変化に対応するために、ダイバーシティ経営に取り組む企業が増えています。
例えば、観光は少子高齢化時代の経済活性化の切り札と言われ、少子高齢化で成熟した社会には、観光振興=交流人口の拡大、需要の創出による経済の活性化が有効と考えられています。訪日外国人も今や無視できない消費活動の主体であり、製品やサービスを開発するためには、グローバルな視点を持ち、これまでとは違った顧客ニーズに応えていく必要も出てきています。
社会情勢や産業構造が著しく変化するVUCA時代においては、変化をキャッチできる多角的な視点と行動の変化が必要です。変化に強い組織づくりには、旧来型の日本企業に多く見られる男性中心・年功序列といった、単一の属性からの視点が色濃く反映されるような組織形態からの脱却が求められます。
「ダイバーシティ&インクルージョン」を実践する上では、多様な属性の知識やスキルをもった人材を確保し、適材適所に配置することが求められます。
例えば高年齢者(シニア)の雇用については、総務省が2019年に発表した資料によると、65歳以上の高年齢者の就業者の割合は12.9%と過去最高を記録しました。国は「高年齢者雇用安定法」を定め、シニアの就労を後押ししていますが、実際のところ、企業はシニアの雇用に消極的です。「法律があるから仕方なく雇用している」という企業も多いのではないでしょうか。
この「仕方なく」雇用している点が問題で、多くの場合、報酬も下がり、仕事も単調なものへとシフトしていく中で、やる気のないシニア社員の集団化が起こります。
シニア社員の持っている経験やノウハウは若手社員にはない貴重な財産です。だからこそ、「仕方なく」の消極的な継続雇用ではなく、意欲と能力のあるシニアのリテンション施策(人材の維持・確保)へ方向転換するなど、企業の貴重な財産を宝の持ち腐れにしない施策への方向転換が有用です。
このように「ダイバーシティ&インクルージョン」に取り組み、その人の持つ知識やスキル、経験に目を向けることで、これまでとは違った求職者マーケットが見えてきます。また、多様性を尊重する企業姿勢を強く打ち出すことで、社内外からの評価が高まり、優秀な人材からの応募や社員定着につながるなどの波及効果も期待できます。
マンパワーグループが人事担当者に対して実施したアンケート調査では、優秀な人材の雇用や働きやすい職場環境づくりなどを目的にダイバーシティ採用に取り組んでいる企業は、今や4割超(42.5%)という結果がでています。
日本は、諸外国と比べても圧倒的に女性管理職の割合が少ない状況です。
女性活躍推進法に企業も取り組みを進めてはいますが、現状はまだ目標との間に大きな開きがあります。出産後に退職している女性は46.9%にものぼり(引用:2017年11月 内閣府男女共同参画局)、女性管理職比率は目標である「2020年までに企業内で指導的地位に女性が占める割合を30%」に対して2017年現在のデータで10.9%(課長職以上に就く女性管理職比率)となっています。(引用:内閣府男女共同参画局「階級別役職者に占める女性の割合の推移」)
女性活躍を推進する政界や官公庁の幹部、会社の役員ですら管理職はまだまだ男性が多数派であることが現実です。今後は、政策立案にあたっても、ビジネス社会においても、マイノリティとされてきた層の当事者でなければ分かりにくい事情をくむことが重要になってきます。
実際に、多種多様な人材を受け入れる場合、人事制度やルールの見直しが必要になることもあります。
例えば、障がい者雇用を実施した際の、業務フローの変更や勤務時間の考慮のほか、オフィス環境の整備などが該当します。外国人人材であれば、労働契約や法に基づいた労働時間の管理など労務管理面での対応も必要です。
上記以外にも時短勤務・フレックス制の導入や在宅勤務などの就業規則の見直し、不公平な評価を生まないような評価基準の明確化など、労働環境の幅広い整備が必要になるため、ダイバーシティに取り組みたいと考えつつも後回しにしてしまうケースは少なくありません。
様々な人の意見を積極的に聞く風土づくり、それを柔軟に受け入れる人事制度やルール等の仕組みづくりを通して変化のできる企業が増えることが期待されます。
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ダイバーシティを「これまで企業の中核を担ってきた男性や健常者に対して、少数派、マイノリティと呼ばれる人たちを取り込むために行うべきもの」だと考えている方は多いのではないでしょうか。女性、障がい者、外国人、シニア、LGBT等、様々な切り口でダイバーシティが語られていますが、男性も健常者もダイバーシティの一員です。
ダイバーシティを推進していくためには、男性・健常者といったマジョリティの人たちも、"自分事"としてダイバーシティを考えていく必要があります。なぜなら、ダイバーシティの推進は、誰かのためではなく、自分の所属する会社、組織、そして自分のために取り組むものだからです。
例えば、定年退職を迎えた方が新たに同僚に加わるとなると、「なんだか大変そうだな。大丈夫かな」といった不安がよぎるなど、誰しもいずれは自身がシニア世代となるにも関わらず、それを自分事として想像することは意外とできないものです。
今日の自分は健常者かもしれません。しかし、明日は障がい者である可能性もあります。突然、経営トップや同僚の多くが外国人に代わるなど、様々な可能性があるのです。
10年後に、自分が今と変わらずに、もしくは今以上に活躍できるように、そして組織が今まで以上に発展していくための準備をすることもダイバーシティ戦略のひとつです。
優秀な人材の確保も、誰にとっても働きやすい職場作りも、すべては「働いている自分自身のため」につながります。この意識を組織全体で醸成することが、これからのダイバーシティ推進には欠かせません。
組織は人の集合体です。働く人が全員で、マジョリティとマイノリティの壁を壊し、「自分のため」「隣にいる人のため」「将来、活躍する誰かのため」に意識や行動を変えていくことで、風土は変わり、組織の「ダイバーシティ&インクルージョン」が進むのです。
形ばかりのダイバーシティ戦略を導入すると、従業員間での摩擦が生じることがあります。
例えば、女性が産休明けの時短勤務制度を利用すると、業務負荷にアンバランスが生じ、組織の雰囲気が悪くなるようなケースなどです。
女性管理職の登用においては、まだまだ男性中心のマネジメント層の中で、暗黙の排斥が起きたり、ただの人数合わせと受け取られてしまうことも少なくありません。また、男性と同様の旧来の思考や働き方でキャリアを築いてきた女性管理職からの反発に戸惑う場面もあるようです。
また、障がい者社員との協働においては、なかなか当事者のスキルや働きぶりに目が向かず、歪な配慮が現場を疲弊させてしまうこともあります。
確かに、障がい者との協働においては様々な配慮が必要です。しかし、その配慮とは、通常業務を障害の程度や内容に合わせて切り出すことで、通常業務における戦力の一部として健常者と同様に活躍してもらうためのものです。
例えば「ミスを許容する、諦める」というような態度は、配慮とは言えません。ミスはミスとして健常者と同様にしっかりフィードバックを与えたほうがよいのです。障がい者社員も仕事を通して自己成長やキャリアアップを目指しているからです。
せっかく企業や組織がダイバーシティ推進を標榜していても、個人が尊重されず、その属性ばかりに目が向いてしまうことで、女性や障がい者の活躍の場面が限定されてしまいます。
そして、そのことに女性や障がい者、その他のマイノリティの方たちは気づいています。
前述した「出産後に退職している女性は46.9%にものぼる」というデータや、「管理職への登用を望まない女性は86%以上」(引用:日本総合研究所 「高学歴女性の働き方に関する調査2017」)というデータがそれを指し示しています。
せっかくダイバーシティに関する戦略や制度・ルールの整備が行われても、従業員の意識は、そう簡単には変えることができません。従業員のダイバーシティに対する理解は進むかもしれませんが、それを自分事として捉え、「インクルージョン」しなければ、ダイバーシティ戦略の遂行は難しいでしょう。
従業員同士のインクルージョンを引き出すためには、既に加速度を増している少子高齢化の問題、女性活躍推進法をはじめとした各種ダイバーシティ系の法律や法案の理解、SDGsの精神などを、しっかりと学ばせることから着手する必要があります。
また、次にご紹介する「アンコンシャス・バイアス」マネジメントは、従業員同士の偏見をなくし、インクルージョンを促すために最も重要な要素だと考えられています。
近年「アンコンシャス・バイアス」という言葉が注目されています。
最大の理由は、組織の発展において「ダイバーシティ&インクルージョン」が重要になってきているからです。
「アンコンシャス・バイアス」とは、「無意識の偏見」「無意識の思い込み」「無意識の偏ったものの見方」のことをいいます。 日本では2013年ごろから、ビジネス雑誌や新聞・テレビなどでも取り上げられるようになりました。グーグルが、「アンコンシャス・バイアス」と名付けた社員教育活動を始めたことで一躍有名になった言葉でもあります
例えば、「事務的な仕事はつい女性に依頼してしまっている」「思い返せば、長期・大型の案件は男性ばかりをアサインしていた」などは、アンコンシャス・バイアスに影響を受けてのことです。これでは、女性の活躍は制限されてしまいます。
このように、アンコンシャス・バイアスのかかったマネジメントでは、一人ひとりがイキイキと活躍することはできません。さまざまなものの見方や考え方、多様な価値観を歓迎しない組織では、新たな発想が生まれず、イノベーションが起きにくいと考えられます。
「ダイバーシティ&インクルージョン」や「アンコンシャス・バイアスの解消」はSDGsにつながる国連2030アジェンダの成果として享受されるべき、これからの組織の根本的なあり方です。
世界的にも、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に対する企業の取り組みを投資判断に組みこむESG投資が拡大しており、「ダイバーシティ&インクルージョン」への取り組みが投資家などの外部ステークホルダーの大きな評価ポイントになっています。
しかし、外部からの評価もさることながら、働く人それぞれが自分らしく最高のパフォーマンスを発揮できる企業であることは、どのような状況下にあっても、変わることのない企業風土として、全従業員が自身のためにも一体となって育んでいくべきものとなります。
突然の経営トップの交代やマネジメント層の刷新により、経営戦略が大きく変化することはあり得ますが、企業の文化や風土は長い年月を経て形成されてきたものです。企業風土は1日で変わるものではありません。従業員に、「ダイバーシティ&インクルージョン」や「アンコンシャス・バイアス」について、学びや意識の改革を促す機会を提供することで、「多様性」への対応に地道に取り組んでいくことが大切です。
理想の在り方として掲げられたダイバーシティも、今や本格的な導入を検討する段階になりました。
これまで述べてきたように社会的背景以外にも企業としてのメリットが大きく、継続的な成長に欠かせない考え方であるためです。
ただし、ダイバーシティを念頭においた制度やルールは、それ単体ではうまく進みません。企業風土や個人の価値観と密接に関わっているからです。根付かせるポイントは社員への教育・研修を地道に続けることです。
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