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大企業を中心に近年取り入れられている「パーパス経営」という経営手法は、従業員のモチベーションや生産性アップ、企業ブランド戦略に大いに役立つといわれています。
この記事では、パーパス経営がなぜ注目されている背景や、導入のメリット、事例などを解説します。
パーパス経営とは、企業の存在意義を明確にし、経営者と社員が一丸となって社会に貢献する経営を実践することです。
パーパス(Purpose)は、「目的・意図」という意味の英単語です。一方、ビジネスにおけるパーパスとは、企業がどのような「目的」で存在しており、また社会に貢献できる存在になり得るのかという視点によるもので、「企業の存在意義」を表す言葉です。
企業の最大の目的の一つに「継続的な利潤の追求」が挙げられます。
企業は将来にわたって継続することを前提に事業運営をしています。これを「ゴーイング・コンサーン」といいます。この考え方に立てば、継続して事業運営するためには適正な利益や内部留保が必要であることは言うまでもありません。
日本国内でも阪神・淡路大震災を契機に、従来国が行ってきた社会問題に対する取り組みに企業も協力するというケースが増えてきました。
以降も多くの大規模災害のほか、世界的な経済危機、環境問題、感染病対策など人々の暮らしを取り巻く問題が広範囲になるにつれ、企業が周辺地域や社会全体に果たす責任や及ぼす影響に対して国民の関心が一層高まったと言えます。
つまり、「社会課題解決への貢献」も重視すべきであるという時代になってきているのです。
地域の環境が破壊されたり、従業員の健康が害されたりするような状況は、好ましいとはいえません。パーパス経営は、自社の利益を追求するのも大事ではある中で、社会全体の繁栄にも着目すべきという考え方に立っています。
パーパス経営に似た言葉として「ミッション・ビジョン・バリュー」があります。
ミッションは起業使命、ビジョンは起業のあるべき姿、バリューは企業がもたらす価値のことです。
両者はよく似た概念ですが、ミッション・ビジョン・バリューはパーパスに比べて「社会貢献」「社会全体の繁栄」にまで踏み込んでいない点が異なるといえるでしょう。
パーパス経営が今注目されている背景には、さまざまな要因が考えられます。
「不確実性や変動性が高く、複雑かつ曖昧な社会情勢」を意味するVUCA時代が到来したといわれる現代、企業を取り巻く環境はIT技術の急速な発展による産業構造の変化、そして新型コロナウイルス感染症のまん延も伴い、非常に不安定なものとなっています。
企業は、このような不確実性の高い情勢の中、いかにして順応し継続経営を進めていくかが至上命題になってきています。
最近よく耳にするSDGs(持続可能な開発目標)や、環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)の頭文字をとった造語である「ESG」などの、サスティナブルな取り組みへの関心が社会全体で高まっています。これらへの関心が、パーパス経営への注目が高まる大きなきっかけになっていることも事実でしょう。
SDGsやESGの考え方が世に浸透するにつれて、就職や転職を決める際に「環境や社会にとってよいビジネスを行っている企業かどうか」を一つの判断基準にする人が増えてきています。また近年では「EGS投資」という投資方法も聞かれるようになりました。
企業のサスティナビリティを向上させることは、災害や感染症のまん延、経済情勢の変化など企業を取り巻くさまざまなリスクを軽減することに役立ち、投資家の中には、このような取り組みを推進する企業に投資をしようという動きも出てきているのです。
パーパス経営が注目される背景として、時代の変化に伴う価値観の移り変わりは無視できないでしょう。
1981年から1996年に生まれ、2000年以降に成人を迎えた世代を「ミレニアル世代」と呼んでいます。また、ミレニアル世代よりもさらに若い、1996年から2015年の間に生まれた世代を「Z世代」といいます。これらの世代が育った時代は、日本国内だけでなく世界中で数多くの社会問題が生まれた時代でもあります。
日本国内では阪神淡路大震災や東日本大震災をはじめとした大規模災害だけではなく、大型台風や大雨による災害が毎年のように発生し、後を絶ちませんでした。また世界に目を向ければリーマンショックや新型コロナウイルス感染症拡大などの大きな事件や不景気も発生しています。
このように、数多くの災害や事件を肌で感じてきたミレニアル世代以降には、社会問題に対して関心を持つ人が多い傾向にあるため、パーパス経営を推進する上で無視できないポイントといえます。
パーパス経営のメリットについて解説します。
自社が何のために存在するのかという根本的な存在意義を定義することで、企業が目指すべき指針を内外に示すことができ、社員にとっては自分たちが何をすべきなのかが明確になります。社員は迷うことなく行動するための指針に、安心できるでしょう。また社員全員が同じベクトルで 行動できるため、組織がまとまりやすくなります。
目指すべきものが曖昧な状況では、社員はよいパフォーマンスは発揮できません。社会に対してどう貢献していけるかを社員が常に 考え、仕事を進めていくことにより、企業はイノベーションを創造し、企業のさらなる成長を実現できます。
また、モノやサービスが社会に飽和したといわれて久しい中、競合他社との差別化を進めなければ競争に勝てません。企業が社会に対してどう貢献するのか、そのパーパスを明らかにすることで市場からの支持を獲得できれば、競争力の強化にもつながるでしょう。
パーパス経営に取り組むことにより、従業員のエンゲージメントの向上も期待できます。
パーパス経営が浸透すれば、社員は共通の価値観をもって業務に取り組めるようになります。企業の存在意義と個人の働く意義が結びつくことにより、社員にとってその企業で働くモチベーション向上につながります。
社員が「自分が働くことで社会に貢献できる」と思えれば、仕事への意欲もより高まるでしょう。企業や社員が「どうあるべきか」「どうありたいか」を共有することにより、両者は一丸となって事業の目指すべき方向へと前進していけます。
エンゲージメントの向上は、企業の成長にもつながります。
企業がパーパス経営に取り組むことにより、CSRに前向き 、かつ社会的存在意義の高い企業であるということが消費者や取引先に広く伝わります。企業は単に自社の利益のみを追求するだけでなく、社会的な貢献に関する活動をしているか否かがサプライヤーの条件にもなってきています。
社会に大きく貢献する企業であると消費者や取引先が実感できれば、企業への信頼は大いに高まり、長期的なブランディングとなり得ます。
パーパス経営を実現するために、企業がすべきことを解説します。
パーパス経営を進める上で、自社の経営理念と乖離があってはいけません。しかし日々業務で多忙な状況ですと、理念を見失いがちになります。
そこで、パーパスを決定する上では自社の理念や歴史の棚卸しを行い、関係者の頭の中にあるものを文章や図式などで形にします。そこにパーパスを当てはめていくようにするとわかりやすくなります。
パーパスを策定する際のポイントは 内外の共感・信頼を得ることができるものかを主眼とし、以下の点にも気を付けてください。
パーパスを策定したら、次に「社内に浸透させる施策や取り組み」を行います。策定したパーパスを形骸化させないためにも重要な手順です。
そのカギになるのは、「他人ごと」をいかに「自分ごと」にさせるか、ということです。
企業によっては、自社の経営理念を朝礼の際に唱和させているところもありますが、ただ唱えるだけではなかなか浸透しませんし、他人から与えられるだけでは「自分ごと」にはなりにくいものです。
社員に「自分ごと」として認識してもらうには、「全員参加型」で策定することが重要です。社員自ら策定した理念やパーパスを実践する取り組みを行い、一定の成果や努力に対して表彰する仕組みを構築することで、社員の社会貢献に対するモチベーションが高まっていくでしょう。
また、パーパス経営にはPDCAが重要であることを認識しておきましょう。パーパスを掲げただけで満足してしまって、実際に運用して気づいた点を洗い出すことや改善に努めることを怠っては「絵に描いた餅」になりかねません。
パーパスを策定・実現するためには注意すべき点がいくつかあります。
パーパスを策定する際には、発信するターゲットを限定しすぎないことが重要です。
パーパスは、顧客や利害関係者にとって聞こえのよい言葉を並べればよいというものではありません。一部の重要顧客や株主などだけにターゲットを絞るのではなく、あくまで社会全体に目を向けて決定し発信することが重要です。
前述したように、企業は一定の利益を確保しなければ事業運営を継続することはできません。社会貢献を推進することは大事ですが、企業の収益を圧迫してしまっては元も子もありません。投資家や株主のようなステークホルダーの意向も念頭に置きつつ進めるとよいでしょう。
せっかくパーパスを策定しても、実際の行動が伴わない場合があります。これを「パーパスウォッシュ」といいます。
パーパスウォッシュが発生してしまう要因として「内容が分かりにくい」「実現可能性が低い」「共感しにくい」などが考えられます。パーパスを掲げても行動が伴わなければ、利害関係者からの不信につながりますので注意が必要でしょう。
では、パーパス経営に実際に取り組んでいる企業の事例を紹介します。
カメラやオーディオなどの電気機器、音楽や映画などのエンタテインメントコンテンツ事業、金融、ネットワークサービスなど、様々な分野のグループ企業を擁するA社では、トップ主導でグループとしての存在意義の見直しを実施し、新たにグループ全体共通のパーパスを策定しました。
策定後は、各事業の責任者が自分の事業がパーパスにどうのように貢献するのかを折に触れて社内外に発信するなど、その浸透にも力を入れています。
また、パーパスの実現には多様な社員の成長が必要であるという考えから、フレキシブルワーク制度の拡充や、採用・研修のオンライン化などの人事施策などにも大きな影響を与えました。
現業部門・間接部門問わず、パーパスの実現に向けてそれぞれが何をなすべきかを考え取り組んだ結果、コロナ禍においても勤務形態の変更などにスムーズに対応し、新たな製品やコンテンツの開発・発売を次々に実施しました。
パーパスが、多岐にわたる事業を展開するグループ会社および全世界で10万人以上の従業員を事業成長に向けてひとつにまとめあげている、パーパス経営の世界的な代表事例のひとつです。
食品メーカーのB社は、創業以来から続いている「事業を通じて社会価値と経済価値を共創」というパーパスをもとに、2030年までに「10億人の健康寿命を延伸」「事業を成長させながら50%の環境負荷を削減」という新たな目標を掲げました。
B社もパーパス経営の実現には従業員の理解・共感が重要だとしており、従業員と経営層の対話をもとにした組織・個人目標の設定や、目標発表会による意識の確認・共有、社内アワードの実施などによるマネジメントサイクルを通じて、従業員ひとりひとりが当事者意識をもってパーパスを理解・推進できるよう取り組んでいます。
また、B社はパーパスへの共感をはじめとする従業員エンゲージメントと会社の業績には正の相関関係があるとの社内サーベイの結果を発表しており、ビジョン実現のための教育研修やシステム費用に対して積極的な投資の姿勢をみせています。
減塩製品の拡大や原料調達のトレーサビリティ向上など既存事業における施策以外にも、先進医療分野への技術・素材提供といった新規事業への進出など、目標達成に向けた成長戦略を実行しており、組織一丸となって食による健康問題を改善させるべく価値創造を目指しているパーパス経営の好事例といえるでしょう。
パーパス経営は、VUCAの時代を生き抜く企業の新たな経営手法として、注目を集めています。パーパスを策定して企業の社会的な存在意義を明確にすることで、利害関係者をはじめとする社会全体から支持が得られ、社員のエンゲージメントが高まり生産性を向上させるなどのメリットが期待できるでしょう。
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