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2018年に制定された「働き方改革関連法」では、多様で柔軟な働き方の実現を大きな目的として、長時間労働の抑制や待遇の格差の是正など、働く環境の改善が企業に求められました。
働き方改革関連法施行前には「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」が提唱されていたこともあり、先進的な企業において肉体的・精神的・社会的にも満ち足りた状態である「ウェルビーイング」を目指す取り組みが増えるなど、多様で柔軟な働き方は徐々に世の中に浸透しつつありました。
しかし、この取り組みを意図せず一気に推し進めたのが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大です。多くの人々の働き方が半強制的に大きく変わる・変えざるを得ないという事態に直面し、人々はあらためて自身の・従業員の働き方について考えさせられています。
政府からの強い要請の後押しもあり、多くの企業がホワイトカラー職の業務に「テレワーク」を導入しました。 しかし、突発的に導入を実施した企業では、セキュリティや設備等のインフラ整備の課題、指揮命令の方法などの実務面の課題や、勤怠管理や成果指標管理などの人的な課題を短時間で検討・実施しなければいけない状況が続き、企業の危機管理能力・リスク管理能力が問われています。
このような急激な経営環境や市場環境の変化に対応しながら企業活動を継続的に行うためには、企業組織が変化に対して柔軟である必要があります。その手段のひとつとして、あらためてアウトソーシングという選択肢について考察します。
本来、アウトソーシングとは企業が資源を外部から調達すること全般を指しますが、一般的には「企業で行っている業務の一部を外部に委託すること」を指します。費用の削減や業務を再設計化することによる社内資源の最適化と、その結果、資源を再分配してより注力すべき業務に投資できるなどのメリットが挙げられています。
アウトソーシングの対象となる業務領域は幅が広く、製造業であれば製造ラインの外部委託(ファクトリーアウトソーシング)、IT(IOT)分野での社内ITインフラの保守・運用業務、社内システムのヘルプデスク業務、事務系分野での経理財務業務、人事系事務(社会保険、年金業務、給与計算等)、営業マーケティング系での営業代行やアウトバウンドコールのアウトソーシングなど、事例を挙げれば枚挙にいとまがありません。 業務の設計次第では、社内の定常業務はすべてアウトソーシング可能とも考えられています。
種別 | 概要 |
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BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング) | 広義では、業務アウトソーシング全般。狭義では、労働集約型の事務業務・軽作業などマニュアル化が可能な業務のアウトソーシングを指すことも |
ITO (ITアウトソーシング) | 広義のBPOのうち、IT(情報技術)に関する業務のアウトソーシング |
RPO (リクルートメントプロセスアウトソーシング) | 広義のBPOのうち、採用にまつわる業務のアウトソーシング |
FOS (ファクトリーアウトソーシング) | 製造業における、工場内業務・製造業務のアウトソーシング |
KPO (ナレッジプロセスアウトソーシング) | 高度な専門知識と分析スキルを必要とするデータアナリシスのアウトソーシング |
多くの企業がアウトソーシングを利用したいと考える理由は何でしょうか。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2018年に実施したアンケートでは、コストの低廉化よりも「受注の増加に対応できる」「季節的な業務量の変化に対応できる」が上位に挙げられています。ビジネスチャンスを逃さないために、アウトソーシングを積極的に活用している企業の姿勢がうかがえます(グラフ1)。
グラフ1:アウトソーシングを活用しようと思った理由(複数回答可)
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 平成29年度 人手不足下における中小企業の生産性向上に関する調査に係る委託事業調査報告書 (PDF)を加工して作成
また、経済産業省が平成20年に実施した「業務アウトソーシング開始にあたり期待した効果と実際に得られた効果」についてのアンケート結果では、「コスト削減」「コア業務への集中」のほか、「専門的知識・スキルの活用」「業務プロセスの改善」など、自社で実施するより効率的・効果的だということが示唆されている理由が上位に挙げられています(グラフ2)。
グラフ2:業務アウトソーシング開始にあたり期待した効果と実際に得られた効果
出典:「BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書」l (経済産業省)を加工して作成
では、なぜそのような効果が得ることができるのでしょうか。それぞれのメリットについてさらに解説します。
業務の繁閑に則した料金体制を選択することで、繁忙期対応できるだけの人員を固定で確保する必要がなくなり、人件費等が適正化されます。
社内業務に、管理部門や間接部門、あるいは複数の管理職など多くの関係者が存在するケースでは、アウトソーシングにより企業内の管理費用を「見える化」し、削減のメスを入れることが可能な場合があります。
対象業務の業務量が多い場合には、複数のアウトソーサーを活用することで、アウトソーサー間の競争原理が働き、対象業務のアウトプットがより適正な価格で購入できることがあります。
社内の人的リソースをより重要な事業ポジションで活用することができます。
アウトソーシングは、人件費ではなく委託費用というサービス利用料ととらえられます。そのため、変動が予測しやすい傾向にあります。
アウトソーサーのリソースを活用することで、「社内に人材がいない」「既存リソースが無い」という阻害要因がなくなるため、新たな市場への進出や容易になるうえ、リスク分散が可能になります。
社外の最新のノウハウや情報に触れることで、予期せぬイノベーションをもたらす可能性があるという、副次的な効果もあります。
コスト削減の項目でも述べたとおり、アウトソーシングの際には業務の繁閑に則した料金体制を選択することができます。これにより、ビジネスチャンスを逸するリスクの軽減や、閑散期の余剰人員リスクの抑制が可能です。
新サービスの立ち上げや、緊急時の対応等の際など、自社にリソースがなくてもアウトソーサーのリソースを活用することで迅速かつ柔軟な体制構築を行うことができます。
アウトソーシングは「プロセスの一部」を切り出して委託され、アウトソーサーは業務の企画・設計から運用までの一連を、責任をもって遂行することが求められます。
では、実際にどのような業務がアウトソーシングに適しており、実際にアウトソーシングされているのでしょうか。ここからは、主な事例をご紹介します。
オフィス系では、業務量が多いが、業務内容が比較的決まっている、繁閑差が大きい業務、一時的に大量の事務処理が発生している業務などがアウトソーシングされる傾向があるようです。
人件費などのコスト適正化以外にも、事務処理スキルに長けた社内の人材が一定の業務に固着してしまうことを避けたい、期間限定業務が社内の人的リソースでは充当できないなどの理由が挙げられます。
受付案内業務や、会議室の予約・セッティング・片付けなどのファシリティ管理業務も、大企業を中心にアウトソーシングが進んでいる分野です。
マンパワーグループが2022年1月に企業の人事担当者を担当に実施した調査では、約7割の人事担当者が採用や人事に関わる業務において、アウトソーシングサービスを活用していると回答してます。
アウトソーシングを利用している業務のカテゴリでは、「ストレスチェック」の割合が最も高く、「給与(賞与)計算業務」「社会保険の手続き」「社員教育・研修」「採用業務」が続きます。
多くは、電話による対応が主流だったため、コールセンターと呼ばれていましたが、メール、FAX、チャット・SNSなど対応方法が多岐にわたる現在では、コンタクトセンターと呼ばれることが増えてきました。
業務内容は、問い合わせ対応など外部からの受信に対応するインバウンド対応と、商品のセールスなどのアプローチを外部に対して行うアウトバウンド対応に大きく二分されます。
多くのコールセンターを専業とするアウトソーサーでは、自社でコールセンター用の設備インフラを構築・所有しており、人的リソースの調達力に優れ、教育にも力をいれています。
一次対応はアウトソーサーが行い、高度・複雑・専門的な内容については自社社員が対応するといった、エスカレーション体制が敷かれる例もあります。
IT系は、アウトソーシングの中で長い歴史を持ちます。システムの構築から運用、保守まで、アウトソーシングされている業務は多岐にわたります。
医薬品業界におけるCRO(医薬品開発業務受託機関)のように、事業コアに近い要素技術の分野がアウトソーシングされている事例もあります。
製造業における機械・工具を使った製造の仕事以外の業務、倉庫や店舗での事務以外の業務が、一般的に「軽作業」と呼ばれることが多いですが、明確な定義はありません。一般的な軽作業とは若干異なりますが、近年では店舗や流通における棚卸業務専門のアウトソーサーなども活躍しています。
ここまで、アウトソーシングされている主な業務の一例を紹介してきましたが、アウトソーシングされる業務・作業は単純作業から高度な技術領域まで多岐にわたります。
経済産業省のBPO研究会の報告書の調査結果(グラフ3)からもわかるように、委託する業務の範囲は、顧客対応から外部との折衝、提案なども行われています。
グラフ3:ユーザー企業がアウトソーシングしている業務内容とその範囲
出典:「BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書」(経済産業省) を加工して作成
アウトソーシングの活用は、先行き不透明な環境において、変化に対応するためのソリューションのひとつです。
業務に見合った戦略的なアウトソーサーをパートナー企業として選択し、業務プロセスの「みえる化」を進め、業務の適正化を行い、アウトソーシング化の可否を議論しておくことは、緊急時に慌てないためにも、平時から行うことが重要です。
最近では、高度な専門知識・技術を備え、組織には属さずにプロジェクト単位での契約を複数の企業と結んで活動する「インディペンデントコントラクター(IC)」という個人としての独立請負人も、新しいアウトソーシングの形として存在感を増してきています。
一方、「アウトソーシング化による選択と集中が合理的かつ現代的な経営である」という考え方に対して、「一見、ムダに見えていた社内の組織・人にこそ、日本企業の特徴で強みの源泉であった」という考え方もあり、より一層、戦略的にアウトソーシングを活用することが企業にとって重要視されてくるでしょう。
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