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せっかく時間と手間をかけて採用しても、「面接時の評価は高かったにも関わらず、採用した人材が期待した成果を出せていない」など、ミスマッチにより、求める人材の確保に頭を悩ませている企業は少なくありません。
コンピテンシー面接は見極めの精度を高め、自社が必要とする人材を獲得するための手法です。ここでは、実施方法や具体的な質問の例を交えながら、採用活動におけるコンピテンシー面接の有効性について解説していきます。
コンピテンシー(competency)には、「技能」「適正」「能力」などの意味があります。
採用におけるコンピテンシーの定義は、「対象の職務・役割における成功モデル」とされています。「ハイパフォーマーに共通する行動特性で、成果につながる行動や考え方」とも言えます。
成功モデル(ハイパフォーマー)に共通する要素を洗い出し、候補者の過去の行動を質問により深堀りし、成功モデルの要素・特徴と合致するかを確認する面接が「コンピテンシー面接」です。
具体的な手法としては、ハイパフォーマーの行動と思考をモデル化し、モデル像により近い人材を求める、というのが一般的です。どんな考えで判断するのか、どんな思考で行動するのかを面接の主な目的とし、モデルとの共通性を確認します。
志望動機などの「これからどうしたい、どんなビジョンがあるのか」といった質問では、入社意欲やキャリア志向は確認できますが、「どんな行動を起こせるのか、どのくらい解決力があるのか」といった実力までは把握できません。「過去の行動の背景」を探っていくのがコンピテンシー面接の特徴でもあります。
また、職種や職位、役割によりコンピテンシーは異なるため、それぞれ設定するのが一般的です。
従来の面接は、第一印象や表面的なエピソードにより、面接官の主観に影響を受けた採用判定がなされるリスクがありました。コンピテンシー面接では、面接の評価に「モデル化された一定の基準」を設けて面接官による判定のブレを防ぎます。
また、過去の行動やその動機に焦点をあてた「多角的な質問」を繰り返すことで、応募者の行動特性を見極め、誇張された事実や、矛盾点を見抜く事ができます。
従来の面接では、学歴や経験、スキル、成果など目に見えやすいものを求人要件とし、面接でもその確認を中心に進めます。一方、コンピテンシー面接で確認するのは、行動を決定する「価値観」「性格」「動機となるもの」など、数値化や具体化が難しいことが特徴です。コンピテンシー面接では、学歴やスキルなどは補助的な役割となります。
コンピテンシー面接の導入には、メリットとデメリットがあります。
コンピテンシー面接では、実績やエピソードの各シチュエーションでどんな行動をしたのか、なぜその行動を選択したのかなどの考え方や特性を確認します。「その人自身」を深く知ることで、入社後にどのような判断で動くのか、期待したパフォーマンスを発揮できるかを判断します。
募集しているポジションでよく起きるシチュエーションをあげ、質問に組み込んでみると候補者が業務に就いたときのイメージがよりクリアになります。
「どのような場面で効果的な行動を発揮できる人材か?」 を見抜くことができれば、それを基準に、企業側が求める「実務への適性」を判断することが可能となります。
結果的にミスマッチの防止、優秀な人材の獲得へとつながります。
「コンピテンシーモデル」という求める人物像の行動特性をコンピテンシー面接では設定し、その基準に満たしているかを面接で確認します。
高学歴だから、大手企業での経験が豊富だから、という情報は、面接官の期待を醸成してしまい、主観が入りやすくなります。逆のパターンもあります。
主観による過大評価や期待、過小評価を極力抑え、「どのような価値観・考え方をもっているのか」その人の本質を確認することで、評価のバラつきを抑える効果があります。
マンパワーグループが2020年に実施した入社前の期待と入社後のギャップ調査において、面接で「自分にない素養をアピールした」「過剰なアピールをしてしまった」という求職者の声がありました。採用面接では、合格したいがために、自身を大きくみせてしまった、緊張してきちんと回答できなかった、というケースは考えられます。
コンピテンシー面接では、シチュエーションが想定された行動特性を確認するための企業独自の質問であることが多いため、応募者が事前に練習しておくことは困難です。偽って回答すると、矛盾が生じてしまうため、企業としてはその人の本質を見抜きやすくなります。
また、初対面の人との面接で、十分に自分自身をアピールできる人は多くありません。もしかしたら、自社に適した人材を見落としている可能性もあります。コンピテンシー面接で、その人自身を深く知ることができれば、よりマッチした人材を採用できる可能性があります。
マンパワーグループが2020年2月に正社員として働く人を対象に実施した調査では、5割超が「入社前に期待していた内容と違う」と感じた経験あると回答しました
ミスマッチを防ぎ、入社後に期待したパフォーマンスを発揮できる人材の採用方法として、コンピテンシー面接は有効ですが、デメリットもあります。
コンピテンシー面接の実施には、採用の基準となる「コンピテンシーモデル」が必要です。モデルとなるようなハイパフォーマー人材を選定し、行動特性を言語化するのには工数がどうしてもかかってしまいます。
「可視化しにくい要件」がコンピテンシー面接の特徴です。数名のハイパフォーマーを選定しインタビューをし、共通項を洗い出しての行動特性の言語化には時間を要します。また、部門責任者や人事など関係者で認識のズレを起こさないことも重要です。
コンピテンシーモデルを間違った方向に作ってしまうと、採用がうまくいきません。モデル化する際には、アセスメントツールなども活用するとよいでしょう。
基準となるモデルは「現時点でのビジネス現場」から創出されたものであり、 ビジネス環境や事業計画が変わったときに、そのまま応用できるとは限りません。そのため、ビジネスの方向性や業務内容といった人材を取り巻く環境が変わるたびに、改訂・更新が必要となります。
前述しましたが、ポジションや役割ごとにコンピテンシーモデルは必要です。その管理と関係者の認識を合わせることも大変な作業となる場合があります。
実際にコンピテンシー面接を実施するときの具体的な方法と注意点を解説します。
コンピテンシー面接における指標の分類では、ライルM.スペンサーとシグネM.スペンサーによるコンピテンシーディクショナリーが有名です。ハイパフォーマーの行動特性を下記の6つの群と20の項目にあてはめ、言語化しています。これらは基本的な項目群のため、独自に組織のコミュニケーションスタイルや特定ポジションにおけるニーズに的を絞った項目を追加してもよいでしょう。
コンピテンシー | コンピテンシーの項目 |
---|---|
1.達成・行動 | 達成思考 秩序・品質・正確性への関心 イニシアティブ 情報収集 |
2.援助・対人支援 | 対人理解 顧客支援志向 |
3.インパクト・対人影響力 | インパクト・影響力 組織感覚 関係構築 |
4.管理領域 | 他社育成 指導 チームワークと協力 チームリーダーシップ |
5.知的領域 | 分析的志向 概念的志向 技術的・専門職的・管理的専門性 |
6.個人の効果性 | 自己管理 自信 柔軟性 組織コミットメント |
Lyle M. Spencer Jr., Signe M. Spencer
次にコンピテンシーレベル指標を確認します。 成功モデルを構成する要素ごとに、具体的な行動を5段階に分類して設定しておくことで、複数の面接官の間で評価レベルのズレが生じる確率を下げることができます。
参考として、「業務遂行」に関する評価を行う場合の行動例(サンプル)をレベルごとにご紹介します。
作業指示に従い行動する、他者の指示に基づいて業務を遂行する、といった受け身の姿勢の人が分類されます。「言われたことをやった」と自ら業務の効率化や課題発見をすることはありません。
「業務遂行」の行動例
提示された期限内に、指示された手順通りに成果物を完成させ、提出する。成果を出すための情報が不足していても自ら問い合わせる行動は見られない。
通常の業務をミスなく遂行する意思を持ち、自分の持ち場の範囲内で業務を遂行します。業務に対する必要な知識はあり、イレギュラな状況が起きなければ、独力での業務をやり遂げる人たちです。
レベル1の受動的行動と共通するのは、自ら課題やアイディアを出すことはないところであり、違いとしては「正確に業務を遂行する意思がある」という点です。マニュアルどおりに仕事を進められる人たちが分類されます。
「業務遂行」の行動例
書類作成を正確に実行する意思がある。自分の業務に関して不足する情報は、最低限の収集能力があるが、さらに先を見越した提案や新たな課題を見つけるまでではない。
目標に向かって自ら計画を立て、動くことができる状態です。状況を分析し、適切な処理を選択しつつ成果を得ることを目指します。状況に応じた複数の選択肢を常に考えているため、イレギュラな出来事があっても対処できます。
「業務遂行」の行動例
自分で明確な目標をもち、業務に必要な行動ができる。新規プロジェクトに参加にした場合、知識が不足している場合には勉強会・セミナーの受講をする、書籍を購入するなど、積極性が見られる。ただし自分から創造的な提案を行えるレベルではない。
自ら課題を見つけ出し、課題解決のために働きかけて成果を出せるレベルです。自身の役割に固執することなく、全体を考えたときに改善が必要、新たに取り組むべきだと考えれば、組織に対して働きかけを行います。
自分だけではなく、チームメンバーや後輩などにも取り組みについての発信やスキルの提供を行うので影響力があります。
「業務遂行」の行動例
新規システム導入に際し、それまでの業務内容を活かせる方向性を探る。各部署のシステムをうまく連携させる方法を工夫し、業務効率の向上を実現しようとする。
誰も課題と認識していなかった点を課題として捉えることができ、独創的な改善や提案を実施できるレベルです。「こうであるべき」「ずっとこうしてきた」といった固定的な考えに一石を投じることができるため、これまでにない新しい発想を組織に与えます。
ただ好き勝手を言うのではなく、自発的に周囲を含めた置かれた状況を理解し、課題を見い出します。また、ゴールに向けた手段を具現化し、成果を出す人材です。
「業務遂行」の行動例
全社的なレベルにおいて、AIやITを活用し、業務の効率化を図る方法を提案、自らが率先して実施する。
これらの指標をそれぞれの業務に具体的に当てはめていきます。各職務において「求める姿」が具体化されていなければ、レベル指標を設定する意味がありません。
コンピテンシー面接においては、 レベル指標を「自社なりの解釈」に落とし込んでいくことがポイントです。
また、必ずしも「レベル5が良い」とは限りません。レベル5の人材が応募してくることは稀ですし、募集ポジションでレベル5の行動能力が必要とされるかは見極める必要があります。
レベル指標を確認した後、サンプルとなる社員から各レベルにおける具体的基準を設定していきます。 この段階がモデルとなる行動特性の抽出と面接基準の設計になります。選出した社員に複数の質問を投げかけ、設定した自社モデルと照らし合わせながら「行動特性に同一性が見られるか」を見ていきます。
デメリットにも挙げたように、モデルの設計には手間を要します。とはいえ、コンピテンシー面接の成否を握る部分だけに、しっかりと検討を重ねていくことが求められます。また、コンピテンシー面接の導入効果を高める方法として、面接の実施に先駆けて、コンピテンシーテストやコンピテンシー検査を活用する方法もあります。
コンピテンシー面接の効果を得るための注意点は、以下の3つです。
コンピテンシー面接では、「誘導的な質問はしない」ことを意識しなければいけません。面接慣れしていたり、こちらの意図を汲み取れたりする人材ほど、企業にとって好ましい回答を返します。そうなると、本意がつかめず、適性への判断が甘くなってしまいます。
質問対象となる状況については、具体的なワード、数値を引き出すようにします。実績に対して中核を担った経験があれば、詳細についても明確な回答が得られるはずです。実績やエピソードについて、応募者が取った行動と、その行動を導いた考え方や背景情報を具体的に聞き出す質問を準備することも大切です。単にスタッフとして参加したのか、それとも牽引役となってチームを率いていたのか、そのときの立場を探ります。
どんな面接官でも第一印象は、主観が入るものです。「アンコンシャスバイアス」と呼ばれるもので、その人独自のものの見方や捉え方のことを指します。従来の面接では、このアンコンシャスバイアスにより客観性を保てない ことが起きます。
しかし、コンピテンシー面接は「過去にどんな行動を、どんな考えでやってきたのか」といった、行動特性が評価基準になります。そのことを忘れずに第一印象に左右されず、面接を進めることが求められます。
そのため、面接官の在り方として、個人感情によるフィルターを排除するために、応答の内容にのみ集中する姿勢を心がけるようにします。
他社で大きな実績をあげてきた人を期待して採用したが、パフォーマンスが思わしくない、といった経験はないでしょうか。
従来の面接では、過去の実績や経験を確認することはあっても、それが再現できるか、実績をあげることができた要素は何か、までを評価することができないことがあります。
コンピテンシー面接は、その実績をあげるに至った行動特性やその人の価値観、考えを深く聞いていく面接です。実績の大小に捉われることなく、その要因を探る質問を用意しましょう。
コンピテンシー面接で用いられる手法のひとつに、「STARモデル」というものがあります。面接における質問を準備する際、下記のようにS⇒T⇒A⇒Rの順番で質問し、話を深堀りしていく準備をしておくと効果的です。
組織やチーム体制、自らの立場、役職、役割、責任範囲や権限など
どのような問題か、問題発生の状況、問題に気づいた理由など
アプローチの仕方、提案内容、プラン・計画、具体的な行動など
問題解決の度合い、プランへの反省、周囲の反応、最終的な結果など
一つの事象を4項目に分けて整理し、深く掘り下げた質問を投げかけることによって価値判断の精度を向上させます。
STARモデルの各項目における、具体的な質問例を以下に示します。
自社が本当に求める人材を確保するには「適切な見極め」が求められます。コンピテンシー面接を導入することで基準を設けることができ、面接そのものの精度を高めることができます。事前に、ハイパフォーマーの行動特性を紐解いておく必要がありますが、それにより活躍要件を満たした人材を採用することが可能となります。
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