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業務をアウトソースする際に、「管理者はアウトソーサーの正社員や無期契約社員 で、実際に業務を担当する担当者の多くはパート勤務を含む有期契約社員で構成されている」と聞くと、「『自分はアウトソーサーの正社員ではないし、まして発注企業の従業員でもないので、真剣に業務に打ち込むつもりはない』というような心持の人に当社の業務を実施されては困る」と品質面が心配になる方もいらっしゃるでしょう。
他にも、「アウトソースすることで、業務がブラックボックス化しそう」「『偽装請負』が問題のようだが、適正な請負と偽装請負との違いがよくわからない」など、アウトソーシングに対する懸念がある、あるいは実際に自社業務をアウトソーシングしてこれらの懸念からトラブルに発展したというケースも実際に存在します。
本コラムでは、これらのアウトソーシングで起こりがちなトラブルを回避するために、あらかじめ知っておくべき事項を解説します。
発注企業がアウトソースした業務の管理責任は、アウトソーサーに移行します。
人材派遣とは異なり、アウトソーシングの契約では(請負、委託、準委任などさまざまな契約形態はありますが)、原則としてアウトソーサー側の従業員に対して、発注企業側は直接、指揮・命令をすることができません。発注企業とアウトソーサーの実作業者には指揮命令関係が生じないため、アウトソーサーの実作業者に直接指揮命令を行うことは偽装請負と判断されます。
元々その業務を行っていた発注企業側の担当者からすれば、自分の経験や業務を通じて得た知見を直接伝えたいと思うのは当然です。ただし、伝え方によっては先述の偽装請負のリスクが生じる他、アウトソーサー側のマネジメント体制がくずれ、計画や改善プロセスに支障をきたす可能性があります。
特に、発注者のオフィス内で実施するアウトソーシングの場合、発注者と実作業者の距離が近く指示や依頼が容易なことから、実作業者の作業状況の実態に即して 「偽装請負」と判断されるリスクが高まります。
発注内容に関する要求や指示は、実作業者に対して実施するのではなく、アウトソーサーの管理者に対して行うなどの注意が必要です。
労働者派遣事業とは、派遣元事業主が事故の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行うことをいいます。
請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法第632条)ですが、労働者派遣との違いは、請負には注文主と労働者との間に指揮命令関係を生じないという点にあります。
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出典:「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド(PDF)」(厚生労働省)を加工して作成
発注者とアウトソーサーとのコミュニケーションには、業務上のエスカレーションや報告などの他に、週次ミーティングなどでの進捗打ち合わせ、月次ミーティングでの業務報告会などがありますが、先述のアウトソーサー側のマネジメント体制の保持の観点からも、あらかじめ設計したコミュニケーション方法で進捗や品質を管理するという意識が大切 です。
一方のアウトソーサー側も、お互いのすれ違いが発生しないよう、発注企業が求める品質・スピード感で業務が進んでいるのかを発注企業とコミュニケーションを通してすり合わせを行う必要があります。
アウトソーシングにおけるマネジメントは、受託者であるアウトソーサーのマネジメントと、発注企業のマネジメントの両軸があって成果が生まれるのです。
従前のとおり、アウトソースした業務の管理責任はアウトソーサーに移行するとはいえ、発注企業にとって、アウトソースした業務は自社の業務であることに変わりはありません。その業務を、自社社員と同じ意識 で取り組んでほしい、自社で行うのと同等の(あるいは、アウトソースベンダーの専門性をもって自社以上の)モチベーション・モラル・品質・効率化・リスク対策で対応してもらいたいという期待は当然のことでしょう。
その一方で、アウトソーサーは、発注者のアウトソーシングの目的を達成する為に、限られたコストの中で合意した品質のサービスを提供することが求められる為、社内で業務を実施していた時と比較すると、プロセスや体制等に違いがでることも当然です。
アウトソースした業務の成果物・納品物の形態は有形・無形問わず様々ありますが、どのようなものであっても、アウトソーサーが業務を受託するうえで果たすべき最大の責任は、「契約で合意した内容、成果物(役務提供を含む)を契約で合意した品質 ・期日・費用で提供すること」です。
業務プロセスの詳細な内容と、求める品質、それらから導かれる業務量などについて、アウトソーサーの提案時点から、詳細に共有を行わないと、発注者とアウトソーサーが考えるゴールに齟齬が生じてしまいます。
では、アウトソーシングを進めるにあたって、発注者の期待とアウトソーサーの意識のギャップから生まれる無用なトラブルを回避するためには、何が有効なのでしょうか。
最も大切なのは、発注者とアウトソーサーの双方がオープンに情報を共有できる体制づくりが出来ていることです。管理責任の項でも説明したとおり、発注者はアウトソーサーの実作業者に対して直接指揮命令をすることができないため、アウトソーサー側の管理者等との打ち合わせを通じて業務説明や依頼を行います。その際、実作業者にもわかりやすい言葉やビジュアル表現などを用いた資料を用いるなど、アウトソーサー内での情報共有を進めやすくするような工夫は、双方にとって有効です。
また、メンバーに対して自社の製品やサービスをインセンティブとして提供するなどの施策も、アウトソース・インソース問わず、携わっている業務や会社に愛着・親しみを感じさせ、貢献度向上に寄与します。
トラブル回避が出来ているプロジェクトの多くは、発注者とアウトソーサーの双方が協力しながら上記のような細かい工夫の積み重ねを実施しています。
アウトソーシングの利用は、変化に対して柔軟に対応できる組織づくりに有効な手段のひとつです。しかし、ただ「アウトソーサーに業務を切り出して終わり」では、その効果を発揮しません。
アウトソースした業務の理解を深めること、定期的な連携で品質の担保やアウトプットの改善・向上を目指すことが、部門の業績にも繋がります。なぜなら、その業務は単体で存在しているものではなく、企業がクライアントに何らかのサービスを提供するまでの プロセスの一部だからです。
業務に関する情報の提供や、アウトソーサーが提供するサービス・納品物の品質チェックは、発注者側が責任を持って進め、業務の管理責任を持つアウトソーサー側にも発注者の意図を理解し、業務に反映させる、または改善を提案するなどの姿勢が求められます。
アウトソーシングは、外部のリソースを利用するサービスです。トラブルを減らし、期待したまたは期待以上の効果を出そうとする場合、情報の伝達がスムーズな関係であること、同じ目的意識を持つことが重要です。アウトソーサーは外部の人間だからと分断するのではなく、プロセスの一部を担っていることを踏まえた上で協業を進めていきましょう。
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