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「採用したい人から応募が来ない」――採用を担当されている方から、そのようなご相談をよくいただきます。では、原因はどこにあるのでしょうか。
多くの場合、課題の出発点は「求人票」にあります。求人票は、候補者との最初の接点であり、魅力を伝える重要な手段です。
本記事では、「応募が来ない求人票」と「いい人が集まる求人票」の違いを明らかにし、改善のヒントを紹介します。
参考資料:BtoB 中小企業向け 管理職採用における事例3選
求人票に書かれた募集要件は、「誰に応募してほしいか」を伝える重要なメッセージです。ところが実際には、この要件設定がうまくいかず、採用が空回りしているケースが少なくありません。
募集要件を決める過程にはいくつものハードルがあります。ここでは、求人票での要件設定を難しくする3つの理由を整理します。
多くの企業では、「どんな人を採用したいのか」が社内で明確に共有されていません。現場と人事、役員それぞれの視点で求めるスキルや経験、ヒューマンスキルの認識にズレがあり、どんな人物を採るべきかが定まらないまま、採用活動が進んでしまっているケースも見られます。
そのような状況は、求人票の内容に現れます。抽象的な言い回しや、業務の魅力がイマイチ伝わらない内容になりやすいです。こうなると、候補者から見ても自分に合った仕事かどうかの判断がしづらく、結果的に応募が集まりません。
さらに、求人票の表現が抽象的だと企業側の意図が伝わらず、ミスマッチの原因にもなります。特に、企業文化やヒューマンスキルに関する曖昧な表現は、企業の求める方向性とは異なる応募を招きやすくなります。
採用条件は市場の流れに合わせて見直すべきですが、市場調査をせず、古い基準をそのまま使い続けているケースも少なくありません。
特定のスキルの市場価値が上がっているなど、転職市場の状況は常に変化しています。例えば、販売職や営業職など、現場での対面対応が中心だった職種でも、オンラインツールの活用経験や、ITリテラシーを前提とする求人が増えており、どの分野でもデジタルスキルのニーズは高まっています。
こうした変化を把握しないまま従来どおりの要件で募集をかけていても、条件に見合う人材は適正な条件を提示している他社へ応募してしまうため、採用機会を逃すリスクが高まります。
採用要件を定めるうえでは、現場部門・人事・経営層など、複数の立場からの意見を調整する必要があります。しかし、採用に直接関わらない人物が「こういう人が理想」と話を広げすぎる、現場から細かすぎる要望が挙がるなどでなかなか要件が定まらず、時間だけが過ぎていくケースも往々にして起こります。
また、関係部署の要望をすべて盛り込もうとすると、条件が現実離れし、候補者層の幅を企業自らが狭めてしまいます。時間をかけて労力をかけて調整を重ねたはずが、結局は誰にも響かない求人票になってしまうのです。
求人票に記載する「必須条件」は、候補者が応募の可否を判断するうえで最も重視する情報です。陥りやすいミスと設定時のポイントを解説します。
「いい人が来ない」と感じる背景には、必須条件の設定ミスがあるかもしれません。必須条件の設定で陥りやすい代表的なミスを紹介します。
採用に関わる部署や担当者間で、どのスキルや経験を「必須」とすべきかの認識が異なる場合と、求人票の内容に一貫性がなくなります。
また、各々の経験や主観に基づいて条件設定をすると必要以上に条件が増え、結果的に応募の間口を狭めてしまいます。
経験年数を「とりあえず中途だから3年」、「住宅関連業界だし、全員宅建必須」など、実際の業務にそれほど必要でない資格や経験が、法令や業界慣習に沿って何となく必須とされているケースがあります。
こうした杓子定規に必須とした条件は、本来必要とする人材を取り逃す原因になりやすく、採用の機会損失につながります。
過剰な必須条件は、求職者に「自分には無理かもしれない」という印象を与え、応募をためらわせます。
特に、経験の浅い層やキャリアチェンジを希望する層は、条件を見ただけで転職先の候補から外してしまう可能性があります。
十分な経験やスキルを持っている人材であっても、「この程度では足りないかもしれない」と不安を感じ、応募を見送るケースもあるため、優秀な人材を逃すリスクが非常に高まります。
必須条件を上手に設定するためには、採用担当者だけでなく、配属予定の部署の責任者やメンバーなど、複数の関係者からヒアリングし、以下のポイントを押さえましょう。
「これがないと業務が全く成り立たない」要素に限定するとして、考えてみてください。
業務の棚卸を行い、「これがないと入社後すぐに業務を遂行できない」、「研修だけでは補えない」という要素に絞り込みます。
入社後の学習や他のスキルで代替可能な要素は、無理に必須条件に含めず、「歓迎条件」として切り分けます。
必須条件が多いと、一般的に待遇水準も高くなります。一度、市場における同等の待遇水準を確認しましょう。場合によっては、条件か待遇のいずれかを見直す必要があります。
もし、現職社員とのバランスが難しいようであれば、必須条件を絞り込み、入社後の研修で補えるようであれば、条件を緩和する選択肢もあります。その際、「成長できる環境」を打ち出すことで、応募意欲を高める効果も期待できます。
「コミュニケーション能力がある」、「主体性がある」といった抽象的な言葉は、選考時の判断基準になりづらいため、代わりに具体的な行動レベルで言語化します。
「社内外と調整経験がある」「自ら課題を見つけ、上司に提案した経験がある」といった、行動で表せる言葉に置き換えましょう。
悪い例(Before)
良い例(After)
歓迎条件を適切に設定すると、ターゲット層に魅力を伝えながら、選考のしやすさも確保できます。逆効果になる例と改善のポイントを押さえ、効果的な歓迎条件の運用を目指しましょう。
歓迎条件は「あると望ましい」程度の条件ですが、書き方を間違えるとかえって応募のハードルを上げてしまいます。特に注意したい例を挙げます。
「あると望ましい」程度のスキルや経験でも、表現によっては「これらを満たしていないと応募できないのでは」と誤解を与えやすくなります。
本来は応募の間口を広げるための歓迎条件が、求職者には応募の壁に見えてしまい、応募者数の減少につながる可能性があるため注意が必要です。
歓迎条件が多すぎると、「結局この求人は、どんな人を求めているのか」が読み手に伝わらなくなります。
特に、スキルや経験が多岐にわたると、自分がどこに当てはまるか分からず、応募を見送る人も出てきます。
歓迎条件を細かく設定しすぎると、選考時にその全てを評価するのが難しくなります。担当者ごとに確認するポイントにばらつきがでてしまい、適切な評価ができなくなるため選考の精度が落ちてしまいます。
歓迎条件は、「なくても業務に支障はないが、あると嬉しい」程度のものに留め、以下のポイントを押さえて設定します。基本的な考え方は、「なくても全く問題ない」と言えるものです。
必須条件は「この条件がないと業務が成り立たない」もの、歓迎条件は「必須ではないが、持っていると業務をよりスムーズに進められる」、「早期の立ち上がりに役立つ」、「チームに新たな視点やスキルをもたらす」もので仕分けます。迷った場合は、それが「ないと業務が全く成り立たないか」を判断基準としましょう。
歓迎条件が多すぎると、結局「全部できる人」を求めているように見えてしまいます。3つ以内に絞り、優先順位の高いものから順に記載すると、読み手にも伝わりやすくなります。「特に歓迎するスキル・経験」などの小見出しを使って強調するのも効果的です。
単にスキルや経験を列挙するのではなく、「〇〇の業務経験をお持ちの方は、クライアントとの直接的な調整を担当していただくため、実務の中ですぐに活かしていただけます」など、なぜそれを歓迎しているのかを明記しましょう。応募者は自分のスキルと照らし合わせてイメージしやすくなり、応募意欲の後押しになります。
悪い例(Before)
良い例(After)
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所有スキルや経験を適切に条件として定めることの重要性をお伝えしてきましたが、それだけでは十分とは言えません。実際の職場では、周囲と円滑に連携し柔軟に対応するための「ヒューマンスキル」も定着や活躍に大きく影響します。
長期的に見れば、ヒューマンスキルを軽視した採用は、組織の活性化や成長の足かせになるリスクが高く、以下のような問題が起こりやすくなります。
ヒューマンスキルは、職種や役割だけでなく、チームの状態や企業風土によっても求められる特性が異なります。
そのため、以下の3つの観点から具体的に整理すると、より実態に即した人物像を描くことができます。
例えば、同じ職種でもリーダーとメンバーでは求められる資質が異なります。
業務内容に沿ったスキルを整理しておくと、選考時の見極めやすさが高まります。
個人の特性だけでなく、組織との相性も定着には重要です。
悪い例(Before)
良い例(After)
「どんな人を採りたいのか」を正確に伝えるためには、条件の整理・言葉の工夫・社内の認識統一という3つの視点が欠かせません。
ミスマッチや選考の無駄を防ぎ、採用の精度と効率が向上させるためには会議や文書、ワークショップなどで求人要件を関係者間で共有することが不可欠です。共通認識は候補者の信頼や応募意欲にも良い影響を与え、体験向上に繋がります。
例えば、「国内営業経験(既存顧客対応)がある方歓迎」という書き方は、「顧客への定期訪問、提案活動を行っていただくため」といった背景を添えることで、応募者が自分の経験と照らし合わせやすくなります。
「働く環境」「福利厚生」「社員の雰囲気」など、自社ならではの情報を求人票に盛り込むと、応募者の興味を引きやすくなります。職務要件だけでなく「ここで働きたい」と思える材料を意識的に伝える姿勢が重要です。
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今、求職者は膨大な数の求人情報を目にしています。
その中で自社の求人票に目を留めてもらうには、「人を惹きつける設計」が不可欠です。採用したい人材を獲得するためには、次の3つの観点で求人票を見直しましょう。
求職者目線で、分かりやすく具体的に
業務内容・必要スキル・求める人物像を、抽象表現ではなく「行動レベル」で言語化する。
市場とのバランスが取れているか
必須条件の多さや待遇水準が、現在の人材マーケットとズレていないかをチェックする。
採用が難しいと感じたときこそ、「求人票」に立ち返ることが重要です。
採用の入口である求人票を整えることで、“いい人”が自然と集まる状態に近づけます。
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