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子育てや介護などによりフルタイムで働き続けることができないことを理由に、優秀な人材が離職を選択してしまう人材流出は企業にとって大きな問題です。
また、昨今ではワーク・ライフ・バランスを重視した上で会社を選ぶ人も増えており、人材の流出防止と人材確保の双方に効果的な制度として時短勤務への注目が集まっています。
時短勤務とは、その名のとおり1日の勤務時間を通常より短縮した働き方のことを指し、育児・介護休業法では「短時間勤務制度」として、企業に導入を義務付けています。
育児・介護休業法で規定する短時間勤務制度では、以下の対象となる労働者に対して、1日の労働時間を原則6時間の時短勤務にすることを定めています。
一言でまとめると、フルタイムで働く社員で、3歳未満の子供を育てている人が対象です。
要介護状態の対象家族がいる労働者に対する短時間勤務制度もあります。そちらについては、日雇いではなく、労使協定により適用除外となる人以外は全員対象となります。
対象家族とは、配偶者、父母、子、配偶者の父母、同居し、かつ扶養している祖父母、兄弟姉妹、孫です。要介護状態については下記をご参照ください。
ただし、労使協定により、以下に該当する人は対象から外れていることがあります。
労使協定により適用除外となる人には、フレックスタイム制度や時差通勤制度など別の制度を利用し就業時間を調整できるようにしなければならないことも、法により義務付けられています。
時短勤務が注目されている理由は主に2つです。
働く女性は増えており、M字カーブと呼ばれる女性の労働比率をグラフで表したときの特徴は、台形に近づきつつあります。
出産育児を迎えるころに大きく低下していた女性の就業率は変化しており、女性労働者が増えていることがうかがえます。
参照:内閣府 男女共同参画局 女性の年齢階級別労働力率の推移
少子高齢化という社会全体の課題もあり、出産後も職場に復帰し育児をしながら働く女性も増えてきました。
マンパワーグループが2018年3月に実施した女性の職場復帰に関する調査においても、約77%の人が復職したと回答しています。
時短勤務を利用することにより、育児や介護をしながら働く社員のサポートや人材の流出防止として時短勤務は取り入れられています。業務経験やスキルを身に付けた人材が引き続き就業できることは、企業にとっても大きなメリットです。
育児・介護休業法は、働きながら育児や介護を担う社員が、仕事と家庭生活を両立できるようにするための法律です。
2022~23年にかけて、育児・介護休業法で定められた施策の実施が企業に求められます。改めて、育児や介護のなど社員のライフスタイルに合わせた働き方の提供を企業は考えなければいけません。
また、人生100年時代と言われる中、これまでと違う働き方を求める人もいます。企業はすでに選ぶのではなく選ばれる立場にあり、社員目線での働きやすい環境を模索する必要があります。
実際に時短勤務を導入するには、次のような順序を踏んでいきます。
短時間勤務制度は優秀な人材の流出防止や人材確保につながる、企業にとっても有益な制度です。制度を形骸化させずに社員が上手に活用するためにも、導入の目的を明確化しておくことが大切です。
「育児や介護を行う社員の離職防止のため」「ワーク・ライフ・バランスを重視する優秀な人材を採用するため」「育児休業明け社員の無理のない職場復帰への足がかりにするため」など、制度導入の目的を明確にしておきましょう。
法で定められた短時間勤務制度のみならず、導入目的に応じて制度を適用する対象、適用期間を定めていきます。労働時間は制度の対象となる社員の希望と、現場の状況を正確に把握し、相談の上で、柔軟に設定するとよいでしょう。
新規採用者に短時間勤務を適用する場合、労働時間を考慮しながら業務内容とその業務に対する責任の程度や雇用管理区分(「総合職」や「一般職」など)を設定しましょう。またフルタイムから時短勤務に変更になるときの業務内容は、フルタイム時に担当していた業務と基本的には同一となりますが、時短勤務社員本人の希望やキャリア形成、労働時間などを考慮して業務内容は見直しましょう。
報酬については、基本給や各種手当、賞与に関する取扱いの検討が必要です。基本給については所定労働時間から短縮した時間に応じて減額するのが一般的です。各種手当についても、手当の趣旨や支給基準を踏まえて支給額をどうするのかなどを検討します。
賞与の査定に使用する評価基準については、目標管理制度の場合は目標の「量」は労働時間に合わせて減らし「質」は変えないこと、等級制度の場合はフルタイム社員と同じ基準を用いて評価し賞与を支払うことがポイントになります。
いずれにせよ時短勤務であることで不利益にならないよう、公正な人事評価を行う必要があります。
短時間正社員の労働条件(人事評価、賃金、教育訓練)について、検討する | 短時間正社員制度の導入手順 | 短時間正社員制度 導入支援ナビ
社員が短時間勤務制度を利用する際の手続き方法については、企業が独自で決めることになります。特に決まりはないため自由に設定することが可能ですが、厚生労働省では「育児・介護休業法に定める他の制度に関する手続も参考にしながら適切に定めること」を求めています。
また、手続きが煩雑だからと社員が制度の利用を躊躇するようなことは避けなければいけません。例えば「残業の免除」や「時間外労働の制限」といった制度の手続きを参考に、「開始日の1カ月前までに短時間勤務申出書を提出する」のように、シンプルで分かりやすい手続きにすることが大切です。
短時間勤務制度が整ったら、就業規則に記載して社員に周知する必要があります。しかし、記載されていても社員が目を通さなければ、制度の存在を知ることができません。そのため就業規則に記載するだけでなく、社内報やミーティングなどを利用して、積極的に周知することが大切です。
短時間勤務制度を運用するなかで問題点がないか、定期的に確認しましょう。勤務時間が短縮しているのに仕事量はそのままで社員の負担になっていないか、勤務時間が短いからと仕事内容の質を著しく落としていないか、評価が不当に低くなっていないかなど、気になることを洗い出し、改善策を検討していきます。
マンパワーグループが2022年8月に実施したアンケート調査では、人事担当者が感じている社員の時短勤務に関する課題の第1位は「周囲の社員の業務が上乗せされる」ことでした。
しかし、在籍する部署や職場に対するサポートである「時短勤務の社員に替わる人材の補充」(16.4%)、「時短勤務の社員の業務に関わるアウトソーシング」(15.2%)の実施はいずれも2割弱にとどまっています。
時短勤務の導入をしたが、時短で業務を終えることができない、他のメンバーの負荷が増加したなどの問題がおき、チーム運営がうまくいかなくなることがあります。チームワークの良さは、部門の業績に直結します。社員のサポートに外部人材である派遣社員を迎え入れてみてはいかがでしょうか。
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導入の流れですでに触れた部分もありますが、短時間勤務制度を導入するに当たって、守らなければいけないルールがあります。ルール違反にならないよう、あらためて理解しておきましょう。
短時間勤務制度は導入するだけでなく、就業規則に記載して社員に周知しなければいけません。また、労働基準法により、常時10人以上の従業員がいる企業において就業規則を作成したり変更したりした場合には、所轄の労働基準監督署長への届け出が義務付けられています。短時間勤務制度の導入に伴い就業規則を作成または変更をしたら、忘れず届け出ましょう。
育児・介護休業法では、短時間勤務制度を申請したり利用したりした社員に対して、企業が不利益な取り扱いをすることを禁止しています。不利益な取り扱いとは、例えば解雇すること、正社員にパート社員への変更を強要すること、有期雇用社員の契約更新をしないこと、昇進・昇格において不利益な評価を行うこと、短縮された労働時間を超えて給与を減額するなどです。
時短勤務は、フルタイム勤務が困難になった社員が継続して働けるようになるだけではなく、有給休暇を取得せずに通院したり、ワーク・ライフ・バランスの充実につなげたりといった多様なニーズにも対応することが可能です。
時短勤務における賞与や昇給などの運用の整備は、既存社員に対しても求職者に対してもアピールポイントとなり、人材流出を防ぐとともに人材確保にもつながることが期待できます。法律で義務付けられているからという視点ではなく、ぜひ前向きに取り入れていってはいかがでしょうか?
参考: