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ESGのメリット・注意点・関連語とは│企業の人事が取り組むには

掲載日2022年11月28日

最終更新日2024年4月15日

ESGのメリット・注意点・関連語とは│企業の人事が取り組むには

目次

経済活動が活性化する反面、環境問題や人権問題、企業の不祥事などさまざまな問題が顕在化しています。そのような中、企業に対してESGへの取組みがますます求められるようになりました。企業はESGの取組みとして何をすればよいのでしょうか。また、取り組むことによって、どのような効果が得られるのでしょうか。本記事ではESGについて、わかりやすく解説します。

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ESGとは?

ESGとは環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)で構成された、事業の価値創出のための要素です。環境は、企業活動において消費されるエネルギー、資源、二酸化炭素排出や廃棄物による生物や気候変動への影響。社会は、多様化する社会の中でのダイバーシティ&インクルージョン、労使関係など。企業統治は、意思決定や法令順守などの社内管理体制に関わることです。

このESGへの取り組みを意識的に経営に取り込むことをESG経営と言います。

また、ESG投資という言葉もあります。ESG投資とは、それまで評価されてきた財務情報だけでなく、ESGへの取り組みを評価した投資です。言葉の背景は異なるものの、近い言葉として「社会的責任投資(SRI)」があります。ESG投資は、もちろん社会的責任を担うだけでなく、それがリターンにもつながることを期待しての投資として今、世界的に注目されています。

ESGが注目される背景

ESGが注目されるようになったのは2006年4月に国連が機関投資家を対象に創設した責任投資原則(PRI)を公表したことが大きく影響しています。それを契機に欧米を中心に投資家がESG投資を拡大させています。

世界の流れを追う形で、日本では2015年6月にコーポレートガバナンス・コードで企業にESG課題に積極的・能動的に取り組むことが求められました。2015年9月に年金積立管理運用独立行政法人(GRIF)がPRIに署名。加えて2017年5月に改訂されたスチュワードシップ・コードでは機関投資家が投資先である企業におけるESG要素を把握すべきことが明記されました。これらを契機に、日本でもESG投資が注目を集めるようになりました。

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ESG投資の7種類

ESG投資の手法を見てみましょう。国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)は、持続可能なESG投資を推進している団体です。そこが用いているESG投資手法の7分類がよく引用されています。この分類でいえば、日本では、「エンゲージメント・議決権」が最も使われ、次いで「ESG インテグレーション」が多く使われているようです。

●エンゲージメント・議決権(Corporate engagement and shareholder action)

企業との対話や株主への提案、議決権行使などをとおして、企業にESGに対する取り組みを促す方法

●ESGインテグレーション(ESG integration)

投資先の決定において、財務諸表の分析に加えて、ESG要素を考慮する方法

●ネガティブスクリーニング(Negative/exclusionary screening)

特定の業界や企業(例:ギャンブル、タバコ、化石燃料など)を投資の対象から除く方法

●ポジティブスクリーニング(Positive/best-in-class screening)

業界内でESGに対する評価が高い企業やプロジェクトを投資の対象とする方法

●国際規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)

国連やOECDなど国際機関の規範を満たしていない企業を投資の対象から除く方法

●サステナビリティテーマ投資(Sustainability themed investing)

気候変動や食料、水資源、エネルギーなどサステナビリティ(持続可能)に関するテーマに投資する方法

●インパクト・コミュニティ投資(Impact/community investing)

社会的にインパクトのある社会課題や環境問題の解決、地域開発などに取り組む企業やプロジェクトに投資する方法

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ESGに関係のある言葉

ここでは、ESGに関係のある言葉を紹介します。

SDGs

ESGと並んで用いられるSDGsという言葉があります。この2つの違いは、ざっくりいえば取り組み単位の規模が違うのです。

ESGは持続可能(サスティナブル)な経営や投資を意識して企業をイメージして用いられる言葉です。一方、SDGs(Sustainable Development Goals)は世界が目指す「持続可能(サスティナブル)な開発目標」です。

SDGs は2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」をもとに2030年を達成期限として17の目標(ゴール)と196のターゲット(達成基準)で構成されています。ここで掲げられた目標はすべての国での目標であり「誰も置き去りにしない」という理念で取り組まれています。

ESGもSDGsも、「持続可能(サスティナブル)な開発」という点では共通していますので、企業がESG経営に取り組んでいることで、おのずとSDGsの目標達成に取り組んでいることにもなるのです。

ウェルビーイング

ウェルビーイングも近年よく使われる言葉です。ESGや前項で紹介したSDGsと用いられることも多いといえます。ウェルビーイングは、ESGやSDGsの根底にある、人々に対する考え方といえるでしょう

ウェルビーイングとは個人が幸福に生きることを大切にする取組みだといえます。1946年に61か国の代表による署名をされ、1948年に効力が発生した世界保健機関(WHO)憲章前文で「well-being(ウェルビーイング)」という言葉が使われたことが契機となり意識されはじめました。現在、厚生労働省では「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と定義しています。

ウェルビーイングについても深い知見を持つ心理学者のマーティン・セリグマンは「ウェルビーイングを測定する判断基準は持続的幸福度」と述べています。

これらはESGやSDGsの根底にある考え方なので、随所にウェルビーイングという言葉が使われています。たとえばSDGsの目標3はGood Health and Well-Being (すべての人に健康と福祉を)です。もちろん、健康や福祉に限らず、働く環境の整備など、企業が従業員のウェルビーイング向上に努めるならば、それはSDGsの取り組みや企業のESG経営でもあるといえます。

参考文献:Flourish: A Visionary New Understanding of Happiness and Well-being(Free Press, Martin E. P. Seligman, 2011)

つまりウェルビーイングの実現は、さまざまな活動の根底にある人々のあり方への考え方で、企業活動としてのESGもその根底にはウェルビーイングという概念があるのだといえるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョン

企業のESGに関わる取り組みを見ていると、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉がよく出てきます。ダイバーシティ&インクルージョンは具体的な取組み事例によく使われています。

ダイバーシティ(Diversity)とは人材の「多様性」を意味します。目に見える特性・目に見えない特性があり、性別や年齢、人種、障がいの有無という視点だけではなく、個人の持っている考え方・価値観・背景(例えば、学歴や職歴、キャリア、働き方、性的指向など)といったさまざまな視点を含めたものです。そのような「多様性」を尊重するという考え方がダイバーシティです。また、インクルージョン(inclusion)は、「包括・包含」という意味があり、さまざまな人材が個性を生かして活躍することを表します。

多様な人を尊重した上でさらに各々を活かす場を作るという意味合いからダイバーシティとセットで用いられ、D&Iと表記されることもあります。

つまり、このような多様性を活用する概念がダイバーシティ&インクルージョンであり、ESGへの取り組みにおいて、具体的に経営に取り入れていくイメージです。もちろんダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みはESG投資の重要な評価ともなるわけです。

ちなみにダイバーシティ&インクルージョンは、SDGsの目標の中には記載されていませんが、ターゲットの中に「多様性」という言葉が使われています。ジェンダー平等やディーセントワークなどもダイバーシティ&インクルージョンに関わるものです。

人的資本

日本では2022年8月に「人的資本可視化指針」が策定され、早ければ2023年3月の有価証券報告書から人的資本の開示が義務化される見通し(2022年10月現在)ということもあり、「人的資本」という言葉が注目されています。こちらもESGへの取り組みと密接な関係がある言葉です。

「人的資本」とは、人材マネジメントにおける人材の捉え方で、人材を「人的資本」と捉え、人材の成長を通じた「価値創造」であり、人材に投じる資金はその「投資」であると考えるマネジメントです。

ESG投資家の存在により、欧州連合では、2017年から企業に「人的資本の開示」を義務化しています。そして、2018年12月にはスイス・ジュネーブに拠点を置く国際標準機構(ISO)が、人的資本マネジメント領域で世界初となる国際標準規格「ISO30414」を策定しました。また、米国では2020年8月には米国証券取引委員会が米国上場企業に「人的資本の開示」を義務づけています。

つまり、人的資本とは、ESG経営の中の人材に対する企業の投資や取り組みにフォーカスしたものであるといえます。昨今の流れは、その情報開示を義務化していくことになります。

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ESG経営のメリット

では、ESG経営のメリットを見ていきましょう。

投資家からの評価が高まる

ここまで述べたように、ESG経営は企業価値につながります。今の時代は「非財務資本」や「無形資産」と呼ばれる見えない価値も「財務資本」と同様に投資家から評価される時代になってきました。これらの流れはリーマンショックが大きく影響したといえるでしょう。

企業にとって持続可能(サスティナブル)で長期的な取り組みが重要であることが見直され、目先の利益だけでなく、リスク管理を含めた長期目線での価値創造が評価される傾向にあります。

ESGへの取り組みがどのような効果をもたらすのか、少し事例をあげてみましょう。

まず、次の項目で述べるような不祥事などのリスクから企業を守ります。また、例えば公的な承認や認可を政府から得やすいなど新たな市場を開拓する手がかりになり、それが長期的な利益に結びつきます。さらに、ESGへの取り組みは消費者に支持される傾向にあり、売上増加も期待できます。環境に配慮することはコストの低減にもなり得ます。このような要因が企業価値向上へとつながることは調査でも明らかになりつつあります。

リスク管理の向上

前項で触れましたが、ESG経営により商品の安全性や労使間の問題・環境問題など、サプライチェーンを含むさまざまなリスクを未然に防ぐことができます。不祥事による企業のイメージダウンや信頼度の失墜、人材流出などの問題も起こりにくくなるため、リスク管理の向上が期待できます。

従業員のエンゲージメント向上

ESGを重視した活動は職場環境の改善にもつながるため、従業員のモチベーションを高め、人材も定着しやすくなります。ESGへの取り組みは消費者のみならず、従業員の共感も得ることになり、従業員のエンゲージメント向上にもつながるでしょう。

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ESG経営の注意点

一方で、取り組む際に注意しておくことについてお伝えしていきます。

統一された評価基準がない

そもそもESGは、各要素について「この課題に取り組む必要がある」という明確なものが設定されていません。しかし参考になるものはあり、前述した「責任投資原則」(PRI)では以下のような課題が一例として掲げられています。

課題一例
環境 気候変動、資源枯渇、森林破壊、廃棄、汚染など
社会 人権、雇用関係、強制労働・労働条件、児童労働など
ガバナンス 役員構成・多様性、贈収賄・汚職、政治献金、税務戦略など

また、これらの取り組みへの評価は定量化が難しい部分があります。つまり企業同士を比較できるような統一された評価基準がないのです。各評価機関が独自のスコアで評価している評価基準が混在した状態なのです。そのため、その評価が正当かどうかは明確ではないという問題もあります。                                                  

長期的な取り組みが必要

これまでお伝えしたようにESG課題は長期的な取り組みです。すぐに明確な結果が出るというものではないため、企業は腰を据えて実践していく意思が必要です。取り組みによって企業価値が向上するまでには5年~10年後のように長期化する可能性があります。持続的な取り組みとして進めていかなければならないため、まずは経営層がコミットメントし持続の意思を持つことも必要でしょう。

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企業の人事がESGに取り組むポイント

ここでは、人事領域にフォーカスを当ててESGに取り組むポイントについて例を紹介します。

非財務資本を「見える化」する

ESGは非財務資本(知的資本、製造資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)にあたります。そのため、見えない価値として存在します。しかし、それでは投資家やステークホルダーへの訴求にはなりません。企業のパーパス(目的・存在意義)や独自の取り組み姿勢、数値化したデータなどを開示していく必要があります。

多様性を活かす組織づくり

多様な人材が活躍できる職場環境を整備していく必要があります。それらがサスティナブルな経営へとつながります。企業の人事として行うべきこととして、前述したダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みが挙げられます。

例えば、内閣府によれば2018年に日本版スチュワードシップ・コードに賛同する227社の機関投資家などを対象に実施したアンケート調査で7割近くの機関投資家が「企業の業績に長期的には影響がある」として女性活躍推進に関しての情報を活用していることがわかりました。

出典:機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と情報開示│内閣府(PDF) 外部リンク

ほかにもテレワーク導入による自由な働き方の推進、男女間賃金格差是正などもESG投資の判断材料にもなっています。

人材育成への投資

前述の人的資本でも触れましたが、人材の成長は企業の価値創造につながります。人材への投資を行っている企業にESG投資家も注目します。例えば育成プログラムなど自社の取り組みを開示することも一つの方法です。

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ESG経営における人事対応の事例

10年がかりでの取り組みと成果を分析

製薬会社のA社は、かなり以前から長期的な企業価値を高めるためにESGを重視した財務戦略を実践していました。企業の存在意義を示す「パーパス」の実現に向けた姿勢を表明し、社員への働きがいの醸成および能力開発機会の提供や健康のサポート、安全管理、情報開示などを行っています。

またダイバーシティの推進、贈収賄・汚職の防止などESGへの取り組みを開示しています。ESGについて重要業績評価指標(KPI)と株価純資産倍率(PBR)で分析し具体的な取り組みが5~10年後に好影響を与えていることを投資家に明示できるようにしています。

ステークホルダーの視点に立った開示

精密機器メーカーのB社は、自社ホームページの投資家情報にESGの取り組みを明示しています。環境(E)・社会(S)・企業統治(G)ごとに取組み内容を掲げ、財務・非財務の両側面を統合報告レポートに記載しています。

例えば社会(S)であれば、すべてのステークホルダーに対しての人権の尊重、従業員が高いモチベーションをもって働くことができる雇用と処遇(職場環境づくり)、さまざまな個性や価値観をもつ人材を活かすダイバーシティ&インクルージョンの推進などを掲げ、ホームページはもとより誰もがダウンロードできる統合報告レポートで取り組み内容の詳細やデータを開示しています。

まとめ

今、社会は「非財務資本」「長期視点での企業価値創造」「サステナビリティ」の重要性に注目しています。投資家もESGなどの取り組みを評価する潮流となっています。これらは社会への貢献という意味だけではなく、その取り組みそのものが企業の成長や投資家へのリターンにつながることも実証されるようになってきました。長期視点での取り組みであるからこそ、企業はできることから着手していく必要があるのです。

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著者プロフィール

木山美佳(人材育成コンサルタント・キャリアコンサルタント)

木山美佳(人材育成コンサルタント・キャリアコンサルタント)

(株)キャリ・ソフィア代表取締役 (一社)ダイバーシティ人材育成協会 代表理事  大手総合人材サービス会社、JAL系研修会社を経て2011年に株式会社キャリ・ソフィアを設立。人材育成を通して5万人以上のキャリア形成に携わる。キャリア教材考案者。大阪府立大学大学院人間科学修士(博士後期課程単位取得退学)。国家資格キャリアコンサルタント。月刊人事マネジメント連載記事「部下指導は伝え方が9割」執筆、著書『自分から動く部下が育つ8つのパワーフレーズ』(同文舘出版)

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