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新卒採用に深刻な影響を与える「内定辞退」
若年層の人口減により、新卒採用の内定者確保がこれまで以上に困難になっています。
マンパワーグループの新卒採用代行サービスでは「内定者のフォロー施策」をはじめ、内定辞退理由から企業課題を探る「内定辞退者アンケート/インタビュー」の支援を提供するなど、内定辞退率の低下に努めています。
内定辞退は、採用担当者の大きな悩みのひとつです。
特に、新卒採用では内定から入社までの期間が長いがゆえに、採用活動が終了してからの辞退や入社直前の辞退で多くの採用担当者が大きな打撃を受けています。
求職者は職業選択の自由が憲法によって保障されているため、内定承諾後でも内定を辞退できますが、求人企業側は内定者の入社を前提に要員管理を開始するため、そのマイナスインパクトは甚大です。
内定辞退率の低下施策としてその効果に注目が集まっている、内定辞退者アンケート・調査の実施方法について解説します。
内定辞退者アンケート・調査とは、内定辞退者に対する辞退理由の聞き取り調査です。
調査結果から、内定辞退の理由や原因を明らかにしてその傾向を分析し、今後の採用活動において内定辞退率を下げるための対策を講じることを目的に行います。
それぞれの種類の詳細については後述しますが、フォームを使ったアンケート形式や1対1のインタビュー、数人の座談会方式などの種類があります。
なぜ今、内定辞退者アンケート・調査が注目されるのか、その理由を解説します。
正社員の人手不足は52.1%(人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月:帝国データバンク)と未曾有な人手不足であることに加え、2024年卒の大卒求人倍率は1.71倍(大卒求人倍率調査(2024年卒:リクルートワークス研究所 )とコロナ前基準に戻っており、求人>求職者の圧倒的な売り手市場です。
複数の内定をもらうことも一般化しつつあるため、2023年卒の内定辞退率は約65.8%(リクルートの就職みらい研究所(PDF) )と、内定者の半分以上が辞退する傾向にあり、せっかく内定を承諾してもらっても、入社するまで予断を許さない状況が続いており企業の悩みの種になっています。
10年程度前であれば10月1日の内定式に参加すれば、ほぼ確実に入社してくれましたが、今はそうとは限りません。
内定者研修や社員交流会でも積極的で楽しそうにしていた学生の突然の辞退や、入社直前の辞退など、過去の通例や経験では入社確実とされていた感触が当たり前ではない状況が新卒就活前線で起きています。
前例にとらわれず、内定辞退の理由を速く正しく把握し、内定辞退者が減るよう採用活動へのフィードバックが強く求められています。
今の新卒世代はネットやSNSネイティブです。企業の情報収集も容易であり得意としています。しかも、企業の口コミサイトを含め、ポジティブ面とネガティブ面の両方を冷静に分析し、採用プロセスで受けた印象や面談で質問されたことなどをネットで共有するなど、企業側のあらゆる情報が把握されてしまいます。
また、働く意識も世の中の役に立ちたい、自分らしく活躍したい、ワークライフバランスを取り、仕事以外でやりたいことがあるなど多様化しています。
真面目で失敗したくないと考える風潮が強い上、バブル崩壊後の両親の働き方を見てきたことにより、1社に人生を委ねるような期待はせず、きちんと見極めたいと考えているなど、内定を承諾した後でも、実際に入社するまでは、自分にとって最善な就職先を選択し続ける傾向があります。
採用担当者が考えるこれまでどおりのセオリーが通じないため、内定承諾者と辞退者の間で何が違ったのかをゼロベースで把握することが強く求められるようになったのです。
マンパワーグループが2023年9月に実施した調査では、約50.5%の学生が、内定承諾後も就職活動を継続していたと回答しています。
関連調査データ:就活生の約半数が内定承諾後の就職活動を継続。内定承諾後も就活を継続したリアルな理由とは?
一般的に、内定辞退者の多くは採用活動を通して関係性が構築できているため、アンケート・調査の依頼には協力的です。
また、選考中の段階や入社が決定している場合だと、入社した後の影響を考え、本音で全てを教えてくれることは少ないものです。内定辞退者だからこそ得られる本音が確認できるのは、内定辞退者アンケート・調査の大きなメリットといえます。
ただし、採用担当者のヒアリングでは、内定を辞退したことの後ろめたさから、面接時と同様に当たり障りのない回答になることもあります。本音の意見を集めるには中立的な第三者を入れることを視野に入れてもよいでしょう。
内定辞退者の多くは他社からも内定を貰っています。内定辞退者アンケート・調査の結果からは、他社と比較して自社のどの部分が学生に響いたのか、他社負けしたのか、断り理由とは違う本音を知ることができます。
求職者にとって他社よりも魅力的に映った部分は強く打ち出し、敗因となった箇所には対処法を検討するなど、内定辞退者を減らす打ち手に繋げましょう。
待遇、社風、働き方、キャリアパスなど、何が内定辞退をする要因だったのかピンポイントで具体的に聞くことができるのも内定辞退者アンケート・調査の大きなメリットです。
求職者は就職活動が進むにつれて、就業後の仕事や働き方、職場環境などについて本質的なことを深く考えるようになります。内定まで進んだタイミングでのニーズは、求職者が本来大事にしたいと感じている事柄と密接に関連している可能性が高いものです。そこから、求職者が本当に求めるものを初期段階からアピールするためのヒントが得られます。
内定辞退者アンケート・調査では、採用計画のスケジュールや各採用イベントの内容だけでなく、面接官の言動など採用活動の様々な要素に焦点を当てることができます。
求職者にとって都合が悪いと感じる可能性がある時期や日時の設定、およびスケジュールの変更に関する柔軟性などについての意見を収集すると、ターゲット層の参加しやすさが向上します。
また、面接官の言動についてのフィードバックは、求職者とのコミュニケーションに関わる重要な要素です。面接官の質問の明確さや対応の適切さなどに関する意見を収集することで、今後の面接官のトレーニングや指針の改善につなげることができます。
関連記事: 採用計画とは?準備と計画の立て方、成功のポイントを解説
関連資料: 面接官のための実践ガイド
内定辞退者アンケート・調査は、選考期間中、求職者が「実は聞きたくても聞けなかった」と感じたことを聞くことができるチャンスでもあります。これらへ適切な対策を講じることで、求職者の不安や疑念を解消し、選考途中の離脱を減らすことが可能です。
内定辞退者からのフィードバックを受けて、面接や説明会の進行方法の改善や、個別の質問へ回答するセッションを導入するなど、求職者が抱える疑問や不安を丁寧に解消できるよう、情報の提供を強化することも効果的です。
内定辞退者アンケート・調査のメリットは、自社の悪い点が明らかになることだけではありません。他社との差別化ポイントや自社の魅力がわかることも大きなメリットです。
企業の強みは、働いている社員にとっては当たり前の事のように感じられていて、内部からの意見だけでは見逃されてしまうことがあります。内定辞退者からのフィードバックによって、自社のポジショニングがより明確になり、自社が気づいていなかった独自の強みを知ることができるかもしれません。
求職者に対しての「魅力付け」は、今の採用活動では大きなポイントです。「何が企業を選ぶ判断材料になっているか」は、求職者が知っています。それは魅力付けの手がかりになるでしょう。
内定辞退者アンケートの実施をサポート
マンパワーグループの採用代行・コンサルティングサービスでは、内定辞退者アンケートやインタビューの立案から、実施・レポート作成まで支援可能です。
内定辞退者アンケート・調査の方法には、アンケート形式とインタビュー形式があります。具体的に解説します。
内定辞退者の名前や個人情報がわからないように無記名のアンケートで内定辞退の理由を調査する方法です。
無記名式のアンケートは内定辞退者に一番プレッシャーを与えない方式ですが、設問の設定次第では「他社の方が魅力的だった」のような曖昧な回答ばかり集まったり、全ての問いへの回答拒否など、役に立たないデータが生じる可能性があり、回答の本気度にも温度差が出る可能性があります。
内定辞退の理由などを仮説で考え、選択式と記述式を組み合わせて設計することで内定辞退者が答えやすく、こちらが欲しい情報を手に入れられるようにすることが肝心です。
アンケート結果は集計し傾向を分析するので、集計しやすい設問づくりが重要ですが、設問が50個あるなど、数が多すぎると内定辞退者がうんざりしてしまい、アンケートにきちんと答えてくれないリスクがでるので注意しましょう。
また、内定式や内定者懇親会の時に、内定者全員にアンケートを取り、内定辞退者とのギャップを知ることも有意義な採用活動へのフィードバックになります。
メリット | 手軽で多くの学生の声が聞ける |
デメリット | 設問を間違うと知りたい情報を得られない |
内定辞退者を集めて座談会方式でグループインタビューを行う方法です。対面で行う場合もありますが、リモートで誰が何を言ったかわからないように配慮することで、より本音を引き出しやすくする場合もあります。
座談会方式は複数名同時にざっくばらんに声を聞くことになるので、内定辞退者がより本音を出しやすくなったり、意識していなかったけど誰かの意見を聞いて本音に気づいたりするなど、多くの情報を短時間で収集することが可能です。
ただし、逆に話が盛り上がらない、内定辞退者がなじられた・説教されたと感じてしまったら、それが他のメンバーにも伝播し心を閉ざされてしまうリスクもあります。
また、誰かの意見で盛り上がり過ぎて、他の意見を聞けずに終わることもあるので、座談会のファシリテーターの力量により収集できる情報に差が出る可能性もあります。
メリット | 質問ができるため、より深い生の本音が聞ける |
デメリット | ファシリテーターの技量で得られる情報に差が出る |
内定辞退者と1対1でインタビューする方法は、一番じっくり本音を引き出すことが可能である反面、内定辞退者にプレッシャーを与える恐れがあります。
インタビューを打診する場合、あくまで今後の採用活動の参考にする意見を聞く場であり、引き留めなどを目的にしたインタビューではないことがきちんと伝えましょう。参加者がプレッシャーをものともしない、一言いいたい学生ばかりにならないよう注意が必要です。
また、1対1のインタビュー方式は、傾聴の姿勢とプレッシャーを与えない質問力が重要であり、対応する担当者を厳選しましょう。
インタビューができる数も他の手法と比べ少なくなるので、意見に偏りがでないように注意が必要です。他の方法と組み合わせて行うことで効率と効果をあげるといいでしょう。
メリット | より深い質問を投げかけ、知りたい情報を得られる |
デメリット | 大人数に実施しにくく、断れる可能性も |
内定辞退者アンケート・調査実施時のチェックポイントを解説します。
本音を聞きだせない壁になりやすいのは、話した内容から内定辞退者の個人が特定されることです。社内関係者に共有する場合であっても、話した内容が個人情報と紐づくような状態での共有は厳禁です。
内定辞退者は、個人が特定されるリスクを感じたら心を閉ざし、本音を隠し、差しさわりがないことしか話さなくなるため、調査結果が意味を成しません。
座談会形式やインタビュー形式では特に、内定辞退者が安心して本音が話せるような工夫が必要です。人事部長など上席者が対応すると内定辞退者が緊張してしまう可能性があります。
新卒採用では、若手で学生と年齢が近い担当者が対応することで親近感が増し本音が出やすくなるでしょう。また、面と向かっての対話はハードルが高く感じられてしまう場合も多いので、リモートで顔や名前を出さずにインタビューするなどの形式もおすすめします。
話し方も注意が必要です。いきなり本題から入ると追い込まれたり、説教を受けたような印象を持つことも多いので、リラックスできるような手短な雑談から入り、緊張感をほぐすなど、内定辞退者の立場で本音を出しやすいよう工夫しましょう。
また、内定辞者アンケート・調査退を第三者に依頼することで、より本音のフィードバックをもらえる可能性もあるため、外部への依頼もお勧めします。
内定辞退者アンケート・調査は今後の採用施策に活かすことが目的ですが、内定辞退者の発言は基本的にネガティブなものが多いものです。したがって、一通り辞退理由を聞いた上で、改善に活かす視点から質問を事前に用意しておき、こちらから投げかけましょう。
オープンクエスチョンで投げかける
イエス・ノーの質問ではなく、辞退を防げたのか改善策の仮説などをきいてみることで改善策の道筋が見えてきます。
優先順位を決める質問
スコア化して聞くことで、オープンクエスチョン等ではおさえきれない優先順や効果のイメージを把握することができるので、採用活動にフィードバックしやすくなります。
内定辞退の理由を本音で聞き出すことが目的です。内定辞退の理由に納得ができなくても、反論や説教、責めたりするのはやめましょう。本音を聞けないだけでなく、「内定辞退者アンケート・調査で大変な目にあった」とネットや口コミで広まる可能性もでてきます。
企業の評判に影響を与えないよう、丁寧に内定辞退者を尊重しながら傾聴する姿勢が重要です。
内定辞退者の多くは複数の内定をもらっています。自社の内定を辞退する理由だけでなく、他社の内定承諾をする理由について聞くことで、一歩踏み込んだ採用活動の改善に繋がります。
「内定承諾の決め手に欠ける」理由であれば、これまで解説した手段やコツをおさえた対応で情報収集できますが、「内定取り消しが不安」「選考スケジュールが各社ズレていて複数内定を承諾さざるを得ない」など、コミュニケーションや採用スケジュールを調整することで対応可能なものまで浮き彫りになるからです。
特長
内定辞退調査は、構造上、辞退者が入社する競合企業と自社の条件面の比較に目がいきがちですが本質は異なります。働く意識が多様化しているので、条件面が全てではありません。競合企業より自社が優れているとPRしても、求職者が振り向いてくれるとは限りません。
重要なのは、求職者の視点できちんと向かい合うことです。自社のミッション、ビジョン、バリューや自社の事業に合った求職者を惹きつけ、働くことに魅力を感じ、不安や不満なく、きちんと入社してくれるよう採用活動やプロセスの最適化に繋げる本質を見落とさないように気をつけましょう。
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